本院は、独立行政法人が、その業務を確実に実施するために必要な資産であるとして国等から政府出資見合いの資産として承継して保有している土地等のうち、有効に利用されていない土地等の具体的な処分計画又は利用計画の策定等について、平成25年10月31日に、独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園(以下「のぞみの園」という。)、独立行政法人労働者健康福祉機構(以下「労働者健康福祉機構」という。)及び独立行政法人国立高等専門学校機構(以下「国立高等専門学校機構」という。また、以下、これらを合わせて「3独立行政法人」という。)の各理事長に対して、「独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が保有している有効に利用されていない土地について」等として、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
これらの処置要求の内容は、3独立行政法人のそれぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これを総括的に示すと以下のとおりである。
3独立行政法人は、土地(事業用地、宿舎用地等。帳簿価額(25年3月31日現在。以下同じ。)は、のぞみの園88億7364万余円、労働者健康福祉機構694億3563万余円、国立高等専門学校機構1445億7255万余円)を保有しており、そのほとんどは、3独立行政法人が設立された際に、それぞれの業務を確実に実施するために必要であるとして、国等から政府出資見合いの資産として承継した資産である。
独立行政法人は、22年の独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)の改正により、中期目標期間の途中であっても、通則法第8条第3項の規定により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととされ、通則法第46条の2の規定により、不要財産であって政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るものについては、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫に納付することとされている。
そして、政府は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定。以下「基本方針」という。)において、各独立行政法人が、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行い、保有する必要性があるかなどについて厳しく検証して、不要と認められるものについては速やかに国庫に納付することなどを掲げている。
労働者健康福祉機構は、厚生労働大臣が定める廃止対象労災病院等(注1)以外の労災病院等に係る資産の処分により生じた収入(以下「資産処分収入」という。)を、従来、労災病院の増改築工事等の費用に充ててきており、第2期中期目標期間(21事業年度から25事業年度まで(以下、事業年度を「年度」という。))に係る中期計画においては、医療の提供を確実に実施するために、労災病院の増改築費用等への有効活用に努めることとしている。そして、設立以降24年度までの資産処分収入の額は、計25億0591万余円となっている。
労働者健康福祉機構は、設立以降、和歌山、九州両労災病院(以下、これらを合わせて「2労災病院」という。)に係る大規模な増改築工事等を行っており、また、21年度以降の10年間において、北海道中央労災病院等12労災病院(注2)(以下「12労災病院」という。)に係る大規模な増改築工事等の施設整備計画を策定した上で、毎年度同計画を見直して、これに基づき施設整備を行うこととしている。
独立行政法人は、前記のとおり、基本方針において、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことなどが求められている。そして、労働者健康福祉機構は、前記のとおり、資産処分収入については、労災病院の増改築費用等への有効活用に努めることとしており、施設整備計画を策定し、毎年度同計画を見直して、これに基づき労災病院の施設整備を行うこととしている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、3独立行政法人が保有している政府出資見合いの資産である土地が業務を確実に実施するという目的に沿って有効に利用されているか、利用されていない土地について売却等の処分計画や施設整備等の利用計画が策定されているか、労働者健康福祉機構において資産処分収入は施設整備計画に適切に計上され有効に活用されているかなどに着眼して、前記の土地等を対象として、3独立行政法人の本部等において、施設の配置図等の関係書類、土地の現況、過去の資産処分収入の取扱いなどを確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
のぞみの園が特殊法人であった心身障害者福祉協会から承継した土地についてみたところ、宿舎、管理事務所等の跡地等を更地のまま保有するなどしていて、具体的な処分計画又は利用計画が策定されないまま24年度末現在で3年以上にわたり有効に利用されていない土地が、面積計11,215.65㎡、帳簿価額計1億8920万余円見受けられた。
労働者健康福祉機構が特殊法人であった労働福祉事業団から承継した土地についてみたところ、更地のまま保有するなどしていて、具体的な処分計画又は利用計画が策定されないまま24年度末現在で4年以上にわたり有効に利用されていない土地が、表1のとおり、北海道中央労災病院せき損センター等7労災病院(以下「7労災病院」という。)において、面積計18,518.21㎡、帳簿価額計7億2800万余円見受けられた。
表1 労働者健康福祉機構において具体的な処分計画又は利用計画が策定されないまま有効に利用されていない土地
労災病院の名称 | 面積(㎡) | 帳簿価額 |
---|---|---|
北海道中央労災病院せき損センター | 5,825.00 | 5525万余円 |
釧路労災病院 | 941.00 | 2757万余円 |
秋田労災病院 | 788.80 | 745万余円 |
福島労災病院 | 3,699.00 | 9210万余円 |
大阪労災病院 | 3,677.70 | 4億2088万余円 |
和歌山労災病院 | 1,369.00 | 1745万余円 |
九州労災病院門司メディカルセンター | 2,217.71 | 1億0726万余円 |
計 | 18,518.21 | 7億2800万余円 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>九州労災病院門司メディカルセンター(平成20年3月31日以前は門司労災病院)は、労働者健康福祉機構が設立された16年4月から北九州市に所在する土地(面積2,217.71㎡、帳簿価額1億0726万余円)を管理している。
しかし、同センターは、25年3月31日現在、上記土地の一部を暫定的に職員に駐車場として利用させているのみであり、16年4月から具体的な処分計画又は利用計画を策定していなかった。
労働者健康福祉機構は、設立以降24年度までに得た資産処分収入の額計25億0591万余円のうち、2労災病院に係る大規模な増改築工事等の費用等に計23億3687万余円を充てており、資産処分収入の額のうち上記の増改築工事等の費用等に充てた額の残額は、24年度末で計1億6903万余円となっている。そして、2労災病院に係る大規模な増改築工事は23年4月までにしゅん工していて、上記の残額1億6903万余円は12労災病院に係る増改築工事等の費用に充てることが可能な状態となっている。しかし、労働者健康福祉機構は上記の残額を預金として保有しており、12労災病院に係る増改築工事等の施設整備計画において資産処分収入の具体的な利用計画を定めていなかった。
国立高等専門学校機構が国から承継した土地についてみたところ、更地のまま保有するなどしていて、具体的な処分計画又は利用計画が策定されないまま24年度末現在で2年以上にわたり有効に利用されていない土地が、表2のとおり、苫小牧工業高等専門学校等17高等専門学校(以下、国立高等専門学校を「高専」といい、苫小牧工業高等専門学校等17高等専門学校を「17高専」という。)において、面積計42,969.15㎡、帳簿価額計13億7880万余円見受けられた。
表2 国立高等専門学校機構において具体的な処分計画又は利用計画が策定されないまま有効に利用されていない土地
高専の名称 | 面積(㎡) | 帳簿価額 |
---|---|---|
苫小牧工業高等専門学校 | 4,492.10 | 3411万余円 |
八戸工業高等専門学校 | 5,889.43 | 1億6250万円 |
仙台高等専門学校 | 2,673.00 | 1億0500万円 |
福島工業高等専門学校 | 2,739.33 | 1億2960万円 |
長岡工業高等専門学校 | 2,193.62 | 1億2350万円 |
富山高等専門学校 | 290.00 | 1434万余円 |
石川工業高等専門学校 | 3,274.06 | 1億9622万余円 |
沼津工業高等専門学校 | 288.19 | 3080万円 |
鈴鹿工業高等専門学校 | 1,452.61 | 3756万余円 |
呉工業高等専門学校 | 590.77 | 2634万余円 |
大島商船高等専門学校 | 5,216.00 | 7823万余円 |
香川高等専門学校 | 7,606.00 | 2億3723万余円 |
久留米工業高等専門学校 | 220.00 | 1768万余円 |
有明工業高等専門学校 | 3,225.44 | 8297万余円 |
佐世保工業高等専門学校 | 1,452.24 | 6878万余円 |
都城工業高等専門学校 | 439.36 | 986万余円 |
沖縄工業高等専門学校 | 927.00 | 2402万余円 |
計 | 42,969.15 | 13億7880万余円 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>有明工業高等専門学校が管理する土地のうち、福岡県大牟田市に所在する正山10番宿舎の跡地は、平成19年3月に宿舎が利用されなくなり、その後、22年3月に老朽化により宿舎が取り壊されて更地(面積284.39㎡、帳簿価額1763万余円)となっていた。
しかし、同校は、25年3月31日現在、具体的な処分計画又は施設整備等の利用計画を策定しておらず、当該土地を更地のまま保有していて有効に利用していなかった。
(改善を必要とする事態)3独立行政法人において、業務を確実に実施するために必要であるとして国等から承継した土地が有効に利用されておらず、これらの土地について具体的な処分計画又は利用計画を策定しないまま保有していたり、労働者健康福祉機構において、資産処分収入を労災病院の増改築等に有効活用するなどの具体的な利用計画を定めないまま保有していたりしていて、通則法の改正の趣旨及び基本方針にのっとっていないなどの事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、3独立行政法人において、それぞれ次のことなどによると認められる。
有効に利用されていない土地について、自主的な見直しを不断に行うなどの体制が十分に整備されていないこと、有効に利用されていない土地についての不断の見直しや具体的な処分計画又は利用計画を策定することについての理解が十分でないこと
3独立行政法人が保有している土地はそのほとんどが独立行政法人化に伴って国等から政府出資見合いの資産として承継した資産であり、労働者健康福祉機構における資産処分収入で得た資金は承継した資産を処分して得られた資産である。したがって、有効に利用されていない資産については、具体的な処分計画又は利用計画を策定し、将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなった資産については国庫納付等の処分を着実に行うことが必要である。
ついては、3独立行政法人において、有効に利用されていない土地の処分又は利用及び資産処分収入の有効活用を図るために、次のとおり改善の処置を要求する。
有効に利用されていない土地について、処分又は利用を図るために自主的な見直しを不断に行うための体制を整備するとともに、将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がないと認められる場合には、国庫納付等の具体的な処分計画を策定し、必要があると認められる場合には、施設整備等の具体的な利用計画を策定すること