日本中央競馬会(以下「競馬会」という。)は、競馬会が施行する競馬(以下「競馬」という。)等に出走する競馬会所属の競走馬を、美浦、栗東両トレーニング・センター(以下、これらを合わせて「トレセン」という。)と競馬場等との間で競走馬専用の輸送車両(1台につき原則として4頭積載。以下「輸送車」という。)により輸送する競走馬輸送業務を、一般競争契約により日本馬匹輸送自動車株式会社等6会社1組合(注1)(以下「輸送業者」という。)とそれぞれ委託契約(以下「輸送業務契約」という。)を締結して行わせている。
この業務は、競馬等に出走する競走馬について、競馬等の当日又は前日の所定の時刻までにトレセンから競馬場に所定の経路を通行して輸送し、競馬等の終了後にトレセンへ輸送するなどするものである。そして、競馬会は、輸送業務契約において定めた輸送区間ごとの競走馬1頭当たりの単価(以下「輸送単価」という。)に輸送した頭数を乗じた金額を輸送業者に支払っており、支払額は、平成23、24両年度計98億7457万余円となっている。
輸送単価に係る予定価格については、競馬会は、輸送区間ごとに、輸送車1台当たりの車両損料、人件費、日当、燃料油脂費、往復諸料金等を算出し、これらの合計額を過去3年間の実績における輸送車1台当たりの平均積載頭数で除することにより算定している。このうち往復諸料金は、高速自動車国道等の利用料金(以下「高速道路利用料」という。)等となっており、算出に当たっては、通常の高速道路利用料から東日本高速道路株式会社等5社(注2)(以下「高速道路会社」という。)が実施している次の割引制度の割引額をそれぞれ控除した額のうち、いずれか低い方の額としている。
高速道路利用料の割引制度には、上記のほかに、高速道路会社等が実施している大口・多頻度利用者を対象とした割引制度(以下「大口・多頻度割引制度」という。)がある。
そして、大口・多頻度割引制度のうち、車両単位割引は、契約者の自動車1台ごとの1か月の高速道路利用料に応じて、表1の割引率を適用するものである。
表1 車両単位割引の割引率
自動車1台ごとの1か月の高速道路利用料 | 割引率 |
---|---|
5千円を超え、1万円までの部分 1万円を超え、3万円までの部分 3万円を超える部分 |
10% 15% 20% |
また、大口・多頻度割引制度の契約者は、前記のETCマイレージ割引の適用を重複して受けることはできないものの、時間帯割引については重複して適用を受けることが可能となっている。
本院は、経済性等の観点から、輸送業務契約に係る輸送単価の予定価格の算定において、高速道路利用料の算出が適切に行われているかなどに着眼して、前記支払額98億7457万余円のうち、23、24両年度の競馬開催における輸送業務契約に係る高速道路利用料(支払額相当額合計4億0699万余円)を対象に、競馬会本部において、契約書、仕様書、予定価格調書等の関係書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
23、24両年度における輸送車の運行実績は、それぞれ延べ2,488台、延べ2,562台となっていた。そして、輸送車1台ごとの1か月当たりの高速道路利用料を集計し、時間帯割引を適用した上で、更に車両単位割引の適用が可能となるものをその割引率ごとに区分して年度ごとにまとめると、表2のとおりとなっていた。
表2 車両単位割引の適用が可能となるものの状況
輸送業者 | 平成23年度 | 24年度 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
車両単位割引適用 | 車両単位割引適用外E(E/F) | 合計F=D+E | 車両単位割引適用 | 車両単位割引適用外K(K/L) | 合計L=J+K | |||||||
20%A(A/F) | 15%B(B/F) | 10%C(C/F) | 計D=A+B+C(D/F) | 20%G(G/L) | 15%H(H/L) | 10%I(I/L) | 計J=G+H+I(J/L) | |||||
日本馬匹輸送自動車株式会社 | 802 (84.4%) |
131 (13.8%) |
9 (0.9%) |
942 (99.2%) |
8 (0.8%) |
950 (100%) |
838 (82.8%) |
161 (15.9%) |
13 (1.3%) |
1,012 (100%) |
0 (0%) |
1,012 (100%) |
東都輸送株式会社 | 133 (54.5%) |
90 (36.9%) |
16 (6.6%) |
239 (98.0%) |
5 (2.0%) |
244 (100%) |
124 (51.9%) |
79 (33.1%) |
31 (13.0%) |
234 (97.9%) |
5 (2.1%) |
239 (100%) |
関東馬匹運輸有限会社 | 31 (66.0%) |
14 (29.8%) |
1 (2.1%) |
46 (97.9%) |
1 (2.1%) |
47 (100%) |
32 (66.7%) |
13 (27.1%) |
3 (6.3%) |
48 (100%) |
0 (0%) |
48 (100%) |
関西馬匹輸送協同組合 | 793 (87.2%) |
62 (6.8%) |
33 (3.6%) |
888 (97.7%) |
21 (2.3%) |
909 (100%) |
789 (85.1%) |
83 (9.0%) |
38 (4.1%) |
910 (98.2%) |
17 (1.8%) |
927 (100%) |
東海馬匹輸送株式会社 | 117 (77.0%) |
23 (15.1%) |
5 (3.3%) |
145 (95.4%) |
7 (4.6%) |
152 (100%) |
124 (78.0%) |
21 (13.2%) |
12 (7.5%) |
157 (98.7%) |
2 (1.3%) |
159 (100%) |
センコー株式会社 | 78 (83.9%) |
11 (11.8%) |
2 (2.2%) |
91 (97.8%) |
2 (2.2%) |
93 (100%) |
71 (83.5%) |
9 (10.6%) |
1 (1.2%) |
81 (95.3%) |
4 (4.7%) |
85 (100%) |
日本通運株式会社 | 77 (82.8%) |
14 (15.1%) |
1 (1.1%) |
92 (98.9%) |
1 (1.1%) |
93 (100%) |
70 (76.1%) |
14 (15.2%) |
5 (5.4%) |
89 (96.7%) |
3 (3.3%) |
92 (100%) |
計 | 2,031 (81.6%) |
345 (13.9%) |
67 (2.7%) |
2,443 (98.2%) |
45 (1.8%) |
2,488 (100%) |
2,048 (79.9%) |
380 (14.8%) |
103 (4.0%) |
2,531 (98.8%) |
31 (1.2%) |
2,562 (100%) |
表2のとおり、時間帯割引に加えて、車両単位割引の適用を受けることが可能であった輸送車は23年度延べ2,443台(23年度全体の98.2%)、24年度延べ2,531台(24年度全体の98.8%)と大多数を占めており、このうち最大の割引率である20%の適用を受けることが可能であった輸送車も23年度延べ2,031台(同81.6%)、24年度延べ2,048台(同79.9%)となっていた。
現に、本院が競馬会を通じて確認したところ、輸送業者は、全て大口・多頻度割引制度の契約者となっていて、時間帯割引と併せて車両単位割引の適用を受けていた。
しかし、競馬会は、輸送単価の予定価格の算定において、前記のとおり、ETCマイレージ割引と時間帯割引のいずれか一方のみを高速道路利用料に適用していた。したがって、実際に輸送業者が支払う高速道路利用料からみて、輸送単価の予定価格が過大に算定されていると認められた。
このように、輸送業務契約における高速道路利用料について、輸送車の運行実績を踏まえた車両単位割引の適用を検討することなく予定価格を算定していた事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
輸送業務契約に係る予定価格の算定において、高速道路利用料に輸送車の運行実績を踏まえた車両単位割引を適用することとすれば、23、24両年度の競馬開催における輸送業務契約に係る高速道路利用料の支払額相当額を合計5339万余円節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、競馬会において、輸送業務契約の予定価格の算定に当たり、高速道路利用料の割引制度を適切に反映することにより経費の節減を図ることの意識が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、競馬会は、25年8月に、輸送業務契約に係る予定価格の算定に当たっては、高速道路利用料に前年の輸送車の運行実績を踏まえた車両単位割引を適用することを決定するとともに、本部主催の会議においてこれをトレセン、競馬場等の担当者に周知して、26年度に締結する契約から反映することとする処置を講じた。