(平成25年10月31日付け 独立行政法人情報処理推進機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構(平成16年1月4日以前は情報処理振興事業協会)は、元年度から6年度までの間に、国からの出資金を原資として、地域ソフトウェア供給力開発事業推進臨時措置法(平成元年法律第60号。11年廃止。以下「旧地域ソフト法」という。)第7条第1号の規定に基づき、20地域ソフトウェアセンター(注)(以下、地域ソフトウェアセンターを「センター」という。)に対して各4億円、計80億円を出資している。
上記のうち7センターは、経営改善や事業成果が見込めないことなどから14年度から24年度までに順次解散しており、25年7月末現在、13センター(注)が存続していて(以下、存続している13センターを「13センター」という。)、13センターに対する貴機構の出資額は計52億円となっている。13センターには、貴機構のほか、地方自治体、多数の民間企業等が出資している。
旧地域ソフト法は、プログラムの供給不足が深刻化するおそれがある状況に鑑み、ソフトウェア供給力の開発を効果的に図ることができると認められる地域において、プログラム業務従事者の知識及び技能の向上を図る事業その他のソフトウェア供給力開発事業を推進するための措置を講ずることにより、プログラムの安定的な供給を確保し、もって情報化社会の健全な発展に寄与することを目的として制定されたものである。
貴機構は、この目的を達成するため、旧地域ソフト法に基づきセンターが施設を整備して実施する次の事業について、必要な資金を出資している。
貴機構は、上記の出資に当たり、各センターとの間で個別に出資契約を締結しており、出資契約書において、貴機構からの出資は上記の3事業を対象事業とすること、出資金は出資対象事業の実施に必要な施設、設備の整備等に充てられるべきことなどが定められている。
また、貴機構からの資金的援助の方法としてセンターに対する出資の形をとったことについては、貴機構が継続的に指導等を行い、センターにおける事業の円滑な遂行を図るためとされており、貴機構においては、センターの事業運営及び経営が適切に行われるよう、センターに対して必要な指導、支援等を継続的に行うことが求められている。
そして、貴機構は、センターに対して、11年2月15日までは旧地域ソフト法に基づき事業計画の立案、実施に関する指導及び助言を行うことなどとされ、同月16日から17年4月12日までは新事業創出促進法(平成10年法律第152号。17年廃止)、同月13日からは「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」(平成11年法律第18号)に基づき、情報処理に関して必要な知識及び技能の向上を図る事業であって、プログラムの作成又は電子計算機の利用に係る能力を開発し、向上させる事業(以下「情報関連人材育成事業」という。)の実施に関して指導及び助言を行うことなどとされている。
情報関連人材育成事業は、旧地域ソフト法制定後の情報化の進展等に対応するため、上記のとおり、その内容としてプログラムの作成だけでなく、電子計算機の利用に係る能力の開発や向上も加わるなど、人材育成事業を拡充したものとなっているが、人材育成事業とほぼ同趣旨の事業として実施されている。そして、具体的には、情報関連人材育成事業は、情報処理システムの企画、設計、開発、運用、評価及び活用に必要な専門的知識及び技能の向上等を図るための事業とされている。
旧地域ソフト法及び新事業創出促進法の下では、独立行政法人雇用・能力開発機構(11年9月30日以前は雇用促進事業団)から、貴機構及びセンターに対しては15年度まで助成金が、人材育成事業又は情報関連人材育成事業に労働者を派遣した企業等に対しては14年度まで奨励金がそれぞれ支払われるなど、政府による各種の財政支援が行われていたが、それ以降、これらの財政支援は行われておらず、また、出資の根拠となる旧地域ソフト法が廃止されていることから貴機構からセンターへの新たな出資は行われていない。
複数のセンターにおいて多額の繰越欠損金が計上されていることなどから、センターの経営状況は、近年、貴機構の業務運営上の課題の一つとされてきている。このため、経済産業大臣が独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第29条に基づいて定めた貴機構の第1期から第3期までの中期目標においては、「地域ソフトウェアセンターの解散については、倒産以外であっても、事業の成果が見込めず、かつ、一定の基準に該当するものは、他の株主や関係者と協力し、当該中期目標期間内に整理をするものとする」などとされている。
そして、貴機構は、各期の中期目標に基づいて策定した各期の中期計画において、上記の基準について「主要株主である地方自治体・地元産業界からの直接的、間接的な支援が得られない場合」及び「経営改善を行っても、繰越欠損金が増加(3期連続を目安)又は増加する可能性が高い場合」としている。
各センターの設立から20年程度が経過し、前記のとおり、25年3月末までに貴機構が出資した20センターのうち既に7センターが解散している。
7センターの解散は、いずれも、地方自治体等の他の株主からの支援が得られなくなったことなどによるもので、貴機構が解散に向けた取組を積極的に進めたものではなく、このうち清算の終わっていない2センターを除く5センターについては、出資金を全額回収できたものはなく、1センターについては出資金の回収が全くできなかった。
このような状況を踏まえて、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、センターの事業運営及び経営は適切に行われているか、貴機構は、センターの事業の実施状況、経営状況等を把握して、指導、支援等を適切に行っているかなどに着眼して、貴機構本部及び13センターにおいて、事業の実施状況、経営状況等を確認するとともに、決算書、経理関係書類等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
情報関連人材育成事業は出資対象事業ではないものの、前記のとおり、人材育成事業とほぼ同趣旨の事業として実施されていて、出資目的におおむね沿う事業と考えられることから、人材育成事業及び情報関連人材育成事業(以下「人材育成事業等」という。)について、その実施状況をみると次のとおりとなっていた。
すなわち、13センターのうち、22年度から24年度までの間に、人材育成事業等に該当する研修の月平均の実施回数が2回未満となっていたのは、22年度8センター、23年度7センター、24年度7センターであり、これらのうち6センターでは3年連続して2回未満となっていた。そして、同研修の月平均の受講者数が20人未満となっていたのは、22年度6センター、23年度6センター、24年度7センターであり、これらのうち5センターでは3年連続して20人未満となっているなど、人材育成事業等に該当する研修の実施が低調となっているセンターが見受けられた。
実践・指導事業の22年度から24年度までの実施状況をみると、各年度とも、1センターを除き実施実績はなかった。また、13センターは、貴機構からの出資金等を充てて実践・指導事業を実施するための部屋等を整備しているが、これらの部屋等を、事務所等として、実践・指導を目的としない企業等に有償で貸し付けるなど、出資目的に沿った用途に使われていないものが見受けられた。
あっせん事業の22年度から24年度までの実施状況をみると、人材育成事業等の対象となった者に係る取引のあっせんは、各年度とも8センターにおいて実施実績がなく、また、実践・指導事業の対象となった者に係る取引のあっせんは、22、23両年度には13センター全てにおいて、24年度には上記の8センターを含む12センターにおいて実施実績がなかった。
13センターの24年度決算をみると、11センターにおいて繰越欠損金を計上するなどしていて、各センターの純資産に貴機構の持分割合を乗じた価額(以下「出資金価値」という。)が貴機構の当初の出資額である4億円を下回っていた。そして、当該11センターのうち6センターにおいては当期損失を計上している状況であり、このうち株式会社システムソリューションセンターとちぎ、株式会社石川県IT総合人材育成センター及び株式会社山口県ソフトウェアセンターの3センターにおいては、貴機構の各期の中期計画において解散を検討する基準の一つとされる、3期以上連続した繰越欠損金の増加が見受けられた(表参照)。
表 13センターの経営状況
センター名 | 税引後当期利益 (△当期損失) |
繰越利益剰余金等 (△繰越欠損金) |
出資金 価値 (24年度) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成 21年度 |
22年度 | 23年度 | 24年度 | 21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | ||
株式会社北海道ソフトウェア技術開発機構 | △16 | △17 | 2 | △13 | △323 | △341 | △338 | △352 | 251 |
株式会社ソフトアカデミーあおもり | 90 | 116 | 70 | 99 | 59 | 176 | 246 | 345 | 411 |
株式会社岩手ソフトウェアセンター | 11 | 7 | 5 | 5 | 30 | 38 | 44 | 49 | 415 |
株式会社仙台ソフトウェアセンター | 16 | △86 | 10 | 23 | 84 | △2 | 8 | 32 | 294 |
株式会社いばらきIT人材開発センター | 6 | 14 | 2 | △16 | △325 | △311 | △308 | △321 | 250 |
株式会社システムソリューションセンターとちぎ | △42 | △256 | △49 | △69 | 23 | △232 | △281 | △351 | 92 |
株式会社石川県IT総合人材育成センター | △0 | △6 | △14 | △6 | △36 | △43 | △57 | △63 | 366 |
株式会社浜名湖国際頭脳センター | 3 | 9 | 8 | 4 | △59 | △49 | △41 | △37 | 394 |
株式会社名古屋ソフトウェアセンター | 3 | 2 | △9 | 4 | △27 | △24 | △34 | △30 | 389 |
株式会社山口県ソフトウェアセンター | △5 | △7 | △10 | △17 | △194 | △201 | △212 | △229 | 287 |
株式会社福岡ソフトウェアセンター | 18 | 12 | 13 | 13 | △146 | △133 | △119 | △106 | 360 |
熊本ソフトウェア株式会社 | 1 | 1 | 1 | △45 | △303 | △301 | △299 | △345 | 259 |
株式会社宮崎県ソフトウェアセンター | 16 | 45 | 36 | 31 | △401 | △364 | △328 | △297 | 267 |
貴機構は、出資対象事業を実施させることを目的として、各センターへの出資を行っており、各センターの事業の実施状況を十分に把握して、事業運営に問題があればその原因を究明して適切に指導、支援等を行う必要がある。
また、長期にわたり繰越欠損金が増加しているなどのセンターについては、貴機構において経営状況を十分に把握し、経営改善に向けて可能な指導、助言等を十分に行った上で、なお回復が見込み難いときは、他の株主等との連携の下に解散等により出資金の保全に努めるなど適切な対応が求められる。
そこで、貴機構における、13センターの事業の実施状況及び経営状況の把握、これに基づく指導、支援等並びに経営不振が長期化しているセンターについての解散等に向けた取組の実施状況をみたところ、次のとおり十分とはいえない状況となっていた。
そして、各期の中期目標及び中期計画において、前記の基準等に該当するセンターについては、他の株主等との連携の下、解散を進めるなどとされているところであるが、貴機構が「主要株主である地方自治体・地元産業界からの直接的、間接的な支援が得られない場合」に該当するとは判断していないことなどにより、前記の3センターについては、3期から11期にわたり連続して繰越欠損金が増加しているのに、解散等の手続が進められていない。しかし、20年度以降に株主である地方自治体等が講じた当該3センターに対する支援のうち財政的な支援の内容をみると、その多くは従来の支援を継続的に実施するものとなっていた。このため、今後これらの支援が継続することのみによっては、経営が抜本的に改善されるとは認められない。
このように、貴機構は、長期にわたり繰越欠損金が増加しているセンターについて、地方自治体等が従来の支援を継続していれば、当該支援の継続のみによっては抜本的な改善が図られるとは認められない場合であっても、解散等に向けた協議等の取組を積極的に進めていなかった。この結果、これらのセンターにおいては繰越欠損金が年々増加して出資金価値が低下する状態が継続している。
以上のように、貴機構が、各センターに対する指導、支援等を十分に行っていなかったり、長期にわたり繰越欠損金が増加しているセンターについて、地方自治体等が支援を継続していれば当該支援のみによっては抜本的な改善が図られない場合であっても解散等に向けた協議等の取組を積極的に進めていなかったりしていて、13センターにおいて出資目的に沿った事業運営が十分に行われていなかったり、複数のセンターにおいて長期にわたり繰越欠損金が増加して出資金価値が低下する状態が継続していたりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構やセンター等に対する政府の財政支援の縮小等により事業環境が以前よりも厳しくなっていることなどにもよるが、貴機構において、次のことによると認められる。
貴機構において、各センターに対する事業運営及び経営の改善のための指導、支援等並びに出資金の保全のための取組を適切に行うよう、次のとおり意見を表示する。