24年報告において、所要の耐震性能が確保されていない官庁施設に入居する官署を所要の耐震性能が確保されている別の官庁施設に移転させ、耐震性能が確保されていない官庁施設を廃止することにより、耐震改修工事を実施することなく官庁施設の耐震化が図られる庁舎等使用調整計画の事例について報告した。24年報告後から25年6月現在までの庁舎等使用調整計画による耐震化の状況は、図表6-1のとおりである。
図表6-1 平成25年6月現在の庁舎等使用調整計画による耐震化の状況
耐震性能が確保されていない庁舎 | → | 庁舎等使用調整計画対象庁舎(移転先) | |||
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官署 | 庁舎名 | 庁舎移転予定年月 | 用途廃止及び取壊し時期 | 庁舎名 | |
関東信越国税局浦和税務署 | 浦和税務署 | 平成26年12月以降 | 27年度以降 | さいたま新都心合同庁舎1号館 | |
東京労働局三田労働基準監督署 | 産業安全会館 | 28年4月以降 | 28年度以降 | 安全衛生総合会館 | |
東京労働局免許証発行センター | |||||
関東信越国税局新潟税務署 | 新潟財務総合庁舎 | 27年4月以降 | 27年度以降 | 新潟地方合同庁舎 | |
関東信越国税不服審判所新潟支所 |
所要の耐震性能が確保されていない図表6-1に示す5官署は、庁舎等使用調整計画の実施により、耐震改修工事を実施することなく、所要の耐震性能が確保された庁舎に入居することになっている。
24年報告において、官庁施設の耐震化を図る手段の一つとなる地震防災機能強化事業に基づく特定国有財産整備計画による合同庁舎の整備のうち、国の出先機関改革の状況等を踏まえ整備を検討する必要があるものとして、8合同庁舎の整備が見送られているなどの耐震化が図られていない事態を報告した。25年6月現在で上記の合同庁舎整備の取組状況は、図表6-2のとおりである。
図表6-2 整備が見送られている合同庁舎の取組状況
番 号 |
整備対象庁舎名 | 入居予定官署 | 計画策定 年度 |
当初の事業 計画期間 |
整備を見送っている理由 (24年7月時点) |
国土交通省における取組状況 (25年6月時点) |
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1 | 武生地方合同庁舎 | 福井地方検察庁武生支 部・区検察庁、福井地方 法務局武生支局、武生税 務署、武生労働基準監督 署、武生公共職業安定所 |
平成20年度 | 20年度 ~22年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を見 送っているため。 |
24年11月に近畿地方整備局で 事業「中止」とした事業評価 (再評価)の対応方針(案) について、関係官署の庁舎整 備の方向性を関係省と協議 中。 |
2 | 広島地方合同庁舎5号館 | 中国管区警察局、中国総 合通信局、広島東税務 署、広島労働局、中国地 方整備局(八丁堀庁舎、 建政部、港湾空港部) |
20年度 | 20年度 ~22年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を見 送っているため。 |
― (特定国有財産整備計画より 除外) |
3 | 鹿児島港湾合同庁舎 | 福岡検疫所鹿児島支所、 門司植物防疫所鹿児島支 所、鹿児島運輸支局、鹿 児島海上保安部、福岡入 国管理局鹿児島出張所 |
20年度 | 20年度 ~21年度 |
21年度に地中障害物が確認さ れたことから工事契約を解除 し、また、建設予定地を変更 して、24年度の概算要求を 行ったものの、予算計上され なかったため。 |
25年4月に国土交通省で事業 「継続」とした事業評価(再 評価)の対応方針を踏まえ、 今後の対応を検討している。 |
4 | 長崎第2地方合同庁舎 | 長崎財務事務所、長崎労 働局 |
20年度 | 20年度 ~22年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を見 送っているため。 |
― (特定国有財産整備計画より 除外) |
5 | 帯広第2地方合同庁舎 | 帯広財務事務所、帯広税 務署、帯広開発建設部 |
21年度 | 21年度 ~26年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を一時 見送っており、さらに24年度 の概算要求を行ったものの、 予算計上されなかったため。 |
日本海溝・千島海溝周辺海溝 型地震に備える広域防災拠点 整備の必要性等を踏まえ、今 後の対応を検討している。 |
6 | 福島第2地方合同庁舎 | 自衛隊福島地方協力本 部、東北公安調査局福島 駐在官室、福島財務事務 所、福島地方気象台、福 島労働局 |
21年度 | 21年度 ~24年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を見 送っているため。 |
地方分権改革の動向等を踏ま えて、今後の対応を検討して いる。 |
7 | 鹿児島第3地方合同庁舎 | 鹿児島地方検察庁、鹿児 島保護観察所、鹿児島地 方法務局、鹿児島行政評 価事務所、鹿児島財務事 務所、九州地方整備局鹿 児島営繕事務所 |
21年度 | 21年度 ~25年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を見 送っているため。 |
地方分権改革の動向等を踏ま えて、今後の対応を検討して いる。 |
8 | 唐津港湾合同庁舎 | 伊万里税関支署唐津出張 所、福岡検疫所唐津出張 所、唐津労働基準監督 署、佐賀運輸支局(唐津庁 舎) 、唐津海上保安部 |
21年度 | 21年度 ~23年度 |
地方分権改革の状況等を踏ま え整備を検討する必要がある ものとして、概算要求を見 送っているため。 |
地方分権改革の動向等を踏ま えて、今後の対応を検討して いる。 |
図表6-2の8合同庁舎のうち、4合同庁舎は、事業採択後5年間が経過した時点で継続中の事業に該当することから、国土交通省は、4合同庁舎の事業評価(再評価)を実施している。事業評価監視委員会の審議結果を踏まえ、広島地方合同庁舎5号館及び長崎第2地方合同庁舎の整備計画は中止となり、特定国有財産整備計画から除外された。そして、特定国有財産整備計画から除外された広島地方合同庁舎5号館及び長崎第2地方合同庁舎の入居予定官署が現在入居している庁舎は、耐震性能が確保されていないままであることから、入居予定官署は、所要の耐震性能を確保するために、当該庁舎の耐震改修を実施するなどして、当該庁舎の耐震化を図ることとしている。
24年報告において、23年12月末現在、185機関(本府省等31機関、地方支分部局154機関)から業務継続計画を策定している145機関(本府省等28機関、地方支分部局117機関)を除く40機関が業務継続計画を策定していないこと及び業務継続計画を策定済みとしている地方支分部局の中には所在地域の実情に合わせた被害想定等に基づく業務継続計画を個別に策定していなかったことを報告した。25年7月現在における業務継続計画の策定状況を検査したところ、業務継続計画を策定していない機関は4機関となっていた。また、現状を踏まえた業務継続計画を個別に策定していない地方支分部局は、25年度中を目途に策定中であるとしている。
業務継続計画を策定していない上記の4機関は、地震が全国どこででも起こり得るものであることから、大規模な地震により当該機関が被災し機能が低下した場合においても適切に業務執行が行えるよう早急に業務継続計画の策定を行う必要がある。また、地域の実情に合わせた被害想定等に基づく業務継続計画を策定していない上記の地方支分部局については、速やかに現状を踏まえた業務継続計画を個別に策定することが重要である。
中央防災会議は、23年8月に設置した南海トラフの巨大地震モデル検討会による震度分布及び津波高等の被害推計結果に基づき、具体的な被害を算定し被害の全体像を明らかにすること及び被害規模を明らかにすることにより防災・減災対策の必要性を国民に周知することなどを目的とし、24年3月に南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループを設置している。
同ワーキンググループは、南海トラフの巨大地震モデル検討会による震度分布及び津波高等の被害推計結果に基づき、同年8月に南海トラフ巨大地震の被害想定の第一次報告を、25年3月に第二次報告を、同年5月に最終報告を取りまとめている。これらの報告における被害想定によると、同検討会で検討された地震動により全壊する建築物の被害は約62万7000棟となっており、基本方針の目標とされている住宅及び多数の者が利用する建築物の耐震化率を9割まで上げることにより、地震動による建築物の被害を約36万1000棟まで軽減できると推計している。このことから、同報告は、建築物に及ぼす甚大な被害をできる限り減少させるためは、建築物の耐震化に重点的に取り組むことが必要であるとしている。
上記アのとおり、南海トラフ巨大地震が発生した場合における建築物の被害は、東日本大震災を超えるものとされている中で、建築物の地震に対する安全性の向上を一層促進する必要があることから、「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第20号)が、25年5月に公布されている。その主な改正内容は、次のとおりとなっている。
① 都道府県耐震改修促進計画に記載された建築物の所有者は、当該建築物について、耐震診断を行い、その結果を、都道府県耐震改修促進計画に記載された期限までに所管行政庁に報告しなければならないこと
② 都道府県は、都道府県耐震改修促進計画において、当該都道府県の区域内の建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための施策に関する事項に、「病院、官公署その他大規模な地震が発生した場合においてその利用を確保することが公益上必要な建築物で政令で定めるものであって、既存耐震不適格建築物(注12)について耐震診断を行わせ、及び耐震改修の促進を図ることが必要と認められる場合」における、当該建築物に関する事項及び当該建築物に係る耐震診断の結果の報告の期限に関する事項を記載することができるものとすること
③ 既存耐震不適格建築物であって、その地震に対する安全性を緊急に確かめる必要がある大規模なものとして政令で定めるものの所有者は、当該建築物について、耐震診断を行い、その結果を27年12月までに所管行政庁に報告しなければならないものとすること
これらの改正により、地震に対する安全性が明らかでない大規模な小学校及び病院等の建築物は、耐震診断の実施の義務化等の措置が講じられることとされている。
また、国土交通省は、25年度予算において、従来の社会資本整備総合交付金の事業項目であった耐震診断及び耐震改修の補助制度に加えて、耐震診断の義務付けの対象となる建築物に対する緊急支援として耐震対策緊急促進事業を創設し、耐震診断及び耐震改修に係る社会資本整備総合交付金の補助率の嵩上げなどを行い、耐震化対策に係る支援の拡充を図っている。
大規模空間を有する避難所等の建築物は、東日本大震災により構造体に被害がなくても建築非構造部材である天井が脱落した事態が多数生じ、施設機能の確保が困難となった施設があったことから、建築物の更なる安全性を確保するため、建築基準法施行令が改正されて25年7月に公布された。また、同年8月に関係告示の制定、一部改正が行われた。建築基準法施行令の主な改正内容は次のとおりである。
① 特定天井(注13)の構造は、構造耐力上安全なものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるなどしなければならないこと
② 特定天井で特に腐食、腐朽その他の劣化のおそれのあるものについては、劣化防止のための措置をした材料を使用しなければならないこと
これらの改正により、特定天井を有する建築物を新築等する場合は、これらの改正内容等を満たすことが義務付けられ、建築物等の更なる安全性を確保するための措置が講じられることとされている。
また、国土交通省は、25年度予算において、住宅・建築物安全ストック形成事業に、特定天井を有する避難所等の天井のみの耐震改修を補助対象に追加し、特定天井の耐震改修に対する支援を実施することとしている。