日本電信電話株式会社(以下「持株会社」という。)、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「NTTコム」という。)及び東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。また、以下、これらを合わせて「3会社」という。)は、それぞれの本社、持株会社の総合研究所並びにNTT東日本の支店及び病院(以下、これらを合わせて「本社等」という。)において、建物等の新設工事、外壁改修工事、空調設備更改工事等(以下「建築工事等」という。)を実施している。
3会社は、それぞれの本社が職員の責任事項の分担等を定めた責任規程等において、建築工事等の発注主体となる本社等の長等が工事計画の策定や工事実施の決定を行い、契約責任者が契約の審査や契約の締結を行うこととしている。
そして、3会社は、株式会社NTTファシリティーズ(以下「協力会社」という。)との間で業務委託基本契約を締結して、建築工事等の工事計画案の策定、設計・工事監理、契約の締結等に係る業務を建築等設計・工事監理業務仕様書等により実施させている。ただし、NTT東日本は、上記の業務のうち建築工事等の工事計画案の策定に係る業務について株式会社NTT東日本—東京等(以下「都道県域会社」という。)との間で業務委託契約を締結して、共通系業務仕様書(以下、これと建築等設計・工事監理業務仕様書等とを合わせて「業務仕様書」という。)により実施させている。
業務委託基本契約によると、協力会社は、建築工事等を実施するため、設計及び積算を行って予定価格等を設定した後、請負業者の候補者を選定して入札等を行うこととされている。そして、協力会社は、3会社の代理人又は事務の代行として、落札した建築工事業者等と工事ごとに契約書類を取り交わして工事請負契約を締結することとされており、また、工事請負契約の締結に当たり建設業法(昭和24年法律第100号)等を遵守することとされている。
建設業法等によると、契約の締結に際しては、工事の内容、請負代金の額等を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならないこととされており、契約書の交付については、災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として工事の着工前に行わなければならないこととされている。
また、3会社は、それぞれの本社が定めた契約規程、契約マニュアル等(以下「契約規程等」という。)において、契約責任者は、対価の額等を明らかにした契約書を作成すること、契約を締結する場合には事前に審査を行うこと、契約相手の選定に当たっては可能な限り競争的な方法を採るよう留意しなければならないこととしている。さらに、契約を締結する前に内示等により相手方に作業を進めさせた場合は遡及契約又は事後契約に該当し、後々のトラブルの原因になりかねないなどとしてこれを行うことを禁じている。
3会社は、本社等において、毎年度、建築工事等を多数実施しており、それらの契約金額は多額に上っている。
そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、3会社が建築工事等の実施に当たり契約事務に関する規定を遵守して適正な契約事務を行っているか、契約事務の透明性及び公正性を確保しているか、競争の利益を享受しているかなどに着眼して検査を行った。
検査に当たっては、3会社の本社、持株会社のサービスイノベーション、情報ネットワーク、先端技術各総合研究所並びにNTT東日本の東京、北海道両支店及び関東病院(以下「9部局」という。)が平成23、24両年度に契約した計1,797件の建築工事等の契約(契約金額計687億0358万円)を対象として、9部局において、契約関係資料の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
9部局は、表1のとおり、建築工事等を実施するために23、24両年度に締結した計1,140件の契約(契約金額計251億0215万余円)について、契約書類を取り交わす前に建築工事等に着工するよう協力会社に指示していた。その指示を受けた協力会社は、以前に契約した実績のある特定の工事業者(以下「特定業者」という。)や複数の業者による概算額の見積合わせによって選定した工事業者といずれも契約書類を取り交わす前に、請負代金の額を確定しないまま建築工事等の着工を依頼する文書と承諾書を取り交わすなどして建築工事等に着工させていた。そして、9部局は、請負代金の額が確定した後に契約書類を取り交わしており、契約書類を取り交わした日から最長で23か月前に着工させて工事を実施させていた(以下、このようにして実施した工事のことを「先行工事」という。)。
表1 先行工事の実施状況
会社 | 平成23年度 | 24年度 | 計 | |||||||||
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契約件数(A) | 契約金額 | (A)のうち先行工事の件数 | 先行工事の契約金額 | 契約件数(A) | 契約金額 | (A)のうち先行工事の件数 | 先行工事の契約金額 | 契約件数(A) | 契約金額 | (A)のうち先行工事の件数 | 先行工事の契約金額 | |
持株会社 | 114 | 6,014,050 | 73 | 3,077,950 | 119 | 6,140,500 | 63 | 2,556,050 | 233 | 12,154,550 | 136 | 5,634,000 |
NTTコム | 121 | 15,725,104 | 69 | 1,288,100 | 207 | 8,700,420 | 121 | 3,080,800 | 328 | 24,425,524 | 190 | 4,368,900 |
NTT東日本 | 580 | 19,712,065 | 409 | 8,839,005 | 656 | 12,411,441 | 405 | 6,260,246 | 1,236 | 32,123,506 | 814 | 15,099,251 |
計 | 815 | 41,451,219 | 551 | 13,205,055 | 982 | 27,252,361 | 589 | 11,897,096 | 1,797 | 68,703,580 | 1,140 | 25,102,151 |
しかし、これらの先行工事を実施した契約1,140件は、工事の内容、請負代金の額等を記載した契約書を工事の着工前に交付することを定めた建設業法等や遡及契約等を禁じた契約規程等に反していたと認められた。そして、これらの工事は、9部局が、設計及び積算に要する期間や競争的な方法による契約手続に要する期間を確保するよう考慮して工事計画を策定するなどしていれば、先行工事を実施せずに建築工事等を実施することができたと認められた。
さらに、9部局は、上記1,140件の契約のうち1,047件については、工事計画における工事完成日に間に合わせるためには競争的な方法による時間が確保できないという理由で特定業者を選定して契約を締結していた。
しかし、このうち緊急性が高く特定業者への発注が必要と認められた契約78件を除いた969件(契約金額計197億5122万余円)については、9部局が、前記のように競争的な方法による契約手続に要する期間を確保するよう考慮して工事計画を策定するなどしていれば、競争的な方法により契約することができ、競争の利益を享受できたと認められた(表2参照)。
表2 特定業者との契約の状況
会社 | 区分 | 平成23年度 | 24年度 | 計 | ||||
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件数 | 契約金額 | 件数 | 契約金額 | 件数 | 契約金額 | |||
持株会社 | 特定業者との契約 | 72 | 2,827,950 | 63 | 2,556,050 | 135 | 5,384,000 | |
うち、競争的な方法により契約をすることができた契約 | 65 | 2,565,750 | 57 | 2,310,350 | 122 | 4,876,100 | ||
NTTコム | 特定業者との契約 | 37 | 677,300 | 66 | 1,522,700 | 103 | 2,200,000 | |
うち、競争的な方法により契約をすることができた契約 | 36 | 662,600 | 62 | 971,800 | 98 | 1,634,400 | ||
NTT東日本 | 特定業者との契約 | 409 | 8,839,005 | 400 | 5,865,621 | 809 | 14,704,626 | |
うち、競争的な方法により契約をすることができた契約 | 368 | 8,037,505 | 381 | 5,203,221 | 749 | 13,240,726 | ||
計 | 特定業者との契約 | 518 | 12,344,255 | 529 | 9,944,371 | 1,047 | 22,288,626 | |
うち、競争的な方法により契約をすることができた契約 | 469 | 11,265,855 | 500 | 8,485,371 | 969 | 19,751,226 |
このように、9部局が、建築工事等の実施に当たって、建設業法等や契約規程等に反して先行工事を実施させて請負代金の額の確定後に契約書類を取り交わしていたり、また、それに伴って、特定業者への発注が必要なものではないのに競争を行わずに特定業者を相手方として契約を締結していたりしていた事態は適正とは認められず、改善の必要があると認められた。
(発生原因)このような事態が生じていたのは、9部局において、建築工事等の契約事務の実施の際に、建設業法等や契約規程等を遵守する認識が欠けていたこと、設計及び積算に要する期間や競争的な方法による契約手続に要する期間を考慮しないで建築工事等の工事計画を策定していたこと、建築工事等の契約に対する契約責任者の審査が有効に機能していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、3会社は、25年7月及び8月に、本社等、都道県域会社及び協力会社に対して、先行工事を実施しないこととするなど建設業法等や契約規程等に従った契約事務を行うよう、また、設計及び積算に要する期間や競争的な方法による契約手続に要する期間を考慮した工事計画を策定し、その計画に沿って工事を実施するよう周知徹底を図るとともに、協力会社が契約の審査を実施し、その結果の報告を受けた3会社の契約責任者がこれを確認することなどを業務仕様書等に定めることについての指示文書を発するなどの処置を講じた。