(平成25年10月31日付け 独立行政法人国立循環器病研究センター理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴センターは、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づき、平成22年4月1日に、国民の健康に重大な影響のある特定の疾患等に係る医療に関して、調査、研究及び技術の開発並びにこれらの業務に密接に関連する医療の提供等を行うために、国立高度専門医療研究センターとして設立された独立行政法人である。そして、貴センターは、国の医療政策として、循環器病に関する高度かつ専門的な医療の向上を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的として、循環器病に係る医療に関して、調査、研究等を行っている。
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)によれば、主務大臣は、3年以上5年以下の期間において独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標(以下「中期目標」という。)を定めて、これを当該独立行政法人に指示することとされており、独立行政法人は、その指示を受けたときは、中期目標に基づき、当該中期目標を達成するための計画(以下「中期計画」という。)を作成して、主務大臣の認可を受けなければならないこととされている。また、主務大臣の認可を受けた中期計画に基づき、毎事業年度の業務運営に関する年度計画を定めて、これらの計画に基づき、適正かつ効率的にその業務を運営することとなっている。
貴センターの中期目標には、財務内容の改善に関する事項が定められており、その中に、運営費交付金以外の外部資金の積極的な導入に努めることが掲げられている。そして、貴センターの中期計画では、自己収入の増加に関する事項として民間企業等からの資金の受入体制を構築して、寄附の受入れや研究の受託等により、外部資金の獲得を行うこととしている。
貴センターに所属する研究者は、自らが貴センターの施設、設備等を使用するなどして職務上行う研究の経費として、科学研究費補助金、厚生労働科学研究費補助金等の国から交付される公的研究費のほか、財団法人等が実施する研究助成制度に応募して採択を受けることなどにより、財団法人等から資金の交付を多数受けている(以下、財団法人等から交付を受けた資金を「財団等研究費」という。)。
公的研究費については、内閣府に設置されている総合科学技術会議が、18年8月に「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」を策定して、研究費の不正使用等を防止し、研究費の効率的な執行を図るため、関係する府省、研究機関等において、研究費の使用等の規則の整備及び明確化や研究費の機関管理の徹底等を図ることとしているが、財団等研究費については、同指針の対象とはなっていない。
一方、貴センターと同様に所属する研究者が外部から資金の交付を受けて研究を行っている国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下、これらを合わせて「国立大学法人等」という。)においては、従前から、所属する研究者が職務上行う教育・研究については国立大学法人等にその遂行に関する事務上の管理責任があるとして、所属する研究者が財団等研究費と同様の個人宛ての研究助成金である民間等外部の個人宛て寄附金を受けたときは、改めて国立大学法人等に寄附することとする旨の規程等を整備して、国立大学法人等が研究者が職務上行う研究に交付される外部資金の管理及び経理を行うこととしている。
前記のとおり、貴センターの中期計画では、民間企業等からの資金の受入体制を構築して、寄附の受入れや研究の受託等により、外部資金の獲得を行うこととしている。
そこで、本院は、貴センターにおいて、効率性等の観点から、財団等研究費の交付を受けた研究者から、その管理及び経理の事務の委任を受けるよう規程等を整備しているか、研究者が交付を受けた財団等研究費の管理及び経理は適切に行われているかなどに着眼して、22年度から24年度までの間に研究者が交付を受けた財団等研究費計150件、4億1745万余円を対象として検査した。検査に当たっては、研究費の助成を行った財団法人等(以下「助成元財団法人等」という。)が開示している研究費についての情報を基に、財団等研究費の交付を受けた研究者が貴センターにその管理及び経理に係る事務の委任を申し出ているかを聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴センターは、「独立行政法人国立循環器病研究センター会計規程」(平成22年規程第30号)において、役職員(所属する研究者を含む。以下同じ。)は、厚生労働科学研究費補助金その他研究に供する資金であって、貴センター以外の機関から役職員個人に交付された資金については、当該資金を全額貴センターに預託することとしている。そして、貴センターの総長は当該資金の管理方法、当該役職員への資金の交付方法等に関する要領を定めて、公的研究費を配分している機関から当該役職員に対して交付された資金の範囲内で経理することとしている。
貴センターは、上記の規程を受けて、公的研究費の適正な取扱いを確保することを目的として「独立行政法人国立循環器病研究センター競争的研究資金取扱規程」(平成22年規程第47号)等を定めており、これらの規程等の対象とする公的研究費は、厚生労働科学研究費補助金等のほか、研究者からの申出等を受けて、あらかじめ総長が事務委任を行うことを承諾した研究費等とされている。
一方、貴センターは、助成元財団法人等が貴センターに対して財団等研究費の管理及び経理の事務を行うことを義務付けてはいないこと、貴センター事務部門の人件費等の間接経費が確保できず、事務部門の事務処理体制の整備が困難なことなどを理由として、財団等研究費の交付を受けた研究者からその管理及び経理に係る事務の委任を受ける規程等を整備しておらず、研究者が交付を受けた財団等研究費については、研究者が個人で管理及び経理を行うこととしていた。そして、22年度から24年度までの間に、貴センターに所属する研究者76名が交付を受けた計150件、4億1745万余円の財団等研究費は、当該研究者が職務上行う研究の経費に充てられるものであるのに、研究者が個人で管理及び経理を行っている状況となっていた。
このため、物品の調達については、研究者自らが行っており、このうち一部の物品の調達においては、複数の取引業者から見積書を徴取していない事態が見受けられた。
財団等研究費は、貴センターに所属する研究者が職務として行う研究に使用するものであり、その遂行に関する事務上の管理責任は、貴センターにあると認められる。したがって、貴センターにおいて、財団等研究費の交付を受けた研究者からその管理及び経理に係る事務の委任を受ける規程等を整備等することなく、研究者によって財団等研究費の管理及び経理を行っている事態は、適切とは認められない。
(改善を必要とする事態)上記のように、研究者が職務として行う研究に交付される財団等研究費について、貴センターにおいて財団等研究費の管理及び経理の事務の委任を研究者から受けるための明確な規程等を整備していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、貴センターにおいて、貴センターに所属する研究者が職務として行う研究の遂行に関する事務上の管理責任があること並びに財団等研究費の管理及び経理の事務の委任を研究者から受けるための明確な規程等を整備してその周知徹底を図ることの必要性に対する理解が十分でなかったことによると認められる。
貴センターの中期計画には外部資金の受入体制を構築するとされていること、所属する研究者が職務上行う研究については貴センターにその遂行に関する事務上の管理責任があり、研究費の不正使用防止等を図る必要があることから、財団等研究費についても、その管理及び経理に係る事務を適切に行う必要がある。
ついては、貴センターにおいて、研究者が交付を受けた財団等研究費を適切に把握し、これについて適切な管理及び経理が行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。