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  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 第41 独立行政法人都市再生機構 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

特別借受賃貸住宅制度について、効果的な空家解消対策等を検討したり、借受期間を更新する際に住宅所有者と減額協議を行ったりして収支の改善に努めるとともに、割賦金の返済を免除する際の適用要件を見直すなどすることにより、制度の運営が適切に行われるよう意見を表示したもの


科目
(都市再生勘定)
流動資産
割賦等譲渡債権
賃貸住宅業務費
管理業務費
賃貸住宅業務収入
家賃収入
雑損
部局等
独立行政法人都市再生機構本社、東日本賃貸住宅本部(平成23年6月30日以前は東日本支社)、6支社
特別借受賃貸住宅制度の概要
土地所有者の土地に住宅を建設し、当該住宅を土地所有者に割賦により譲渡した上で、これを一定期間賃貸住宅として借り受けることにより良質で低廉な賃貸住宅の供給を行うもの
特別借受賃貸住宅として運営している団地数
83団地(平成24年度末現在)
上記のうち赤字が生じている団地数
82団地
上記の82団地に生じている赤字額
30億7367万円(平成24年度)
住宅所有者に返還した特別借受賃貸住宅の団地数
43団地(平成24年度末現在)
上記のうち返還時に割賦金の返済を免除した団地数
3団地
上記の3団地に係る割賦金の返済免除額
4億1200万円(平成20、22両年度)
【意見を表示したものの全文】 特別借受賃貸住宅の運営について

(平成25年10月31日付け 独立行政法人都市再生機構理事長宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要等

(1) 特別借受賃貸住宅制度の概要

貴機構は、独立行政法人都市再生機構法(平成15年法律第100号)に基づき、良質で低廉な賃貸住宅の供給を行うことなどを目的として住宅・都市整備公団(以下「住都公団」という。)が昭和63年12月から平成11年10月までの間に特別借受賃貸住宅制度(以下「借受制度」という。)により借り受けた住宅(当該期間に借受けが決定していた住宅を含む。以下「借受住宅」という。)の運営を、貴機構が設立された16年7月に承継して実施している。

借受制度は、昭和63年2月に創設されたもので、当時は大都市圏を中心に賃貸住宅用地が不足していたため、住宅を賃貸する事業を行おうとする土地所有者の土地に住都公団が住宅を建設し、当該住宅を土地所有者に割賦により譲渡した上で、これを住都公団が一定期間賃貸住宅として借り受けているものである。

住都公団が定めた「特別借受賃貸住宅制度要綱」(昭和63年2月総裁通達61—29、63—45)によれば、住都公団は、建設計画等を決定し、住宅の譲渡の承認をしたときは、土地所有者と住宅譲渡・賃貸借契約(以下「譲渡等契約」という。)を締結するとしている。また、譲渡等契約に基づき住宅を建設し、かつ、住宅の譲渡の対価を決定したときは、土地所有者と譲渡代金等確定契約(以下「確定契約」という。)を締結するとしている。譲渡等契約、確定契約等によれば、借受住宅の所有権は、確定契約の締結と同時に住都公団から土地所有者に移転することとされ(以下、住宅の所有権の移転を受けた土地所有者を「住宅所有者」という。)、借受期間等については次のとおり定められている。

ア 借受期間

確定契約の締結の日から20年とする。また、借受期間満了の日の3年前までに、住都公団又は住宅所有者からの申出により、住都公団及び住宅所有者は協議の上、更に5年、10年、15年のいずれかの期間について1回に限り借受期間を更新することができる。

イ 割賦金

住宅所有者は、住都公団に対して、借受住宅の建設に要した費用等を原則として35年の割賦により支払う。また、割賦金の支払期間の中途で住都公団の定める方法により割賦金の支払残額の全部又は一部を繰上返済することができる。

ウ 借受料

住都公団は、借受住宅の賃料(以下「借受料」という。)を、住宅所有者に20年間支払う。借受料は、近傍の地代を参考として算定される住宅所有者が得る収入の額(以下「住宅所有者収入」という。)、住宅所有者が貴機構に支払う割賦金返済相当額及び住宅所有者が市町村等に納付する固定資産税相当額を合計した額とされている。また、住都公団は、地価、物価、住宅需要その他の経済事情の変動があった場合には、住宅所有者との間で借受料の減額についての協議(以下「減額協議」という。)を行うことができる。

(2) 借受住宅の収支

貴機構は、借受住宅の居住者からの家賃収入により、借受料、修繕費、事務費等の支出(以下「借受料等支出」という。)を賄うこととなる。このうち、借受料は、上記のとおり住宅所有者収入等によって定まるが、これらは借受住宅の入居状況には左右されないものとなっている。そして、借受制度は、創設当時の状況を反映して、空家の発生を考慮せず、また、将来の家賃収入が段階的に上昇していくことを前提として制度設計が行われていたことから、近年のように市場の家賃がおおむね低下傾向となっている状況の下では、借受住宅の収支は悪化することとなる。

(3) 借受住宅の返還

住都公団は、平成3年頃から借受住宅の収支が悪化したため、譲渡等契約に基づき、一部の住宅所有者と8年度に減額協議を行ったが、住宅所有者との協議が難航したことから、法的な検討も行った結果、借受料の減額を断念するに至っている。そして、貴機構は、この住都公団の考え方を16年度以降も踏襲して減額協議を行っていない。

その後、貴機構は、「独立行政法人整理合理化計画」(平成19年12月閣議決定)を受けて、賃貸住宅を国民共有の貴重な財産として再生し、再編するために「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」(平成19年12月)を策定して、借受住宅については、借受期間の満了をもって住宅所有者に返還することを基本方針とした。これは、家賃収入のみでは借受料も賄えない借受住宅が見受けられる中で、全ての借受住宅について借受期間を最大15年間更新すると、赤字額が多額に上ることが想定されたことなどから、借受住宅の収支改善に向けた取組として、当初の20年間の借受期間の満了をもって返還することとしたものである。

(4) 借受住宅の返還に係る特例措置

貴機構は、「特別借受賃貸住宅を返還する場合の取扱要領」(平成20年4月理事長通達807—9。以下「取扱要領」という。)等を定めて、住宅所有者との協議や返還に係る業務等を処理することとしている。

そして、取扱要領等によれば、借受住宅の返還に当たっては、返還後の住宅所有者による賃貸住宅の経営が困難と認められる場合には、住宅所有者からの申出に基づき、次のとおり、特例的な救済措置を適用することができるとされている。

ア 借受期間の更新

割賦金の残債がない住宅所有者については、借受期間満了の日の翌日から借受期間を5年間更新することができる。

イ 割賦金の返済の免除

割賦金の残債がある住宅所有者については、返済免除後の割賦金について全額繰上返済すること、かつ、借受期間の満了をもって借受契約を終了することを条件として、割賦金の返済を一部免除することができる。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

借受制度は、制度発足から25年以上が経過しており、近年、市場の家賃はおおむね低下傾向となっているなど、借受制度を取り巻く環境は大きく変化している。

そこで、本院は、経済性、効率性等の観点から、借受住宅の収支改善に向けた効果的な対策は実施されているか、借受期間の更新や割賦金の返済免除は適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、24年度末現在、貴機構の東日本賃貸住宅本部(23年6月30日以前は東日本支社)及び6支社(注)(以下「支社等」という。)が借受住宅として運営している83団地(管理戸数計5,291戸)及び借受制度の発足以来24年度末までの間に住宅所有者に返還した43団地(同1,151戸)の計126団地(同6,442戸)を対象として、貴機構の本社及び支社等において、団地別整備方針書、契約関係書類等により、また、現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
6支社  千葉地域、神奈川地域、埼玉地域、中部、西日本、九州各支社

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 借受住宅の収支等

前記の借受住宅として運営している83団地の24年度の収支をみると、家賃収入は計62億8860万余円、借受料等支出は計93億5841万余円となっている。そして、1団地を除いた82団地の全てで赤字が生じていて、その赤字額は計30億7367万余円に上っており、その状況は、20年度以降の5か年度においてほぼ同様となっていた。

そこで、借受住宅の赤字額について、上記の82団地の収支が借受期間が全て満了する32年度まで24年度の収支と同様の状況で推移すると仮定して、各団地の24年度の赤字額に、各団地の残りの借受期間を乗ずるなどして推計すると、今後生ずるおそれのある赤字額は計99億6688万余円となる。

このように、借受住宅の収支に多額の赤字が生じているのは、近年、市場の家賃がおおむね低下傾向となっており、当初想定していた家賃収入を貴機構が得られなくなったことにもよるが、82団地における24年度末の空家率(空家戸数を管理戸数で除して得た率。以下同じ。)が最大で51.6%、平均で19.1%となっていて、貴機構全体における24年度末の賃貸住宅の空家率の平均5.5%よりも高い団地が72団地あるなど、借受住宅に空家が多いことによると認められる。

しかし、貴機構は、借受住宅の入居者募集に当たり、空家率の高い団地についても空家率の低い他の団地と同様の方法で入居者を募集するなど、空家率に対応した取組を行っていないと認められる。また、借受住宅の中には、建設してから相当の年月が経過していて、部屋の間取りを変更するなどすれば空家の解消につながる場合もあるのに、借受住宅の所有権が住宅所有者にあることから、住宅の改良には原則として住宅所有者に費用負担が生ずることもあって、間取りなどを変更することについて住宅所有者とこれまで十分な協議を行っていないと認められる。

したがって、貴機構は、これらの状況を改善して、空家を解消するための方策を講ずるなど借受住宅の赤字の解消に向けた取組を行う必要があると認められる。

(2) 借受期間の更新

前記の借受住宅として運営している83団地のうち、これまでに借受期間を更新した16団地についてみると、住宅所有者による返還後の賃貸住宅の経営が困難であること、住宅所有者から前記の基本方針について理解が得られなかったことなどから、借受料を据え置いたまま借受期間を5年間更新していた。そして、借受期間を更新したことにより、貴機構の借受住宅の収支は、24年度に3億5453万余円(前記(1)の30億7367万余円の一部)の赤字が生じ、25年度から32年度までの間に計20億7802万余円(前記(1)の99億6688万余円の一部)の赤字が生ずるおそれのある状況となっていた。一方、上記16団地の住宅所有者は、24年度に計1億6243万余円の住宅所有者収入を得ており、25年度から32年度までの間に計8億0336万余円の住宅所有者収入を得ることが想定されている。

しかし、借受期間を更新する際の借受料については、更新前の譲渡等契約及び確定契約に定められておらず、更新時に貴機構と住宅所有者が減額協議を行って借受料を改定することが可能であるのに、貴機構は、これまで減額協議を全く行っていなかった。

したがって、貴機構は、今後、借受期間を更新する際には、当該団地の収支状況を勘案した上で住宅所有者と減額協議を行う必要があると認められる。

(3) 割賦金の返済免除

前記の住宅所有者に返還した43団地のうち、東日本賃貸住宅本部及び中部支社が運営していた3団地については、返還後の賃貸住宅の経営が困難と認められたことから、割賦金残高計7億4366万余円のうち、計4億1200万余円の返済を免除した上で借受住宅を返還していた。

しかし、東日本賃貸住宅本部及び中部支社は、割賦金の残債がある住宅所有者に対しては、割賦金を繰上返済した方が資金管理等の点で住宅所有者に有利であることなどについてあらかじめ助言をすることにより賃貸住宅の経営が困難になることが回避できた可能性があるのに、このような助言を適時適切に行っていなかった。また、3団地に係る割賦金が上記のとおり免除されていたのは、分譲住宅等の他の事業であれば法的措置が講じられた後に割賦金の回収が明らかに不可能になった場合に限って免除することとしている一方で、借受住宅については割賦金の返済を免除する際の適用要件を緩やかにしているためであると認められた。

したがって、今後、借受住宅については、住宅所有者への多数の返還が見込まれることから、割賦金の残債がある住宅所有者に対しては、あらかじめ割賦金を繰上返済するよう助言したり、割賦金の返済を免除する際の適用要件を見直したりすることなどにより、割賦金の回収を適切に行う必要があると認められる。

(改善を必要とする事態)

上記のとおり、空家の解消のために効果的な対策等を講じていなかったり、借受期間を更新する際に住宅所有者と減額協議を行っていなかったりしていることなどにより赤字が多額に上っている事態や、借受住宅の返還後の賃貸住宅の経営のために適時適切に助言していなかったり、割賦金の返済を免除する際の適用要件が緩やかになっていたりしていることにより割賦金の回収が適切に行われていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。

  • ア 借受期間の満了をもって借受住宅を住宅所有者に返還することを基本方針としたものの、借受住宅の収支の改善に向けた対策を更に講ずる必要性についての認識が欠けていたこと
  • イ 基本方針に基づいて借受住宅を返還することに重点を置いたため、住宅所有者による返還後の賃貸住宅の円滑な経営に資する助言を十分に行っておらず、また、割賦金の返済を免除する際の適用要件についての検討が十分でないこと

3 本院が表示する意見

借受制度は、これまで、良質で低廉な賃貸住宅の供給を行うなどの制度創設当初の目的を一定程度果たしてきている面もあるが、空家の発生を考慮せず、また、将来の家賃収入が段階的に上昇していくことを前提に制度設計されており、近年のように市場の家賃がおおむね低下傾向となっている状況に適合しないものとなっている。また、確定契約等の性質上、借受期間の満了前は住宅所有者と減額協議を行うことが困難であるなど、制度の見直しには制約が存在している。しかし、借受住宅の収支に多額の赤字が生じていて、現状のまま推移すると、今後、毎年度多額の赤字が生ずるおそれがある状況となっている。

ついては、貴機構において、借受制度の運営が適切に行われるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 個々の団地の状況等を踏まえた上で、効果的な空家解消対策等を検討したり、借受期間の更新時に住宅所有者と減額協議を行ったりして収支の改善に努めること
  • イ 借受住宅の返還後の住宅所有者による賃貸住宅の円滑な経営に資するよう住宅所有者に適時適切に助言したり、割賦金の返済を免除する際の適用要件を見直したりして、割賦金の回収を適切に行うこと