独立行政法人都市再生機構(以下「機構」という。)の東日本賃貸住宅本部(平成23年6月30日以前は、東日本支社。以下「本部」という。)は、多摩ニュータウン永山団地等の建設により周辺地域に生じているテレビ電波の受信障害を防除するための対策(以下「電障対策」という。)を実施している。本部は、地上アナログ放送に係る電障対策の実施に当たっては、受信障害が生じている周辺地域に所在する建物等に、共同受信アンテナ、落雷からテレビ受信機等を保護するための保安器等の施設(以下「共聴施設」という。)を自ら設置することにより行ってきたが、23年7月にテレビ電波が地上デジタル放送へ移行することに伴い、地上デジタル放送に係る電障対策を実施するに当たっては、ケーブルテレビを利用する方法に切り替えて、電障対策の業務をケーブルテレビ事業者に移管することとした。そして、当該地域のケーブルテレビ事業者である株式会社多摩テレビ(以下「会社」という。)と同年1月に電障対策業務の移管に係る随意契約を締結した。
契約書によると、移管する電障対策業務は、アナログ対策者(注1)と地デジ対策者(注2)とに区分して実施することとしている。そして、会社は、アナログ対策者に対して、地上アナログ放送が終了する日まで地上アナログ放送を無償で視聴できるようにするとともに、地デジ対策者に対して、将来の放送形態の変更等によりテレビ電波受信障害が解消するなどする時まで地上デジタル放送を無償で視聴できるようにすることとしている。
また、契約書によると、電障対策業務として次のような工事等を地上アナログ放送終了前の23年4月までに完了させることとしている。
契約書によると、上記の工事等の実施に当たり、会社は、対策者に対して工事等の内容について周知して、その同意を書面(以下「同意書」という。)にて得た後に工事等を施工することとしている。また、会社は、同意書及び工事等の完了後に対策者が署名するなどした工事完了確認書を本部に提出して、本部の検査役が独立行政法人都市再生機構会計規程(平成16年7月1日規程第4号)等の規定に基づいて自ら又は補助者に命じて完了検査を行って契約の履行を確認した後に、支払を請求することとしている。
そして、本部は、アナログ対策者が居住する建物192棟、地デジ対策者が居住する建物243棟、計435棟に係る工事等について完了検査を行い、契約の履行を確認したとして、会社に対して117,460,350円を支払っている。
本院は、合規性、経済性等の観点から、契約の履行の確認が適切に行われているか、支払額は適切なものとなっているかなどに着眼して、本部において、本件契約を対象に、契約書、工事完了確認書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、アナログ対策者が居住する建物192棟のうち155棟については、アナログ対策者が既に会社と契約していたり、アナログ対策者が自ら地上デジタル放送を受信できるUHFアンテナを設置していたりなどしていて、地上デジタル放送を支障なく視聴できる状況となっていた。そして、上記の155棟に居住するアナログ対策者は、会社に対して、共聴施設を利用したテレビ視聴の権利が消滅することについては了承して同意書を提出していて、会社が新たに保安器の設置、引込線の設置、切替え及び受信画像の調整を行うことについては辞退していた。このため、会社は、上記の155棟については、既存の共聴施設の撤去は行っているものの、新たな保安器の設置等は行っておらず、本部に対して工事完了確認書も提出していなかった。
しかし、本部は、同意書、工事完了確認書等により個々の建物についての工事等の履行状況を確認することなく、地上アナログ放送終了後の23年9月に、本件契約の建物に係る工事等が契約どおり実施されたとして完了検査を行っていた。その結果、本部は、実施されていない保安器の設置等に係る費用を支払金額から減額することについて会社と何ら協議しないまま、会社からの請求の全額を支払っていた。
したがって、上記の支払は、工事等の一部が実施されていないのに、その履行状況を確認することなく、会社と支払金額の減額について何ら協議しないまま行われたものであり、前記の支払額のうち155棟の保安器の設置等に係る費用17,561,250円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、本部において、本件契約の履行状況の確認が十分でなく、実際に履行された工事等の実態に見合う費用を支払うことについての認識が欠けていたこと、機構本社において、電障対策業務の移管を適正かつ経済的に実施することについての指導が十分でなかったことなどによると認められる。