(「新規就農定着促進事業による助成が補助の対象とならないもの」及び「新規就農定着促進事業等で導入した農業用機械等が補助の目的を達していなかったもの」参照)
【是正改善の処置を求めたものの全文】
新規就農者を対象とした助成事業の実施について
(平成26年10月30日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、新規就農者の経営の早期安定を図り、地域における将来の担い手を育成し確保することなどを目的として、平成21、22、23各年度に、新規就農定着促進事業実施要綱(平成21年21経営第791号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、新規就農定着促進事業等(注1)を実施している市町村、地域協議会(注2)等(以下「協議会等」という。)に対して、担い手育成・確保対策整備費補助金等の国庫補助金等計49億1638万余円(附帯事務費を除く。)を交付している。新規就農定着促進事業等は、事業実施主体である協議会等が、新規就農者による農業用機械の導入等について、当該農業用機械の導入等に要する費用(以下「助成対象事業費」という。)に2分の1を乗じて得た額又は400万円のいずれか少ない額を限度として助成を行うものである。
実施要綱等によれば、新規就農定着促進事業等による助成の対象者(以下「助成対象者」という。)は、就農時における農業経営又は農業従事の態様に関する目標等を記載した就農計画を作成し、これを都道府県に提出して、当該都道府県の定める就農促進方針に照らすなどして、当該就農計画が適当である旨の認定を受けた者等(以下「認定就農者等」という。)とされている。
貴省は、認定就農者等は、将来の効率的かつ安定的な農業経営の担い手となることが見込まれる者であり、就農時あるいはその後においても、農業に専ら従事し、これにより必要な所得のおおむねを確保し得るような者を対象とすべきであることから、農業以外の職業に恒常的に従事し、片手間に農業に従事するような者は原則として対象にならないとしている。
また、貴省は、親の農業経営の下で農業に従事する者(以下「親元就農者」という。)が助成対象者と認められるためには、自らが経営責任を有する区分された部門(以下「責任部門」という。)を受け持ち、その責任部門の経営収支に関する帳簿を作成することと自己の預貯金口座を開設することなど(以下、これらを「預貯金口座の開設等」という。)により、責任部門と親の経営とを明確に区分(以下「経営区分」という。)する必要があるとしており、単に親の農業経営を手伝うような者や農業法人の雇用就農者は助成対象者にはならないとしている。
実施要綱等によれば、協議会等は、助成対象者の経営状況の把握及び経営発展に向けた取組に対するフォローアップ(以下、これらを合わせて「フォローアップ等」という。)に努めることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、助成対象者が助成の要件を満たしているか、助成対象者の経営の早期安定が図られ事業の効果が発現しているかなどに着眼して、29道府県(注3)管内に所在する139協議会等において、助成対象者計552名(21年度372名(助成対象事業費計19億9578万余円、助成金額計9億2467万余円)、22年度59名(助成対象事業費計3億4779万余円、助成金額計1億5781万余円)、23年度121名(助成対象事業費計6億4264万余円、助成金額計3億0926万余円))を対象として、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記助成対象者552名のうち7名(助成対象事業費計5676万余円、助成金額計2113万余円、国庫補助金等同額)は、会計実地検査の時点において、自らの農業経営以外の職業に常勤で従事していて片手間に農業に従事するなどしており、これらの者の中には既に離農していて自ら農業経営を行っていない者がいるなどの状況が見受けられた。そして、協議会等におけるフォローアップ等では、このような状況について適切に把握し、必要な指導を行っているとは認められない状況となっていた。
<事例1>
助成対象者Aは、平成22年度に、コンバインを595万円(経営体育成交付金事業の助成対象事業費同額)で導入して、水稲の栽培による農業経営を開始するとして、B市から、助成金282万余円の支払を受けていた。そして、B市は、23年8月及び24年8月に、事業実施後のAの農業経営の状況を把握などするためのフォローアップ等を実施していた。
しかし、Aは、23年11月から25年11月までの間、県外に所在する民間会社に常勤で勤務しているなど、Aが自ら農業経営を行っているとは認められない状況となっていた。また、B市が実施したフォローアップ等は、A本人ではなくAの親との面談により行われており、Aの農業経営の状況を把握するためには十分とは認められないものであった。
前記のとおり、貴省は、親元就農者が助成対象者と認められるためには、責任部門を受け持った上で、経営区分をする必要があるとしている。これについて、貴省は、親元就農者であっても自らの責任で経営に係る判断を行い、その経営に係る収支を管理している場合、農業所得に係る確定申告を自ら行い独立して農業経営を行っている者(以下「独立自営就農者」という。)と同様に経営責任を有していると認められることから、新規就農定着促進事業等による助成の対象とするものであるとしている。
また、貴省は、親元就農者が、責任部門を受け持った上で経営区分をしていると認められるためには、預貯金口座の開設等が必要としている。しかし、預貯金口座の開設等のみでは、その責任部門が実体を伴っていることを確認できない。
そこで、前記の助成対象者552名から独立自営就農者361名を除いた親元就農者191名について、責任部門が実体を伴い、その上で経営区分がされているかを、〔1〕 農業経営に係る売上等を管理する預貯金口座の名義に加えて、〔2〕 農地の名義及び〔3〕 資材、生産物等に係る取引の名義(以下、これらを「3名義」という。)により確認した。
その結果、上記親元就農者191名のうち46名(助成対象事業費計2億1789万余円、助成金額計1億0618万余円、国庫補助金等同額)については、事業実施の翌年度末において、3名義の全てが親の名義となっており、実体のある責任部門を受け持った上で経営区分をしていることを確認できず、自ら農業経営を行っているとは認められない状況となっていた。そして、協議会等におけるフォローアップ等では、このような状況について適切に把握し、必要な指導を行っているとは認められない状況となっていた。
<事例2>
助成対象者Cは、平成21年度に、トラクター及び乗用管理機を計797万円(新規就農定着促進事業の助成対象事業費同額)で導入した際、就農計画において、親の農業経営の下で長いもなどの栽培を行う部門経営を開始するとして、D市担い手育成総合支援協議会から、助成金398万余円の支払を受けていた。
しかし、実際には、Cが部門経営しているとする農地の所有権等は親の名義であり、部門経営により栽培するとした長いもなどは全て親の名義で出荷され、それらの栽培に係る取引も全て親名義の口座で管理されているなど、Cが実体のある責任部門を受け持った上で経営区分していることを確認できず、Cが自ら農業経営を行っているとは認められない状況となっていた。
上記のとおり、助成対象者が自らの農業経営以外の職業に常勤で従事していて片手間に農業に従事していたり、親元就農者である助成対象者が自ら農業経営を行っているとは認められなかったりしているなどの状況は、農業に専ら従事し、これにより必要な所得のおおむねを確保し得るような者を助成対象者として、その経営の早期安定を図り、地域における将来の担い手を育成し確保するという新規就農定着促進事業等の目的に照らして、事業の効果が十分に発現していないと認められる。
(是正改善を必要とする事態)
助成対象者が自らの農業経営以外の職業に常勤で従事していて片手間に農業に従事していたり、親元就農者である助成対象者が自ら農業経営を行っているとは認められなかったりしているなどの事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省は、意欲ある多様な農業経営が展開されるよう、幅広い人材の育成及び確保を推進することとしており、今後も新規就農者が経営を開始するに当たっての機械、施設等の整備への支援を講ずることとしている。
ついては、貴省において、新規就農者を対象とした助成事業において、事業の効果が十分発現するよう、次のとおり是正改善の処置を求める。