会計検査院は、平成24年9月3日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月4日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその結果を報告することを決定した。
裁判所
裁判所における会計経理等についての次の各事項
最高裁判所は、裁判所の事務の合理化及び効率化を図り、裁判機能の充実を図るなどのため、地方裁判所における民事事件に関する事件管理、保管金管理等を行う「民事裁判事務支援システム(MINTAS)」、地方裁判所における刑事事件に関する事件管理、期日管理、押収物管理等を行う「刑事裁判事務支援システム(KEITAS)」、情報システムの基盤として全国の裁判所を結ぶネットワークである「司法情報通信システム」等の情報システムを運用している。
裁判所は、会計法令等に基づき、契約の締結時に、通常、契約書等を作成することとされており、契約相手方から、履行の完了時に、役務契約であれば作業完了報告書、物件の購入であれば納品書の提出を受けて、検査職員によって検査を行う。そして、その後契約相手方から請求書の提出を受けて支出決定決議書を作成して、これに基づいて支払が行われる。
検察審査会は、検察審査会法(昭和23年法律第147号)に基づいて、検察官による公訴を提起しない処分(不起訴処分)の当否の審査等を行う組織であり、25年6月末現在、全国に165の検察審査会が設置されている。検察審査会は、検察審査会議(以下「会議」という。)を開催して不起訴処分とされた事件の処分の当否を審査(以下「事件審査」という。)する。また、会議は、公開しないこととされている。
各検察審査会は、衆議院議員の選挙権を有する者から選定された11人の検察審査員(以下「審査員」という。)によって組織される。また、審査員が欠けたときなどに代わりの審査員となる補充員が審査員と同様に11人選定される。審査員及び補充員(以下、両者を合わせて「審査員等」という。)の任期は6か月とされている。検察審査会は、審査員等の任期が開始したときは、その都度速やかに会議を開催し、検察審査会長(以下「会長」という。)を互選しなければならないとされており、また、毎年3月、6月、9月及び12月にもそれぞれ会議を開催しなければならないなどとされている。
各検察審査会には、事務局が置かれ、最高裁判所が定める定員の検察審査会事務官を置き、検察審査会事務官は、裁判所事務官の中から最高裁判所が命じること、検察審査会事務官のうち1人を検察審査会事務局長に任命して、検察審査会事務局長及び他の検察審査会事務官(以下、両者を合わせて「事務局職員」という。)は、検察審査会の事務をつかさどることなどとされている。
検察審査会に関する経費は、裁判所の経費の一部として国の予算に計上しなければならないとされている。また、審査員等、証人等及び弁護士の中から委嘱される審査補助員に対して旅費、日当及び宿泊料を支給することとされており、そのほかに、審査補助員に対しては手当を支給することとされている。
また、会議の議事について会議録を作成しなければならないとされている。
本院は、裁判所における会計経理等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような着眼点により検査を実施した。
契約方式は適切なものとなっているか、予定価格の算定は合理的なものとなっているか。
会計書類が適正に作成され、管理されているか、調達手続は適正に行われているか。
支出の規模はどの程度か、審査員等に対する旅費等の支出は適正に行われているか。
23、24両年度に最高裁判所が支払を行った情報システムに係る契約のうち、会計法令上、少額であることを理由として随意契約によることができるとされていないものを対象として、最高裁判所から調書を徴するとともに、最高裁判所において、予定価格の算定等の状況について関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
最高裁判所のほか、8高等裁判所、全国に50ある地方裁判所のうちの25地方裁判所及び全国に50ある家庭裁判所の中で専任所長の置かれた26の家庭裁判所のうちの5家庭裁判所、計38裁判所(注1)(以下、これらを合わせて「38高地家裁」という。)から本院に提出された23、24両年度の支出計算書(官署分)の証拠書類について、物件費及び施設費に係る請求書を対象に書面検査を行うとともに、納品書その他の会計書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、物品の納入等に係る契約先の中から選定した14業者等に対して、帳票類の提示を受けるなどして、会計実地検査を行った。
事件審査の件数を考慮するなどして選定した42検察審査会(注2)(以下「42検審」という。)における22、23両年度の公費の支出状況について、その会計事務を行っている25地方裁判所において関係資料を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、22年度から24年度までの検察審査会の運営に関して全165検察審査会から調書等を徴して検査した。また、上記の検査に加えて、審査員等が実在の人物であったのかを確認するために、11検察審査会(注3)の会議に出頭したとして旅費等が支払われている者に対して、本院から調査票を郵送して調査を実施した。
上記(ア)から(ウ)までの会計実地検査に要した人日数は、計382.4人日である。
表1 契約方式の状況
契約方式 | 289契約 | 左のうち年間支払金額 1000万円以上の契約 |
23年報告 | |||||||||
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件数 | 構成比 | 契約金額 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 契約金額 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 契約金額 | 構成比 | |
競争契約 | 162 | 56.1 | 5,220 | 59.3 | 71 | 48.3 | 4,811 | 59.0 | 950 | 56.6 | 674,055 | 72.2 |
随意契約 | 127 | 43.9 | 3,580 | 40.7 | 76 | 51.7 | 3,339 | 41.0 | 727 | 43.4 | 259,437 | 27.8 |
計 | 289 | 100 | 8,801 | 100 | 147 | 100 | 8,150 | 100 | 1,677 | 100 | 933,492 | 100 |
289契約のうち競争契約は162件(うち年間支払金額1000万円以上の契約71件)、契約金額52億2070万余円(同48億1181万余円)であり、全体に占める割合は件数で56.1%(年間支払金額1000万円以上の契約48.3%)、金額で59.3%(同59.0%)となっている。競争契約の割合は、23年報告の件数56.6%、金額72.2%より低くなっている。
289契約のうち随意契約は127件、契約金額35億8071万余円となっている。このうち、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときに行われる随意契約(以下「不落随契」という。)を除いた81件、22億8543万余円について、随意契約とした理由を態様別に分類すると次のとおりである。
上記のうち、大半を占めている①の態様の契約については、調達の初年度には競争入札を行っていて、次年度以降については、これを前提に随意契約を行っているものであり、形式としては毎年度改めて契約を締結しているものである。
289契約の平均落札率を契約方式別にみたところ、表2のとおり、競争契約が79.6%(年間支払金額1000万円以上の契約81.6%)であるのに対して、随意契約は99.6%(同99.8%)となっていて、競争契約は23年報告の平均落札率87.3%より低くなっているものの、随意契約は23年報告の98.6%とほぼ同等となっている。
表2 契約方式別の平均落札率
契約方式 | 289契約 | 左のうち年間支払金額 1000万円以上の契約 |
23年報告 | ||||||
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件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | |
競争契約 | 162 | 56.1 | 79.6 | 71 | 48.3 | 81.6 | 950 | 59.2 | 87.3 |
随意契約 | 127 | 43.9 | 99.6 | 76 | 51.7 | 99.8 | 654 | 40.8 | 98.6 |
計 | 289 | 100 | 88.4 | 147 | 100 | 91.0 | 1,604 | 100 | 91.9 |
随意契約の平均落札率が高くなっているのは、大半を占めている(ア)bの①の態様の契約において初年度の契約の時点で次年度以降の支払金額も定まっているため、予定価格と契約金額が同じになっていることなどによると考えられる。
競争契約の応札者数をみると、表3のとおり、応札者が1者のみの契約(以下「1者応札」という。)は65件(うち年間支払金額1000万円以上の契約35件)、割合にして40.1%(年間支払金額1000万円以上の契約49.3%)となっており、23年報告の66.4%より低くなっている。また、平均落札率を応札者数別にみると、複数応札の69.0%(年間支払金額1000万円以上の契約68.5%)に比べて1者応札は95.4%(同95.0%)と高くなっていて、表2の随意契約の平均落札率99.6%(同99.8%)や23年報告の1者応札の平均落札率96.0%と同等の高い比率となっている。
表3 応札者数別の平均落札率
区分 | 競争契約162件 | 左のうち年間支払金額 1000万円以上の契約 |
23年報告 | ||||||
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件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | |
1者応札 | 65 | 40.1 | 95.4 | 35 | 49.3 | 95.0 | 631 | 66.4 | 96.0 |
複数応札 | 97 | 59.9 | 69.0 | 36 | 50.7 | 68.5 | 319 | 33.6 | 70.1 |
計 | 162 | 100 | 79.6 | 71 | 100 | 81.6 | 950 | 100 | 87.3 |
結果的に1者応札となった理由としては、他者が開発したシステムの運用、保守等に対するリスクを考慮して他の業者が応札しなかったことなどが考えられる。
また、1者応札の契約65件及び不落随契46件のうち入札の際に1者応札であった38件、計103件について、仕様書の記載が応札可能な業者を明確に限定するような内容になっていないかという点について検査したところ、そのような記載は見受けられなかった。
最高裁判所が、23、24両年度に支払を行った情報システムに係る契約(会計法令上、少額であることを理由として随意契約としたものを除く。)の件数及び契約金額は、計289件、88億0141万余円であり、23、24両年度の支払金額は計77億7922万余円となっている。
今回検査の対象とした上記の289件(以下「289契約」という。)を契約方式別にみると、表1のとおりとなっている。なお、本院が23年11月に報告した「情報システムに係る契約における競争性、予定価格の算定、各府省等の調達に関する情報の共有等について」(以下「23年報告」という。)は25府省等の業務・システム最適化計画の実施等に係る契約を対象としているのに対して、今回の検査の対象は裁判所のみである一方、業務・システム最適化計画の実施等に係る契約以外の契約も対象としている。このため両者を単純に比較することはできないものの、23年報告においても契約方式、落札率等の状況について分析していることから、参考として23年報告の数値との比較も行っている。
最高裁判所は、仕様を満たし納入が想定される機器について参考見積書や過去の調達実績から決定した単価に調達数量を乗じたり、保守対象機器等の標準価格に独自に定めた保守料率を乗じたり、参考見積書の工数に独自に定めた技術者単価を乗じたりするなどして算出した積算額と、参考見積書の見積金額とを比較するなどして予定価格を算定している。そこで、年間支払金額が1000万円以上の契約147件を対象に、予定価格の内訳に不合理な点はないか、予定価格の算定の際に不適切な手順が採られていないかなどについて、予定価格調書の内訳や算定の手順を確認するなどして検査したところ、特に報告すべき事態は見受けられなかった。
最高裁判所は、18年6月に「随意契約見直し計画」を策定して、「初年度に係る契約のみ一般競争を行い、次年度以降は随意契約を行っていたものは、次期更新時から競争入札へ移行する」、「保守点検業務等は、仕様書等の見直しを図り、次期調達時から競争入札等へ移行する」としている。また、21年3月には「「1者応札・1者応募」となった契約の類型及び改善方策について」を策定し、1者応札への改善方策として、「業者が広く参加できるように仕様等の見直しを検討する」などとしている。
そして、最高裁判所は、随意契約については、従来は初年度に競争入札を行い次年度以降随意契約としていたものを国庫債務負担行為を活用した競争入札に移行するなどしている。1者応札については、可能な限り汎用的な仕様を記載するなど業者が広く参加できるよう仕様書の見直しを図るとともに、入札の公告期間を長くするなどして、競争性の確保に取り組んでいる。
最高裁判所及び38高地家裁について、23、24両年度分の証拠書類として本院に提出された請求書の件数を確認したところ、23年度53,124件、24年度50,390件となっていた。このうち日付の記載のない請求書の件数は、23年度12,315件、24年度3,381件となっていて、請求書全体に対する日付の記載のないものの割合は23年度23.2%、24年度6.7%となっていた。
このうち、最高裁判所については、23年度は5,119件中3,387件の請求書に日付の記載がなく、その割合は66.2%となっていた。24年度は、4,630件中285件の請求書に日付の記載がなく、その割合は6.2%となっていて、23年度分に比べ低減している。
最高裁判所は、「物品調達に係る納品書等の取扱いについて(事務連絡)」(平成22年11月30日最高裁判所事務総局経理局監査課)を下級裁判所に発している。この中では、23年1月1日の納品分から、検査職員が契約相手方に対して納品書の提出を求めること、納品書に受付日付印を押印するなどして受理日を明らかにすることなどとされていて、最高裁判所及び38高地家裁の会計実地検査の際に検査した範囲では、23、24両年度分とも、上記の事務連絡に基づき、受付日付印が押印されるなどして給付の終了した日が明確になっていた。
最高裁判所及び8高等裁判所の会計実地検査の際に検査したところ、各裁判所が見積合わせで徴した見積書のうち、日付の記載のないものの受理状況は、23年度分1,575件のうち519件と、割合にして33.0%となっていたのに対して、24年度分については、731件のうち20件と、割合にして2.7%となっていた。
最高裁判所及び38高地家裁において、契約締結、発注、検査等の調達手続が適正に行われているか検査したところ、次のような事態となっていた。
さいたま、金沢両地方裁判所及び金沢家庭裁判所の3裁判所において、特定の1業者と契約することを前提として、当該業者に対して、見積書の提出の際に他の任意の2業者分の見積書も合わせて提出するよう依頼している事態が、計176件、契約金額計2606万余円見受けられた。各裁判所に保存されていた当該見積書については、書面上は3者から徴したようになっていたが、実際には上記のような経緯で入手したものであり、適切な見積合わせは行われておらず、競争性が妨げられる結果となっていた。
このような事態は、随意契約においてもなるべく2者以上の者から見積書を徴することとしている会計法令の趣旨に照らして適切を欠くと認められる。
会計書類の作成手続等について、次のような不適切な事態が見受けられた。
給付の完了の確認に必要な検査及び検査調書の作成において、次のような不適切な事態が見受けられた。
23年度又は24年度に最高裁判所及び38高地家裁と契約の実績がある業者等の中から、契約金額等を勘案して14業者等を選定して、業者等が保有する総勘定元帳等の帳票類と各裁判所が保存している会計書類とを突合するなどして不適正経理が行われていないかを検査したところ、(ア)c①のように検査調書上の納品年月日と実際の納品年月日が異なるなどの事態は見受けられたものの、各裁判所に納品された物品等の数量が業者等が保有する帳票類に記載された数量と異なる事態は、今回検査した範囲では、見受けられなかった。
(ア)aからcまでの事態についての本院の指摘を受けて、最高裁判所は、「公共調達の適正化について(通知)」(平成25年8月6日最高裁経監第959号)等を下級裁判所に発するとともに、監査事務担当者の会議等において同様の事態が起こらないよう各裁判所に周知徹底を図り、さらに、内部監査において調達手続についての指導を徹底するなどして、再発防止に取り組んでいる。
一般会計「(組織)裁判所」には、検察審査業務に必要な経費として「(項)検察審査費」が計上されている。この「(項)検察審査費」の22年度から24年度までの歳出予算現額及び支出済歳出額は、表4のとおりとなっており、支出済歳出額は毎年度3億円程度となっている。
表4 「(項)検察審査費」の歳出予算現額及び支出済歳出額
予算科目 | 平成22年度 | 23年度 | 24年度 | |||
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歳出予算現額 | 支出済歳出額 | 歳出予算現額 | 支出済歳出額 | 歳出予算現額 | 支出済歳出額 | |
(項) 検察審査費 | 377,783 | 314,258 | 359,370 | 297,057 | 366,543 | 279,620 |
(目) 委員手当 | 19,339 | 1,651 | 6,994 | 1,228 | 6,007 | 1,226 |
(目) 職員旅費 | 972 | — | 972 | — | 972 | — |
(目) 委員等旅費 | 777 | 7 | 268 | 8 | 262 | 11 |
(目) 検察審査員旅費 | 277,043 | 263,484 | 284,625 | 251,396 | 296,888 | 239,833 |
(目) 証人等旅費 | 138 | 21 | 138 | — | 138 | 8 |
(目) 庁費 | 79,514 | 49,094 | 66,373 | 44,423 | 62,276 | 38,539 |
検察審査会に係る予算は、平成20年度予算まで一般会計「(組織)検察審査会(項)検察審査会」として、「(組織)裁判所」とは区分して計上されていた。このため、事務局職員の人件費等についても、裁判所職員の人件費等とは区分されて「(組織)検察審査会」に計上されていた。しかし、平成21年度予算においては、この計上方法が見直され、「(組織)裁判所(項)検察審査費」として引き続き裁判所の他の経費と区分して計上されるものと、地方裁判所等の経費と合わせて「(組織)裁判所(項)下級裁判所」として計上されるものとに分けられた。
165検察審査会における会議の開催回数は、22年度は2,212回、23年度は2,145回、24年度は2,083回となっている。また、事件審査を行わなかった会議が各年度とも会議開催回数の4分の1程度を占めている。
審査員等に対して支給される旅費等については、「(項)検察審査費(目)検察審査員旅費」から支出され、その支出済歳出額は表4のとおりとなっている。
42検審の会計事務を行っている25地方裁判所における22、23両年度の審査員等への旅費等の支払は、全て金融機関の口座への振り込みによって行われていた。審査員等の氏名と異なる名義の口座への振り込みは、5人の審査員等への振り込み(計153,268円)について見受けられ、うち4人に係る振り込み(計144,234円)については、当該審査員等の親族への振り込みであるとされていて、残る1人に係る振り込み(9,034円)については、氏名が同じ漢字であった別人の口座へ誤って振り込んだものであった。なお、誤って振り込んだ旅費等については、25年7月までに返納を受けるとともに、正しい支払先に支払っている。
出頭してきた者が選定された審査員等本人であることの確認の方法は、主として審査員等が最初に出頭する際に本人宛てに郵送した招集状を持参させて、これを確認するというものであった。招集状については、本人に確認した後に返却されるため、それを会計実地検査の際に確認することはできなかった。
11検察審査会の会議に23年5月から7月までに出頭したとして旅費等が支払われている189人に対して調査票を直接郵送した。この結果、146人から回答があり、この146人全員から、検察審査会に出頭した実績があり、旅費等の振り込みを受けている旨の回答がなされた。
審査員等に支給される旅費等については、審査員等が提出する請求書を基に支払が行われるが、請求書の記載内容について確認するために、会議の開催状況及び審査員等の出頭の事実を記録した書類についてみたところ、会議録の様式中に審査員等の出頭状況を記録する欄が設けられていた。
しかし、会議録については、「検察審査会における会議録及び選定録の様式等について」(平成21年5月7日刑一第000070号検察審査会事務局長宛て刑事局長通達)において、事件審査を行った会議の会議録は保存期間が10年とされているものの、事件審査を行わなかった会議の会議録は、当該年度の審査員等の任期終了後速やかに廃棄することとされていた。
また、検察審査会は、出頭した審査員等が11人に満たない場合には、会議を開き議決することができない。このように出頭した審査員等が11人に満たなかった場合の各検察審査会の対応をみると、会議を流会にしたり、出頭した審査員等だけで審査の対象となっている事件の資料を調べるなどしたりしていた。そして、流会となるなどした場合は、審査員等の出頭状況を記録する会議録は作成することとはされていなかった。
検査した範囲では、出頭状況の記録が残されていた会議について、出頭状況の記録に記載されている日付等と請求書の記載内容との整合性が取れていなかったり、記録が残されていなかった会議について、会議室の使用簿等の記録と請求書記載の出頭日とが一致していなかったりする事態は見受けられず、請求書の記載内容について特に問題と認められる事態はなかった。
旅費については、「検察審査員等の旅費、日当及び宿泊料を定める政令」(昭和24年政令第31号。以下「旅費政令」という。)において、鉄道賃、船賃、路程賃及び航空賃とされている。このうち、航空賃の額は、現に支払った旅客運賃によることとされている。宿泊料は、地域により1夜当たり8,700円以内又は7,800円以内の額で会長が決定することとされている。
日当については、旅費政令において、出頭等に必要な日数に応じて、1日当たり8,000円以内の額で会長が決定することとされている。最高裁判所は、日当の額の決定の便宜を考慮して、「検察審査員等の日当の支給基準等について」(平成12年刑一第169号検察審査会事務局長宛て刑事局長・経理局長依命通達。以下「支給基準」という。)を発している。そして、各検察審査会に対して、支給基準を参考にして、適正な日当額の決定に資するとともに、予算の執行上支障を生ずることのないように十分配慮するように求めている。支給基準において定められている日当の基準額は、会議に関与した日の関与時間(以下「関与時間」という。)に応じて額が設定されている。
日当の額の決定に当たっては、関与時間が重要な要素となっている。しかし、検察審査会法施行令(昭和23年政令第354号)においては、会議の開始時刻や終了時刻について会議録に記載することとはされていないこともあり、支給基準においても、審査員等の関与時間について、記録を作成し保存することとはされていなかった。
証人等に支給される旅費等は、「(項)検察審査費(目)証人等旅費」から、審査補助員に支給される手当は、「(項)検察審査費(目)委員手当」から、また、旅費は、「(項)検察審査費(目)委員等旅費」から、それぞれ支出されており、支出済歳出額は表4のとおりとなっている。これらについて検査した範囲では、請求書等と関係書類の記録との整合性が取れていない事態は見受けられなかった。
庁費のうち、独立性を持った検察審査会の職権行使に必要な経費については、「(項)検察審査費(目)庁費」に計上される。その支出済歳出額は表4のとおりであり、検察審査会の会計事務を行っている地方裁判所のほかに、最高裁判所等でも支出がある。
平成21年度予算から、庁費のうち、独立性を持った検察審査会の職権行使に必要な経費以外は、地方裁判所等の庁費と一括して「(項)下級裁判所(目)庁費」に計上されており、検察審査会及び事務局の備品等の購入経費や光熱水料といった経費は、地方裁判所等の経費と区別なく支出されていて、決算上、これらの経費について検察審査会の運営に伴う分を把握することはできない状況となっている。そこで、25年4月現在で165検察審査会で使用している備品の購入等に要した経費を物品管理のデータ等に基づいて集計したところ、22年度499万余円、23年度423万余円、24年度603万余円となっていた。
事務局職員の人件費は、平成21年度予算から地方裁判所の職員の人件費と一括して予算計上されており、決算上、事務局職員のみの人件費の額を把握することができない状況となっている。そこで、22、23、24各年度の事務局職員の給与簿を基に集計したところ、人件費(注4)の額は、22年度47億3925万余円、23年度48億3661万余円、24年度44億8661万余円となっていた。
このうち、裁判所への併任発令を受けていない事務局職員に係る人件費は、22年度8億3670万余円、23年度8億1701万余円、24年度7億3409万余円となっている。また、裁判所への併任発令を受けている事務局職員に係る人件費は、22年度39億0255万余円、23年度40億1960万余円、24年度37億5252万余円となっている。
システム関連の調達に関しては、競争入札への移行に努めたり、業者が広く参加できるよう仕様書の見直しを図ったり、公告期間等を長くしたりするなどして、競争性の確保に取り組んでいる。
会計書類の管理の状況に関しては、24年度以降、日付の記載のない請求書及び見積書を受理しないよう改善に取り組んでいるものの、なお日付の記載のない請求書を受理している事態が見受けられた。また、調達手続の適正性に関しては、随意契約において、特定の1業者と契約することを前提として、当該業者に対して、見積書の提出の際に他の任意の2業者分の見積書も合わせて提出するよう依頼している事態が見受けられたほか、会計書類の作成手続、保存等が適切でなかったり、検査の内容や検査調書の作成が適切でなかったりしている事態も見受けられた。
検察審査会の運営に伴う公費の支出状況に関しては、審査員等に支給する旅費等について、事後的に確認できるように審査員等の出頭状況や審査員等の関与時間の記録について作成し保存する仕組みが設けられていなかった。
これらの点に鑑み、今後も次の点に留意して改善に取り組む必要がある。
最高裁判所においては、随意契約について国庫債務負担行為を活用した競争契約に移行したり、1者応札について仕様の見直しを図ったりなどしているが、今後も、政府内での情報システムに関する議論等の動向を踏まえながら、契約の透明性の向上、競争性の確保、適切な予定価格の算定等について引き続き努力する必要がある。
各裁判所においては、日付の記載のない請求書の受理がないよう引き続き改善に取り組む必要がある。また、随意契約において、特定の1業者と契約することを前提として、当該業者に対して、他の任意の2業者分の見積書も合わせて提出するよう依頼している事態は、会計法令の趣旨に照らして適切を欠くと認められることから、今後、同様な事態が起こらないよう改善する必要がある。さらに、会計書類の作成手続や保存等が適切でなかったり、検査の内容や検査調書の作成が適切でなかったりしている事態については、裁判所全体として改善する必要がある。
各検察審査会においては、旅費等の支給の適正性を事後的に確認できるように、請求書以外に記録が残される仕組みとなっていない事件審査を行わなかった会議等に係る審査員等の出頭状況や日当の額を決定するに当たって重要な要素となっている審査員等の会議への関与時間について、適切に記録し保存する体制を整備することが肝要である。
本院としては、以上の結果に留意しつつ、今後とも裁判所の会計経理が適正かつ適切に実施されているかについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。