独立行政法人放射線医学総合研究所(以下「研究所」という。)は、平成23年度に、国から原子力災害対策設備整備費等補助金の交付を受けて、広く国民を対象として放射線に関する正確な知識を普及することを目的として、「放射線影響に関する知識・教養の向上のためのビデオ映像の制作」に係る契約を、企画競争による随意契約により株式会社日庄(以下「日庄」という。)と契約金額28,948,500円で締結して請け負わせている。
本件契約は、放射線の影響に関する不安の解消を目指すことを目的として、放射能と放射線の違い、環境中の放射線、放射線防護の前提となるリスク等について、分かりやすくかつ子供でも興味を持って視聴できるビデオ映像を制作するものである。
本院は、合規性、有効性等の観点から、制作されたビデオ映像が契約の内容に適合していて制作の目的を達成するものになっているかなどに着眼して、研究所において、本件契約を対象として、契約書、仕様書等の関係書類やビデオ映像の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
研究所は、本件契約を締結するに当たり、制作の目的を達成するためには、放射線の種類、放射線の線量と影響の関係等の計23項目からなる構成要素を盛り込んだビデオ映像とすること、映像時間についてはおおむね1時間程度とすることなどが必要であるとして、これに基づいて企画競争を実施していた。そして、研究所は、日庄の企画提案書には構成要素23項目の全てが盛り込まれているなどとして、応募した8者の中から日庄を契約の相手方として選定し、上記の事項を契約内容として定めた上で、本件契約を締結していた。
しかし、日庄が契約の要求元の職員と協議しながら制作した結果、ビデオ映像は、契約で定められた構成要素23項目のうち食品の規制、放射線防護の3原則等の10項目が内容として盛り込まれておらず、また、映像時間は計11分43秒(大人向け6分1秒、子供向け(字幕付き)2分51秒及び子供向け(字幕なし)2分51秒)となっていて、契約の内容に適合していないものとなっていた。
したがって、実際に制作されたビデオ映像は制作の目的を達しておらず、これに係る支払額28,948,500円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究所において、契約の内容に適合した履行を確保すること、給付の完了の確認をするための検査を適切に行うことについての認識が欠けていたことなどによると認められる。