(平成25 年10 月31 日付け独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
国は、健康保険法(大正11年法律第70号)、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)等に基づき、被保険者から徴収した社会保険料を財源として病院(病院に併設された看護専門学校等の施設を含む。以下「社会保険病院等」という。)を設置してきた。そして、国は、一連の社会保険庁改革に伴い、これらのうち社会保険病院及び厚生年金病院を平成20年10月に、船員保険病院を24年4月に、それぞれ貴機構に現物出資している。
社会保険病院等の運営は、従来、国が設置した施設を民間等に無償で使用させて、その運営を行わせる、いわゆる「公設民営」方式により行われており、貴機構は、24年度末時点において、48病院は社団法人全国社会保険協会連合会(以下「全社連」という。)に、7病院は一般財団法人厚生年金事業振興団(以下「厚生団」という。)に、3病院は一般財団法人船員保険会(以下「船保会」という。)に委託している(以下、貴機構が運営を委託している3法人を合わせて「運営委託法人」という。また、貴機構が全社連に委託している病院を「全社連病院」、厚生団に委託している病院を「厚生団病院」、船保会に委託している病院を「船保会病院」という。)。
社会保険病院等の運営について、厚生労働大臣が20年10月の出資に合わせて変更し、貴機構に指示した中期目標においては、社会保険病院等が引き続き地域医療に貢献できるよう、病院の経営状況や資産状況の把握等を通じて、適切な運営を行うこととされており、また、貴機構が運営委託法人と締結した経営委託契約において、運営委託法人は、①病院の業務が円滑かつ健全に行われるよう常に指導監督を行い、必要な指示を与えること、②契約に定めるもののほか、貴機構の指示する方針に従い、病院を経営することなどとされている。
貴機構は、独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の一部を改正する法律(平成23年法律第73号)等により、26年4月に、社会保険病院等の運営を目的とする独立行政法人地域医療機能推進機構(以下「新機構」という。)に改組されることとなっており、その際に、運営委託法人との経営委託契約を解除して、運営委託法人が病院の運営のために設けた特別会計を清算させて、残余の資産を貴機構に納付させることとなっている。
そして、貴機構は、改組に向けて、24年9月から25年7月までの間に、社会保険病院等の財務及び内部統制の状況等の調査(以下「財務等調査」という。)を実施している。その結果、社会保険病院等の会計処理等に問題があることが判明しており、特に全社連病院においては、24年度決算で多額の特別利益又は特別損失を計上する事態となっている。
厚生労働大臣は、財務等調査の結果を踏まえて、25年8月に、貴機構に対して、全社連が運営する社会保険病院等の適正な財務・会計処理及びそれを実現する方策について、新機構の使命及び役割を踏まえて、社会保険病院等の実情等も考慮しつつ、直接病院等を指導するよう通知を発するとともに、全社連に対して、①貴機構が行う社会保険病院等の指導に従い、協力して適切に対応すること、②その取組を着実に実施するために適切な体制の刷新を早急に行うことを命令している。
そして、貴機構は、現在、上記の厚生労働大臣からの通知等に基づき、社会保険病院等の適正な財務・会計処理及びそれを実現するために必要な改善に取り組んでいる。
社会保険病院等は、被保険者から徴収した社会保険料を財源として設置された公的病院であり、法人税、固定資産税等の公租公課の一部が免除されているなど、種々の公的支援を受けていることから、その運営は円滑かつ健全に行われる必要がある。また、貴機構は、前記のとおり、新機構への改組の際に、運営委託法人が社会保険病院等の運営のために設けた特別会計を清算した後の残余の資産の納付を受けることとなっている。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、社会保険病院等の運営について、貴機構が行った財務等調査の結果明らかとなった会計処理等の問題のほかに改善を図るべき問題がないかなどに着眼して、貴機構本部、厚生労働本省、全社連、厚生団及び船保会各本部並びに13社会保険病院等(注)において、13社会保険病院等の運営に係る経理等を対象として会計実地検査を行った。
検査したところ、社会保険病院等の運営について、次のような事態が見受けられた。
運営委託法人は、それぞれ債権管理要綱等を定めており、患者等から診療費の支払がない場合には、当該患者等に対する未収金(以下「患者未収金」という。)の管理を各社会保険病院等に行わせている。15年度から24年度までの間に発生し、診療終了後3か月を経過しても収納されていない患者未収金は、24年度末において、9,122人に対する15,999件、3億6018万余円になっている。
社会保険病院等が患者等に対して督促を行った場合には、患者未収金の督促状況を管理したり、その後の法的手続に備えて督促したことを客観的に証明したりするため、督促状況を記録した履歴簿(以下「督促履歴簿」という。)を作成することとなっている。
そこで、各社会保険病院等における患者等に対する督促及び督促履歴簿の作成の状況についてみたところ、13社会保険病院等は、患者未収金8,779件、1億4443万余円の督促を全く行っていなかった。また、残りの7,220件、2億1574万余円については、督促したとしているが、このうち11社会保険病院等に係る4,631件、7881万余円については、督促履歴簿が作成されていないことから、督促状況を十分に確認できない状況となっていた。なお、督促の状況が確認できたものにおいても、患者等とのやり取りが記録されていないなど記載内容が十分でないものや、電話による督促を1回行っただけのものが見受けられた。
医師の診療に関する債権は、民法(明治29年法律第89号)により、3年間行使しないときは消滅することとされている。このことから、債権の発生から3年を経過すると消滅時効が完成し、患者等が消滅時効を援用すれば、社会保険病院等は、債権の履行の請求はできないこととなる。このため、社会保険病院等では、時効の中断を図るために、訴訟手続による履行の請求、債務承認書の徴取等の措置(以下「債権の保全措置」という。)を執ることになっている。
そこで、前記の患者未収金15,999件に係る債権の保全措置についてみたところ、このうち13社会保険病院等に係る12,471件、2億2160万余円は、債権の保全措置が全く執られていなかった。また、債権の保全措置が全く執られていなかったもののうち12社会保険病院等に係る3,264件、6219万余円は、既に消滅時効が完成しており、患者等が消滅時効を援用した場合には、患者未収金に係る債権の履行の請求ができない状況となっていた。
このように、上記の(ア)及び(イ)の事態に係る14,462件、2億8515万余円は、適切な債権管理等が行われていなかった((ア)及び(イ)の事態の間には重複しているものがある。)。
社会保険病院等は、債権管理要綱等に基づき、債権の消滅時効期間が経過したり、患者等が行方不明となったりなどした場合には、債権の徴収不能損失処理を行うことができることとなっており、15年度から24年度までに発生した患者未収金13,987件、3億6066万余円の徴収不能損失処理を行っていた。
しかし、このうち8社会保険病院等に係る3,981件、8759万余円については、督促したり、債権の保全措置を執ったりしないまま、債権の消滅時効期間が経過したことにより徴収不能損失処理が行われていた。また、10社会保険病院等に係る6,797件、1億4917万余円については、債権の消滅時効期間が経過していないにもかかわらず、消滅時効期間が経過したなどとして徴収不能損失処理が行われていた。さらに、7社会保険病院等に係る732件、2705万余円については、徴収不能損失処理を行った理由に関する記録が残されておらず、その内容を確認できない状況となっていた。
このように、上記の事態に係る計11,510件、2億6382万余円については、適切な債権管理等が行われていなかった。
上記のア及びイのような事態は、債権管理要綱等に基づく適切な債権管理等が行われていないことによって、回収不能となる患者未収金が増加することになり、その結果、経営委託契約の解除により運営委託法人から納付される特別会計を清算した後の残余の資産が減少することとなることから適切でなく、社会保険病院等に係る患者未収金の督促、保全措置及び徴収不能損失処理の事務について、適正かつ的確に事務を行うための体制を整備させて、当該事務を適切に執行させる必要がある。
社会保険病院等は、業務の円滑な運営を図るため、業務の運営と緊密な関係がある者に対する飲食、贈答等に要する費用(以下「交際費」という。)を支出している。
しかし、社会保険病院等における23、24両年度の交際費のうち1件当たり1万円以上の飲食に係るものについてみたところ、相手方及び病院側の人数等が分かる証ひょう書類等がないものが、11社会保険病院等において529件、2888万余円あり、1人当たり1万円以上支出しているものが、7社会保険病院等において70件、492万余円あった。
また、社会保険病院等における23、24両年度の交際費のうち贈答に係るものについてみたところ、10全社連病院において、全社連の役職員等に対する退職餞別金又は退職記念品の贈答が、343件、258万円あった。さらに、5全社連病院において、全社連の役職員等に対する中元及び歳暮の贈答が、129件、107万余円あった。
貴機構は、新機構において支給する医師、看護師等の給与について検討を進めており、その検討結果を踏まえて新たな給与の支給の基準を定めるとしている。この給与の支給の基準は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)に基づき、社会一般の情勢に適合したものなどとなるように定めなければならないとされている。
そこで、社会保険病院等における給与の支給状況についてみたところ、全社連病院では、23、24両年度に諸手当として115億1622万余円を支給していたが、これらの諸手当の内容をみると、給与に関する規程の制定等の権限が病院長等に委任されていて病院ごとに給与規程を定めていることから、各病院が支給している手当の数には、最少の病院と最多の病院との間で大きな差が生じていた。そして、これらの全社連病院が支給している諸手当の中には、医師等の人材確保のために設けた手当であるのに、管理者である病院長、副院長等にも支給されているなど、支給対象者が支給目的に応じたものとなっていないと思料されるものが見受けられた。
厚生労働省は、21年11月に「独立行政法人、認可法人、特別民間法人の冗費の削減について(依頼)」を発出し、所管の独立行政法人等における職員旅行、職員懇親会等の費用(以下「レクリエーション経費」という。)の廃止等を要請している。
しかし、13社会保険病院等は、23、24両年度にレクリエーション経費3億5412万余円を支出しており、この中には、海外への職員旅行に1億0222万余円支出していて、一人当たりの病院の負担額が19万余円に上っているものがあった。
社会保険病院等の運営において、上記のア、イ及びウのような支出(23、24両年度の合計119億0781万余円)が見受けられる事態は、社会保険病院等が社会保険料を財源として設置された公的病院であり、法人税、固定資産税等の公租公課の一部が免除されているなど、種々の公的支援を受けていることに鑑みて適切ではなく、支出の在り方を検討する必要がある。
前記のとおり、貴機構と運営委託法人が締結した経営委託契約によると、運営委託法人は、病院の業務が円滑かつ健全に行われるよう常に指導監督を行い、必要な指示を与えることとされている。
そこで、運営委託法人による病院の運営に係る監査の実施状況についてみたところ、厚生団及び船保会は、厚生団病院及び船保会病院に対して定期的に内部監査を実施していたが、全社連は、全社連病院に対する内部監査を実施していなかった。
また、経営委託契約によると、貴機構は、社会保険病院等に関する帳簿及び書類を検査し、又は病院の経営の状況につき実地に監査を行うことができるとされている。しかし、貴機構は、社会保険病院等の運営を全て運営委託法人の裁量に任せることにしていて、定期的な検査及び監査を実施していなかった。
なお、貴機構は、財務等調査を受けて、24年10月に1全社連病院に対して監査を実施し、その後2全社連病院に対して監査を実施している。
(改善を必要とする事態)前記のとおり、社会保険病院等の運営において、患者未収金に係る督促、保全措置及び徴収不能損失処理の事務が適正かつ的確に行われていなかったり、社会保険病院等の運営に係る支出の中に、その在り方を検討する必要があるものが見受けられたり、監査が行われていない状況が見受けられたりする事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、主として運営委託法人において、社会保険病院等に対する指導監督等が十分でないことによるが、貴機構において、社会保険病院等の運営の実態について十分に把握しておらず、運営を全て運営委託法人の裁量に任せていることにもよると認められる。
社会保険病院等は、社会保険料を財源として設置された公的病院であること、また、新機構への改組により、いわゆる「公設民営」の病院から「公設公営」の病院となることから、その運営については円滑かつ健全なものとすることが強く求められている。
そして、貴機構は、厚生労働大臣からの通知等に基づき、社会保険病院等の適正な財務・会計処理及びそれを実現するために必要な改善の取組を行っているが、社会保険病院等の運営を円滑かつ健全なものとするためには、更なる改善が必要であると思料される。
ついては、貴機構において、社会保険病院等の円滑かつ健全な運営を図るため、現在行っている改善の取組に加えて、患者未収金の督促、保全措置及び徴収不能損失処理の事務並びに社会保険病院等の運営に係る支出の在り方についての方針を検討して、これらの方針を運営委託法人に指示するとともに、新機構の運営に反映する措置を講ずるよう意見を表示する。