本院は、高速道路と立体交差する橋りょうの点検状況等について、平成25年10月31日に、東日本高速道路株式会社(以下「東会社」という。)、中日本高速道路株式会社(以下「中会社」という。)、西日本高速道路株式会社(以下「西会社」という。)、本州四国連絡高速道路株式会社(以下「本四会社」という。)、首都高速道路株式会社(以下「首都会社」という。)及び阪神高速道路株式会社(以下「阪神会社」という。また、以下、これらの会社を総称して「6会社」という。)のそれぞれの代表取締役社長に対して、「高速道路と立体交差する橋りょうの点検状況等について」として、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
これらの処置を求めた内容は、6会社のそれぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これらを総括的に示すと以下のとおりである。
6会社は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構と締結した協定において、同機構から借り受けた高速道路を常時良好な状態に保つように適正かつ効率的に維持、修繕その他の管理を行うこととされている。
6会社が管理する高速道路は、25年3月末現在、その管理延長が計9,740.0㎞となっており、このうち供用開始後30年以上経過した区間が計3,748.5㎞となっている。その管理する対象は、高速道路本線(以下「本線」という。)のトンネル、橋りょう等に加えて、一般道路と本線との間で流出入したり、本線間を連絡したりするため本線を横断する橋りょう(以下、これら本線以外の橋りょうを「高速連絡橋」という。)及びこれらに付属する標識、照明等がある。
また、本線上には、高速道路の新設等に当たり、既存の道路、水路等について本線を横断させる形で立体交差させて付け替えるなどした道路橋、水路橋、鉄道橋等(以下、これらを合わせて「こ道橋」という。)が多数架設されている。
こ道橋の管理は、道路橋、水路橋等については国、地方公共団体等が、鉄道橋については鉄道事業者がそれぞれ管理者となっており、6会社は、高速道路と立体交差する部分の管理区分を明確にするため、こ道橋の管理者との間で管理協定を締結することにしている。
6会社は、高速道路の安全な交通を確保等するため、6会社がそれぞれ定めた保全点検要領等(以下「点検要領」という。)に基づき、道路構造物等の点検を実施している。そして、高速連絡橋については、日常点検として、主に桁の下面からコンクリート片が剥離して落下して高速道路の通行車両等に及ぼす被害を未然に防止するための点検等を実施したり、上記の日常点検の内容に加えて道路構造物等の健全性を詳細に確認する点検(以下「詳細点検」という。)を実施したりして、定期的に損傷等を発見し把握して、補修、補強等の対策を計画的に行うこととしている。
そして、詳細点検は、5年から10年までの間に1回の頻度で、必要に応じて本線の通行止め又は交通規制(以下、これらを「交通規制等」という。)を行い、高所作業車を使用するなどして近接しての目視(以下「近接目視」という。)、打音等の方法により実施することとしている。
6会社は、こ道橋に係る点検について、年2回程度の頻度で点検車両から降車して本線の路上から遠望での目視(以下「遠望目視」という。)の方法により実施するなどしており、その結果、通行車両等に対する被害が想定される損傷等を発見した場合には管理者に連絡することとしている。
一方、こ道橋の管理者のうち、道路橋を管理する国土交通省及び地方公共団体は、18年度から25年度までの間に、点検を実施して健全性を把握することとして、その結果を基に今後の維持管理に関する基本方針、次回の点検時期等を定める橋りょうの長寿命化のための修繕計画(以下「長寿命化計画」という。)を策定して、計画的に維持管理を行うこととしている。
6会社は、高速連絡橋の桁、床版、壁高欄等において、経年劣化等による損傷等が生じている箇所について応急的に補修する場合や、安全な交通等に対して支障となるおそれのある箇所について損傷等が軽微な段階で補強等する場合(以下、これを「予防保全」という。)に、コンクリート面に繊維シート等を接着して落を未然に防ぐなどの対策(以下、この対策を「コンクリート片等落対策」という。)を実施している。
一方、こ道橋の管理者の中には、自ら実施した点検の結果及び6会社が実施した遠望目視の結果により、応急的な補修又は予防保全として、コンクリート片等落対策を実施している場合がある。
6会社が管理する高速道路は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)等に基づき、地方公共団体がそれぞれ策定している地域防災計画等において、緊急輸送道路に位置付けられている極めて重要な道路である。そして、地震時に、本線の橋りょう、高速連絡橋及びこ道橋が落橋等した場合には甚大な被害が生ずるばかりか、緊急輸送等に支障が生ずるおそれがある。このため、6会社は、7年度以降、兵庫県南部地震において被害事例が多く見られた昭和55年の道路橋示方書よりも古い基準(以下「旧基準」という。)を適用して設計、施工された本線の橋りょう及び高速連絡橋について、橋脚補強、落橋防止システム設置等の耐震補強工事(以下、これらを「耐震補強対策」という。)を推進している。
また、国土交通省は、平成17年度から19年度までの間、旧基準を適用したこ道橋等のうち、主要な防災拠点と市街地を結ぶなどの特に優先的に耐震補強対策を実施する必要のあるものを選定して緊急的かつ重点的に推進するために、「新幹線、高速道路をまたぐ橋梁の耐震補強3箇年プログラム」(以下「優先プログラム」という。)を地方公共団体及び鉄道事業者と連携して策定している。
我が国の高速道路は、供用開始後30年を超えるものが年々増加していて、トンネル、橋りょう等の道路構造物等の損傷等が顕在化してきており、それに伴って通行車両等に対する被害が生ずる事例も発生している。6会社は、24年度に、高速道路の安全な交通を確保等するため、点検業務契約計147件(点検業務費計382億6842万余円)を各子会社と締結して、点検要領に基づき道路構造物等の適正な維持管理に努めているところである。
そして、24年12月に、中会社が管理する中央自動車道笹子トンネル上り線において、トンネル天井板の落下事故が発生したため、国土交通省は、全国の道路管理者等に対して、トンネル内に設置されている天井板、ジェットファン等の重量構造物等について、緊急点検を実施して報告するよう指示している。これを受けて、6会社は、緊急点検を実施して、安全上大きな問題がないことを同省に対して報告している。しかし、高速連絡橋及びこ道橋については、同省が指示した緊急点検の対象とはなっていない状況である。
そこで、本院は、有効性等の観点から、高速道路の安全な交通を確保して、通行車両等に対する被害を防止するなどのため、高速連絡橋に係る点検、コンクリート片等剥落対策及び耐震補強対策が適時適切に実施されているか、また、こ道橋の管理者が行っている点検、コンクリート片等剥落対策及び耐震補強対策の実施状況等を適時適切に把握して情報共有等が図られているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、6会社の24支社等(注1)において、25年3月末現在、6会社が管理している全ての高速連絡橋897橋及び国、地方公共団体等及び鉄道事業者が管理している全てのこ道橋4,484橋を対象として、点検報告書、管理システムに登録されている点検データ等の関係資料及びこ道橋の管理者が実施している点検状況等に関して6会社を通して作成を依頼して提出を受けた調書並びに現地を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
6会社は、高速連絡橋897橋のうち828橋に係る詳細点検について、点検要領で定める5年から10年までの間に1回の頻度で実施していた。そして、それ以外の69橋は、供用開始後10年以内のために詳細点検の時期を迎えていないものが68橋となっていたが、西会社の1橋は供用開始後10年を超えているのに詳細点検を実施していなかった。
また、6会社は、高速連絡橋897橋に係るコンクリート片等落対策について、供用開始後の経過年数が30年以上の299橋のうち220橋の対策を執っていた。そして、残りの79橋は、対策が不要な鋼製のものが29橋、点検時に離しているコンクリート片を叩き落として除去するなどしてからその後の変状等を観察しているものが50橋であった。
さらに、6会社は、旧基準を適用した高速連絡橋333橋のうち320橋について、耐震補強対策を完了していたが、東会社の1橋及び西会社の12橋、計13橋については耐震性能の検討を行っていなかった。
6会社は、表1のとおり、こ道橋4,484橋のうち4,134橋については管理協定を締結していたが、350橋については締結しておらず、管理区分を明確にしていなかった。そして、管理協定が締結されていないこ道橋の中には、供用開始後56年経過しているものも見受けられた。
表1 こ道橋に係る管理協定の締結状況
管内 | 全管理者数 | 全こ道橋数 | 管理協定を締結している | 管理協定を締結していない | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
管理者数 | こ道橋数 | 管理者数 | こ道橋数 | 左における供用開始後の経過年数 | |||
東会社 | 238 | 1,832 | 223 | 1,660 | 41 | 172 | 0〜47 |
中会社 | 146 | 981 | 145 | 913 | 13 | 68 | 0〜27 |
西会社 | 245 | 1,456 | 234 | 1,375 | 22 | 81 | 5〜56 |
本四会社 | 10 | 70 | 9 | 68 | 1 | 2 | 15 |
首都会社 | 16 | 104 | 9 | 90 | 8 | 14 | 5〜46 |
阪神会社 | 10 | 41 | 7 | 28 | 5 | 13 | 26〜52 |
計 | 665 | 4,484 | 627 | 4,134 | 90 | 350 | 0〜56 |
6会社は、こ道橋4,484橋のうち、点検業務を受託して自ら実施していた546橋及び点検の結果の連絡を受けていた356橋、計902橋については情報共有を図り状況を把握していたが、これらを除いた3,582橋については情報共有されておらず、点検状況について把握が十分でなかった。
そこで、本院が、上記4,484橋のこ道橋の管理者による点検状況について確認したところ、表2のとおり、点検を実施しているものが3,301橋、点検を全く実施していないものが635橋、点検を実施しているかどうか不明であるものが548橋となっていた。
また、上記の3,301橋及び635橋における点検の頻度及び供用開始後の経過年数については、前回の点検から10年を超えているものが15橋、供用開始後一度も点検を行わないまま10年を超えているものが436橋あり、これらの中には、50年以上経過しているものも見受けられた。
さらに、上記の3,301橋における点検の方法については、こ道橋の路上からの点検を主体として、こ道橋の側面等は高速道路外から遠望目視の方法により実施しているものが1,990橋と過半数を占めていた。しかし、遠望目視では、こ道橋のコンクリート部材等に生じている損傷等を詳細に見極めることは困難であり、特に桁の下面等を視認できないことから、落下被害を防止したり、健全性を詳細に確認したりなどする点検として十分とは言えない状況となっていた。
このような背景には、近接目視、打音等の方法による点検を実施するためには本線の交通規制等を行う必要があり、管理者の中には交通規制等に要する費用の負担が困難であるなどの事情があると考えられる。しかし、6会社は、毎年度、本線の一定区間を順次交通規制等を行って維持管理工事等を実施していることから、あらかじめ交通規制等の予定をこ道橋の管理者に周知するなどして情報共有及び調整を図ることとすれば、管理者の費用負担を軽減でき、こ道橋に対する近接目視、打音等の方法による点検の実施を促すことができることになると認められる。
表2 こ道橋に係る点検の実施状況
管内 | 近接目視、打音等により点検実施(a) | 遠望目視により点検実施(b) | 計(c=a+b) | 点検不実施(d) | 不明(e) | 合計(c+d+e) | |||
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左のうち10 年超 | 左のうち10 年超 | 左のうち10 年超 | |||||||
東会社 | 595 | 1 | 854 | 1 | 1,449 | 215 | 138 | 168 | 1,832 |
中会社 | 297 | 3 | 374 | 0 | 671 | 224 | 136 | 86 | 981 |
西会社 | 347 | 7 | 633 | 3 | 980 | 186 | 154 | 290 | 1,456 |
本四会社 | 0 | 0 | 66 | 0 | 66 | 4 | 4 | 0 | 70 |
首都会社 | 55 | 0 | 43 | 0 | 98 | 6 | 4 | 0 | 104 |
阪神会社 | 17 | 0 | 20 | 0 | 37 | 0 | 0 | 4 | 41 |
計 | 1,311 | 11 | 1,990 | 4 | 3,301 | 635 | 436 | 548 | 4,484 |
また、6会社は、通行車両等に対する被害が想定される損傷等を日常点検等で発見した際の各管理者に対する連絡について、緊急を要する規模の損傷であった場合は行っていたものの、軽微な損傷等の場合は必ずしも行っていなかったため、情報共有が十分図られているとは言えない状況となっていた。
6会社は、こ道橋の壁高欄、地覆等に生じているコンクリート片の浮きや離、鉄筋が露出してさびが発生している状況について、把握が十分でなかった。
そこで、本院が、こ道橋の管理者が実施しているコンクリート片等落対策の実施状況について確認したところ、表3のとおり、供用開始後の経過年数が30年以上の1,882橋のうち968橋について何ら対策が執られていなかった。
表3 こ道橋に係る供用開始後の経過年数及びコンクリート片等落対策の実施状況
管内 | 供用開始後の経過年数 | (b)に係るコンクリート片等落対策の実施状況 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
全数(a+b) | 30 年未満(a) | 30 年以上(b) | 対策済み | 対策未済 | ||
不要 | 未実施 | |||||
東会社 | 1,832 | 1,128 | 704 | 299 | 17 | 388 |
中会社 | 981 | 336 | 645 | 228 | 5 | 412 |
西会社 | 1,456 | 990 | 466 | 312 | 9 | 145 |
本四会社 | 70 | 65 | 5 | 0 | 0 | 5 |
首都会社 | 104 | 57 | 47 | 21 | 11 | 15 |
阪神会社 | 41 | 26 | 15 | 6 | 6 | 3 |
計 | 4,484 | 2,602 | 1,882 | 866 | 48 | 968 |
また、こ道橋の管理者の長寿命化計画の策定状況については、策定の対象者となっていない鉄道事業者等を除く577管理者のうち、574管理者は長寿命化計画を策定済み又は25年度中に策定予定となっていたが、3管理者は長寿命化計画を策定する予定もない状況となっていた。そして、こ道橋の維持管理を計画的に行っていくために、各管理者が策定した長寿命化計画において、こ道橋を対象としているか確認したところ、217管理者は管理するこ道橋1,290橋を全て対象としていたが、管理している道路橋の中では交通量が少なく優先順位が相当低いなどのため、183管理者は管理するこ道橋2,188橋のうち949橋を対象外としていたり、174管理者は管理するこ道橋818橋を全て対象外としていたりしていた。
こ道橋の管理者が実施している耐震補強対策の実施状況について本院が確認したところ、優先プログラムでは、主要な防災拠点と市街地を結ぶなどのこ道橋以外については選定していなかったことなどから、表4のとおり、旧基準を適用したこ道橋2,454橋のうち、5会社(注2)管内において、耐震性能の検討を行っていないものが1,491橋、耐震性能を検討した結果、耐震補強対策が必要とされているのに対策を全く執っていないものが49橋、一部の実施にとどまっているものが13橋見受けられた。
しかし、5会社は、上記のようなこ道橋の管理者における耐震性能の検討及び耐震補強対策の実施状況について、把握が十分でなかった。
表4 こ道橋に係る耐震補強対策の実施状況
管内 | 全こ道橋数 | 左のうち旧基準を適用しているもの | 左に係る耐震補強対策の実施状況 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
未検討 | 未実施 | 実施済み又は対策不要 | 一部実施済み | |||
東会社 | 1,832 | 1,057 | 521 | 22 | 507 | 7 |
中会社 | 981 | 699 | 462 | 15 | 216 | 6 |
西会社 | 1,456 | 624 | 488 | 11 | 125 | 0 |
本四会社 | 70 | 24 | 15 | 0 | 9 | 0 |
首都会社 | 104 | 37 | 0 | 0 | 37 | 0 |
阪神会社 | 41 | 13 | 5 | 1 | 7 | 0 |
計 | 4,484 | 2,454 | 1,491 | 49 | 901 | 13 |
高速道路の通行車両等に対するコンクリート片等の落下被害を防止するためには、不要なものを可能な限り存置しないことが重要であり、現に、前記のトンネル天井板の落下事故と同様の天井板を設置しているトンネルを管理している5会社(本四会社を除く。)は、同事故を契機として、老朽化等による落下被害の再発防止を目的として、天井板を可能な限り撤去している。
一方、こ道橋の使用状況について本院が確認したところ、3会社(注3)管内の49管理者の69橋は、供用開始後の利用状況の変化等により、管理者が出入口を常時閉鎖して通行不能としているなどして使用されておらず、不要なものとなっているのに、そのまま存置されていた。
しかし、3会社においては、上記のように一部のこ道橋について出入口を常時閉鎖して通行不能としているなどの使用状況等について、把握が十分でなかった。
以上のように、高速連絡橋について、点検要領で定められた点検の頻度で詳細点検を実施していなかったり、耐震補強対策を執っていなかったりしている事態、及びこ道橋について、管理協定を一部において締結していなかったり、管理者が実施している点検状況、コンクリート片等落対策や耐震補強対策の実施状況の把握、情報共有等が十分でなかったり、近接目視、打音等の方法による点検の実施を促すことができていなかったり、使用状況の把握が十分でなかったりなどしている事態は、高速道路の安全な交通の確保等が十分図られていないものであり適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
6会社が管理する高速道路は、高度経済成長期に多数整備され、今後、更に老朽化が進行していくことなどから、点検及び補修、補強等の対策を適時適切に実施して、通行車両等に対する被害の防止及び健全性の確保を図ったり、緊急輸送道路としての機能を確保したりすることが重要であり、そのためにも、高速道路と立体交差するこ道橋の点検状況等を適時適切に把握して情報共有等していくことが必要である。
ついては、今後、高速連絡橋の点検及び耐震補強対策が適切に実施されるとともに、こ道橋の管理者が実施している点検状況等の把握等が適時適切に行われ、高速道路の安全な交通の確保等が一層図られるよう、次のとおり改善の処置を要求する。