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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 第10 農林水産省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2)青年就農給付金事業の実施に当たり、青年就農給付金の給付に係る審査が適切に行われるよう是正改善の処置を求め、並びに経営給付金に係る経営開始時期を農業経営の実態に即して設定できるよう改善の処置を要求し及び経営給付金の給付額を新規就農者の総所得に応じた適切な額とするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業経営対策費
部局等
農林水産本省、7農政局、沖縄総合事務局
補助の根拠
予算補助
補助事業者
27道府県(うち事業主体8県)、全国農業会議所
間接補助事業者
(事業主体)
市79、町22、村4、法人5、計110事業主体
補助事業
青年就農給付金事業
補助事業の概要
青年の就農意欲の喚起と就農後の定着を図り、青年就農者の大幅な増大を図るために、就農に向けて研修を受ける者や経営の不安定な就農初期段階の者に対して青年就農給付金を給付するもの
検査の対象とした157事業主体が給付した青年就農給付金の額
43億7887万余円(平成24、25両年度)
上記に係る国庫補助金交付額
43億7887万余円
失業等給付金と重複して給付されていた青年就農給付金の額
706万余円(平成24年度)
上記に係る国庫補助金相当額(1)
706万円
研修期間が1か月に満たない月を対象に給付されていた青年就農給付金の額
475万円(平成24年度)
上記に係る国庫補助金相当額(2)
475万円
農業経営の実態に即して経営開始時期を見直したことにより生じた給付見込総額の開差額
1億7625万円
上記に係る国庫補助金相当額(3)
1億7625万円
総所得が100万円以上の者に給付された経営給付金の額を総所得に応じた額としたことにより生じた開差額
9758万余円(平成24、25両年度)
上記に係る国庫補助金相当額(4)
9758万円
(1)から(4)までの純計
2億8192万円

「青年就農給付金の給付要件を満たしていない者に給付するなどしていて補助の対象とならないもの」参照)

【是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

青年就農給付金事業の実施について

(平成26年10月30日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求し及び意見を表示する。

1 事業の概要

(1)青年就農給付金事業の概要

貴省は、青年の就農意欲の喚起と就農後の定着を図り、青年就農者の大幅な増大を図るために、新規就農総合支援事業実施要綱(平成24年23経営第3543号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、平成24年度から青年就農給付金事業を実施している。

貴省は、同事業を実施するために、24年度は、事業主体である都道府県及び都道府県の青年農業者等育成センター(以下「都道府県等」という。)並びに市町村が給付した青年就農給付金80億9343万余円に対して、同額の国庫補助金を交付している。また、25年度は、全国農業会議所に国庫補助金を交付して資金(24年度補正予算及び25年度予算による国庫補助金交付額計328億6435万余円)を造成させ、全国農業会議所は、これを取り崩して、事業主体である都道府県等及び市町村が給付した青年就農給付金に対して補助金を交付している。

青年就農給付金には、就農に向けて研修を受ける者(以下「研修生」という。)に対して給付する準備型の青年就農給付金(以下「準備給付金」という。)及び経営の不安定な就農初期段階の者(以下「新規就農者」という。)に対して給付する経営開始型の青年就農給付金(以下「経営給付金」という。)がある。

準備給付金は、事業主体である都道府県等が、就農に向けて必要な技術等を習得できると都道府県が認めた教育機関等で研修を受けていて、就農予定時の年齢が原則45歳未満で農業経営者となることに強い意欲を有している研修生に対して、年間150万円を最長2年間にわたり給付するものとなっている。

一方、経営給付金は、事業主体である市町村が、独立・自営就農時の年齢が原則45歳未満で農業経営者となることに強い意欲を有している新規就農者に対して、年間150万円(夫婦で農業経営を開始する場合は年間225万円)を最長5年間にわたり給付するものとなっている。

(2)青年就農給付金の給付手続

青年就農給付金の給付手続は、次のとおりとなっている。

〔1〕 準備給付金の給付を受けようとする研修生は研修計画を、経営給付金の給付を受けようとする新規就農者は経営開始計画をそれぞれ作成し、事業主体に提出する。

〔2〕 事業主体は、提出された研修計画又は経営開始計画(以下、これらを合わせて「研修計画等」という。)の内容について審査し、審査の結果、給付要件を満たし、青年就農給付金を給付して支援する必要があると認めた場合は、当該計画を承認する。

〔3〕 〔2〕 の承認を受けた研修生又は新規就農者は、青年就農給付金の給付申請書を作成し、事業主体に青年就農給付金の給付を申請する。

〔4〕 事業主体は、申請された給付申請書の内容が適当であると認めた場合は青年就農給付金を給付する。

〔5〕 準備給付金の給付を受けた研修生は、6か月ごとに研修状況報告書を、経営給付金の給付を受けた新規就農者は、給付期間内及び給付期間終了後3年間、毎年1月末及び7月末までにその直前の6か月の就農状況報告を、事業主体にそれぞれ提出する。

〔6〕 事業主体は、教育機関等と協力し、研修計画に即して必要な技能の習得ができているか研修の実施状況を確認し、又は、都道府県普及指導センター等の関係機関と協力し、経営開始計画に即して計画的な就農ができているか実施状況を確認する。

(3)青年就農給付金の給付要件等及びその確認方法

ア 重複受給禁止要件について

青年就農給付金の給付を受けようとする者は、原則として、生活費の確保を目的とした国の他の事業による給付等を受けていないことが要件(以下、この要件を「重複受給禁止要件」という。)となっており、例えば、研修生が雇用保険による失業等給付金を受給している場合は重複受給禁止要件に反していることになる。

そして、事業主体は、研修計画等及び給付申請書により重複受給禁止要件に反していないことを確認することとなっている。

イ 研修期間等について

研修生は、研修期間がおおむね1年かつ研修時間がおおむね1,200時間以上である研修において、研修期間を通して就農に必要な技術や知識を研修することとなっている。そして、農業大学校等の教育機関で研修する場合、4月上旬の入学式から3月末まで研修を行い、研修時間がおおむね1,200時間以上であれば、年間150万円の給付を受けることができることとなっている。しかし、研修期間が1年に満たない場合などは、当該期間を月割にし、また、1か月に満たない期間がある場合は切り捨てて算出した額の準備給付金の給付を受けることができることとなっている。

そして、事業主体は、教育機関における研修期間がおおむね1年かつ研修時間がおおむね1,200時間以上であることなどについて、研修カリキュラムにより確認することとなっている。

ウ 経営開始時期について

経営給付金の給付期間は、最長5年間となっており、経営給付金の申請年度以前に経営を開始した者にあっては、経営開始後5年度目分まで給付されることとなっている。例えば、23年度に経営を開始した者が24年度に経営給付金の申請を行った場合は24年度から4年間経営給付金の給付を受けることができ、給付期間中に給付することが見込まれる総額(以下「給付見込総額」という。)は600万円(夫婦で経営を開始する場合は900万円)となる。また、経営開始時期は、農地の権利の取得時期を基本とするが、農業機械・施設の取得時期等との間に差がある場合は実態に応じて設定することとなっている。

そして、事業主体は、経営開始時期について、経営開始時期を証明する書類として経営開始計画に添付される農地等の経営資産の取得時期が分かる書類等により確認することとなっている。

エ 新規就農者の前年の総所得と経営給付金の給付額について

新規就農者の前年の総所得(農業経営開始後の所得に限り、経営給付金は除く。以下同じ。)が250万円以上であった場合、事業主体は経営給付金の給付を停止することとなっている。この要件において基準とされる250万円は、「青年等の就農促進のための資金の貸付け等に関する特別措置法」(平成7年法律第2号)の規定に基づいて都道府県知事が作成する就農促進方針における目標となる所得水準の平均を基に定められたものとなっている。

一方、前年の総所得が250万円未満であれば、年間150万円(夫婦で農業経営を開始する場合は年間225万円)の経営給付金を給付できることとなっている。

そして、事業主体は、新規就農者の前年の総所得について、当該新規就農者が7月末までに提出する就農状況報告に添付される決算書、所得証明書等により確認することとなっている。

2 本院の検査結果

本院は、合規性、経済性等の観点から、青年就農給付金事業が適切に実施されているか、経営給付金の給付額は新規就農者の前年の総所得に応じた適切なものとなっているかなどに着眼して、貴省本省、28都道府県(注)の157事業主体において、24年度に採択した研修生1,119人に対して給付した準備給付金24年度計17億9150万円、24年度に採択した新規就農者1,097人に対して給付した経営給付金24年度計12億3406万余円、25年度計13億5331万余円、合計25億8737万余円を対象として、研修計画、経営開始計画等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
28都道府県  東京都、北海道、京都府、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、石川、長野、岐阜、三重、滋賀、兵庫、鳥取、島根、岡山、広島、山口、佐賀、熊本、大分、沖縄各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)生活費の確保を目的とした国の他の事業による給付等との重複受給の状況

前記の24年度に採択された研修生1,119人及び新規就農者1,097人の計2,216人のうち23年4月以降に前職を離職した599人について、青年就農給付金の給付期間中に生活費の確保を目的とした国の他の事業による給付等を受給していないか確認したところ、22人が失業等給付金を受給しており、失業等給付金と重複して給付されていた青年就農給付金の額は、計706万余円(国庫補助金相当額同額)となっていた。

そこで、上記の22人について、事業主体における重複受給禁止要件の確認状況をみると、実施要綱等に基づいて申請者の自己申告の内容を確認していたものの、失業等給付金の申請に必要となる離職票等の客観的な資料により確認していなかった。

(2)教育機関における研修期間と準備給付金の給付期間の状況

前記の24年度に採択された研修生1,119人のうち、教育機関における研修が25年3月に終了した250人について、その研修の実施状況を確認したところ、168人については、卒業式が行われた3月上旬又は中旬から3月末までの間、教育機関における研修がほとんど行われていなかった。そして、事業主体は、このうち130人については、3月中の研修期間が1か月に満たないなどとして3月分を除いて準備給付金を給付していたが、残りの38人については、3月分も含めて準備給付金(38人に係る3月分の準備給付金計475万円、国庫補助金相当額同額)を給付していた。

そこで、上記の38人について、事業主体における研修期間の確認状況をみると、実施要綱等に基づいて研修カリキュラムにより科目ごとの年間履修時間等の確認を行っていたものの、3月に実施される卒業式から同月末までの間の研修予定を把握しておらず、準備給付金の給付期間に対応する研修期間を通して実際に研修が実施されることを確認していなかった。

(3)経営給付金に係る経営開始時期の設定状況

経営給付金に係る経営開始時期の設定方法は、前記のとおり、農地の権利の取得時期を基本とするが、農業機械・施設の取得時期等との間に差がある場合は実態に応じて設定することとなっている。このため、経営開始時期について、実際の設定状況を確認したところ、農地の権利の取得時期としていたり、農地の権利と農業機械・施設の両方を取得した時期としていたりするなど、新規就農者によって、設定方法が区々となっていた。また、農地の権利の取得時期又は農業用機械・施設の取得時期より早い時期に取引を開始しているなど、既に経営を開始していると思料される者も見受けられた。

そこで、前記の24年度に採択された新規就農者1,097人の経営開始時期について、農地の権利の設定時期、農業機械・施設の取得時期、取引の開始時期等のうち、最も早い時期を経営開始時期とすることを基本として、各々の農業経営の実態に即して見直してみると、1,097人のうち108人は、経営開始計画における経営開始時期より前の年度に既に経営を開始していたと認められる状況となっていた。

したがって、上記の108人について、見直し後の経営開始時期により給付見込総額を試算すると計4億8000万円となり、当初の給付見込総額計6億5625万円との間で1億7625万円(国庫補助金相当額同額)の開差が生ずることとなる。

<事例>

新規就農者A(夫婦)は、平成23年3月に播種機を取得したため、経営開始時期を同年4月として、経営給付金の給付期間を24年7月から28年6月までの4年間(給付見込総額900万円)とする経営開始計画を事業主体であるB町に提出し、B町は、当該計画を審査して承認していた。

しかし、Aは、22年4月にトラクターを取得し、同年7月に本人名義で農作物の販売を開始していたため、同年4月には既に経営を開始していたと認められる。

したがって、Aについては、給付期間が4年から3年になることにより、給付見込総額は675万円となり、当初の給付見込総額900万円との間で225万円(国庫補助金相当額同額)の開差が生ずることとなる。

(4)新規就農者の総所得と経営給付金の給付額の状況

前記の24年度に採択された新規就農者1,097人の23、24両年の総所得を所得証明書等により確認したところ、のとおり、総所得が100万円未満の者が23年に987人、24年に919人いる一方、総所得が100万円以上の者が23年に110人、24年に178人(24年度の経営給付金1億2725万円、25年度の経営給付金2億1337万余円、計3億4062万余円)となっており、このうち総所得が200万円以上の者が23年に28人、24年に26人となっていた。

表 新規就農者の総所得の状況

(単位:人、千円)
総所得 平成23年 24年
受給者数 経営給付金 受給者数 経営給付金
100万円未満 987 1,106,812 919 1,139,937
100万円以上 110 127,250 178 213,375
  うち200万円以上 28 34,500 26 33,000
1,097 1,234,062 1,097 1,353,312

経営給付金は、前記のとおり、前年の総所得が、250万円以上であれば給付が停止されることとなっているが、250万円未満であれば一律に年間150万円(夫婦で農業経営を開始する場合は年間225万円)が給付されることとなっている。

そして、前年の総所得が100万円以上の者は、総所得と経営給付金の合計額が250万円以上となり、前記の都道府県知事が作成する就農促進方針における目標となる所得水準の平均を基に定められた額を超えることとなる。

そこで、前年の総所得が100万円以上である前記の新規就農者(23年110人、24年178人)について、経営給付金の上限給付額を150万円として、前年の総所得と経営給付金の合計額が最大で250万円となるように試算すると、給付額は24年度8223万余円、25年度1億6080万余円、計2億4304万余円となり、前記の経営給付金給付額3億4062万余円との間で9758万余円(国庫補助金相当額同額)の開差が生ずることとなる。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

以上のように、重複受給禁止要件を客観的な資料によらずに本人からの自己申告のみにより確認することとしていて、重複受給禁止要件に反している者に青年就農給付金を給付していたり、準備給付金の給付期間に対応する研修期間を通して実際に研修が実施されることを確認することとしておらず、研修期間が1か月に満たない月に係る準備給付金を給付したりしている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、経営開始時期が各々の農業経営の実態に即して設定されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。さらに、前年の総所得が250万円未満であれば総所得の多寡にかかわらず給付額を一律にしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、主として次のことなどによると認められる。

  • ア 事業主体における青年就農給付金の給付に係る審査において、重複受給禁止要件を客観的な資料により確認したり、教育機関における研修状況を確認する際に、準備給付金の給付期間に対応する研修期間を通して実際に研修が実施されることを確認したりすることを実施要綱等に示していないこと
  • イ 経営給付金における経営開始時期について、具体的な設定方法を実施要綱等に示していないこと
  • ウ 経営給付金の給付額を新規就農者の総所得に応じた適切な額とすることについての検討が十分でないこと

3 本院が求める是正改善の処置並びに要求する改善の処置及び表示する意見

貴省は、青年就農者の大幅な増大を図るために、今後も青年就農給付金事業に要する経費に充てるため多額の国庫補助金を交付することとしている。

ついては、貴省において、青年就農給付金の給付に係る審査が事業主体において適切に行われるようにしたり、経営開始時期の設定が適切かつ統一的な方法により行われるようにしたり、経営給付金の給付額を新規就農者の総所得に応じた適切な額としたりするよう、次のとおり是正改善の処置を求め、並びに改善の処置を要求し及び意見を表示する。

  • ア 実施要綱等において、事業主体が重複受給禁止要件の確認を行う際に、本人からの自己申告のみでなく、失業等給付金の申請に必要な離職票等の客観的な資料により確認するようにしたり、事業主体が教育機関における研修状況を確認する際に、準備給付金の給付期間に対応する研修期間を通して実際に研修が実施されることを確認するようにしたりすることを具体的に示すこと(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 実施要綱等において、経営給付金における経営開始時期を農業経営の実態に即して設定する方法を具体的に示すこと(同法第36条による改善の処置を要求するもの)
  • ウ 経営給付金の給付額を新規就農者の総所得に応じた適切な額とするための基準を検討し、給付額を見直すこと(同法第36条による意見を表示するもの)