(平成25年10月31日付け 四国旅客鉄道株式会社代表取締役社長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示し及び改善の処置を要求する。
記
貴会社は、「鉄道営業法」(明治33年法律第65号)、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成13年国土交通省令第151号。以下「技術基準」という。)等に基づき、橋りょう、トンネル等の鉄道構造物(以下「構造物」という。)の性能を確保するための維持管理の一環として定期検査を実施することとしている。
そして、貴会社は、鉄道の安全な輸送及び安定的な輸送の確保を目的に、技術基準等に基づき、構造物の定期検査の基準期間等に関する基準として「土木施設実施基準」(平成14年社達第57号)及び「土木構造物等管理準則」(平成14年工工第292号)を定めているほか、国土交通省からの構造物の維持管理に係る通達の解説書である「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)」(平成19年公益財団法人鉄道総合技術研究所刊行)を基にして、構造物の検査方法について、「橋りょう全般検査マニュアル」(平成6年制定、20年改正。)、「トンネル保守管理マニュアル」(平成12年制定、20年改正。)等を定めている(以下、これらの規程類を「実施基準等」という。)。
貴会社は、実施基準等に基づき、構造物の変状及び劣化状態についての定期検査として通常全般検査(以下「全般検査」という。)を2年に一度実施することとしている。
また、実施基準等に基づき、全般検査を実施した結果、詳細な検査が必要と判断された場合には、変状原因や機能低下の程度を把握して、修繕工事等の措置の方法や時期を判断するための精度の高い検査である個別検査を実施することとしている。
さらに、地震や大雨等により被害が予想されたり、個別検査の結果により構造物の変状の進行性について監視するなどの措置を行う必要があったりするなどの場合には随時検査を実施することとしている。
貴会社は、構造物や軌道の維持管理等の業務を行う高松、松山、徳島及び高知各保線区において、全般検査及び随時検査を実施しており、土木技術センターにおいて、貴会社管内全域の個別検査及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が資産を保有している本四備讃線の全般検査等の業務を実施している。
各保線区及び土木技術センター(以下、これらを合わせて「保線区等」という。)は、全般検査を実施し、その結果、構造物に変状が生じていた場合には、過去の検査記録と対照するなどして、実施基準等に定められた判定基準に従って、構造物の健全度を変状の進行性等により判定するなどしている。この判定基準によれば、運転保安、旅客及び公衆等の安全並びに列車の正常運行の確保を脅かす、又はそのおそれのある変状等があるものは健全度A、将来健全度Aになるおそれのある変状等があるものは健全度B、軽微な変状等があるものは健全度C、健全なものは健全度Sに区分した判定を行うこととされている。
保線区は、実施基準等に基づき、健全度Aと判定された構造物については、詳細な健全度の判定を行うための個別検査を土木技術センターに依頼することとしている。そして、土木技術センターが個別検査を実施し、その結果により、変状の程度に応じて、緊急に措置が必要な健全度AA、早急に措置が必要な健全度A1、必要な時期に措置を行う健全度A2に区分した判定等を行うとともに、必要となる措置の方法を決定して、その内容を保線区に通知している。
また、保線区等は、健全度Bと判定した構造物については、必要に応じた監視等の措置を講ずることとしている。
技術基準により、鉄道事業者が構造物の定期検査を行ったときは、その記録を作成し、保存しなければならないとされていることから、貴会社は、構造物の定期検査等を行ったときは、橋りょうについては、全般検査及び随時検査の結果を検査記録簿に、個別検査の結果を変状略図、建造物変状調書等に、トンネルについては、全般検査の結果を検査記録簿及び変状展開図に、個別検査の結果を建造物変状調書等にそれぞれ記録しなければならないと実施基準等に定めている。
貴会社は、橋りょうについては、健全度A1又はA2と判定されたもののうち、修繕工事が必要な橋りょうの数が多いことから、個別検査の結果等により、必要な修繕工事を実施するために変状内容、修繕工事の方法等を記載した橋りょう修繕計画を毎年度作成して、これに従って修繕工事を順次実施することとしており、平成25年度の橋りょう修繕計画に85橋りょうを記載している。一方、トンネルについては、修繕工事を必要とするトンネルの数が少ないことから、修繕計画は作成せず、健全度A1又はA2の全てのトンネルを対象として継続的に修繕工事を実施することとしている。
構造物の維持管理は、鉄道の安全な輸送及び安定的な輸送の確保のために必要不可欠な業務であり、また、早期に修繕工事を実施して構造物の変状に対処することが予防保全の観点から必要とされている。そして、この一環として行われる定期検査等により、構造物の変状を早期かつ的確に把握して、その性能を確保することが重要である。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、構造物の修繕計画は適切に作成されているか、定期検査等の検査記録は適切に整備され、構造物の維持管理に有効に活用されているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)貴会社が24年度に管理していた構造物のうち、2,674橋りょう(帳簿価額計63億8712万余円(平成24年度末現在。以下同じ。))、277トンネル(帳簿価額計20億1982万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、貴会社本社、保線区等において、修繕計画に記載された修繕工事や定期検査等の実施状況について、修繕計画、検査記録簿等の関係書類及び現場の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴会社は、個別検査により橋りょうの健全度の判定が行われた後の修繕工事の実施時期について、健全度A1の場合は、翌年度に修繕工事を実施することとしているが、健全度A2の場合には、具体的に実施時期を定めていない。
そして、25年度の橋りょう修繕計画の作成時点(24年11月)において、健全度A1又はA2と判定したもののうち、修繕工事が必要な98橋りょう(健全度A1の2橋りょう及び健全度A2の96橋りょう)中、85橋りょう(健全度A1の2橋りょう及び健全度A2の83橋りょう)については、前記のとおり、修繕工事の施工方法が決定され、25年度の橋りょう修繕計画に記載されていた。このうち、健全度A1の2橋りょう、健全度A2の5橋りょうの計7橋りょうについては、25年度に修繕工事を実施予定としているものの、残りの健全度A2の78橋りょうについては、25年度以降実施予定としているだけで具体的な修繕工事の実施時期が定められていなかった。そして、このうちの50橋りょうは、元年度から21年度までの間に個別検査により健全度A2と判定される変状が確認されてから、24年度末時点で3年間から23年間にわたって修繕工事が実施されていなかった。
また、13橋りょう(健全度は全てA2)は、修繕工事の施工方法を検討中であるとして橋りょう修繕計画に記載されていなかったが、このうち6橋りょうについても、個別検査により変状が確認されてから、24年度末時点で3年間から10年間にわたって修繕工事が実施されていなかった。
しかし、上記の56橋りょうのように、個別検査により変状が確認されてから、修繕工事を早期に実施しない場合には、構造物の変状が進行してしまうおそれがあり、また、変状の進行を監視するための個別検査や随時検査を保線区等において継続して実施しなければならなくなったり、修繕工事の規模が大きくなり、必要な工事費も増加することになったりして、構造物の維持管理に多大な労力と費用が必要となる可能性がある。
現に、25年度に修繕工事を予定している松山保線区管内の加茂川橋りょうについては、14年度に健全度A2と判定されていた変状箇所について、10年間にわたって修繕工事を実施していなかったことから、変状が進行して、24年度には健全度A1と判定されていた。
なお、他の鉄道事業者を検査したところ、個別検査の結果により構造物が健全度A2と判定された場合には、判定の翌年度から3年間を目途として修繕工事を実施するなどして早期に措置を行うこととしていた。
したがって、上記の56橋りょう(帳簿価額計2億7098万余円)については、修繕計画が適切に作成されていないため、修繕工事が早期に実施されておらず、変状が進行してしまうおそれがある状況となっていて、予防保全の観点から適切でないと認められる。
保線区等は、本院が検査の対象とした2,674橋りょう及び277トンネルについて、全般検査に係る検査記録簿等を作成している。そして、トンネルの全般検査の結果は、前記のとおり検査記録簿及び変状展開図に記録することとされている。
そこで、本院が、全般検査の検査記録の整備状況について検査したところ、24年度末時点で健全度Bと判定されていた全てのトンネルについては、変状の具体的な箇所を記録した変状展開図が作成されており、変状箇所を容易に特定することができるようになっていた。
一方、24年度末時点で健全度Bと判定されていた全1,209橋りょうのうち、38橋りょうについては、変状箇所を記録した図面を作成して、変状箇所を特定できるようにしていたものの、残りの1,171橋りょう(帳簿価額計39億6081万余円)については、全般検査の際に確認された変状の具体的な箇所が検査記録簿に記録されておらず、検査記録簿の記録内容が保線区によって異なっていたり、同じ保線区内でも橋りょうによって異なっていたりしているものが見受けられた。
そこで、会計実地検査の際に橋りょうを現地で確認したところ、検査記録簿にある変状箇所を特定することができないものとなっていたり、全般検査時点には生じていたと見受けられる変状についての記録が検査記録簿から漏れていたりしていた。
このように、全般検査の検査記録が適切に整備されておらず、変状箇所の特定ができない状況は、必要に応じた監視等の措置としての随時検査を適切に実施することができなかったり、次回の全般検査の際に構造物の変状の進行を確認することができず健全度を正しく判定できないこととなっていたり、コンクリートの剥落が発生した場合等の原因究明に活用することができない状況となっていたりしていて、構造物の維持管理に有効に活用できるものになっていないと認められる。
上記のように、貴会社が実施している橋りょうの定期検査等において、修繕工事が必要な健全度A2と判定されてから修繕工事が早期に実施されていなかったり、全般検査の検査記録が適切に整備されていないため、構造物の維持管理に有効に活用できるものになっていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じているのは、貴会社において、橋りょうの維持管理に当たり、定期検査等の結果により、修繕工事の実施時期を定めるなどした修繕計画を適切に作成して、修繕工事を着実に実施するための具体的な方策が十分でないこと、全般検査の検査記録を整備することの重要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。
構造物の維持管理は、鉄道輸送の信頼性を確保する上で重要なものであり、構造物を健全な状態に維持するため、変状を早期かつ的確に把握して、修繕工事を適切に実施していくことが求められる。
ついては、貴会社において、橋りょうの維持管理が適切に実施されるよう、次のとおり意見を表示し及び改善の処置を要求する。