平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、多くの被災者が住居を失うなどした。このため、岩手、宮城及び福島の3県等の被災した地方公共団体は、住居を失うなどした被災者が自ら住居を手当するなどするまでの当面の仮の住居として、災害救助法(昭和22年法律第118号)に基づき応急仮設住宅を供与しており、応急仮設住宅として供与されている住宅には、地方公共団体自らが建設した仮設住宅、民間賃貸住宅、公営住宅等がある。
そして、財務省、独立行政法人都市再生機構(以下「都市機構」という。)、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(23年9月30日以前は独立行政法人雇用・能力開発機構。以下「雇用機構」という。)等においても、被災者支援のためにそれぞれ国家公務員宿舎、都市機構賃貸住宅(以下「UR賃貸住宅」という。)、雇用促進住宅等を地方公共団体を通じるなどして被災者に提供している。
国家公務員宿舎は、国家公務員等の職務の能率的な遂行を確保し、もって国等の事務及び事業の円滑な運営に資することを目的として設置されるもので、複数の各省各庁に所属する職員に貸与する目的で設置される合同宿舎と、同一の各省各庁に所属する職員のみに貸与する目的で設置される省庁別宿舎とに区分されている。
そして、地方公共団体が災害発生に伴う応急措置等の用に供する場合は、国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づき、国家公務員宿舎については無償で使用を許可することができることとなっている。
財務本省は、17年12月に、災害等発生に伴う応急措置等の用に供するための国有財産の無償の使用許可等について、災害対策のマニュアルを定めており、災害時には、地方公共団体に対して、無償の使用許可等が可能な合同宿舎等のリストを作成して提供することとしていた。また、政府に非常災害対策本部等が設置され、同マニュアルと異なる指示があった場合には、当該指示が優先されることとなっていた。
財務省が東日本大震災発生以降に行った国家公務員宿舎、UR賃貸住宅、雇用促進住宅等の提供に係る対応について時系列的にみると、次の①から④までのとおりとなっていた。
そして、財務局等は、実際に被災者の受入れを行う地方公共団体から国家公務員宿舎の提供要請を受けた場合には、国有財産法に基づき地方公共団体に対して無償で使用許可を行っており、これを受けた地方公共団体は、当該国家公務員宿舎を被災者に無償で貸与している。
また、財務本省は、受入対応県に情報提供した国家公務員宿舎については、情報提供を終了するまでの間、被災者向けとして確保し、国家公務員に対する貸与は行わないことにしていた。
上記のほか、国土交通省は、23年3月14日に、都市機構に対して通知を発して、東日本大震災の被災者に対するUR賃貸住宅の提供について最大限配慮するよう要請しており、これを受けた都市機構は、同日以後、受入可能リストとは別に、被災者に対してホームページ等によりUR賃貸住宅の情報提供を行っている。
また、厚生労働省は、同月12日に、雇用機構に対して通知を発して、東日本大震災の被災者の当面の居住の場として雇用促進住宅を提供するよう要請しており、これを受けた雇用機構は、同日以後、受入可能リストとは別に、被災者に対して厚生労働省のホームページ等により雇用促進住宅の情報提供を行っている。
そして、情報提供されたUR賃貸住宅及び雇用促進住宅については、国家公務員宿舎と異なり、情報提供が終了されるまでの間であっても、被災者向けとして確保されることはなく、入居の申込みがあれば、通常の利用者又は被災者のどちらでも貸与することができることとなっている。
内閣府政策統括官(防災担当)は、被災した地方公共団体における迅速かつ円滑な復旧・復興への取組を支援することを目的として、22年12月に「復興対策マニュアル」(24年3月に「復旧・復興ハンドブック」と名称変更)を定めており、地方公共団体は、復旧・復興に関して事前に定めておくべき対応計画を策定する際の参考として復興対策マニュアルを使用している。
また、厚生労働省(13年1月5日以前は厚生省)は、阪神・淡路大震災における教訓を踏まえて、大規模災害における応急救助を迅速かつ的確に実施する上で必要な事項を取りまとめ、災害救助法に基づく応急救助を実施する際の指針として「大規模災害における応急救助の指針について」(平成9年6月30日付け厚生省社会・援護局保護課長通知。以下「応急救助指針」という。)を定めて都道府県に周知しており、都道府県において地域の実情に即した実施体制を整備することに努めるよう要請している(注2)。
前記のとおり、東日本大震災の被災者支援のために情報提供された国家公務員宿舎は、UR賃貸住宅及び雇用促進住宅と異なり、情報提供を終了するまでの間、被災者支援のために確保されるものである。そして、国有財産である国家公務員宿舎を活用することは、応急仮設住宅の建設や民間賃貸住宅の借上げに要する国の経費の抑制にもつながることになる。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、東日本大震災の被災者支援のために情報提供終了時まで被災者向けに確保されることとなった国家公務員宿舎を主な対象として、その情報提供や利活用の状況はどのようになっているか、今後国の災害対策において検討すべきことはないかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、財務省において、国家公務員宿舎その他の国有財産(以下「国家公務員宿舎等」という。)の情報提供の状況、情報提供された国家公務員宿舎等の入居の状況等を確認するとともに、内閣府及び厚生労働省において、国から地方公共団体に示された災害時のマニュアル等における国家公務員宿舎の取扱いの状況を確認するなどして会計実地検査を行った。また、東日本大震災の被災者を支援するため、22年度から24年度までの間に都道府県に情報提供された国家公務員宿舎等を所管する15府省等(注3)から調書の提出を受け、その内容を確認するなどの方法により検査を行った。さらに、国家公務員宿舎等の情報提供を受けた47都道府県を対象に、財務省を通じて、提供された情報の利活用について調査するとともに、このうち7都道府県(注4)において、担当者から事情を聴取するなどして調査した。
東日本大震災発生(23年3月11日)から25年3月末までの間に被災者支援のために財務局等から都道府県に情報提供された国家公務員宿舎等の戸数は、表のとおり、合同宿舎が10,613戸、省庁別宿舎が2,009戸、その他が520戸、計13,142戸となっていて、このうち入居実績がある戸数は、合同宿舎が1,674戸、省庁別宿舎が29戸、その他が21戸、計1,724戸となっていた。
表 国家公務員宿舎等の情報提供及び入居の状況(平成23年3月〜25年3月)
都道府県名 | 情報提供戸数 | 入居戸数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合同宿舎 | 省庁別宿舎 | その他 | 計 | 合同宿舎 | 省庁別宿舎 | その他 | 計 | |
北海道 | 269 | 241 | 30 | 540 | 0 | 2 | 0 | 2 |
青森県 | 155 | 54 | 8 | 217 | 39 | 0 | 0 | 39 |
岩手県 | 28 | 7 | 30 | 65 | 23 | 0 | 0 | 23 |
宮城県 | 250 | 15 | 0 | 265 | 142 | 1 | 0 | 143 |
秋田県 | 57 | 20 | 7 | 84 | 3 | 0 | 0 | 3 |
山形県 | 173 | 2 | 0 | 175 | 14 | 0 | 0 | 14 |
福島県 | 156 | 34 | 0 | 190 | 109 | 14 | 0 | 123 |
茨城県 | 1,219 | 21 | 3 | 1,243 | 127 | 4 | 0 | 131 |
栃木県 | 18 | 1 | 0 | 19 | 0 | 0 | 0 | 0 |
群馬県 | 40 | 3 | 0 | 43 | 0 | 0 | 0 | 0 |
埼玉県 | 562 | 212 | 10 | 784 | 225 | 0 | 0 | 225 |
千葉県 | 690 | 139 | 11 | 840 | 54 | 6 | 1 | 61 |
東京都 | 2,124 | 276 | 307 | 2,707 | 717 | 0 | 20 | 734 |
神奈川県 | 509 | 91 | 29 | 629 | 87 | 0 | 0 | 87 |
新潟県 | 33 | 59 | 0 | 92 | 1 | 0 | 0 | 1 |
富山県 | 11 | 2 | 0 | 13 | 0 | 0 | 0 | 0 |
石川県 | 77 | 22 | 0 | 99 | 2 | 0 | 0 | 2 |
福井県 | 109 | 8 | 20 | 137 | 0 | 0 | 0 | 0 |
山梨県 | 4 | 1 | 0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 |
長野県 | 53 | 22 | 19 | 94 | 0 | 0 | 0 | 0 |
岐阜県 | 12 | 4 | 0 | 16 | 0 | 0 | 0 | 0 |
静岡県 | 46 | 81 | 3 | 130 | 0 | 0 | 0 | 0 |
愛知県 | 258 | 211 | 0 | 469 | 0 | 0 | 0 | 0 |
三重県 | 20 | 4 | 0 | 24 | 0 | 0 | 0 | 0 |
滋賀県 | 3 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 |
京都府 | 311 | 41 | 0 | 352 | 94 | 0 | 0 | 94 |
大阪府 | 1,208 | 35 | 0 | 1,243 | 3 | 0 | 0 | 3 |
兵庫県 | 551 | 55 | 0 | 606 | 0 | 0 | 0 | 0 |
奈良県 | 117 | 3 | 0 | 120 | 12 | 0 | 0 | 12 |
和歌山県 | 11 | 4 | 0 | 15 | 0 | 0 | 0 | 0 |
鳥取県 | 3 | 5 | 3 | 11 | 0 | 0 | 0 | 0 |
島根県 | 21 | 15 | 0 | 36 | 0 | 0 | 0 | 0 |
岡山県 | 110 | 36 | 0 | 146 | 0 | 0 | 0 | 0 |
広島県 | 366 | 20 | 0 | 386 | 0 | 0 | 0 | 0 |
山口県 | 22 | 22 | 0 | 44 | 0 | 0 | 0 | 0 |
徳島県 | 8 | 7 | 0 | 15 | 0 | 0 | 0 | 0 |
香川県 | 125 | 29 | 0 | 154 | 0 | 0 | 0 | 0 |
愛媛県 | 22 | 17 | 3 | 42 | 0 | 0 | 0 | 0 |
高知県 | 62 | 3 | 0 | 65 | 0 | 0 | 0 | 0 |
福岡県 | 207 | 62 | 3 | 272 | 0 | 2 | 0 | 2 |
佐賀県 | 13 | 11 | 0 | 24 | 0 | 0 | 0 | 0 |
長崎県 | 51 | 25 | 14 | 90 | 0 | 0 | 0 | 0 |
熊本県 | 177 | 31 | 0 | 208 | 25 | 0 | 0 | 25 |
大分県 | 43 | 10 | 0 | 53 | 0 | 0 | 0 | 0 |
宮崎県 | 58 | 15 | 0 | 73 | 0 | 0 | 0 | 0 |
鹿児島県 | 72 | 27 | 20 | 119 | 0 | 0 | 0 | 0 |
沖縄県 | 179 | 6 | 0 | 185 | 0 | 0 | 0 | 0 |
計 | 10,613 | 2,009 | 520 | 13,142 | 1,674 | 29 | 21 | 1,724 |
そして、入居状況についてみると、被災地から近距離の東日本に所在する国家公務員宿舎等への入居が多く、被災地から遠距離の西日本に所在する国家公務員宿舎等への入居は少ない傾向が見受けられた。
国家公務員宿舎等については、国から地方公共団体への使用許可等が被災者への提供の前提となっていることから、被災者への入居募集は都道府県を中心とする地方公共団体が行っていた。そこで、情報提供された国家公務員宿舎等の被災者への入居募集状況について、財務局等を通じて依頼した調査票により47都道府県を対象に調査したところ、都道府県において入居募集を行ったという回答は16団体となっていた。
そして、入居募集をしなかったと回答した団体における入居募集をしなかった理由としては、公営住宅や民間賃貸住宅により対応可能であったという回答のほか、事務手続上の負担が大きいという回答や国家公務員宿舎紹介等の窓口対応に必要な人員や予算の確保が困難であったという回答が見受けられた。
また、入居募集をしたと回答した前記の16団体についても、具体的な入居募集状況については、財務局等から情報提供された国家公務員宿舎等のうちすぐに入居可能なもの全てについて入居募集したと回答したものが9団体となっていた一方で、入居可能なものの中から宿舎を選定し入居募集したと回答したものが4団体見受けられた。
前記のとおり、災害が発生した場合の地方公共団体の対応に関しては、国において復興対策マニュアル及び応急救助指針(以下、これらを合わせて「復興対策マニュアル等」という。)が地方公共団体に示されている。そして、復興対策マニュアル等には、被災者支援のための住宅の確保について次のとおり示されている。
内閣府政策統括官(防災担当)が定めた復興対策マニュアルにおいては、災害時に応急仮設住宅の建設に時間を要することが予想される場合には、空き公営住宅を一時使用することや民間賃貸住宅を災害救助法に定める応急仮設住宅として借り上げることが示されている。また、厚生労働省が定めた応急救助指針においては、避難所の生活が相当に長期化しているにもかかわらず応急仮設住宅の建設が著しく遅れるなどやむを得ない事情のある場合には、公営住宅の一時使用、民間賃貸住宅の借上げ等により対応することが示されている。しかし、復興対策マニュアル等には、国家公務員宿舎については言及されていない。
そして、国家公務員宿舎への入居が進まない要因については、前記都道府県を対象にした調査の回答によると、「公営住宅等は、あらかじめ一時提供住宅として利用するスキームができていた」としているものがある一方で、「国家公務員宿舎は、あらかじめ一時提供住宅として利用するスキームができていなかった」としているものも見受けられた。
このように、復興対策マニュアル等には、一時提供住宅として国家公務員宿舎を使用することについて明記されていないことから、都道府県において一時提供住宅として国家公務員宿舎を利用することに備えたスキームが整備される状況とはなっていなかった。
被災者からの国家公務員宿舎に関する問合せ等の対応は、被災者を受け入れる都道府県が行っており、都道府県が国家公務員宿舎を公営住宅と同列に取り扱って入居募集を行う場合には、公営住宅と同等の情報量が必要となる。
しかし、この場合には、財務局等が都道府県に提供している受入可能リスト等による情報提供の項目が都道府県が被災者に対して情報提供する公営住宅の項目と比べて少ないなど、国家公務員宿舎に関する情報量が不足していることから、震災対応等で人員が十分に確保できない状況下において、不足している情報を財務局等から入手するなどの新たな事務負担が生ずることになる。
前記の調査において入居募集を行ったと回答した16団体では、国家公務員宿舎の入居募集に当たり、公営住宅とほぼ同様の項目について情報提供を行っていたことから、国家公務員宿舎について財務局等から追加情報を収集するなどの補完的事務が発生していたと考えられる。
財務省関東財務局A財務事務所は、B県に対して受入可能リスト等により国家公務員宿舎の所在市町村、受入可能戸数等の情報提供を行っていた。
B県は、委託先である県住宅供給公社が国家公務員宿舎の入居募集を行うに当たり、公営住宅と同等の項目について情報提供を行うため、国家公務員宿舎への交通アクセスやエレベータの有無等の11項目を追加情報としてA財務事務所から収集するなどしており、新たな事務負担が生じていた。
財務本省は、前記のとおり、受入対応県に情報提供した国家公務員宿舎については、被災者向けとして確保し、国家公務員に対する貸与は行わないこととしていたが、24年9月24日に、財務(支)局及び沖縄総合事務局に対して「被災者に対する国家公務員宿舎等の情報提供について」(財務省理財局国有財産調整課長事務連絡)を発して、財務省による都道府県への一律の情報提供を同月末をもって終了することとし、その後地方公共団体から被災者に提供するための国家公務員宿舎の使用許可の相談等があった場合は個別に対応することとしている。
このように、財務省は、24年9月まで国家公務員宿舎の情報提供を全国一律で行っていたが、前記のとおり、都道府県の回答によると、国家公務員宿舎等の入居募集状況は都道府県によって様々であった。
そして、財務省から情報提供された国家公務員宿舎の中には、22、23両年度に新設されたもので都道府県による被災者の入居募集が行われず空室のままで推移していた住宅も5住宅(351戸)見受けられたが、これらについては、被災者支援のため全国一律に情報提供終了時まで確保することにしていたことから、財務局等は都道府県に対しあえて利用意向の確認をしていなかった。
財務省近畿財務局C財務事務所は、D県に対して国家公務員宿舎の情報提供を行っており、この中には、平成23年4月に新設された1住宅30戸(建物延べ面積3,279.7㎡、23年度末現在の建物の国有財産台帳価格246,021,045円)が含まれていた。
この住宅について、C財務事務所は、24年9月末の情報提供終了時まで被災者の入居に備えて確保していたことから、D県に対してあえて利用意向の確認をしていなかった。一方、D県は、被災者の受入れは所管する公営住宅で可能であるとして、被災者に当該住宅への入居募集を行っておらず、全て空室のままとなっていた。
東日本大震災の発生から25年3月末までの間に財務局等から都道府県に被災者支援のために情報提供された国家公務員宿舎等の戸数は13,142戸となっていて、このうち入居実績がある戸数は1,724戸となっていた。
上記の情報提供に当たり、都道府県において、国が地方公共団体に示した復興対策マニュアル等に国家公務員宿舎の取扱いが明記されていないことから、一時提供住宅として国家公務員宿舎を利用することに備えたスキームが整備される状況とはなっていなかったり、国家公務員宿舎に係る情報提供項目が都道府県が募集している公営住宅の情報項目と比べて少ないことなどから、追加情報の入手等の事務負担が発生したりしていた。
また、新設の国家公務員宿舎が空室のまま推移している事態も見受けられたが、これらについては、財務省において、情報提供した国家公務員宿舎を被災者支援のため全国一律に情報提供終了時まで確保することにしていたことから、都道府県に対してあえて国家公務員宿舎の利用意向の確認をしていなかった。
したがって、国においては、被災者支援のために国家公務員宿舎がより一層利活用されるよう、大規模災害が発生した場合の対処方法について、国有財産の有効利用の観点から、次のような検討を行う必要がある。
本院としては、東日本大震災のような大規模な災害が発生した場合においては、被災者の需要に迅速かつ的確に応えることが特に重要であること、国家公務員宿舎についても国有財産としての有効活用が求められていることから、大規模な災害に備えた国家公務員宿舎の提供方法等について引き続き注視していくこととする。