海上自衛隊は、SH—60J、P—3C等の航空機の搭乗員の頭部を保護するために、航空ヘルメットを装備している。航空ヘルメットについては、従来、FHG—3Ⅱ型を装備していたが、この全てを遮音性等が向上した同Ⅲ型(以下「新ヘルメット」という。)に平成18年度から順次更新している。また、機内外との交信を行うために新ヘルメットに装着して使用するマイクロホン及びイヤホンも合わせて更新している(以下、これらを合わせて「新ヘルメット等」という。)。そして、これらの新ヘルメット等は、航空機に搭乗することとされている全搭乗員に対して各人に1組ずつが貸与される個人装備用の航空用救命装備品(以下「個人装備品」という。)となっていて、搭乗員が異動する際は異動元の航空基地に返還され、返還後は当該航空基地で管理されることとなっている。
新ヘルメットは、海上自衛隊補給本部(以下「補本」という。)が、防衛省装備施設本部(以下「装本」という。)に調達要求を行い、装本が製造請負契約を締結して調達しており、18年度から23年度の第1回目までの調達要求に基づき計1,826個を調達している。
そして、補本は、23年度の第2回目の調達要求に際して、航空機の配備状況が23年度時点までに変化している点を考慮して、装備数及び調達所要量を次のとおり改めて算定している。
また、マイクロホン等の調達は、海上自衛隊航空補給処(以下「空補処」という。)が行うこととなっており、空補処はその調達所要量を、補本の指示に基づいて、マイクロホンは新ヘルメットと同数の1,409個、イヤホンは新ヘルメット1個につき2個使用されることから2,818個としている。
上記のとおり補本が算定した1,409個の新ヘルメットの調達要求を受け、装本は、24年1月に同数の新ヘルメットの製造請負契約を契約金額1億6865万余円で締結し、同年12月に新ヘルメット1,409個を納入させている。また、空補処は、24年8月にマイクロホン1,409個及びイヤホン2,818個の製造請負契約を契約金額1億1687万余円、納期を25年10月として締結している。
海上自衛隊では、P—1哨戒機、C—130R輸送機等の新規導入に伴う航空機の配備状況の変化や新ヘルメット等の使用に伴って生ずる劣化等に対応するため、今後も引き続き新ヘルメット等を調達し装備することが見込まれる。
そこで、本院は、経済性等の観点から、新ヘルメット等の調達所要量の算定が個人装備品としての貸与状況を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査を行った。検査に当たっては、補本、空補処、新ヘルメット等が装備されている13航空基地のうち6航空基地(注1)及び装本において、23年度に締結された新ヘルメットの製造請負契約のうち第2回目の契約(契約金額1億6865万余円)及び24年度に締結されたマイクロホン等の製造請負契約(同1億1687万余円)、計2件(同計2億8553万余円)を対象として、契約に関する書類を確認したり、担当職員から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。また、7航空基地(注2)については、新ヘルメット等の貸与状況に係る関係書類を徴するなどして検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
18年度から23年度の第1回目までの調達要求に係る契約により装備された新ヘルメット等のうち5航空基地(注3)(以下「5航空基地」という。)に装備された840組の新ヘルメット等の貸与状況についてみると、実際に各搭乗員に貸与されていた数量(以下「貸与数」という。)の装備数に占める割合は約71%であった。すなわち、各搭乗員に貸与されていない新ヘルメット等は、補給部隊から航空部隊に供用されたものの航空部隊が予備として一括管理しているなどの在庫となっていた。そして、この在庫数の装備数に占める割合は約29%に上っており、予備数算出の際に考慮している予備率10%を大きく上回っていた。
これは、装備数を算出する上で基準としている各航空機の全搭乗員に対応した数量が搭乗員の定員数であるのに対して、貸与数は原則として搭乗員の現員数であり、両者の間に大きな差異が常に生じていることなどによるものである。
また、13航空基地のうちマイクロホン等の納期が到来していないため、新ヘルメット等が大部分の搭乗員に貸与されていない8航空基地においても搭乗員の定員数と現員数に大きな差異があることは5航空基地と同様であることから、新ヘルメット等の貸与状況は、5航空基地と同様になると思料される状況となっていた。
このように、新ヘルメット等の調達所要量の算定に当たって、個人装備品としての貸与状況や搭乗員の定員数と現員数の比率等を考慮することなく予備数を算出している事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
従来の搭乗員の異動に伴うサイズの適合性に加えて、個人装備品としての貸与状況や搭乗員の定員数と現員数の比率等も考慮して予備数を算出し、新ヘルメット等の調達所要量を算定すると、新ヘルメットの予備数294個は235個少ない59個となり、23年度の第2回目の調達所要量は1,174個となる。同様に、マイクロホンの調達所要量は1,174個、イヤホンの調達所要量は2,348個となり、新ヘルメット等の製造請負契約2件に係る契約金額計2億8553万余円は、計4761万余円(新ヘルメット2812万余円、マイクロホン等1948万余円)が節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、補本において、新ヘルメット等の個人装備品としての貸与状況や搭乗員の定員数と現員数の比率等を調達所要量の算定に反映させて適切な数量を調達要求することについての重要性に対する理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、補本は、新ヘルメット等の調達所要量の算定に関して、25年8月に、個人装備品としての貸与状況や搭乗員の定員数と現員数の比率等を考慮することにより、予備率を10%から2%とする処置を講じた。そして、これを、航空機の配備状況の変化や新ヘルメット等の劣化等に対応するために今後も調達要求が見込まれることから、その調達所要量の算定に適用することとした。