自衛隊の駐屯地や基地等(以下「駐屯地等」という。)は、大規模災害発生時における災害派遣等のための拠点となるため、津波対策の実施を検討することが求められており、防衛省内部部局は、津波対策の基本方針として、平成21年7月に「自衛隊施設の津波対策について(通知)」(平成21年7月経設第9190号。以下「ガイドライン」という。)等を定め、各幕僚監部、各地方防衛局等に通知している。
ガイドラインは、駐屯地業務隊長等の駐屯地等の管理者に対して、「津波からの防護に配慮したものとするための対策指針」(以下「津波対策指針」という。)を駐屯地等ごとに策定することを求めている。そして、駐屯地等の管理者は、津波対策指針に基づき、既存の電気設備等を2階以上に再配置するなどの応急対策や、駐屯地等に所在する庁舎、隊舎等(以下「防衛施設」という。)の基礎を想定される津波高さ以上へかさ上げするなどの恒久対策の検討をそれぞれ行うこととされ、これらを受けて、地方防衛局等は、かさ上げ工事等を実施することとされている。
内部部局は、23年3月に発生した東日本大震災等を受けて、沿岸部に所在する44駐屯地等(陸上自衛隊13駐屯地、海上自衛隊20基地及び航空自衛隊11基地等)において、津波対策指針の策定を待たずにできる津波対策を早急に実施することを目的として、同年11月に「平成23年度第3次補正予算における自衛隊施設の緊急的な津波対策の実施について(通知)」(平成23年11月経施第13988号)等を、各幕僚監部、各地方防衛局等に通知した。これを受けて、各地方防衛局等は、防衛施設の新設工事等に併せて、①緊急的な津波対策(以下「緊急津波対策」という。)としてかさ上げ工事等を実施したり、②今後実施する津波対策に必要な調査を実施したりしている。
本院は、有効性等の観点から、上記の44駐屯地等において実施した津波対策が、大規模災害発生時における災害派遣等のための拠点整備として効果的に実施されているかなどに着眼して、内部部局、各幕僚監部等において津波対策指針の策定状況、津波対策の実施状況等に関する見解を聴取するとともに、23、24両年度に実施した緊急津波対策工事等及びその他の施設整備工事に係る契約件数計273件、契約金額計704億4390万余円を対象として、各地方防衛局等において設計図書や現地状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
駐屯地等の管理者は、ガイドラインに基づき、津波対策指針を策定することが求められているが、44駐屯地等の全てにおいて策定されていない状況であった。また、内部部局は、このような状況を把握しているのに、津波対策指針の策定に向けた行程管理を行っていなかった。
(ウに係る工事件数計58件、契約金額計125億7455万余円)
内部部局は、各幕僚監部に対して、駐屯地等、防衛施設等の特徴や重要度の観点から優先的に津波対策の対象とする駐屯地等及び防衛施設の順位付け(以下「優先順位付け」という。)をして緊急津波対策の対象とする駐屯地等及び防衛施設を選定するよう明確に指示していなかったため、次のような事態が見受けられた。
A防衛局は、B駐屯地において、停電時に庁舎等の電源を補完するための非常用電源設備の新設工事を平成24年3月に契約して、緊急津波対策としてかさ上げ工事等を実施していた。しかし、同駐屯地において、同年1月に契約している通信機器の電源を補完するための非常用電源設備の新設工事(工事件数計3件、契約金額計3億2720万余円)については、同時期に施工したにもかかわらず、緊急津波対策の対象としていなかったため、今後再度かさ上げ工事等を実施することになるなど、手戻りが生ずるおそれがある事態となっていた。
(工事件数計30件、契約金額相当額計60億8202万余円。アとイの事態には、工事件数及び契約金額相当額が重複しているものがある。)
ア 内部部局は、上記の44駐屯地等が所在する各地方公共団体が公表していた津波浸水ハザードマップを参考に緊急津波対策等を実施することとした。そして、同ハザードマップ上の浸水深さは0mから5mまでと幅があるものの、限られた予算の範囲内で緊急津波対策等を実施するために、前提とする浸水深さを、陸上自衛隊の駐屯地及び海上自衛隊の基地は一律で地盤面から1m、航空自衛隊の基地等は同2mとそれぞれ設定した。このため、ハザードマップ上で地盤面から1mを超える浸水深さが想定されていた駐屯地等においては、特に電気設備等の電気系統について、1mのかさ上げ工事等が十分に効果的なものとはなっていないおそれがあり、他方で、地盤面から0mの浸水深さと想定されていた駐屯地等においては、津波が到達しない想定であったのに、同2mの浸水深さを前提に津波対策工事の内容を検討するなどの調査委託を実施したため、当該調査に係る成果品を受領しても、これを活用することができないおそれがある事態となっていた(13駐屯地等、工事件数計26件、契約金額相当額計55億8466万余円)。
イ 地方防衛局等は、23、24両年度に、庁舎等に接続することとした非常用電源設備等の新設工事に当たり、同設備等のうち一部の関連設備についてはかさ上げ工事等を実施せず、他の津波対策も実施していなかった。このため、設定した1mの浸水深さにおいても、対策を実施しなかった関連設備は浸水することとなり、この場合には当該関連設備が故障することにより、非常用電源設備が機能しないおそれがある事態となっていた(6駐屯地等、工事件数計6件、契約金額相当額計7億6278万余円)。
C防衛局は、D駐屯地において、平成23、24両年度に、停電時に電源を補完するための非常用電源設備及び商用電源と非常用電源を切り替えるための切替盤を新設し、庁舎等に非常用電源を供給する工事(工事件数1件、契約金額相当額1億6380万円)を実施していた。しかし、緊急津波対策としてかさ上げ工事を実施した防衛施設は、非常用電源設備及び主幹の切替盤のみであって、分岐の切替盤や既設の受電盤は実施していなかった。このため、緊急津波対策の前提とした地盤面から1mの浸水深さにおいて、非常用電源設備及び主幹の切替盤は稼働できるものの、分岐の切替盤及び既設の受電盤は浸水することとなり、この場合には、これらの設備が故障することにより、庁舎等まで非常用電源を供給することができなくなるおそれがある事態となっていた。
駐屯地等は、大規模災害発生時には災害派遣等の拠点となる極めて重要な施設であり、東日本大震災の際にも、災害救助等の第一線として駐屯地等がその拠点となって、自衛隊員が災害救助等に活躍し、国民から大きな信頼を得たことは記憶に新しいところであり、新たな大規模災害に対する取組の重要性は高まっている。
しかし、21年7月にガイドラインが通知されて以降、一部の駐屯地等において緊急津波対策を実施するにとどまっており、そして、このような状況において、津波対策指針の策定に向けた行程管理を行っていなかったり、優先順位付けを踏まえることなく実施した緊急津波対策等が十分に効果的なものとなっていないおそれがあったりするなどの事態は、大規模災害発生時における駐屯地等の重要性や限られた予算の範囲内で今後もより効果的な津波対策を実施していくことの必要性を考慮すると適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、内部部局において、次のことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、内部部局は、25年7月及び9月に、各幕僚監部、各地方防衛局等に対して通知文書を発して、ガイドラインの改正及び防衛省内に設置されている「防衛基盤としての自衛隊施設に関する検討チーム」(以下「検討チーム」という。)の体制整備に係る、次のような処置を講じた。