独立行政法人日本貿易振興機構(以下「機構」という。)は、世界55か国に所在する73の海外事務所(平成24年度末現在)に職員を勤務させるなどして、貿易の振興に関する事業及び地域の経済や関連する諸事情の調査分析等の業務を実施している。
そして、機構は、海外事務所に勤務する職員及び当該職員と同居している扶養親族(以下、これらの者を合わせて「職員等」という。)について「海外職員の定期健康診断実施に関する内規」(平成15年独立行政法人日本貿易振興機構内規第45号。以下「健康診断内規」という。)を定めて、年1回の定期健康診断を必ず受診させることとしている。
健康診断内規によれば、職員等は、原則として在勤地において定期健康診断を受診することとされているが、現地の医療事情等から健康管理上の配慮が必要な地(以下「特定在勤地」という。)に所在する海外事務所に勤務する職員等は、在勤地以外の都市で定期健康診断を受診することができるとされていて、特定在勤地に所在する海外事務所として21海外事務所(注)が指定されている。
機構は、健康診断内規において、特定在勤地に所在する海外事務所に勤務する職員等が在勤地以外の都市で定期健康診断を受診する際に、4泊5日を限度として、特定在勤地ごとに指定する受診地域(北米、欧州又はアジア)までの旅行(以下、この旅行を「定期健康診断旅行」という。)を実施することができるとしている。
そして、機構は、定期健康診断旅行を実施した職員等に対して、当該旅行に必要な旅費として、日当、宿泊費、交通費及び旅行雑費を支給している。22、23両年度において、機構が職員等延べ293名(22年度160名、23年度133名)に支給した定期健康診断旅行に係る旅費は、計3005万余円(22年度1587万余円、23年度1418万余円)となっている。
本院は、経済性等の観点から、定期健康診断旅行に係る旅費の支給は現地の医療事情等からみて適切なものとなっているかなどに着眼して、21海外事務所のうち22、23両年度に機構が支給した定期健康診断旅行に係る旅費の支給実績額の多い北京、上海、ドバイ各事務所(以下、これらを合わせて「3海外事務所」という。)を対象として、機構本部及び3海外事務所において、旅費請求書等の関係書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構が、22、23両年度に、3海外事務所に勤務し定期健康診断旅行を利用して定期健康診断を受診した職員等延べ145名(22年度84名、23年度61名)に対して支給した旅費は、計1599万余円(22年度876万余円、23年度722万余円)となっていた。
しかし、3海外事務所の所在都市における医療事情等について調査したところ、いずれも日本人の健康診断受診実績がある医療機関が複数存在しており、3海外事務所に勤務する職員等は、在勤地で定期健康診断を受診することとしても特段の支障はないと認められた。
したがって、機構が3海外事務所の所在都市を特定在勤地として指定し、職員等に対して在勤地以外の都市への定期健康診断旅行が必要であるとして、そのための旅費を支給していることに合理的な理由はないと認められた。
なお、機構と同様に3海外事務所の所在都市に職員を駐在させて業務を実施している国の職員等の受診状況についてみたところ、原則として在勤地で定期健康診断を受診していた。
以上のように、機構が現地の医療事情等を考慮することなく、3海外事務所において定期健康診断に係る旅費を支給し続けている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(発生原因)このような事態が生じていたのは、機構において現地における医療事情等の把握が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、24年11月に健康診断内規を改正して、在勤地での定期健康診断の受診が可能であると認められた3海外事務所に勤務する職員等に対して、定期健康診断を在勤地以外の都市で受診するための旅費を支給しないこととするなどし、健康診断内規の改正内容及び制度趣旨について周知を図り、25年4月から適用するなどの処置を講じた。