独立行政法人物質・材料研究機構(以下「機構」という。)は、平成14年度から、機構の研究業務に従事するなどのためにつくば地区及びその周辺地区に中長期間居住することになる外国人研究者とその家族等を対象として、日本での生活を立ち上げるために必要な手続に関する支援、日常生活における問題を解決するための支援等を行う外国人研究者生活立ち上げ等支援業務(以下「生活支援業務」という。)を実施している(以下、生活支援業務により支援を受ける者を「支援対象外国人研究者等」という。)。
そして、機構は、19年度から23年度までの各年度に、生活支援業務を一般競争入札により社団法人科学技術国際交流センター(以下「センター」という。)に請け負わせて実施しており、各年度の契約期間終了後に、業務に従事した時間数に人件費単価を乗ずるなどして支払額を確定して、請負費計4200万余円をセンターに支払っている。この業務のために、センターは、常時2人程度の従事者を充てている。
独立行政法人科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency。以下「JST」という。)は、つくば地区に竹園ハウス及び二の宮ハウス(以下、これらを合わせて「JSTハウス」という。)を所有して、様々な研究機関で業務に従事する外国人研究者等の居住の用に供しており、機構の支援対象外国人研究者等も相当数がJSTハウスに居住している。
そして、JSTは、19年度から23年度までの各年度に、外国人研究者用宿舎管理運営業務(以下「宿舎運営業務」という。)を一般競争入札によりセンターに委託して、JSTハウスに居住する外国人研究者等を対象に、入居受付等業務、施設・設備・居室の維持管理業務、交流の促進業務、生活を支援する業務等の各種業務を実施している。JSTは、委託に当たり、契約の相手方に宿舎運営業務を実施するために必要な人員を確保させることとしていて、これに基づいて、センターは、生活支援業務の従事者とは別に、常時10人程度の従事者を配置している。
本院は、経済性等の観点から、生活支援業務契約の内容は適切なものとなっているかなどに着眼して、生活支援業務契約に係る前記の支払額計4200万余円を対象として、機構本部において、契約書、業務に係る報告書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構が締結した生活支援業務契約の仕様書によると、支援対象外国人研究者等に対して実施している業務の内容は、①外国人登録や保育園等の入所等の手続の支援、②住居のあっせんに関する支援、③住居の入居及び退去時の手続の支援、④日常生活に関する情報提供、⑤疾病、傷病等による病院への同行、⑥緊急時の対応等とされていた。
一方、JSTが締結した宿舎運営業務契約の仕様書等によると、JSTハウスに居住する外国人研究者等を対象とした生活を支援する業務の内容は、外国人登録等の手続の支援、日常生活に関する情報提供、疾病等による病院への同行等とされていて、JSTハウスに居住する機構の支援対象外国人研究者等については、機構が実施している生活支援業務のうち①、③の一部、④、⑤及び⑥の業務が、JSTが実施している宿舎運営業務と同一のものとなっていた。
そして、JSTは、3年度に竹園ハウスを開設して以来、JSTハウスに居住する者に対して生活に関わる各種業務を総合的に実施しており、また、JSTハウス内の事務所に常時10人程度の従事者を配置して業務を実施させるなどしていて、宿舎運営業務は居住者にとって利便性が高いものになっていた。さらに、宿舎運営業務においては委託により配置されている当該従事者が状況に応じて業務を相互に融通し合っていることから、機構が実施している生活支援業務のうち宿舎運営業務と同一のものとなっていた上記の業務についてはJSTにおける宿舎運営業務により実施されれば足りると認められた。
これらのことから、機構が19年度から23年度までの5年間に実施した生活支援業務に要した計8,406.0時間のうち、JSTハウスに居住する者に対して実施した業務に要した計1,870.1時間については、JSTが締結していた宿舎運営業務契約において実施されれば足りたものであり、機構において実施する必要はなかったと認められた。
このように、JSTハウスに居住する支援対象外国人研究者等に対して実施している生活支援業務の一部は、JSTにおける宿舎運営業務により実施されれば足りるのに、機構が、JSTの業務の内容を十分に確認しないまま生活支援業務を実施してこれに係る請負費を支払っていた事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
機構において実施する必要がなかった生活支援業務に係る時間数を除くなどして支払額を計算すると、19年度から23年度までの間の生活支援業務に係る支払額計4200万余円は計3307万余円となり、支払額計892万余円が節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、両契約に同一の業務が含まれていることについて契約の相手方であるセンターから情報が提供されなかったことにもよるが、機構において、機構の支援対象外国人研究者等がJSTハウスに居住しているにもかかわらず、JSTが実施している宿舎運営業務の内容の確認を十分に行っていなかったことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、24年7月にセンターとの間で24年度契約に係る覚書を締結して、JSTハウスに居住する支援対象外国人研究者等に対して実施している生活支援業務についてはJSTが実施している宿舎運営業務と同一の業務を含めないこととするとともに、25年3月に関係部署に通知文書を発して、今後契約を締結するに当たっては他団体等が実施している同様の業務を確認した上で契約の相手方に実施させる業務の内容を契約書等に適切に定めることを周知する処置を講じた。