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肉用牛肥育経営緊急支援事業における未返還の支援金相当額について、返還が速やかに行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


科目
(畜産勘定) (項)畜産振興事業費
部局等
独立行政法人農畜産業振興機構本部
補助の根拠
独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)
補助事業者
(事業主体)
5県協会
補助事業
肉用牛肥育経営緊急支援事業
補助事業の概要
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故により影響を受けた肥育農家の当面の資金繰りなどを支援するために、肥育農家に対して緊急支援金等を交付する県協会に補助金を交付し、その後、肉用牛を販売等したときや同会社からの賠償金を受領したときに支援金相当額を返還させるもの
緊急支援金等の交付額
119億3775万円(平成23年度)
賠償金を受領しているのに返還されていない支援金相当額
26億9827万円
上記に対する機構の補助金相当額
26億9827万円
【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】 肉用牛肥育経営緊急支援事業に係る支援金相当額の返還について

(平成25年10月22日付け 独立行政法人農畜産業振興機構理事長宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

記

1 事業の概要

(1) 肉用牛肥育経営緊急支援事業の概要

貴機構は、独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)に基づき、国から交付される交付金等を財源として、畜産物の生産又は流通の合理化を図るための事業その他の畜産業の振興に資するための事業についてその経費に係る補助金を畜産関係団体に交付している。

平成23年3月に発生した東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)福島第一原子力発電所の事故以降に収集された高濃度の放射性セシウムを含む稲わらが給与された肉用牛の枝肉(注1)から、厚生労働省が示した暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された。その結果、肥育農家(注2)が飼養していた肉用牛の出荷の停止や自粛を求められたり、枝肉価格が低下したりするなどの事態が生じた。

肉用牛肥育経営緊急支援事業は、このような状況の下で、肥育農家の当面の資金繰りなどを支援するために、肉用牛肥育経営緊急支援事業実施要綱(平成23年23農畜機第2228号。以下「実施要綱」という。)等に基づき、都道府県の区域を事業区域とする畜産関係団体等(以下「県協会」という。)が、その事業区域内の肥育農家に対して緊急支援金、出荷遅延支援金、価格低下支援金(以下、これらを合わせて「支援金」という。)等を交付するものである。

本事業の対象となる地域は前記の稲わらを給与された肉用牛が飼養されている17道県(注3)で、その内訳は「原子力災害対策特別措置法」(平成11年法律第156号)に基づく出荷制限の指示を受けた4県(注4)(以下「出荷制限県」という。)及び同法に基づくなどして放射性物質検査を実施する13道県(注5)(以下「検査実施県」という。)となっている。

主な支援金の内容は、次のとおりとなっている。

  • ア 緊急支援金は、当面の資金繰りを支援するために、出荷制限県又は検査実施県において飼養されている肉用牛を対象として、1頭当たり5万円以内の額を交付するものである。
  • イ 出荷遅延支援金は、出荷制限県において肉用牛を販売できないことにより収入が途絶える肥育農家の資金繰りを支援するために、県協会が定めた月齢基準に合致する肉用牛を対象として、一定の金額(1頭当たり原則として品種(注6)により29万円から78万円)以内の額を交付するものである。

そして、貴機構は、23年度に、15県協会(注7)を通じて肥育農家に対して計317億6950万円の支援金等を交付している。

(2) 支援金相当額の返還

実施要綱等によれば、支援金等の交付を受けた肥育農家は、本事業の対象となった肉用牛が販売、死亡、繁殖用に転用等(以下「販売等」という。)の事由に該当するに至った後に、県協会が定めた支払期限までに支援金等の相当額(以下「支援金相当額」という。)を県協会へ返還するなどして、県協会は支援金相当額を速やかに貴機構へ返還することとなっている。

上記の支援金相当額の県協会への返還の時期については、東京電力からの賠償金の確定時期等に配慮することとなっている。そして、県協会が定めた支援金等の返還請求の方法に関する通知(以下「通知」という。)には、賠償金が確定していないことから肉用牛の販売等に伴い県協会が定めた支払期限までに肥育農家が支援金相当額を返還することが困難な場合等の手続が定められている。これによれば、県協会は支援金相当額の返還の対象となる肉用牛が記載された返還計画を肥育農家に送付し、肥育農家は返還計画に肉用牛に係る東京電力からの賠償金の受領状況を記入して、上記の支払期限までに返還計画を県協会へ提出することなどとなっている。県協会は、その後も返還されていない支援金相当額を管理するために、四半期又は月ごとに肥育農家に返還計画を送付し、その都度賠償金の受領状況を記入させてこれを提出させるとともに、賠償金が確定した場合には支援金相当額を県協会に返還させることとなっている。

また、肥育農家は、東京電力に対する賠償金の請求については、JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策県協議会等(以下「県賠償協議会」という。)に委任するなどして行うこととなっている。

注(1)
枝肉  肉用牛の体から皮、頭、内臓等を切り離した状態のもの
注(2)
肥育農家  肉用牛の子牛を購入又は生産して肥育し、販売する農家
注(3)
17道県  北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根各県
注(4)
4県  岩手、宮城、福島、栃木各県
注(5)
13道県  北海道、青森、秋田、山形、茨城、群馬、埼玉、千葉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根各県。このうち静岡、三重両県については、本事業を実施していない。
注(6)
品種  主に肉専用種(日本短角種を含む。)、交雑種及び乳用種に区分されている。
注(7)
15県協会  北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、岐阜、島根各県協会

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、実施要綱等に基づき、賠償金が確定して既にこれを受領している肥育農家から支援金相当額の返還が適切に行われているかなどに着眼して、農林水産本省及び貴機構本部並びに岩手県、宮城県、福島県、千葉県及び岐阜県の県協会(以下「5県協会」という。)において、上記5県内の肥育農家1,113戸で飼養されている肉用牛117,412頭に係る23年度に交付された支援金等計119億3775万円を対象として、実績報告書、返還計画等の関係書類により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

5県協会は、前記の支援金等計119億3775万円のうち、24年9月末までに販売されるなどした肉用牛に係る計103億5280万円の支援金等について返還請求を行っていた。このうち、上記の肉用牛の販売等に伴い県協会が定めた同年12月末の支払期限を過ぎても返還されない支援金相当額は35億9815万円、これに係る肉用牛は15,953頭となっていた。

そして、これらに係る賠償金の受領状況についてみたところ、宮城及び岐阜両県協会においては、肥育農家から賠償金の受領状況を記入することとなっている返還計画の提出を受けていなかったり、また、宮城県協会においては、提出を受けていても賠償金の受領の有無が記入されていないものもあったりしていて、県協会が賠償金の受領状況を把握できていない事態が見受けられた。そこで、県賠償協議会の資料等により、肥育農家の賠償金の受領状況を確認したところ、過半の肉用牛については、賠償金が確定して肥育農家が既にこれを受領している状況であった。

また、岩手及び福島両県協会においては、賠償金の受領状況を記入した返還計画は四半期ごとに肥育農家から提出を受けていたものの、県賠償協議会の資料等により、肥育農家の賠償金の受領状況について確認したところ、この資料等に記載された賠償金の受領状況と2県協会が把握していた賠償金の受領状況とに大きな開差がみられ、賠償金の受領状況が正確に確認されていない事態が見受けられた。

一方、千葉県協会においては、賠償金の受領状況を記入した返還計画を肥育農家から四半期ごとに提出を受け、賠償金を受領した全ての肥育農家から支援金相当額の返還を受けて適切に業務を実施していた。

上記の事態について、5県協会別の状況をみたところ、次表のとおりとなっていて、24年12月末現在において、支払期限を過ぎても返還されていない支援金相当額に係る肉用牛(以下「支援金未返還牛」という。)計15,953頭のうち賠償金が確定して肥育農家が既にこれを受領している頭数は計11,453頭となっていて、全体の71.7%を占めていた。

表 支援金未返還牛に係る賠償金の受領状況(平成24年12月末現在)

(単位:頭、%)
事業実施主体 返還計画により受領状況を報告すべき支援金未返還牛の頭数(A) (A)のうち県協会が肥育農家から返還計画の提出を受けていたもの (A)のうち肥育農家が返還計画において「受領済」と記入しているもの (A)のうち県賠償協議会への確認により「受領済」と判明したもの
岩手県協会 頭数
((A)に対する受領
済の牛の割合)
2,872 2,872 1,025 2,366
(35.6) (82.3)
宮城県協会 頭数
((A)に対する受領
済の牛の割合)
7,385 — — 5,554
(75.2)
福島県協会 頭数
((A)に対する受領
済の牛の割合)
4,385 4,385 255 3,513
(5.8) (80.1)
千葉県協会 頭数
((A)に対する受領
済の牛の割合)
1,281 1,281 0 0
(0.0) (0.0)
岐阜県協会 頭数
((A)に対する受領
済の牛の割合)
30 — — 20
(66.6)
計 頭数
((A)に対する受領
済の牛の割合)
15,953 — — 11,453
(71.7)
(注)
宮城及び岐阜両県協会においては、一部の肥育農家から返還計画の提出を受けていないなどしていたため、返還計画による賠償金の受領状況が集計されておらず把握できない状況であった。

そして、上記の11,453頭について、返還のための事務手続に要する期間を考慮して25年3月末までの支援金相当額の返還状況をみたところ、9,533頭に係る支援金相当額計26億9827万円(貴機構の補助金相当額同額。岩手県協会分1,555頭に係る1億9570万円、宮城県協会分5,437頭に係る23億7552万円、福島県協会分2,541頭に係る1億2705万円)が返還されていなかった。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

肥育農家が既に賠償金を受領していて支援金未返還牛に係る支援金相当額を返還すべき時期を過ぎているのに、県協会が肥育農家に返還させていない事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、県協会において、肥育農家から返還計画の提出を受けていなかったり、肥育農家から提出された返還計画の内容が正確かどうか確認していなかったりなどしていたこと、貴機構において、肥育農家が賠償金を受領した場合の支援金相当額の返還期限については賠償金の確定時期に配慮するなどとしているのみであり、これを明確に定めて厳格な運用に努めるなどの早期の返還を促進する対策を十分に講じていなかったことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

本事業は、肥育農家の当面の資金繰りなどを支援するために実施される事業であることなどから、肉用牛を販売等したときや賠償金を受領したときは、支援金相当額を返還することとなっている。

そうした中で、実施要綱等に基づき、対象となる全ての肥育農家から返還計画の提出を受けて支援金相当額の返還に努めている県協会がある一方で、返還計画の提出を受けていないなどして賠償金の受領状況を十分に確認していないため、実際には東京電力からの賠償金が確定して肥育農家が既に賠償金を受領しているのに支援金相当額を返還させていない県協会も見受けられた。このような事態は、今後も返還に関する新たな方策が講じられなければ改善されないおそれがある。

ついては、貴機構において、真に困窮している肥育農家には一定の配慮が必要であるとしても、肥育農家から返還されていない支援金相当額及び今後賠償金が確定して肥育農家が返還することとなる支援金相当額について早期の返還が図られるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

  • ア 県協会に対して、対象となる全ての肥育農家から賠償金の受領状況を記入した返還計画の提出を受けた上で、県賠償協議会を通じて賠償に関する情報を速やかに入手し、肥育農家の賠償金の受領状況が正確かどうかを確認させること
  • イ 肥育農家から返還されていない支援金相当額及び肥育農家が返還することとなる支援金相当額について、賠償金を受領した肥育農家に対する返還期限を明確に定め、肥育農家に対する周知を徹底した上で厳格な運用に努めるなどして、早期の返還を促進する方策を講ずること
  • ウ 県協会に対して、真に困窮している肥育農家について返還の猶予等を行う必要がある場合は、支援金相当額の管理を適切に行わせるとともに、経営の継続、将来の返還等を見据えて、必要に応じて経営診断、営農指導等も行わせること