(平成25年10月31日付け 独立行政法人日本スポーツ振興センター理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴センターは、我が国のスポーツの振興を図るために、平成2年度に政府出資金250億円を受けるなどして設置されたスポーツ振興基金の運用益等を財源として、「独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ振興基金助成金交付要綱」(平成15年度要綱第1号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、オリンピック日本代表選手等我が国における優秀なスポーツ選手及びその指導者等が競技技術の向上を図るために自ら計画的に行う日常のスポーツ活動(以下「日常スポーツ活動」という。)等に対して助成金を交付している(以下、日常スポーツ活動に対して交付される助成金を「日常スポーツ活動助成金」という。)。
日常スポーツ活動助成金の助成対象者は、交付要綱等によると、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)から推薦されたオリンピック強化指定選手及びその指導者等である専任強化スタッフとされている。
そして、専任強化スタッフについては、担当選手のスポーツ活動に対して日常的に指導等を行う者に限るとされており、JOCにおいて、コーチングスタッフ、マネジメントスタッフ、情報・戦略スタッフ及び医・科学スタッフの4種類に区分されている。
日常スポーツ活動助成金の助成対象活動は、交付要綱等によると、助成対象者の所属する競技団体(以下「所属団体」という。)から承認を受けた活動計画に基づき行われ、かつ、その活動実績について所属団体の確認を受ける活動であるとされている。
また、助成対象経費は、諸謝金、旅費、消耗品費等の日常スポーツ活動を行うために直接必要な経費とされている。
貴センターは、交付要綱等に基づき、JOCから推薦を受けた候補者の中から助成対象者を決定するとともに、当該助成対象者から提出された助成金交付申請書、助成活動計画書(以下「活動計画書」という。)等について、助成対象活動の要件に合致しているかなどの書類審査(以下「交付決定時審査」という。)を行った上で日常スポーツ活動助成金の交付決定を行うこととされている。
上記の交付決定を受けて活動を行う者(以下「助成活動者」という。)は、交付要綱等に基づき、その活動状況について、助成活動状況報告書(以下「状況報告書」という。)を四半期ごとに、また、助成活動実績報告書(以下「実績報告書」という。)を当該年度の活動が完了したときに作成して、それぞれ貴センターに提出することとされている。
そして、貴センターは、助成活動者から実績報告書の提出を受けた場合は、交付要綱等に基づき、実績報告書等の審査(以下「額の確定時審査」という。)及び必要に応じて現地調査を行うなどして日常スポーツ活動助成金の額を確定することとされている。
また、助成活動者は、交付要綱等に基づき、日常スポーツ活動に係る支出額の内容を証する書類(以下「証拠書類」という。)を整備して、これを活動終了後5年間保存し、貴センターの指示に応じて直ちに提出できるようにしておかなければならないとされている。
公益財団法人全日本柔道連盟(24年3月31日以前は財団法人全日本柔道連盟。以下「全柔連」という。)は、25年3月に、全柔連に所属する指導者等において日常スポーツ活動助成金の取扱いに問題があるとの報道がなされたことなどを受けて、外部の委員のみによって構成される「振興センター助成金問題に関する第三者委員会」(以下「第三者委員会」という。)を設置して、19年度から24年度までの間に交付された日常スポーツ活動助成金の受給の適正性等について調査を委嘱した。
そして、第三者委員会が25年6月に全柔連に提出した最終報告書において、指導者等63人のうち27人は、全柔連の強化委員としての活動は行っているものの担当選手との関わり(以下、この関わりのことを「指導等の関係」という。)が僅かにすぎなかったり、担当選手の引退等により指導を行わなくなったりなどしていて、日常スポーツ活動助成金の受給資格が認められないとされた。
また、指導者等46人に交付された日常スポーツ活動助成金の一部が強化留保金の名目で全柔連の関係者が管理する口座に振り込まれるなどされており、これらは日常スポーツ活動助成金の助成対象経費とは認められないとされた。
貴センターは、全柔連に係る報道を契機として、22年度から24年度までの間に日常スポーツ活動助成金の交付を受けた全柔連以外の競技団体に所属する指導者等及びその担当選手を対象に、指導者等の活動実態や競技団体への拠出金の有無について調査を行った。そして、貴センターは、25年5月に、公益社団法人日本カーリング協会及び財団法人全日本スキー連盟(25年8月1日以降は公益財団法人全日本スキー連盟)に所属する指導者等計2人について、担当選手に対して指導を行っていない期間があり受給資格が認められない事態があったことなどを公表した。
本院は、合規性等の観点から、日常スポーツ活動助成金の交付に係る審査等が適切に実施されているかなどに着眼して、19年度から24年度までの間に助成活動者延べ3,161人に交付された日常スポーツ活動助成金計31億0050万円を対象として、貴センターにおいて状況報告書や実績報告書等の書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。また、貴センターを通じて助成活動者から日常スポーツ活動助成金の使途について報告を求めるなどして調査した。
(検査の結果)前記の第三者委員会及び貴センターの調査結果を踏まえて、貴センターにおける交付決定時審査及び額の確定時審査の状況について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
第三者委員会の調査結果において日常スポーツ活動助成金の受給資格が認められないとされた指導者等27人のうち、担当選手との指導等の関係が僅かにすぎないことが理由となっている18人(以下「全柔連の指導者等18人」という。)の特徴についてみたところ、次のような共通点が見受けられた。
17人の指導者等については、指導者等とその担当選手がそれぞれ異なる企業や学校に所属していて、中には活動拠点が地理的に離れているケースもあるなどしており、所属先が同じ場合と比較して、担当選手に対して日常的に指導等を行うことが実質的に難しい状況となっていた。
15人の指導者等については、第三者委員会の調査結果にもあるとおり、全柔連においてコーチの役職に就いていないことから、強化委員としての活動は行っているものの、担当選手との指導等の関係はほとんどなく、担当選手に対して日常的に指導等を行っているとは言い難い状況となっていた。
14人の指導者等については、専任強化スタッフの種類がマネジメントスタッフとなっていた。マネジメントスタッフは、競技者、チーム、関係スタッフ、所属先等との連携を図り、競技活動をサポートする者とされており、その業務の性質上、コーチングスタッフと比較して、担当選手との指導等の関係がより間接的になる傾向があった。
上記(ア)から(ウ)までの状況を示すと表1のとおりである。
表1 全柔連の指導者等18人に見受けられた共通点
全柔連の指導者等 | 共通点 | ア、イ及びウの全てに該当している者(〇) | ||
---|---|---|---|---|
(ア)担当選手と所属先が相違している者(〇) | (イ)全柔連においてコーチの役職に就いていない者(〇) | (ウ)専任強化スタッフの種類がマネジメントスタッフである者(〇) | ||
A | ○ | ○ | ○ | ○ |
B | ○ | ○ | ○ | ○ |
C | ○ | ○ | ○ | ○ |
D | ○ | ○ | ○ | ○ |
E | ○ | ○ | ○ | ○ |
F | ○ | ○ | ○ | ○ |
G | ○ | ○ | ○ | ○ |
H | ○ | ○ | ○ | ○ |
I | ○ | ○ | ○ | ○ |
J | ○ | ○ | ○ | ○ |
K | ○ | ○ | ○ | ○ |
L | — | ○ | ○ | — |
M | ○ | ○ | ○ | ○ |
N | ○ | — | — | — |
O | ○ | ○ | ○ | ○ |
P | ○ | — | — | — |
Q | ○ | — | — | — |
R | ○ | ○ | — | — |
計18人 | 17人 | 15人 | 14人 | 13人 |
そして、上記(ア)、(イ)及び(ウ)の全てに該当している者は13人となっていた。一方、指導者等63人のうち、全柔連の指導者等18人以外の指導者等についてみると、上記の共通点を有している者は比較的少ない状況であった。このため、上記の共通点に関する情報は、交付決定時審査の段階で指導者等と担当選手との指導等の関係を把握する上で必要な情報と考えられる。
活動計画書の記載事項は、活動計画、担当選手、資金計画等となっており、全柔連の指導者等18人に見受けられた共通的な事項、すなわち指導者等と担当選手の所属先、所属団体における指導者等の役職及び専任強化スタッフの種類を記載することとはされておらず、指導者等と担当選手との指導等の関係を十分に把握できるものとはなっていない。このため、全柔連の指導者等18人について受給資格がなかったことを交付決定時審査において確認することは困難であったと思料される。
交付要綱等においては、指導者等である専任強化スタッフの受給資格を「当該選手のスポーツ活動に対して日常的に指導等を行う者に限る。」と規定するのみで、指導者等の助成対象活動の範囲を明確にしていない。しかし、専任強化スタッフの種類によって活動内容は異なり、指導等の関係の程度にも差があることから、上記の規定のみでは指導者等の活動が助成対象活動に該当するかどうか十分に審査することが困難な状況となっていた。
第三者委員会及び貴センターの調査結果によると、担当選手の引退や休養等により担当選手に対して指導等を行っていない期間があることにより、その間の日常スポーツ活動助成金の受給資格が認められないとされた者は、全柔連等の3競技団体に所属する指導者等計13人とされている。
これらの指導者等の状況報告書の内容について本院が確認したところ、担当選手に対して指導等を行っていないとされている期間についても指導等を行ったとする内容が記載されていたり、担当選手の国内外における大会の成績やトレーニングの内容が抽象的に記載されていたりなどしていて、その実態について書面で確認することは困難な状況となっていた。
また、第三者委員会の調査結果によると、全柔連の指導者等46人は、日常スポーツ活動助成金の一部を強化留保金として全柔連の関係者が管理する口座に振り込むなどしていたとされているが、これらの指導者等の実績報告書の内容について本院が確認したところ、助成金は諸謝金、旅費等に使用されたことになっていて、その実態について書面で確認することは困難な状況となっていた。
前記のように、状況報告書や実績報告書の記載内容が抽象的であったり、事実と異なっていたりする場合、これらの書類を審査するだけでは、指導等の実績の有無や強化留保金への拠出の事実等を確認することは困難である。このため、額の確定時審査に当たっては、助成活動者に対する調査等の権限を活用して、一定の範囲で証拠書類の提出を求めることなどにより助成対象活動の内容等を調査する必要があると考えられる。しかし、本院が確認したところ、貴センターが、これまでこのような調査を行った実績はなかった。
上記の状況を踏まえ、本院は、24年度の助成活動者計713人のうち、活動計画書と実績報告書のそれぞれに記載された支出額の内訳が全く同一となっていて、その適正性に疑問のある選手及び指導者等計70人を対象に、貴センターを通じて証拠書類の提出等を求めた。
その結果、表2のとおり、証拠書類を全く提出できなかった者が60人、一部しか提出できなかった者が8人となっており、これらの助成活動者については、交付された助成金が適正に使用されていたかどうかを確認することができなかった。
そして、これらの助成活動者は、その提出できない理由を、証拠書類の保存義務を知らなかったこと、保存義務はないと勘違いしていたことなどによるとしていた。
表2 証拠書類の提出状況及び提出できない理由
区分 | 証拠書類の 提出状況 |
提出できない理由(注) | ||
---|---|---|---|---|
保存義務を知らなかった | 保存義務はないと勘違いしていた | その他 | ||
証拠書類の全てを提出した者 | 2人 | / |
/ |
/ |
証拠書類の一部しか提出できなかった者 | 8人 | 6人 | 4人 | 2人 |
証拠書類を全く提出できなかった者 | 60人 | 18人 | 47人 | 7人 |
計 | 70人 | 24人 | 51人 | 9人 |
このような状況となっていたのは、前記のとおり、助成対象者は、交付要綱等の規定において、証拠書類を活動終了後5年間保存しなければならないとされているのに、貴センターは、毎年度各競技団体又は助成活動者に配布している日常スポーツ活動助成金の手続等に関する手引において、活動計画書と状況報告書を証拠書類に代えることとして証拠書類の提出は不要としていたことなどによると考えられる。
このように、貴センターにおいて、指導者等と担当選手との指導等の関係を適切に把握していないなど交付決定時審査が十分に行われていない事態、調査等の権限を活用して証拠書類の提出を求めていないなど額の確定時審査が十分に行われていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、貴センターにおいて、次のことなどによると認められる。
貴センターは、今後も引き続き日常スポーツ活動に対し必要な助成を行うこととしている。ついては、その交付の適正性が確保されるよう次のとおり改善の処置を要求する。