独立行政法人国立長寿医療研究センター(平成22年3月31日以前は国立長寿医療センター。以下「センター」という。)は、「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」(平成20年法律第93号)に基づき、加齢に伴って生ずる心身の変化及び加齢に伴う疾患に係る医療に関する調査、研究及びこれらの業務に密接に関連する医療の提供等を行っている。
センターは、上記業務の実施に当たり、21年度以前は、研究で使用する設備備品及び消耗品(以下「研究用物品」という。)の購入に必要な経費を、厚生労働省所管国立高度専門医療センター特別会計の(項)政策医療推進費のうち(目)長寿医療研究委託費(以下「研究委託費」という。)から支出していた。また、22年度以降は、研究用物品の購入に必要な経費を、センターの業務費のうち長寿医療研究開発費(以下「研究開発費」という。)から支出している。
研究委託費による研究(以下「委託事業」という。)は、長寿医療を推進する基盤的研究を実施することを目的として、センターと研究者において委託契約を締結するものである。そして、研究者は研究委託費に係る経理の事務を所属機関に委任すること、研究課題を総括する主任研究者、研究課題の一部を分担する分担研究者等で編成する研究班を単位として研究を行うこと、委託事業の実施期間は委託契約の締結日から当該年度の3月31日までとすること、主任研究者は委託事業の終了後に事業実績報告書及び収支決算報告書をセンターに提出し、センターがこれに基づき精算することとされていた。また、研究開発費による研究(以下「研究事業」という。)は、委託事業と同様に研究班を単位として行うこと、研究開発費は年度ごとの予算であることから、物品の納品、役務の提供等は当該年度内に完了すること、主任研究者は研究事業の終了後に事業実績報告書及び収支決算報告書をセンターに提出し、センターがこれに基づき精算することとされている。
本院は、合規性等の観点から、研究委託費及び研究開発費が関係規程等に従って適正に執行されているかなどに着眼して、委託事業及び研究事業について、センターにおいて納品書、請求書等により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
センターは、19、20両年度に、A部長を主任研究者、B室長を分担研究者とする研究課題を対象として、委託契約を締結し、19年度に10,500,000円、20年度に10,000,000円、計20,500,000円の研究委託費をそれぞれ支出していた。また、センターは、19、20両年度に、C室長を主任研究者とする研究課題を対象として、委託契約を締結し、19年度に11,050,000円、20年度に11,000,000円、計22,050,000円の研究委託費をそれぞれ支出していた。そして、これらの委託契約において研究委託費に係る経理の事務を委任されていたセンターは、A部長、B室長及びC室長から研究用物品に係る納品書、請求書等の提出を受けて、その購入代金計9,077,440円を業者に支払っていた。
しかし、A部長、B室長及びC室長は、上記研究用物品のうち8,176,928円分(19年度A部長に係る分594,345円及びC室長に係る分999,904円、20年度B室長に係る分507,309円及びC室長に係る分6,075,370円)について、委託事業を実施した各年度の前年度等に納品を受けており、虚偽の日付を記載した納品書、請求書等によりセンターに購入代金を支払わせていた。
センターは、22年度に、D室長を主任研究者、E部長を分担研究者とする研究課題を対象として研究事業を実施しており、センターは、D室長及びE部長から研究用物品に係る納品書、請求書等の提出を受けて、業者に支払った購入代金計2,880,613円を含む研究開発費49,711,751円を支出していた。
しかし、D室長及びE部長は、上記研究用物品のうち2,880,613円分(D室長に係る分493,983円及びE部長に係る分2,386,630円)について、研究事業を実施した22年度の前年度に納品を受けており、虚偽の日付を記載した納品書、請求書等によりセンターに購入代金を支払わせていた。
したがって、これらの前年度等に納入された研究用物品に係る購入代金は、委託事業及び研究事業に要した経費とは認められず、研究委託費8,176,928円、研究開発費2,880,613円、計11,057,541円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究者等において、センターの予算の原資が税金等であるにもかかわらず事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、センターにおいて、研究者等に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。