独立行政法人国立印刷局(以下「印刷局」という。)は、職員等の診療及び健康管理並びに地域医療への貢献を目的として、東京病院(注)を運営している。東京病院は、昭和11年に内閣印刷局の職域病院として東京都北区に設置され、その後、62年に保険医療機関の指定を受けて一般開放を行い地域住民の診療を行っている。そして、印刷局は、平成24年4月1日現在で東京病院に常時勤務する医師(以下「常勤医師」という。)を17名配置している。
印刷局は、独立行政法人国立印刷局法(平成14年法律第41号)第4条において、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第2条第2項に規定された特定独立行政法人とされており、また、通則法第51条において、特定独立行政法人の役員及び職員は国家公務員とされている。したがって、印刷局の職員である常勤医師には国家公務員法(昭和22年法律第120号)が適用され、同法第101条により、勤務時間中職務に専念しなければならないこととされている。
そして、印刷局本局は、独立行政法人国立印刷局職員給与規則(平成15年規則第11号)及び独立行政法人国立印刷局年俸制職員給与規則(平成18年規則第8号。以下、これらを合わせて「給与規則等」という。)に基づき常勤医師に所定の給与(年俸制)を支給している。給与規則等では、職員が正規の勤務時間中に勤務しないときは、その勤務しない時間につき勤務1時間当たりの給与額を減額して支給することとされている。
印刷局は、「東京病院及び小田原健康管理センター医師に対する研究日の見直しについて」(平成18年6月本局人事労務部病院運営担当部長事務連絡。以下「事務連絡」という。)に基づき、常勤医師が東京病院の診療の質的向上に貢献することなどのために原則として1週間のうち半日以内の範囲で大学病院等に赴き、研修、診療、研究等(以下、これらを「研究等」という。)を行う研究日を取得することを認めている。常勤医師が研究日の取得を希望する際には、年度ごとに東京病院長に申請書を提出して承認を得ることとされており、研究日に研究等を行った場合は、独立行政法人国立印刷局就業規則(平成15年規則第8号。以下「就業規則」という。)第80条第2項に基づき、正規の勤務時間を勤務したとみなすこととされている。ただし、就業規則第9条第2項において、職員が報酬を得て行う兼職は制限されていることから、印刷局は、常勤医師が研究日に行う研究等は報酬を得ずに行うことを前提としている。
本院は、合規性等の観点から、常勤医師が取得した研究日において報酬を得ていないか、常勤医師の給与は適正に算定されているかなどに着眼して、印刷局本局及び東京病院において、前記の常勤医師17名のうち研究日を取得していた9名を対象として、研究日申請書、タイムカード、職員別給与簿等の書類を確認したり、印刷局本局の職員を通じて研究等の内容を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
印刷局本局は、前記の常勤医師9名が20年1月から24年8月までの間に取得した研究日について、いずれも正規の勤務時間を勤務したとみなして、それぞれの常勤医師に所定の給与を支給していた。
しかし、上記の研究日に行った研究等の内容について、印刷局本局の職員を通じて上記の9名及び研究等先の医療機関等に確認するなどしたところ、このうち5名は、21年6月から24年8月までの間に、取得した研究日において、研究等先の医療機関等から報酬を得ていた。これらの研究日については、事務連絡に基づく研究日とは認められないことから、上記の5名がこれらの研究日に研究等先の医療機関等において研究等を行うなどしていた計1,065時間については、正規の勤務時間を勤務したとみなすことはできない。
したがって、前記5名の給与については、月ごとの減額の対象となる時間数(3時間から21時間)にそれぞれの月の勤務1時間当たりの給与額(2,591円から3,772円)を乗じた額の合計3,523,759円を、当該期間に支給されていた所定の給与額の合計117,519,346円から減額すべきであったのに、印刷局本局は、これを減額することなく支給していて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、上記の常勤医師5名において、国家公務員の服務規律を遵守することについての認識が欠けていたこと、印刷局において、常勤医師に対して研究日の趣旨等について十分な指導を行っていなかったこと、研究日における研究等先の医療機関等からの報酬の有無を適切に把握していなかったことなどによると認められる。