東日本大震災からの復旧・復興は我が国の大きな課題となっており、国は、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的として、東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)を制定している。そして、国は、平成23年7月29日に、同法に基づき「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定して、被災各県の復興計画等を踏まえ、復興期間を23年度から32年度までの10年間とし、特に、被災地の一刻も早い復旧・復興を目指す観点から、復興需要が高まる当初の5年間(23年度から27年度まで)を集中復興期間としている。
また、国は、5年間の集中復興期間に実施する事業等の規模については、国と地方(公費分)とを合わせて少なくとも23.5兆円程度と見込んでいる。
国は、災害の速やかな復旧を図ることを目的として、河川、海岸、道路、港湾、下水道、漁港等の施設が被災した場合には公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号。以下「負担法」という。)等により、復旧に係る費用の一部を負担することとしている(以下、国又は地方公共団体が負担法等の対象となっている上記の公共土木施設等を復旧する事業を「災害復旧事業」という。)。そして、岩手県、宮城県及び福島県(以下「東北3県」という。)並びに管内市町村は、被災した公共土木施設等の災害復旧事業については、おおむね27年度の完了を目指すこととしている。
また、国は、東日本大震災による被災者の居住の安定確保を図るための災害公営住宅整備事業、三陸沿岸道路の緊急整備事業等の復興事業について、復興に係る費用を負担することとしており、今後、災害復旧事業に続き復興事業に係る相当量の公共工事の発注が見込まれている。
国は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等に従い、地方公共団体は、地方自治法(昭和22年法律第67号)、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号。以下「施行令」という。)等に従い、それぞれ入札及び契約の事務を実施している。
そして、国は、予決令により、必要があるときは、契約の種類ごとに、その金額等に応じて、工事等の実績、経営の規模等について一般競争入札に参加する者に必要な資格を定めることができるなどとされている。また、地方公共団体は、施行令により、必要があるときは、一般競争入札に参加する者に必要な資格として、契約の種類及び金額に応じて、工事等の実績、経営の規模等を要件とする資格を定めることができるなどとされている。
これにより、事業主体となる国及び地方公共団体は、あらかじめ入札に参加を希望する者を対象に資格審査を行い、その結果により、建設事業者を4段階等の等級に区分するとともに、等級ごとに発注可能な標準的な工事金額を定めたり(以下「発注標準」という。)、工事の予定価格から発注標準に基づき、入札参加資格として入札に参加できる等級を指定したり(以下「等級要件」という。)している。
また、事業主体は、入札参加資格として事業所の所在地を一定の地域内に限定する要件(以下「地域要件」という。)を定めたり、当該工事の規模や技術的難易度等に応じて、建設事業者の施工実績等の技術的な要件(以下「施工実績要件」という。)を定めたりなどしている。
東北3県において、労働者が不足したり、労務費が上昇したりなどして、災害復旧事業及び復興事業(以下「復旧・復興事業」という。)に係る工事の入札について、応札者がいなかったり、応札者はいるが入札価格が予定価格を上回ったりすることなどによる入札の不成立、又は、随意契約について、見積書の提出者がいなかったり、提出者はいるが見積価格が予定価格を上回ったりすることによる契約の不成立(以下、これらの事態を合わせて「入札不調」という。)が増加するなどしており、復旧・復興事業の円滑な施工の確保が課題となっている。
このような入札不調の発生を抑制するとともに、復旧・復興のための人材の確保や予定価格の適切な算定等に連携して取り組むために、国土交通省、農林水産省等の関係省庁、東北3県、仙台市、事業者団体等で構成する「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」(以下「連絡協議会」という。)が23年12月に発足し、25年5月までの計6回にわたり復旧・復興事業の施工の確保に関して協議を行っている。
東日本大震災に係る全国の避難者等の数は、復興庁によれば、25年4月4日現在で約30万9000人とされており、また、被災地からの人口流出も顕著となっているため、一刻も早い被災者の生活再建と安定が急務であり、早期の復旧・復興事業の実施が求められているところである。一方、地震及び津波により甚大な被害を受けた東北3県における復旧・復興事業に係る工事において、入札不調が発生しているところである。
そこで、入札不調の発生を抑制し、速やかに復旧・復興事業が実施されることが重要であることから、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査を行った。
本院は、東北地方整備局及び東北農政局並びに東北3県及び管内の太平洋沿岸部13市町(注1)、内陸部8市(注2)、計21市町において、23年10月から24年9月までに入札に付すなどされた復旧・復興事業等に係る予定価格が1000万円以上の工事計4,538件(直轄事業1,123件、補助事業3,415件)、契約金額計5622億9170万余円(直轄事業2576億1636万余円、補助事業3046億7534万余円(注3)(うち国庫補助金等相当額2081億8133万余円(注4)))について、入札不調の発生状況の分析を行うとともに、入札公告等の関係書類を確認するなどして、会計実地検査を行った。また、国土交通省及び農林水産省において、入札不調対策の取組状況を聴取するなどして、会計実地検査を行った。
さらに、受注者側が入札への参加を見合わせるなどした理由等について実態を把握するために、東北3県及び近隣の青森県、秋田県及び山形県(以下「近隣3県」という。)に所在する建設事業者3,000者に対して質問票による意識調査を行った。
東北3県において、23年10月から24年9月までに入札に付すなどされた4,538件の工事に係る入札不調の発生割合は、表1のとおり、直轄事業と補助事業の合計でみると、件数で21.1%、金額で11.2%となっている。
表1 事業主体別の入札不調の発生件数、金額及び発生割合(平成23年10月から24年9月まで)
事業区分 | 事業主体 | 入札不調 | 落札 | 計 | 入札不調発生割合 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | ||
直轄事業 | 東北地方整備局 | 151 | 13,187 | 824 | 248,903 | 975 | 262,091 | 15.4% | 5.0% |
東北農政局 | 26 | 2,023 | 122 | 23,628 | 148 | 25,651 | 17.5% | 7.8% | |
計 | 177 | 15,210 | 946 | 272,532 | 1,123 | 287,743 | 15.7% | 5.2% | |
補助事業 | 岩手県 | 29 | 794 | 387 | 47,036 | 416 | 47,831 | 6.9% | 1.6% |
宮城県 | 264 | 28,663 | 704 | 143,468 | 968 | 172,131 | 27.2% | 16.6% | |
福島県 | 67 | 3,646 | 402 | 49,823 | 469 | 53,470 | 14.2% | 6.8% | |
計 | 360 | 33,104 | 1,493 | 240,328 | 1,853 | 273,432 | 19.4% | 12.1% | |
岩手県管内の7市町 | 39 | 2,526 | 198 | 15,159 | 237 | 17,685 | 16.4% | 14.2% | |
宮城県管内の7市町 | 291 | 20,882 | 540 | 34,925 | 831 | 55,808 | 35.0% | 37.4% | |
福島県管内の7市町 | 92 | 2,295 | 402 | 18,988 | 494 | 21,283 | 18.6% | 10.7% | |
計 | 422 | 25,703 | 1,140 | 69,073 | 1,562 | 94,777 | 27.0% | 27.1% | |
合計 | 959 | 74,019 | 3,579 | 581,934 | 4,538 | 655,953 | 21.1% | 11.2% |
事業主体別に入札不調の発生割合の推移についてみると、図1のとおり、東北地方整備局、東北農政局及び東北3県については、24年2月から同年5月にかけて15%以下まで一旦低くなっている期間もあるが、その後、同年6月頃から増加している。また、21市町については、20%以上で推移している。
図1 入札不調の発生割合等の推移(平成23年10月から24年9月まで)
入札不調が発生すると、事業主体の発注担当者は再度公告を行い入札に付して(以下、このことを「再度公告入札」という。)、落札されるように、工事内容等を見直したり、入札事務が再び発生したりするため、再度公告入札を実施するまでに相応の時間を要することになり、その分、工事が遅延することも考えられる。そこで、24年9月末時点において、再度公告入札を実施して落札者が決定した工事の当初入札日から再度公告入札日までの期間等について、東北3県及び21市町の工事において確認できた267件についてみると、3か月を超えている工事は59件、このうち6か月を超えている工事は9件となっていた。
東北3県における建築、土木関係の職種の有効求人倍率についてみると、3県とも東日本大震災の発生後は高くなっており、人手不足の深刻な状況が続いている。なお、東日本大震災以降は、鉄筋工、型枠工等の技能労働者(以下「技能者」という。)の賃金に変動が見受けられるとされており、技能者に対する賃金の支払実態の調査等に基づき定められる公共工事の予定価格の積算に必要な設計労務単価(以下「公共工事設計労務単価」という。)は、上昇傾向となっている。
また、東北3県で実施される復旧・復興事業に係る工事において最も必要とされる建設資材として生コンクリートがあるが、その骨材として使用する砂及び砕石並びに生コンクリートの需給の動向についてみると、震災後ひっ迫した傾向にある。そして、震災以降の生コンクリートの単価を震災前の単価と比較してみると、仙台地区においては、25年2月以降の価格が震災前に比べて40%超と高い上昇率となっていた。
連絡協議会は、24年2月の協議において、入札不調の原因としては、主に技術者や技能者の不足、実勢価格と予定価格とのかい離の二つが考えられるとしている。また、同年6月の協議において、今後、本格的に復興事業に係る工事が発注される段階ではこれまで以上の入札不調対策が求められるとしている。そして、これらの連絡協議会の内容を踏まえて、国土交通省及び農林水産省は、表2のとおり、技術者や技能者を確保したり、予定価格等を適切に算定したりするための入札不調対策を講じ、東北地方整備局、東北農政局、東北3県等に対して、通知等を発出して周知している。
表2 入札不調対策の概要
目的 | 入札不調対策 |
---|---|
ア 技術者(注)や技能者の確保のための対策 | ① 復興JV制度の活用 |
② 1人の主任技術者が管理できる近接工事等の明確化 | |
イ 予定価格等の適切な算定のための対策 | ③ 実勢価格を反映した公共工事設計労務単価の設定 |
④ 急激な物価変動に伴う請負代金額の変更(インフレスライド) | |
⑤ 急激な物価変動に伴う請負代金額の変更(単品スライド) | |
⑥ 発注ロットの拡大を踏まえた間接工事費の算出、点在する工事箇所ごとの工事費の算定 | |
⑦ 被災地以外からの技術者・技能者の確保に要する追加費用への対応 | |
⑧ 宿泊等に係る間接費の設計変更の導入 | |
⑨ 建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入 |
上記の各対策の内容は、次のとおりとなっている(各対策には表2に対応する番号を付してある。)。
東北3県における建設工事については、不足する技術者や技能者を広域的な観点から確保することを可能とするため、被災地域の地元の建設事業者が被災地域外の建設事業者と結成する共同企業体が入札に参加できる制度(以下、この共同企業体を「復興JV」といい、復興JVが入札に参加できる制度を「復興JV制度」という。)を試行的に導入した。
工事の対象となる工作物に一体性若しくは連続性が認められる工事又は施工に当たり相互に調整を要する工事で、かつ、工事現場の相互の間隔が5㎞程度の近接した場合において同一の建設事業者が施工するものについては、1人の専任の主任技術者が原則2件程度の工事を管理することができることとした。
東北3県における公共工事設計労務単価について、労働市場の実勢価格を反映させることに加えて、被災地等の入札不調の抑制のために単価を引き上げるなどした。
予期することのできない特別の事情により、工期内に急激な物価変動を生じ、請負代金額が著しく不適当となったときは、受注者は請負代金額の増額変更を請求することができるなどとされている(以下、このことを「インフレスライド」という。)。しかし、この運用について具体的な基準等がなかったことから、適用対象工事、請負代金の変更額の算定式等の運用基準を定めた。また、特別な要因により工期内に主要な工事材料の価格が著しい変動を生じ、請負代金額が不適当となったときは、発注者又は受注者はその変更を請求することができるなどとされている(以下、このことを「単品スライド」という。)。
市町村をまたがなくても、積算額と実際に要する費用との間にかい離が生ずるおそれがあると事業主体が判断する工事については、市町村より狭い範囲で工事箇所を設定して、この工事箇所ごとに間接工事費を算出できることとした。
現行の積算基準による積算では技術者・技能者に係る宿泊費等にかい離が生ずることが想定されるとして、共通仮設費率及び現場管理費率に補正係数を乗ずることにより対応することとした。また、契約締結後、技術者・技能者の確保に要する方策に変更があった場合に必要になる宿泊費、技術者・技能者の輸送に要する費用等については、設計変更により対応することとした。
工事実施段階において当初の調達条件により難い場合には、調達の実態を反映して、輸送費、購入費等については、設計変更により対応することとした。
以上のとおり、①は入札に参加できる者を増やそうとする対策であり、②は入札に参加できる機会を増やそうとする対策である。また、③、⑥及び⑦は実勢価格を反映した予定価格とすることにより、④、⑤、⑧及び⑨は受注者が契約締結後に採算が合わなくなる懸念を払拭することにより、建設事業者が入札に参加しやすくしようとするなどする対策である。
事業主体における国の入札不調対策の導入状況及び活用実績についてみると、表3のとおり、東北地方整備局、東北農政局及び東北3県についてはほとんどの対策は導入されて活用されているが、一部の市町については導入されていない対策も見受けられた。また、導入されているものの活用率の低い対策も見受けられた。
表3 各事業主体における国の入札不調対策の導入状況及び活用実績
事業主体 | 入札不調対策 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
①復興JV制度の活用 | ②1人の主任技術者が管理できる近接工事等の明確化 | ③実勢価格を反映した公共工事設計労務単価の設定 | ④急激な物価変動に伴う請負代金額の変更(インフレスライド) | ⑤急激な物価変動に伴う請負代金額の変更(単品スライド) | ⑥発注ロットの拡大を踏まえた間接工事費の算出、点在する工事箇所ごとの工事費の算定 | ⑦被災地以外からの技術者・技能者の確保に要する追加費用への対応 | ⑧宿泊等に係る間接費の設計変更の導入 | ⑨建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入 | ||
東北地方整備局 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
東北農政局 | △ | 〇 | 〇 | △ | △ | △ | 〇 | 〇 | 〇 | |
岩手県 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
宮城県 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
福島県 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | |
岩手県 | 宮古市 | × | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 | 〇 | △ | △ |
大船渡市 | × | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 | 〇 | × | △ | |
陸前高田市 | × | × | 〇 | △ | △ | × | 〇 | △ | 〇 | |
釜石市 | × | △ | 〇 | △ | 〇 | 〇 | △ | △ | △ | |
山田町 | × | 〇 | 〇 | △ | △ | △ | × | × | × | |
一関市 | × | × | ○ | △ | △ | △ | ○ | × | × | |
奥州市 | × | ○ | ○ | △ | △ | × | × | × | × | |
宮城県 | 仙台市 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
石巻市 | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
気仙沼市 | × | △ | ○ | △ | △ | ○ | ○ | ○ | △ | |
名取市 | × | ○ | ○ | △ | △ | ○ | ○ | △ | △ | |
南三陸町 | × | ○ | ○ | △ | △ | ○ | ○ | △ | × | |
白石市 | × | ○ | ○ | △ | △ | × | ○ | × | × | |
登米市 | × | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | △ | △ | |
福島県 | いわき市 | × | ○ | ○ | △ | △ | △ | ○ | △ | △ |
相馬市 | × | ○ | ○ | △ | △ | △ | △ | △ | △ | |
新地町 | × | △ | ○ | △ | × | △ | △ | △ | △ | |
福島市 | × | △ | ○ | △ | △ | × | ○ | × | × | |
郡山市 | × | △ | ○ | △ | ○ | △ | △ | △ | △ | |
白河市 | × | △ | ○ | △ | △ | △ | × | △ | × | |
須賀川市 | × | ○ | ○ | △ | △ | △ | △ | × | △ | |
計26事業主体 | 〇(A) | 6 | 17 | 26 | 6 | 5 | 13 | 18 | 8 | 7 |
△(B) | 1 | 7 | 0 | 20 | 20 | 9 | 5 | 10 | 12 | |
× | 19 | 2 | 0 | 0 | 1 | 4 | 3 | 8 | 7 | |
導入率 ((A+B)/26) |
26.9% | 92.3% | 100.0% | 100.0% | 96.1% | 84.6% | 88.4% | 69.2% | 73.0% | |
活用率 (A/(A+B)) |
85.7% | 70.8% | 100.0% | 23.0% | 20.0% | 59.0% | 78.2% | 44.4% | 36.8% |
事業主体において復興JVが落札した工事件数は、表4のとおり、制度の試行が始まってから1年以上が経過しているものの、計23件となっていた。そして、東北地方整備局においては、復興JVを対象として入札が行われた工事件数63件のうち復興JVが入札に参加した工事件数は9件となっており、また、東北農政局においては、これまで復興JVが参加できる入札を行っていなかった。
表4 各事業主体における復興JV制度の落札工事件数等
事業主体 | 復興JVの結成数 | 復興JVを対象とした入札工事件数 | 左のうち復興JVが入札に参加した工事件数 | 左のうち復興JVが落札した工事件数 |
---|---|---|---|---|
東北地方整備局 (河川、道路等の工事) |
1 | 36 | 7 | 1 |
東北地方整備局 (港湾及び空港工事) |
2 | 27 | 2 | 1 |
東北地方整備局の計 | 3 | 63 | 9 | 2 |
東北農政局 | 0 | 0 | 0 | 0 |
岩手県 | 19 | — | — | 5 |
宮城県 | 72 | 170 | — | 6 |
福島県 | 14 | 12 | 10 | 9 |
仙台市 | 6 | 61 | 0 | 0 |
石巻市 | 12 | — | — | 1 |
合計 | / | / | / | 23 |
入札参加資格については、工事の品質を確保しつつ緩和することにより、入札参加者が増加することが期待されることから、東北地方整備局、東北農政局、東北3県等の入札参加資格及びその緩和状況についてみると次のとおりとなっている。
すなわち、東北農政局は災害復旧事業に係る工事について原則として地域要件を定めないこととしており、また、東北地方整備局は復旧・復興事業に係る一部の工事について当初の入札から地域要件を緩和することとしている。
また、災害復旧事業に係る工事の入札不調対策として、同種工事の施工実績について工種のみを入札参加資格とし、施工規模については要件として求めないこととするなどして、施工実績要件を緩和している事業主体が見受けられた。
さらに、本来、特定の等級に属する建設事業者に入札参加が認められる工事のうち工事難易度の低い一部の工事については、直近下位の等級に属する建設事業者の入札参加も認めて、等級要件を緩和している事業主体が見受けられた。
東北地方整備局は、東北3県における国、地方公共団体等が発注する工事での建設資材の需要の見込数量及び事業者団体における建設資材の供給可能量について定期的に調査を実施して、国、地方公共団体、供給事業者の団体等に対して、その需給見通しなどの情報を提供している。そして、これによれば25年度から28年度までの東北3県の沿岸部の9地区における生コンクリートの需給予測において、需要量が供給可能量を大幅に上回る地区が見受けられた。
東北3県の沿岸部では、港湾工事等に使用する割栗石、コンクリート用又は道路用の骨材、生コンクリート等の建設資材の不足が著しいことから、個々の建設事業者だけでは解決できない問題であるとして、東北地方整備局、東北農政局及び宮城県は、二次製品の活用により需要量を減少させたり、遠隔地からの調達により供給量を増加させたりするなどの対策を執っている。
復旧・復興事業を迅速かつ円滑に実施していくためには、これまで講じられた入札不調対策の効果を検証して、その結果によっては更なる対策を講ずるよう検討することも必要である。そして、入札不調対策の効果の検証に当たっては、受注者となる建設事業者において、入札不調対策に対してどのような意識を持っているのかなどを把握しておくことも重要である。そこで、東北3県及び近隣3県に所在する建設事業者のうち各県に登録されている建設事業者からそれぞれ1,500者を抽出して、計3,000者に対して25年4月に質問票により意見を徴取したところ、東北3県927者、近隣3県979者、計1,906者(回答率63.5%)から回答が得られた。
入札への不参加理由、入札不調対策に関する認知度、評価等、建設事業者の受注余力等、入札参加資格の緩和の各項目に対する回答は次のとおりとなっている。
ア 東北3県の建設事業者のうち復旧・復興工事について、入札参加資格があるのに一般競争入札への参加を見合わせたことや、指名競争入札の指名通知を受けたが入札を辞退したことがあるとした者は71.1%となっており、その主な理由は、図2のとおり、自社の技術者が手一杯であるとした者が74.2%と相当の割合を占めるなど労働者関係の理由が大半を占めていた。
図2 入札不参加の主な理由(単位:%)
イ 東北3県の事業主体が執った入札不調対策の内容について、建設事業者が受注した後に費用が増加し赤字になるという懸念を払拭するための対策である建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入を知らないとしている者の割合が東北3県の建設事業者については51.8%、近隣3県の建設事業者については77.4%、宿泊等に係る間接費の設計変更の導入を知らないとしている者の割合が東北3県の建設事業者については48.4%、近隣3県の建設事業者については75.8%などとなっていた。
ウ 東北3県の建設事業者において、国が講じている入札不調対策について、その内容をよく知っている又は少しは知っているとしている者における評価は、効果があるとやや効果があるとを合わせた者の割合は、復興JV制度については44.0%となっていた一方で、急激な物価変動に伴う請負代金額の変更、建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入等のその他の対策については60%程度となっていた。
エ 会社の手持ち工事の件数や規模、技術者の数を考慮した東北3県の建設事業者の今後の受注余力について、あまり余力がないとした者の割合は34.1%、ほとんど余力がないとした者の割合は13.0%となっていた。また、近隣3県の建設事業者のうち東北3県で実施される復旧・復興事業に係る工事について、今後、受注する予定がある又は受注を希望している者は46.8%となっていた。
オ 復旧・復興事業に係る工事に関する入札不調対策として、地域要件、施工実績要件及び等級要件の緩和を図ることについて、東北3県の建設事業者の意向をみると、賛成と条件付きで賛成とを合わせた者の割合が50%を超えていた。
東日本大震災に係る復旧・復興事業の早期の実施が求められている中、地震及び津波により甚大な被害を受けた東北3県における復旧・復興事業に係る工事において、入札不調が発生している。そして、今後も多額の復旧・復興事業の実施が見込まれていることから、入札不調の発生を抑制し、速やかに復旧・復興事業が実施されることが重要である。
本院は、直轄事業及び補助事業に係る工事の入札等において、入札不調はどの程度発生しており、その原因は何か、国が講じている入札不調対策は事業主体にどの程度導入されているか、また、入札不調対策は入札不調の発生を抑制するために効果的なものとなっているかなどに着眼して検査を行ったところ、次のような状況が見受けられた。
東日本大震災の被災地では、速やかな復旧・復興が待ち望まれているが、東北3県における復旧・復興事業に係る工事において、技術者、技能者等の人材、砂、砕石、生コンクリート等の建設資材の不足が生ずることなどにより、入札不調が高い割合で発生している。さらに、同一の工事について、入札不調が繰り返されることにより発注担当者の業務量が増えることはもとより、工事の完成が遅れることも懸念される。
これに対して、事業主体は、国土交通省及び農林水産省から発出された通知等を受けて、入札不調を解消すべく各種の対策を実施しているが、東北3県においては、海岸、河川、下水道等の災害復旧事業に加えて、住民の生活に直結する仮設住宅の入居者等のための災害公営住宅の整備、三陸沿岸道路の整備等の復興事業が予定されており、これらを合わせると27年度までの集中復興期間を中心に工事の発注量が膨大なものになることが見込まれることから、今後の発注量の増加等に伴い入札不調の割合は高水準で推移するおそれがある。
一方、復旧・復興事業の財源は、国民の税金をもって賄われるものであることから、事業の効率性、有効性等にも配慮をしつつ進めることが必要である。
以上の検査の状況を踏まえて、国土交通省及び農林水産省において、引き続き、次の点に留意して、入札不調に対して実効性のある対策を講ずることにより、円滑かつ迅速な復旧・復興事業の実施に努める必要がある。
本院としては、27年度までの集中復興期間において復旧・復興事業に係る相当量の工事の発注が続く見込みであることから、東北3県における入札不調の状況の推移、その対策の実施状況、効果等について引き続き注視していくこととする。