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  • 平成24年度 |
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等 |
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

第6 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染に対する除染について


検査対象
内閣府、環境省、6県
検査の対象とした事業の概要
東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、国及び地方公共団体が実施する除染
除染に関する事業の執行額
4692億円(平成23、24両年度)

1 検査の背景

(1) 福島第一原発事故の発生

平成23年3月11日に、東北地方太平洋沖地震が発生し、宮城県北部で震度7を観測したほか、東日本を中心に広い範囲で揺れを観測し、また、東北地方から関東地方北部にかけての太平洋沿岸の広い範囲で津波を観測した。この地震とそれが引き起こした津波により、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の福島第一原子力発電所において大量の放射性物質が放出されるという重大な事故が発生した(以下、この事故を「福島第一原発事故」という。)。

(2) 放射性物質汚染対処特措法及び緊急実施基本方針による除染の枠組み

福島第一原発事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境汚染が生じていることに鑑み、当該環境汚染への対処に関し、国、地方公共団体、関係原子力事業者等が講ずべき措置について定めることなどにより、環境汚染が人の健康や生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が23年8月30日に公布されるとともに、一部の規定については同日施行され、24年1月1日に全面施行された。

放射性物質汚染対処特措法の枠組みに基づく計画的かつ抜本的な除染が実施されるまでには、一定の期間が必要となる。そこで、内閣府に設置された原子力災害対策本部は、23年8月26日に、今後2年間に目指すべき目標等を取りまとめた「除染に関する緊急実施基本方針」(以下「緊急実施基本方針」という。)を決定している。緊急実施基本方針では、放射性物質汚染対処特措法の枠組みによる除染が実施されるまでの間は、この緊急実施基本方針に基づいて除染を緊急的に推進することとされ、放射性物質汚染対処特措法が全面施行された以降は、この緊急実施基本方針に定められている内容を順次放射性物質汚染対処特措法の枠組みに移行することとされている。

これら緊急実施基本方針の枠組みの中で実施される除染に関する事業に要する経費については、内閣府において予算措置されている。

そして、23年12月には、除染特別地域に、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域として、表1のとおり、福島県内の11市町村が指定された。同地域内の除染等の措置等(注1)は、国が定めた特別地域内除染実施計画(以下「特別地域内計画」という。)に基づき、環境省が実施することとなっている。

表1 除染特別地域として指定された市町村

都道府県名 市町村数 市町村名
福島県 11 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、及び飯舘村。また、田村市、南相馬市、川俣町、川内村で警戒区域又は計画的避難区域であったことのある地域

また、23年12月に、102市町村が、空間線量率が0.23μSv/h(注2)以上の地域として、汚染状況重点調査地域に指定された。その後、24年2月に2町が指定され、同年12月に3町村の指定が解除されたことにより、24年度末現在、表2のとおり、8県において計101市町村が指定されている。同地域における除染等の措置等は、市町村長等が定める除染実施計画に基づき、当該市町村等が実施することとなっている。

表2 汚染状況重点調査地域として指定されている市町村(平成24年度末現在)

都道府県名 市町村数 市町村名
岩手県 3 一関市、奥州市、平泉町
宮城県 9 石巻市、白石市、角田市、栗原市、七ケ宿町、大河原町、丸森町、亘理町、山元町
福島県 40 福島市、郡山市、いわき市、白河市、須賀川市、相馬市、二本松市、田村市、南相馬市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村、鏡石町、天栄村、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、会津美里町、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町、広野町、川内村、新地町
茨城県 20 日立市、土浦市、龍ケ崎市、常総市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、取手市、牛久市、つくば市、ひたちなか市、鹿嶋市、守谷市、稲敷市、鉾田市、つくばみらい市、東海村、美浦村、阿見町、利根町
栃木県 8 佐野市、鹿沼市、日光市、大田原市、矢板市、那須塩原市、塩谷町、那須町
群馬県 10 桐生市、沼田市、渋川市、安中市、みどり市、下仁田町、中之条町、高山村、東吾妻町、川場村
埼玉県 2 三郷市、吉川市
千葉県 9 松戸市、野田市、佐倉市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市、印西市、白井市
101
注(1)
除染等の措置等  放射性物質汚染対処特措法において、「土壌等の除染等の措置並びに除去土壌の収集、運搬、保管及び処分」と規定されている。また、「土壌等の除染等の措置」とは、「事故由来放射性物質により汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染に係る土壌、落葉及び落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置」と規定されている。
注(2)
Sv(シーベルト)  人体の被ばくによる生物学的影響の大きさ(線量当量)を表す単位。なお、1時間被ばくを受け続けた場合に、どの程度の線量当量を受けるかを表す線量率の単位が「Sv/h」である。

1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在したと仮定して、1年間の追加被ばく線量(自然界からの被ばく線量及び医療被ばくを除いた被ばく線量)1mSvを1時間当たりに換算すると0.19μSv/hとなり、これに自然界からの放射線のうち大地からの放射線に係る線量率0.04μSv/hを加えると、0.23μSv/hとなる。

1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在したと仮定して、1年間の追加被ばく線量(自然界からの被ばく線量及び医療被ばくを除いた被ばく線量)1mSvを1時間当たりに換算すると0.19μSv/hとなり、これに自然界からの放射線のうち大地からの放射線に係る線量率0.04μSv/hを加えると、0.23μSv/hとなる。

これら放射性物質汚染対処特措法の枠組みの中で実施される除染に関する事業に要する経費については、環境省等において予算措置されている。

なお、放射性物質汚染対処特措法に基づいて講じられる措置は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)の規定により関係原子力事業者が賠償する責めに任ずべき損害に係るものとして、当該関係原子力事業者の負担の下に実施されるものとされており、また、当該関係原子力事業者は、この法律に基づき講じられる措置に要する費用について請求又は求償があったときには、速やかに支払うよう努めなければならないこととされている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性、有効性等の観点から、国による予算措置の状況及び措置された予算の執行状況はどのようなものとなっているか、また、除染特別地域及び汚染状況重点調査地域における除染の進捗はどのような状況となっているかなどに着眼して検査した。

そして、検査に当たっては、23、24両年度に実施された除染に関する事業等を対象として、内閣府及び環境省並びに汚染状況重点調査地域に指定された市町村がある8県のうち、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉の6県(以下、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉各県を合わせて「茨城県等5県」という。)等において、調書を徴して、その内容を分析するなどの方法により会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 除染に関する予算措置

前記のとおり、緊急実施基本方針及び放射性物質汚染対処特措法の枠組みにおける除染に関する事業に要する経費については、内閣府及び環境省等において予算措置されている。

内閣府においては、緊急実施基本方針の枠組みの中で、除染に早急に着手できるよう当面必要となる経費として、一般会計において23年度東日本大震災復旧・復興予備費から2179億余円を措置している。

環境省においては、放射性物質汚染対処特措法の成立を踏まえ、除染に関する事業に要する経費として、一般会計において23年度第3次補正予算で1996億余円を計上している。また、24年度以降は、復興庁が復興に関する行政各部の事業を統括・監理する一環として、東日本大震災からの復興事業に関する経費を東日本大震災復興特別会計に一括計上した上で予算成立後に環境省に移替えすることとしており、同特別会計において、24年度当初予算で3720億余円が、25年度当初予算で4977億余円がそれぞれ計上されている。

(2) 除染に関する予算措置

上記の内閣府及び環境省等が措置した除染に関する予算に対する23、24両年度の支出済歳出額(除染に関する事業の国の執行額)は計4692億余円となっている。

(3) 環境省による除染特別地域における除染の実施状況

ア 福島事務所の体制整備の状況

環境省は、24年1月の放射性物質汚染対処特措法の全面施行に伴い、福島県等における除染を推進するための拠点として、福島市内に同省福島環境再生事務所(以下「福島事務所」という。)を39名の定員で発足させた。そして、地元とより緊密な連携を図るため、同年4月には210名体制に拡充するとともに、5支所を福島県内に設置している。

25年4月には、体制の更なる拡充を図るため職員の増員を行っており、同年5月1日現在の実員数は274名、このうち除染に係る業務を担当する人員は161名となっていて、これらの人員で、除染の実施に先立って必要となる土地の所有者等の関係人の把握や関係人の同意取得に関する業務、住民説明会の実施、契約関係業務等多種多様な業務を行っている。

なお、24年4月には、福島事務所に会計機関が設置され、それ以降は現地で執行する契約に関する事務を福島事務所が一元的に実施することとなった。

イ 先行除染の実施状況

(ア) 除染特別地域の先行除染

特別地域内計画に基づく除染(以下「本格除染」という。)を実施するに当たっては、本格除染の活動拠点となる施設等を先行的に除染(以下、このような除染を「先行除染」という。)する必要がある。そこで、環境省は、特別地域内計画の策定を待たずに、先行除染により発生する除去土壌等の仮置場等が確保された施設等から順次除染を実施している。そして、23年12月に、陸上自衛隊の協力を得て楢葉町、富岡町、浪江町及び飯舘村の各役場の除染を実施するとともに、それ以降は外部に委託するなどしていて、24年度末までの間に双葉町を除く10市町村において先行除染を実施しており、福島事務所によると、24年度末時点で10市町村における先行除染はほぼ完了したとしている。

(イ) 常磐自動車道の除染

福島県の復興の加速化を図る上で重要な役割を果たすこととなる常磐自動車道の早期開通を目指すため、環境省は、東日本高速道路株式会社が実施する常磐自動車道の復旧及び建設工事と並行して除染を実施することとし、同自動車道の広野インターチェンジから南相馬インターチェンジまでの区間のうち、警戒区域内を通過する延長約41㎞について、路面上の平均空間線量率が3.8μSv/hを超える区間を対象に敷地全面の除染を実施することとしている。

除染の実施に当たっては、路面上の平均空間線量率が3.8μSv/h超9.5μSv/h以下となる区間のうち、東日本高速道路株式会社が復旧及び建設工事を実施する箇所については舗装等の施工により放射線量の低減が期待できることから、これら以外の箇所について、開通時の路面上における空間線量率がおおむね3.8μSv/h以下となることを目指すこととしている。また、同9.5μSv/h超となる区間については、開通時の路面上における空間線量率が最も高い箇所においてもおおむね9.5μSv/h以下となることを目指すこととしている。

そして、上記の方針により、福島事務所は、24年11月に除染工事を契約金額20億2125万円で発注し、25年1月に着手されており、同年9月時点で仮置場の安全対策を実施しているところである。

ウ 本格除染の実施状況

(ア) 関係人の同意状況

環境本省は除染特別地域における関係人の把握について、外部に委託して行うとともに、福島事務所(23年度は環境本省)は関係人から土地への立入りについて了解が得られた箇所から順次建物等の状況調査を外部に委託して行っている。また、関係人の同意取得手続については、福島事務所の職員が行っているほか、本格除染の加速化を図るため外部にも委託して行っている。

除染対象区域における関係人の同意取得状況についてみると、南相馬市、大熊町及び浪江町においては、同意が得られた関係人が24年度末時点では皆無となっていたが、25年7月末時点では徐々にではあるが同意取得が進んでいる状況となっている。

(イ) 仮置場の確保状況

本格除染に着手するには、除染の実施に対する関係人の同意取得と同様に本格除染により発生する除去土壌等を一時的に保管することとなる仮置場を確保することが前提条件となっている。

24年度末時点では除去土壌等の発生推計量に見合うだけの仮置場が確保されているのは田村市及び川内村のみで、南相馬市、川俣町、大熊町及び浪江町においては確保された仮置場が皆無となっていたが、25年7月末時点では浪江町を除き徐々にではあるが仮置場の確保が進んでいる状況となっている。

(ウ) 本格除染の進捗状況及び発注状況

福島事務所は、計画策定市町村のうち、除去土壌等の発生推計量に見合うだけの仮置場が確保されていたり、その見込みが立っていたりする箇所から順次除染工事を発注して、本格除染に着手することとしている。そして、計画策定市町村のうち、24年度末時点で本格除染に着手しているのは、田村市、楢葉町、川内村及び飯舘村の4市町村となっている。

また、環境省は、地元住民の不安を解消するための取組の一環として、本格除染に着手した市町村ごとに、除染対象区域における代表的な地目である「住宅地」、「農地」、「森林」及び「道路」(以下、これらを合わせて「4地目」という。)の各地目について本格除染の進捗状況として4地目ごとの実施率(除染実施数量を除染対象数量で除した率)等をホームページ上で公表している。

そして、前記4市町村の除染対象区域における24年度末時点と25年7月末時点の本格除染の進捗状況についてみると、25年6月に本格除染が完了した田村市のほか、楢葉町及び川内村においても進んでいる一方で、飯舘村においてはほとんど進んでいない状況となっている。

また、24年度末時点では本格除染が着手されていないものの、川俣町及び葛尾村については25年3月に、大熊町については同年6月に、それぞれ除染工事が発注されている。

前記の4市町村を含むこれら7市町村について24年度末時点と25年7月末時点における本格除染の進捗状況(発注ベース)を4地目別にみると、田村市、楢葉町、川内村、大熊町及び葛尾村は発注率が100%となっている一方で、飯舘村は発注率が低くなっている。

(エ) 除染特別地域内の11市町村における状況

特別地域内計画の策定や仮置場の確保等は本格除染を実施する上で不可欠なものであるが、地元調整等の不確定要素を伴うため、市町村によって本格除染の進捗状況に差が生じている。

そこで、本格除染の進捗状況、特に除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)の工程表において除染の完了目標年度が25年度末までとされていたことに鑑み、同時点における本格除染の完了の見込み(特別地域内計画の達成の見込み)などについて、除染特別地域に指定されている11市町村ごとにみると次のとおりとなっている。

田村市については、特別地域内計画の策定や仮置場の確保等に関する地元との調整が順調に進んでいたことから、24年7月に除染対象区域の全域を対象とした除染工事(契約額33億3679万余円)が発注され、25年6月に本格除染が完了している。

南相馬市については、当初は24年度に実施する計画であった区域内の4行政区について、25年度に入って仮置場が確保されたことから、福島事務所は、25年6月に除染工事(契約額241億2900万円)を発注し、関係人の同意取得手続と並行して除染工事を進めることとしているが、他の行政区については仮置場が確保されていないことなどから、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

川俣町については、25年3月に、当初は24年度に実施する計画であった区域と、25年度に実施する区域内の全ての住宅地を対象とした除染工事(契約額186億2100万余円)が発注されていて、福島事務所は、25年度に入って仮置場が確保されたことや、関係人の同意取得手続が順調に進んでいることから、これらの除染については25年度末までに完了する見込みであるとしている。また、このほかに、25年7月末までに、25年度に実施する区域内の6行政区において仮置場が確保されたり、その見込みが立っていたりしているが、仮置場が確保されていない行政区もあることなどから、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

楢葉町については、24年7月に24年度に実施する区域の除染工事(契約額206億1113万余円)が、25年3月に25年度に実施する区域の除染工事(契約額146億7417万円)が、それぞれ発注されていて、福島事務所は、25年7月末時点で仮置場が確保されていることや、関係人の同意取得手続も順調に進んでいることから、25年度末までに除染対象区域全域の本格除染が完了する見込みであるとしている。

富岡町については、除染対象区域を2地域に区分し、それぞれの地域ごとに仮置場を確保することとしており、このうちの1地域については仮置場が確保されたことから、25年8月に除染工事(契約額573億3000万円)が発注されている。この地域について、福島事務所は、関係人の同意取得手続を外部に委託して進めるとともに、これと並行して除染工事を行うこととしているが、同意取得が進んでいないことから、25年度末までに当該地域の本格除染を完了させることは困難であるとしている。また、残りの1地域についても仮置場が一部しか確保されていないことなどから、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

川内村については、24年7月及び25年3月に除染工事(契約額はそれぞれ43億3650万円、38億4300万円)が発注されていて、福島事務所は、仮置場が確保されていることや、関係人の同意取得手続も完了していることから、25年度末までに除染対象区域全域の本格除染が完了する見込みであるとしている。

大熊町については、25年度に入ってから仮置場が確保されたり、その見込みが立っていたりしていることから、福島事務所は、25年6月に発注した除染工事(契約額151億2000万円)と並行して関係人の同意取得手続を進めることにより、25年度末までに除染対象区域全域の本格除染が完了する見込みであるとしている。

双葉町については、避難指示区域の見直しについての協議に時間を要したことから、25年8月末時点においても特別地域内計画が策定されておらず、計画の策定に向けて地元との調整を行っている状況にあることから、福島事務所は、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

浪江町については、1行政区においては25年7月末までに仮置場の確保の見込みが立ったことから、福島事務所は、関係人の同意取得手続を進めることとしているが、他の行政区については仮置場の確保に向けた調整が続いているため、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

葛尾村については、当初、除去土壌等を可能な限り集約することとして村内の3地区に仮置場を設置することで調整を行い、25年3月に除染対象区域全域を対象とした除染工事(契約額518億5693万余円)が発注された。その後、3地区のうち2地区において仮置場の候補地の選定が難航したため、福島事務所は方針を変更し、仮置場が確保されるまでの間は各行政区の仮置場で一時的に保管することとしている。そして、仮置場が確保された村内の1地区の仮置場に除去土壌等を搬入することにより除染工事を進めているが、25年7月末時点で行政区ごとの仮置場が確保されていないことから、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

飯舘村については、24年8月に、除去土壌等は発生した現場で一時的に保管することとして、24年度に実施する区域のうちの4行政区を対象に除染工事(契約額77億1750万円)が発注されている。しかし、4行政区における仮置場の確保に時間を要したことなどから、除去土壌等の現場保管について関係人の同意が得られず、24年度は除染工事が進んでいない状況となっている。そして、25年度に入って4行政区のうちの2行政区において仮置場が確保されたことから、当該2行政区の本格除染を24年度に引き続き実施するとともに、これとは別に、当初は24年度に本格除染を実施する計画であった区域内の3行政区において新たに仮置場が確保されたことから、25年8月に除染工事(契約額216億3000万円)が発注されている。しかし、福島事務所は、24年度に実施する計画であった他の行政区や25年度に実施する計画となっている行政区については仮置場が確保されていないことなどから、25年度末までに除染対象区域全域にわたる本格除染を完了させることは困難な状況であるとしている。

11市町村における本格除染の進捗状況は上記のとおりであり、25年度末までに7市町村において除染対象区域の本格除染が完了しない見込みとなっている。

環境省は、除染特別地域及び汚染状況重点調査地域における除染の進捗状況全般にわたる点検を実施し、その結果等を25年9月に公表している。この中で、本格除染が完了しない見込みとなっている上記7市町村のうち双葉町を除く6市町村については各市町村と引き続き調整を行い年内を目途に特別地域内計画の変更を行うこととしている。また、双葉町については特別地域内計画の策定に向けて引き続き調整を行うこととしており、特別地域内計画の変更や策定に当たっては、個々の市町村の状況に応じ、復興の動きとも連携しながら除染の進め方を見直すこととしている。

エ 除染適正化プログラムの構築

25年1月、環境省が発注した除染において、川の縁に積もった枯れ葉を足で川に流していたなど作業が適正に行われていないとの報道がなされた。これを契機として、同省は、同月、事実関係確認のための調査や適正な除染の推進方策の検討を行う除染適正化推進本部を設置した。

そして、環境省は、事業者(除染工事の受注者)に対し、報道等で指摘された事案や他に不適正な事案があるか調査した結果について報告を求めるとともに、同省に直接寄せられた通報も踏まえ、計19件の事案(新聞報道等の掲載等を受けて事業者が環境省に報告したものが15件、環境省が通報等を受けたものが4件)について、事業者、通報者等からの聞き取り調査を実施した。そして、同省は、このうち2件の事案について、仕様書に記載された事項等に照らし適切ではないことから、事業者に対して改善の指示を行っている。また、同省の現地調査により不適正な事案が1件発見され、同省は、これについても事業者に改善の指示を行っている。

また、環境省は、本件事態を踏まえ、25年1月に除染適正化プログラムを作成し、①事業者の施工責任の徹底、②幅広い管理の仕組みの構築、③環境省の体制強化からなる再発防止策を講じた。こうした取組もあって、25年7月末現在、不適正な除染と判断した事例は見受けられていない。

(4) 福島県の県及び市町村による除染の実施状況

福島県内で汚染状況重点調査地域に指定されている市町村は、24年度末時点で40市町村となっていて、このうち三島町、柳津町、塙町及び矢祭町の4町については、25年8月末時点では具体的な除染実施計画が策定されていない。

ア 福島県民健康管理基金

福島県は、23年9月に福島県民健康管理基金条例(平成23年福島県条例第83号)を制定し、福島第一原発事故による災害及びその影響から県民の健康を守るために実施する県民の健康管理に資する事業に要する資金を積み立てる福島県民健康管理基金を設置している。

福島県民健康管理基金のうち除染に充てるための資金として、内閣府が23年度東日本大震災復旧・復興予備費により交付した1922億余円並びに環境省が23年度第3次補正予算及び24年度当初予算により交付した1644億余円が生活環境部生活環境総務課において管理されている(以下、同課が管理している資金を「除染対策基金」という。)。

イ 除染対策基金による除染の実施状況等

福島県は、除染対策事業交付金交付要綱(平成23年環保第1794号)等を定め、除染実施計画を策定している市町村に対し、除染対策基金を取り崩して除染対策事業交付金を交付することとしている。

同交付要綱等によると、除染対策事業交付金の交付対象は、放射性物質汚染対処特措法に基づき除染実施計画が策定されているとともに、除染により生ずる廃棄物等の仮置場の予定地が既に確保されているか、又は確保の見込みがある市町村とされている。

このほか、福島県は、市町村が策定した除染実施計画に基づき、県が管理する施設の除染を実施する場合も、それに要する経費を同基金から取り崩して支出している。そして、除染対策事業交付金の市町村への交付状況及び福島県が市町村の除染実施計画に基づき実施した除染に対する除染対策基金からの取崩し状況等についてみると、福島県は、県が実施した除染に係る経費として、除染対策基金から23年度に5813万余円を、24年度に33億0419万余円を取り崩している。また、除染対策事業交付金として23年度に25市町村に対して66億1054万余円を、24年度に36市町村に対して2228億4827万余円をそれぞれ交付している。そして、24年度に除染対策事業交付金の交付を受けた36市町村のうち32市町村において1262億7708万余円が25年度に繰り越されているほか、福島県も18億1128万余円を繰り越している。なお、23年度から24年度への繰越しはない。

また、除染対策事業交付金の交付を受けて除染を実施している福島県内の市町村における進捗状況を「公共施設」、「住宅」、「道路」及び「水田」の計画数量に対する発注数量でみると、一定程度の発注が進んでいるものと思料される。

(5) 茨城県等5県の地方公共団体による除染の実施状況

福島県のほか、茨城県等5県においても、事故由来放射性物質による環境汚染が生じており、汚染状況重点調査地域に指定されている市町村がある。

ア 低減対策緊急補助金の交付状況

汚染状況重点調査地域に指定された市町村で、放射性物質汚染対処特措法に基づき除染実施計画を策定し、その除染実施計画に基づいて除染を実施した市町村は、環境省から放射線量低減対策特別緊急事業費補助金(以下「低減対策緊急補助金」という。)の交付を受けている。また、茨城県等5県は、市町村が策定した除染実施計画に基づいて県が管理する施設の除染を実施した場合には、市町村と同様に、環境省から低減対策緊急補助金の交付を受けている。これらの県及び市町村が23、24両年度に低減対策緊急補助金の交付対象事業に要したとした実績額及びそれに対する補助金の額の確定額について県ごとにみると、茨城県等5県の補助金の額の確定額は、23年度計31億8659万余円、24年度計77億6334万余円、両年度計109億4994万余円と多額に上っている。

イ 除染実施計画に対する除染の進捗状況

茨城県等5県で汚染状況重点調査地域に指定されている49市町村のうち、除染実施計画を策定した市町村においては、この計画の中で、いずれも子供の生活環境に関する施設について優先的に除染を実施することとしている。そこで、子供に関する施設のうち、「保育所」、「幼稚園」、「小学校」及び「中学校」の実施率をみると、ほとんどの市町村において100%となっていたが、「公園」は対象施設数が多いことから、20市町村で実施率が100%となっているものの、実施率が20%未満となっている市町村も見受けられた。

ウ 茨城県等5県管内の市町村における除染の実施状況

茨城県等5県の除染の実施状況についてみると、汚染状況重点調査地域の指定を受けていない市町村においても除染等を実施しており、茨城県等5県の市町村が実施した除染等に要した経費に係る財源は、必ずしも環境省の低減対策緊急補助金が大半を占めているわけではない状況となっている。

(6) 東京電力に対する除染費用の求償等

原賠法において、原子力損害の賠償責任は、原子炉の運転等に係る原子力事業者にあると規定されている。また、前記のとおり、放射性物質汚染対処特措法第44条第1項において、事故由来放射性物質による環境汚染に対処するため放射性物質汚染対処特措法に基づいて講じられる措置は、原賠法の規定により、関係原子力事業者が賠償する責めに任ずべき原子力損害に係るものとして、事故由来放射性物質を放出した原子力事業者の負担の下に実施されるものとするとされている。したがって、放射性物質汚染対処特措法に基づいて講じられる除染等の措置等については、東京電力の負担の下に実施されるものとされ、さらに、東京電力は、この措置等に要した費用について請求又は求償があったときは、速やかに支払うよう努めなければならないとされている。

環境省の東京電力に対する除染に係る求償額は、25年8月末現在で403億余円であり、これに対して東京電力から67億余円の支払を受けていて、336億余円が未払(未払率83.3%)となっている。

4 所見

事故由来放射性物質による環境汚染は、我が国にとって甚大な被害をもたらした。

除染に係る事業について検査を実施した結果、福島県内においては、環境省が除染を実施する除染特別地域及び福島県内の市町村が除染を実施する汚染状況重点調査地域について、除染が計画どおりに進んでいないなどの状況が見受けられた。

環境省においては、24年1月に福島事務所を開設するなどして、関係地方公共団体や関係府省等と連携して除染の推進に努めているところであるが、福島第一原発事故により避難を余儀なくされている人々の一日も早い帰還や被災地域の復興・再生を実現するためには、除染の加速化を図ることが重要であり、今後、より一層の取組が必要となる。福島事務所では、体制強化を図るなどして除染等の措置等の推進に努めている。しかし、除染は、限られた知識、経験、時間のなかで大規模な作業が求められる事業であり、また、きめ細やかに個別の調整を行っていくためには多くの人員も必要であり、今後、更に業務量が増加することも見込まれる。

一方、茨城県等5県の汚染状況重点調査地域においては、子供の生活環境に関する施設について優先的に除染を実施することとして、市町村が策定した除染実施計画に沿って除染が進んでいる状況が見受けられた。

ついては、今後、環境省において、以下の点に留意して除染が推進されるよう取り組むことが望まれる。

  • ア 福島県内において、環境省が除染を実施する除染特別地域及び福島県内の市町村が除染を実施する汚染状況重点調査地域について、除染が迅速かつ円滑に実施されるため、除染で発生する土壌等の仮置場の確保及び除染の実施に係る関係人の同意取得に時間を要している状況が改善されるよう、更に仮置場の確保等について地元と調整を図るなどしていくとともに、関係地方公共団体等との連絡調整を十分に行うなどして、有効かつ効率的な執行に努め、必要に応じて市町村に助言を行うなど緊密に連携すること
  • イ 福島事務所では、限られた人員で事業実施に取り組んでいるが、事業実施に当たっては、除染に関する専門的な知識も必要となることなどから、人的な事業実施体制について更に検討すること
  • ウ 「事故由来放射性物質による環境の汚染への対処に関する基本的な方針」における長期的な目標等の達成等に向けて、空間線量率の把握等について十分な検討を行うとともに、汚染状況重点調査地域に指定されている市町村に対して、必要に応じて助言を行うこと
  • エ 除染適正化プログラムに沿い、不適正な除染の再発防止に取り組んでいるところであるが、今後も適切に対応していくこと
  • オ 東京電力への求償について、支払を受けていないものがあることから、速やかに費用の支払が行われるよう、放射性物質汚染対処特措法の趣旨等も踏まえるなどして、十分に調整を行い、引き続き求償を行っていくなど適切に対応すること

東日本大震災のような大規模な災害においては、被災者、被災市町村等の要請に迅速かつ的確に応えることが重要である。福島第一原発事故の被災市町村等では、知見や経験を蓄積しながら除染に係る業務を行ってきており、これに対して関係府省等は、連携を図りながら除染を推進しているものの、更に被災市町村等において迅速かつ円滑な除染の実施が可能となるよう積極的に各種の支援を行うことが肝要である。

本院は、被災地域における復興・再生の基盤となる除染については、地元の理解を得ながら、迅速に実施されることが重要であることから、今後も引き続き注視していくこととする。