(平成25年10月31日付け 独立行政法人国立高等専門学校機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴機構は、独立行政法人国立高等専門学校機構法(平成15年法律第113号)に基づき、全国に51校の国立高等専門学校(平成24年度末現在。以下「高専」という。)を設置することなどにより、職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を有する創造的な人材を育成するとともに、我が国の高等教育の水準の向上と均衡ある発展を図ることを目的として、16年4月に設立され、高専の設置運営や教育研究活動等の業務を行っている。
高専は、国から貴機構に対して交付される運営費交付金及び国庫補助金、授業料収入等を財源として、教育研究に使用する実験装置、消耗品等の物品を購入している。そして、その購入に当たっては、独立行政法人国立高等専門学校機構会計規則(平成16年独立行政法人国立高等専門学校機構規則第34号。以下「会計規則」という。)等に基づき、各高専が、契約の相手方や購入価格等を決定し、契約した物品が納入された際には、給付の完了を確認するために必要な検査(以下「検収」という。)を行うこととされている。
そして、本部は、会計規則等に基づき、貴機構全体の会計事務を行うこととされており、高専における物品の購入等に係る経費の支払を一元的に行っている。
また、高専に所属する研究者に対して文部科学省等から交付される科学研究費補助金については、独立行政法人国立高等専門学校機構科学研究費取扱要領(平成20年独立行政法人国立高等専門学校機構理事長裁定)に基づき、研究者が所属する高専が当該研究者に代わり同補助金の予算の管理を行うこととされており、物品の購入等に係る会計事務は会計規則等に基づき、前記の運営費交付金等を財源とする物品の購入と同様に取り扱うこととされている。
貴機構の事業年度は、会計規則によると、毎年4月1日から翌年3月31日までとされており、原則として、資産、負債及び資本の増減並びに収益及び費用は、その原因となる事実の発生した日の属する年度により所属する年度を区分することとされている。
貴機構は、東京工業高等専門学校(以下「東京高専」という。)において、研究者が取引業者に架空取引を指示し、物品の購入代金を当該取引業者に管理させるなどのいわゆる預け金と呼ばれる不適正な会計経理が行われていた疑いがあるとする外部からの通報等を受けて、23年9月に調査委員会を設置して東京高専の会計経理について内部調査を行い、24年2月に研究費等計554万余円が不適正な会計経理により支払われていたとする事態(以下、この事態を「東京高専の不適正経理」という。)を公表した。
また、貴機構は、文部科学省から預け金等の不適正な会計経理の有無について調査及び報告を求められていたが、これに対して、東京高専の不適正経理のほかには不適正な会計経理の事態はなかったと報告していた。
そして、貴機構は、東京高専の不適正経理を踏まえて、24年3月に各高専の校長宛てに「公的研究費等に関する不正使用の再発防止策の徹底について」を発して、次のとおり、納品検収体制の充実、監査体制の強化等を内容とした再発防止策(以下「再発防止策」という。)を行うこととした。
貴機構が所有する動産のうち供用のために保管する物品は、独立行政法人国立高等専門学校機構物品管理規則(平成16年独立行政法人国立高等専門学校機構規則第39号。以下「管理規則」という。)に基づき管理することとされている。
貴機構における物品の分類は、管理規則によると、機械・装置等で取得価格が50万円以上かつ耐用年数1年以上の物品は固定資産、取得価格が10万円以上50万円未満かつ耐用年数1年以上の物品は備品とするなどとされている。
そして、高専には、物品の管理及び物品の出納や保管に関する事務をつかさどる者として、物品管理役及び物品出納役が置かれている。また、物品の供用に関する事務をつかさどる者として物品供用役を置くことができるとされている。
そして、供用された物品のうち、修繕等をしても使用することができない又は使用する必要がない物品がある場合の返納、不用の決定等の手続は、管理規則によると、次のとおりとなっている。
また、高専の校長は、管理規則に基づき、理事長から委任を受けて、毎事業年度5月末日現在の物品の管理の実態について、検査員を指名して検査することとなっている(以下、この検査を「物品検査」という。)。
本院は、東京高専の不適正経理を踏まえて、合規性等の観点から、物品の購入等に係る検収、支払等の経理処理が会計規則等に基づき適正に行われているか、再発防止策への取組は確実に実施されているか、物品の管理が管理規則に基づき適正に行われているかに着眼して、函館工業高等専門学校等18高専(注2)(以下「18高専」という。)において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、19年度から23年度までの間に18高専が締結した物品の購入等に係る契約を対象として、支払決議書等の書類により確認するとともに、本部において、高専の不適正な会計経理に対する再発防止策への取組状況について、資料の提出を受けるなどの方法により検査した。そして、検査の過程において不適正な会計経理の事態が判明した場合には、可能な範囲において過去の年度まで遡って検査した。また、18高専における24年度までの物品の管理の状況について、物品の不用決定に関する書類等を確認するなどの方法により会計実地検査を行ったほか、会計実地検査を行った18高専以外の33高専に対しても、本部を通じて、関係書類の提出を求めるなどして検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、貴機構は、東京高専の不適正経理のほかには預け金等の事態はなかったとしていた。しかし、本院が18高専における物品の購入等に係る経理について検査したところ、表のとおり、18高専全てにおいて、18年度から23年度までの間に、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って、物品の購入代金等を支払っていたものが、運営費交付金等を財源とする支払額151,482,936円、国庫補助金等を財源とする支払額17,920,808円、計169,403,744円あった。
表 不適正な会計経理により支払われた物品の購入等代金の内訳
高専名、財源の内訳 | 年度 | 預け金 | 差替え | 翌年度納入 | 前年度納入 | 計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
函館工業高等専門学校 | 平成 19〜23 |
— | — | 16,836,208 | — | 16,836,208 | ||
苫小牧工業高等専門学校 | 19〜21 | — | — | 1,375,149 | — | 1,375,149 | ||
秋田工業高等専門学校 | 19〜23 | — | 1,071,895 | 9,819,295 | 341,457 | 11,232,647 | ||
茨城工業高等専門学校 | 19、20、22 | — | — | 868,817 | — | 868,817 | ||
小山工業高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 3,265,317 | 1,461,290 | 4,726,607 | ||
東京工業高等専門学校 | 18〜22 | 2,885,704 | 475,616 | 34,732,520 | 2,581,673 | 40,675,513 | ||
富山高等専門学校 | 19〜21 | — | — | 9,129,331 | 278,098 | 9,407,429 | ||
石川工業高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 3,955,346 | 1,496,557 | 5,451,903 | ||
福井工業高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 27,427,184 | 6,072,037 | 33,499,221 | ||
岐阜工業高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 3,153,234 | 1,230,040 | 4,383,274 | ||
豊田工業高等専門学校 | 19、21、22 | — | — | 77,882 | 224,810 | 302,692 | ||
鈴鹿工業高等専門学校 | 20、21、23 | — | — | 5,308,233 | 2,788,128 | 8,096,361 | ||
奈良工業高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 618,749 | 1,451,644 | 2,070,393 | ||
津山工業高等専門学校 | 19〜22 | — | — | 2,431,650 | 218,715 | 2,650,365 | ||
呉工業高等専門学校 | 19 | — | — | 311,955 | — | 311,955 | ||
新居浜工業高等専門学校 | 19〜22 | — | — | 8,929,070 | 218,404 | 9,147,474 | ||
佐世保工業高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 2,606,322 | 321,300 | 2,927,622 | ||
熊本高等専門学校 | 19〜23 | — | — | 14,124,946 | 1,315,168 | 15,440,114 | ||
18高専計 | 18〜23 | 2,885,704 | 1,547,511 | 144,971,208 | 19,999,321 | 169,403,744 | ||
運営費交付金等 | 18〜23 | 1,959,990 | 1,454,018 | 128,537,861 | 19,531,067 | 151,482,936 | ||
国庫補助金 | 18〜23 | 925,714 | 93,493 | 16,433,347 | 468,254 | 17,920,808 | ||
貴機構に交付された国庫補助金 | 19〜23 | — | — | 16,042,917 | 468,254 | 16,511,171 | ||
高専に所属する研究者に交付された科学研究費補助金 | 18〜23 | 925,714 | 93,493 | 390,430 | — | 1,409,637 |
一方、貴機構は、前記のとおり、東京高専の不適正経理を受けて、24年3月に再発防止策を策定して、これを各高専の校長宛てに通知している。
そこで、会計実地検査を行った18高専を含む全51高専における24年度の再発防止策への取組状況について、本部から資料の提出を受けるなどして確認したところ、次のとおり、高専における取組が十分ではない事態が見受けられた。
51高専における24年度までの物品の管理の状況について検査したところ、次のような事態が見受けられた。すなわち、30高専(注3)において、使用する必要がなくなった備品計14,652個(取得価格計693,800,776円)について、物品使用職員等が管理規則に基づく返納の報告等の手続を経ることなく無断で処分するなどしていた。
上記の備品は、備品の現有確認調査(注4)の際に、その所在が不明となっていたことなどを契機として、既に処分されていたことが判明したものであるが、30高専は、これらについて、使用年数の経過、能力の低下、陳腐化等を理由とした不用の決定を事後的に行うとともに、これを廃棄したこととして物品管理台帳から除却するなどしていたものである。
また、高専の校長は、前記のとおり、毎事業年度物品検査を行うこととなっているが、上記の30高専の22年度から24年度までの間における物品検査の実施状況について検査したところ、上記の備品の現有確認調査の実施を指示した23年12月までに、8高専は物品検査を全く行っておらず、20高専は保有する物品の一部に対する物品検査しか行っていなかった。そして、24年度においても、7高専は全く物品検査を行っておらず、13高専は保有する物品の一部に対する物品検査しか行っていなかった。
多くの高専において不適正な会計経理が行われているにもかかわらず、各高専における再発防止策への取組が十分に行われていない事態及び物品が物品使用職員等において必要な手続を経ることなく無断で処分されているなど物品の管理が適正に行われていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
高専において、不適正な会計経理の再発防止策への取組が十分に行われていなかったり、物品の管理が適正に行われていなかったりしている事態は、貴機構の公金の使用に対する国民の信頼を著しく損なうことになる。
ついては、貴機構において、高専における不適正な会計経理の再発防止策への取組が確実に実施され、また、物品の管理が適正に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。