(平成25年10月31日付け 日本年金機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構は、日本年金機構法(平成19年法律第109号)に基づき、健康保険、厚生年金保険、国民年金等の事業に関する業務を行うため、各都道府県に47事務センター及び312年金事務所を設置している。
そして、日本年金機構組織規程(平成22年1月1日規程第2号)等により、事務センターは、事業主又は被保険者等から提出された各種の届け書や申請書(以下「届け書等」という。)の審査、入力、通知書等の作成、発送並びに編てつ及び保管に関する事務等の対面を必要としない業務(以下「非対面業務」という。)を行うこととされている。一方、年金事務所は、年金相談等の被保険者等との対面を必要とする業務のほか、届け書等を事務センターに回付する業務等を行うこととされている。
貴機構は、平成22年1月から26年3月までの中期計画において、効率的な業務運営体制に関して、常にその手順を点検し、合理化及び効率化を図るとともに標準化を進めること、また、届け書等の審査、入力、通知書等の作成、発送等に関する事務については、社会保険オンラインシステムの刷新後における都道府県の区域を超えた広域単位の集約化の実現に向けて、当面、都道府県単位に設置する事務センターへの完全集約化を実現するなどとしている。
貴機構は、事務センター及び年金事務所において、業務の効率化等を図るため、業務の実施に係る手順、判断基準等を明確にした業務処理要領(以下「業務マニュアル」という。)を作成し、処理業務の標準化を徹底することなどにより、業務の品質向上等を図ることとしている。
業務マニュアルによると、事業主又は被保険者等から郵送された届け書等の開封、押印等の受付は、事務センター又は年金事務所が行うこととなっているが、年金事務所が届け書等を受け付けた場合は、点検・確認は行わずに、これを事務センターに回付することとなっている。また、市区町村が国民年金に関する届け書等を受け付けた場合は、地方自治法(昭和22年法律第67号)等に基づき、点検・確認を行い、原則として事務センターに送付することとなっているが、市区町村から年金事務所に送付した場合は、年金事務所は、点検・確認を行わずに事務センターに回付することとなっている。
貴機構は、22年1月の機構発足以降、業務マニュアル等により、事務センターと年金事務所との業務分担を示して業務の集約化を進めたが、事務センター等の処理業務に混乱が生じたことから、緊急的、暫定的な措置として、同年2月に「事務センター関連業務マニュアルの見直し等(指示・依頼)」を発出して、事務センターで行う業務については、当分の間、年金事務所所属の職員を事務センターに併任するなどにより、年金事務所で行うことができるなどとしている(以下、この措置を「暫定措置」という。)。
「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」(平成20年閣議決定)によれば、貴機構全体としての業務の効率化やコスト削減等に資する業務については、積極的に外部委託を行うこととされており、非対面業務はこれに該当するとされている。
このため、貴機構本部は、届け書等の入力等の業務を「各種届書の入力業務委託」(以下「入力業務委託」という。)として、また、届け書等の受付、各種入出力、通知書の発送等の業務を「国民年金及び健康保険・厚生年金保険の共同処理業務委託」(以下「共同処理委託」という。)として、いずれも請負契約を締結して外部委託を行っている。そして、47事務センターにおける24年10月から26年9月までの契約期間に係る契約額は、入力業務委託計47億7808万余円、共同処理委託計33億5426万余円となっている。
本院は、効率性等の観点から、事務センター及び年金事務所において、業務の効率化等は十分に図られているか、特に届け書等の処理業務について事務センターと年金事務所との業務分担は適切か、事務センターへの処理業務の集約化は進捗しているか、外部委託は効率的なものとなっているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、貴機構本部、27事務センター(注)(24年度の人件費233億8226万余円、入力業務委託(24年度支払額計10億9380万余円)及び共同処理委託(同計7億5752万余円))及び27事務センター管内の218年金事務所において、届け書等の処理状況に関する調書の提出を受けるとともに、委託契約の仕様書、実績報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
事業主又は被保険者等から届け書等が年金事務所に提出されると、事務センターへの回付等に時間を要することから、貴機構はホームページ等で、事業主又は被保険者等に対して郵送での事務センターへの提出(以下「直送」という。)を勧奨している。そこで、27事務センターにおける健康保険及び厚生年金保険に関する届け書等の受付状況をみたところ、24事務センターにおいては直送による受付を行っていたものの、3事務センターにおいては、作業スペースの不足等の理由により、原則として直送による受付を行っていなかった。そして、届け書等のうち、比較的受付件数が多い資格取得届及び資格喪失届について、事務センターが受け付けた件数に占める直送件数の割合(以下、この割合を「直送率」という。)は、約1%から約90%までと大幅な開差が生じていた。
さらに、直送を促す周知活動についてみたところ、事務センター管内の全ての年金事務所で行っているものが見受けられる一方で、一部の年金事務所のみで行っているものも見受けられた。また、管内の全年金事務所が周知活動を行っている事務センターにおいても、直送率は約30%から約80%までと大幅な開差が生じていた。これは、事業主に対する周知活動の方法が、広報誌への掲載や文書等による直接の働きかけなど、年金事務所ごとに区々となっていることなどによるものであると認められる。
そして、年金事務所の中には、文書等により事業主に対して事務センターへ直送を促す働きかけを行ったところ、年金事務所へ郵送された届け書等の受付件数が前年同月比で約8割も減少していた例が見受けられた。
そこで、事務センターへの直送率が向上して届け書等の処理業務が増加しても、現在の業務体制で対応が可能か確認したところ、27事務センターのうち13事務センターは対応できるとしていた。このため、現在の業務体制においても直送率の向上に対応できるとしている13事務センターから段階的に、事業主に対して直送を促す周知活動を効果的に行うことなどにより、事務センターへの直送率の向上を図る必要があると認められる。
事務センター管内の年金事務所に郵送された健康保険及び厚生年金保険に関する届け書等の処理状況をみたところ、27事務センターのうち、7事務センターは事務センターのみで点検・確認を行っており、4事務センターは年金事務所が点検・確認を行った箇所を除くなどして点検・確認を行っていた。しかし、残りの16事務センター及び管内129年金事務所のうち66年金事務所では、事務センター及び年金事務所の両方で点検・確認を行っていて業務が重複していた。
また、届け書等の処理日数について年金事務所等に聴取したところ、点検・確認を行っていた年金事務所では、郵送された届け書等を同日中に事務センターに回付することは困難な状況となっていた。そこで、届け書等のうち資格取得届の処理日数についてみたところ、事務センターのみで点検・確認を行っていた7事務センターの平均処理日数は約5.0日であるのに対し、管内全ての年金事務所で点検・確認を行っていた4事務センターの平均処理日数は約6.7日と、約1.7日長くなっていた。そして、これを厚生年金保険の被保険者数が同程度で業務量も同程度の事務センターについて比較すると、処理日数はそれぞれ5.1日、6.0日となっていて、処理業務に要する日数に約1日の差が生じていた。
さらに、市区町村が受け付けた国民年金に関する届け書等を年金事務所を経由して事務センターに回付する場合をみたところ、27事務センターのうち8事務センターでは、事務センター及び年金事務所の両方で点検・確認を行っていて業務が重複していた。
以上のことから、届け書等の点検・確認については、業務マニュアルに沿って事務センターのみで行うことなどにより業務の効率化を図る必要があると認められる。
27事務センターにおける入力業務委託及び共同処理委託の作業項目のうち、仕様書において24年10月から25年3月までの作業予定件数が月平均1,000件以上となっている作業項目は、入力業務委託995作業項目に係る作業予定件数計5243万件、共同処理委託1,941作業項目に係る作業予定件数計1億6022万件あった。そして、その作業の実施状況等をみたところ、次のような事態が見受けられた。
入力業務委託の作業については、年金事務所の職員が届け書等を入力していたり、事務センターの職員が審査の過程で入力していたりなどしていて、作業の半数以上を職員が処理していたものが、表のとおり、23事務センターにおいて、146作業項目に係る作業予定件数計515万件見受けられた。さらに、このうち23事務センターの111作業項目に係る作業予定件数計356万件については、外部委託していたのに全ての作業を職員が処理していた。
また、共同処理委託の作業については、事務センターの職員が事業主等からの問合せに対応しやすいように書類を整理・編てつしていたり、仕様書等に作業手順が記載されていないことから事務センターの職員が処理していたりなどしていて、作業の半数以上を職員が処理していたものが、表のとおり、20事務センターにおいて、107作業項目に係る作業予定件数計664万件見受けられた。さらに、このうち17事務センターの80作業項目に係る作業予定件数計430万件については、外部委託していたのに全ての作業を職員が処理していた。
表 外部委託していたのに職員が処理していた作業の状況
区分 | 入力業務委託 | 共同処理委託 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
事務センター数(注) | 作業項目数 | 作業予定件数 | 事務センター数(注) | 作業項目数 | 作業予定件数 | |
全ての作業を職員が行っているもの | 23 | 111 | 3,561,274 | 17 | 80 | 4,307,587 |
作業の75%程度を職員が行っているもの | 10 | 31 | 1,107,941 | 5 | 5 | 253,053 |
作業の50%程度を職員が行っているもの | 3 | 4 | 482,380 | 6 | 22 | 2,080,004 |
計 | 23 | 146 | 5,151,595 | 20 | 107 | 6,640,644 |
前記の事態について、事例を示すと以下のとおりである。
東京事務センターでは、入力業務委託の作業項目「国民年金保険料還付請求書」について、平成24年10月から25年3月までの作業予定件数を3万件としていた。しかし、同請求書の入力の業務については、同センターに外部委託のための作業スペースが確保されていないなどとして、受け付けた管内の各年金事務所で、全ての作業を職員が処理していた。
以上のことから、外部委託しているのに職員が処理している作業については、外部委託による業務の効率化やコスト削減の効果が発現しておらず、業務処理方法の見直しや事務センターへの集約化を図るなどする必要があると認められる。
入力業務委託及び共同処理委託の作業予定件数が月平均1,000件以上となるなどの作業項目について27事務センターの状況をみたところ、半数以上の事務センターで外部委託している作業項目を外部委託していない事務センターが見受けられた。そこで、これらの外部委託していない事務センターの作業状況をみたところ、入力業務委託の4作業項目については4事務センターで、共同処理委託の7作業項目については15事務センターで、委託業者の習熟度に不安があるとして事務センターの職員が処理していたり、入力済みの届け書等を年金事務所で保管しているため年金事務所の職員が整理・編てつしていたりなどしていた。しかし、現に同一の作業項目を外部委託している事務センターも多数見受けられることから、上記の事務センターにおいては、当該作業項目について、事務センターへの集約化を図るとともに、外部委託を検討する必要があると認められる。
以上のように、事業主に対して直送を促す周知活動が効果的に行われていなかったり、事務センター及び年金事務所の両方で点検・確認業務を行っているなど業務が重複していたり、外部委託していた業務を職員が処理していたり、職員が処理している業務に外部委託を検討する必要があったりしている事態は、届け書等の処理業務をより効率的に行うことなどからみて適切ではなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。
貴機構は、今後も、年金の保険料徴収等の業務を行っていくために、毎年多数の届け書等を処理することが見込まれている。そして、貴機構では、中期計画等で、当面、非対面業務については事務センターへの完全集約化を実現することとしており、業務の効率化やコスト削減等に資する業務については、積極的に外部委託することとしている。
ついては、貴機構において、届け書等の処理業務がより効率的に行われるよう、次のとおり意見を表示する。