独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(平成14年法律第94号)に基づき、石油及び可燃性天然ガス資源、石炭資源、地熱資源並びに金属鉱物資源の開発を促進するために必要な業務を行っており、その一環として、産油国政府等から地質データ等の各種の技術資料を受領している。
機構は、従来、上記の技術資料を紙媒体及びフィルム媒体で管理しているが、経年による劣化が進んでいることなどから、これらを電子化して保存するなどのため、スキャニング、デジタルトレース等の業務(以下「スキャニング等の業務」という。)を実施することにした。そして、機構は、平成20年度から24年度までの間に、スキャニング等の業務に係る役務単価契約(以下「スキャニング契約」という。)を恒久プリント株式会社(以下「恒久プリント」という。)と締結しており、機構が恒久プリントに対して支払った額は、20年度3832万余円、21年度2793万余円、22年度3080万余円、23年度6659万余円、24年度5481万余円、計2億1846万余円となっている。
機構は、スキャニング契約に当たり、カラー又は白黒の別、解像度、用紙の大きさなどにより区分されるスキャニング等の規格(20年度は55規格、21年度は21規格、22、23、24各年度はそれぞれ24規格。以下「規格」という。)ごとの単価に年間予定数量(以下「予定数量」という。)を乗じた額の合計額を予定価格とし、総合評価落札方式による一般競争入札により契約の相手方を選定している。選定に当たっては、予定数量に対して、応札者が規格ごとに単価を提示し、その単価に各予定数量を乗じた価格の合計額から算出した価格点と技術点を合計した総合点で評価し、最も高い点の者を落札者と決定し、その者が提示した各単価を規格ごとの契約単価としている。そして、機構は、契約単価に実績数量を乗じた額を支払っている。また、入札に当たり想定していなかった規格に係るスキャニング等の業務が必要になった場合には、その都度、落札者と協議して単価を決定し、これに実績数量を乗じた額を支払っている。
本院は、合規性、経済性等の観点から、予定数量の算定及び予定価格の積算は適切に行われているか、入札における公平性は確保されているかなどに着眼して、20年度から24年度までの間のスキャニング契約を対象として、スキャニング等の業務を実施している石油開発技術センターにおいて、規格ごとの予定数量、契約単価、実績数量等の関係資料を精査するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構が恒久プリントに支払っている額のうち、入札時に予定数量を算定していたスキャニング等の規格に係る支払額は、20年度2443万余円、21年度2772万余円、22年度3074万余円、23年度6659万余円、24年度4851万余円、計1億9800万余円となっていた。
上記規格のうち、20、22両年度にあっては上記支払額の全額、また、21、23、24各年度にあっては上記支払額の96%以上を占めている3規格に係る各年度の予定数量と実績数量についてみたところ、表のとおり、実績数量は、予定数量の9.8倍から207.2倍に達しており、機構が算定した予定数量は実績数量を大幅に下回っていた。
表 3規格に係る各年度の予定数量と実績数量
年度 | 規格 | 予定数量(A)(枚) | 実績数量(B)(枚) | B/A(倍) |
---|---|---|---|---|
平成20 | A1 | 30 | 1,936 | 64.5 |
A0 | 30 | 2,889 | 96.3 | |
2A0 | 20 | 646 | 32.3 | |
21 | A1 | 30 | 1,861 | 62.0 |
A0 | 20 | 2,419 | 120.9 | |
2A0 | 20 | 3,529 | 176.4 | |
22 | A1 | 30 | 2,211 | 73.7 |
A0 | 20 | 2,318 | 115.9 | |
2A0 | 20 | 4,144 | 207.2 | |
23 | A1 | 2,200 | 31,345 | 14.2 |
A0 | 1,700 | 35,782 | 21.0 | |
2A0 | 3,600 | 35,403 | 9.8 | |
24 | A1 | 5,000 | 137,264 | 27.4 |
A0 | 10,000 | 149,514 | 14.9 | |
2A0 | 10,000 | 155,450 | 15.5 |
また、機構は、管理している技術資料についてどの程度の量を各年度にスキャニングするかなどに関する計画(以下「計画」という。)を策定していなかった。
そこで、予定数量の算定方法について確認したところ、機構は、膨大な量の技術資料が専用ケース等で保管されており、同資料は形状がロール状のものなど一定ではないことから、規格ごとの予定数量を正確に算定することは困難であるとして、20、21両年度は、過去の実績数量の平均(20年度は、16年度から18年度までの3か年、21年度は、17年度から19年度までの3か年)をもって、22年度は、21年度と同一の予定数量をもって、また、23、24両年度は、過去の実績数量等から判断して予定数量を算定していた。
しかし、機構が、計画を策定した上で各年度に実施するスキャニング等の対象となる資料を特定すれば、機構において、複数の業者に規格ごとの数量について算出させることができ、これらを参考にするなどして適切な予定数量を算定することは可能であると認められた。
また、機構は、予定価格の積算に当たっては、前記の予定数量を基に設定された単価を用いて予定価格を積算している。そして、スキャニング等の業務のように同一の作業を多数実施させることを内容とする契約においては、予定数量の多寡が入札の重要な要件として契約単価や予定価格の積算の基となる単価に影響を与え、予定数量が少なければ単価が高くなり、予定数量が多ければ単価が安くなる傾向にある。さらに、機構は、スキャニング契約に係る一般競争入札の実施に当たり、入札説明会等で予定数量を明らかにした上で、これを前提として応札者が提示した規格ごとの単価に各予定数量を乗じた価格の合計額から算出した価格点等を基に評価を行うこととしており、予定数量を一般競争入札における重要な要件としている。
しかし、前記のとおり、予定数量は実績数量を大幅に下回っており、機構が算定した予定数量は適切ではないことから、これを基に設定された単価を用いて積算された予定価格が適切なものとなっていなかったり、数量の増加により単価が低減するという規模の利益を機構が享受できない状況になっていたりしていると認められた。また、機構が算定した予定数量は適切ではないため、スキャニング契約に係る一般競争入札において機構が重要な要件としている予定数量の開示は適切に行われていないと認められた。このため、スキャニング契約を始めて2年目となる21年度以降は、各年度の入札に参加しようとする者の中で、既往年度の契約の受注者は過去の実績数量を把握しているので、それを踏まえた単価を提示できるのに対して、それ以外の者は適切ではない予定数量を前提とした単価を提示することになり、入札における公平性が実質的に確保されていない状況になっていると認められた。
このように、本件スキャニング契約のうち、機構が入札時に予定数量を算定していたスキャニング等の規格(当該規格に係る支払額計1億9800万余円)について、予定数量が適切に算定されていないため、これを基に積算された予定価格が適切なものとなっていなかったり、数量の増加により単価が低減するという規模の利益を享受できない状況になっていたり、入札における公平性が実質的に確保されていない状況になっていたりしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
(発生原因)このような事態が生じていたのは、機構において、単価契約における入札の実施に当たり、予定数量を適切に算定して、数量の増加により単価が低減するという規模の利益を享受すること及び公平性を確保することの重要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、25年8月に、今後3か年間のスキャニング実施計画を担当部局において策定した上で各年度に実施するスキャニング等の対象となる資料を特定し、複数の業者に規格ごとの数量を算出させ、これらを参考にするなどして予定数量を適切に算定することにより、予定価格を適切に積算するとともに、入札における公平性を確保し、併せて規模の利益を享受できるようにする処置を講じた。