(「虚偽の内容の交付申請や実績報告を行うなどして、実績報告書の工事費より低額で改修工事を実施したり、補助要件を満たさない賃貸住宅を補助の対象としたりなどしていたもの」参照)
【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】
住宅セーフティネット整備推進事業について
(平成26年10月30日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。
記
貴省は、平成22年度から、既存の民間賃貸住宅(以下「賃貸住宅」という。)の質の向上と空家の有効活用により、高齢者世帯、子育て世帯、低額所得者等の住宅確保要配慮者(以下「要配慮者」という。)の居住の安定確保を図るなどのために、空家を有する賃貸住宅の改修工事を行う事業主体(注1)に対して、要配慮者の入居等を条件として、当該改修工事に要する費用の一部(補助率3分の1。空家1戸当たりの限度額100万円)について補助している。
この国庫補助事業は、22年度にストック活用型住宅セーフティネット整備推進事業(23年度繰越分を含む。以下「22年度事業」という。)として、また、24年度に民間住宅活用型住宅セーフティネット整備推進事業(以下「24年度事業」という。)として実施されており、事業主体数及び国庫補助金交付額は、22年度事業で2,693事業主体、80億7301万余円、24年度事業で4,429事業主体、95億1720万余円に上っている。そして、この国庫補助事業は、25、26両年度においても、同様の国庫補助金の交付を受けるための要件(以下「補助要件」という。)の下に、24年度事業から引き続き実施されている(以下、22年度事業、24年度事業及び25、26両年度に実施されている事業を合わせて「SN事業」という。)。
貴省は、SN事業の実施に当たり、国土交通大臣が公募により選定した者(以下「事務事業者」という。)に国庫補助金を交付して、間接補助事業者となる事業主体からの国庫補助金に係る交付申請書の受理、交付決定、実績報告書等の審査、額の確定、交付、現地調査等の事務を行わせることとしており、22年度事業については株式会社市浦ハウジング&プランニングを、24年度事業については株式会社URリンケージをそれぞれ事務事業者に選定している。
貴省は、国庫補助金の交付に当たり、22年度事業で「高齢者等居住安定化推進事業補助金交付要綱」(平成22年国住整第141号)を、24年度事業で「民間住宅活用型住宅セーフティネット整備推進事業補助金交付要綱」(平成24年国住備第722号、国住心第134号)をそれぞれ定めている。そして、両交付要綱によれば、事務事業者は交付規程を定めて、国土交通大臣の承認を得ることとされている。そして、事務事業者は、交付規程に基づき、事業主体が国庫補助金の交付申請等を行うに当たっての事務手続等の必要な事項をマニュアルに定めることとなっている(以下、両交付要綱、交付規程及びマニュアルを合わせて「交付要綱等」という。)。
交付要綱等によれば、主な補助要件は次のとおりとされており、それらを証明する賃貸借契約書等の証拠書類を国庫補助金を受けた年度終了後5年間保存しなければならないこととされている。
交付要綱等によれば、事業主体は、交付申請時に、SN事業に要する経費を証明する書類として、22年度事業については請負契約書の写しを、24年度事業についてはこれに加えて工事費の内訳が記載された見積書の写し(以下「工事内訳書」という。)を提出することとされている。
一方、事業主体は、実績報告時に、支払を証明する領収書等の証拠書類を提出する必要はないが、SN事業に要した経費を他の経理と明確に区分した帳簿及び証拠書類を国庫補助金の交付を受けた年度終了後5年間保存しなければならないこととされている。
交付要綱等によれば、事業主体は、SN事業実施後の10年間の管理期間中は高齢者、低額所得者等であることを理由として要配慮者の入居を拒んではならないこととされている。そして、改修工事を実施した賃貸住宅の所有者は、当該賃貸住宅を譲渡しようとする場合は、賃貸住宅を譲り受けようとする者と、SN事業実施後の管理期間中は上記の条件等を遵守する旨の確認書を取り交わすこととされており、譲り受けた者はSN事業の目的に沿って適切に管理することとされている。
また、貴省、都道府県等は、SN事業の対象となった賃貸住宅に係る情報を要配慮者へ提供するために、それぞれのホームページ上に入居に関する問合せ先として賃貸住宅の所有者名、管理者名、連絡先等を掲載している。
さらに、マニュアルによれば、事務事業者は、事業主体に対して、SN事業実施後、一定期間が経過した後に、賃貸住宅の入居の有無、要配慮者の入居状況等の管理状況の報告(以下「管理状況報告」という。)を求めることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、SN事業について、対象となった賃貸住宅は補助要件を満たしているか、経理は適正か、対象となった賃貸住宅は事業目的に沿って適切に管理されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、9道府県(注2)管内において、63事業主体が22年度事業及び24年度事業として実施した998戸(事業主体数及び戸数については、22年度事業及び24年度事業の重複を除外している。以下同じ。)に係るSN事業(工事費計35億3580万余円、国庫補助対象事業費計32億0634万余円、国庫補助金計9億9189万余円)を対象に、実績報告書と証拠書類とを突合したり、賃貸住宅の入居状況等を現地で確認したりなどするとともに、2事務事業者及び貴省において、実績報告書の審査の事務の状況等について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
20事業主体が実施した97戸に係るSN事業(工事費計3億3705万余円、国庫補助対象事業費計3億1420万余円、国庫補助金計9884万余円)において、次のとおり、補助要件を満たしていないものが見受けられた。
18事業主体は、72戸に係るSN事業において、虚偽の交付申請書や添付書類を提出するなどして、基準日に、賃借人が入居中で空家となっていなかったり、空家になってからの期間が3か月以上経過していなかったりしていたものを補助対象としていた。
しかし、事務事業者は、基準日において空家であることや3か月以上空家であることを十分確認するための審査方法を定めていなかったため、虚偽の申請であることを発見できなかった。
3事業主体は、3戸に係るSN事業において、実績報告時に虚偽の報告をして、入居募集開始後3か月以内に要配慮者ではない者を最初に入居させていた。
しかし、事務事業者は、入居状況報告書の記載内容が事実であることを確認するための審査方法を定めていなかったため、虚偽の報告であることを発見できなかった。
2事業主体は、26戸に係るSN事業において、交付申請書に補助の対象となった賃貸住宅の空家について虚偽の床面積を記載していた。
しかし、事務事業者は、交付申請書の添付書類等から、床面積が補助要件の25m2以上であることを満たしていないおそれがあることを推定できるものもあったのに、審査の際にこれを看過するなどしていたため、虚偽の申請であることを発見できなかった。
24事業主体は、319戸に係るSN事業(工事費計12億0462万余円、国庫補助対象事業費計10億8544万余円、国庫補助金計3億3190万余円)において、工事内訳書の金額を水増しするなどして実績報告書等に記載された工事費よりも低額で改修工事を実施していた。
しかし、事務事業者は、領収書等の支払を証明する書類について確認していないなど、工事費について十分な審査を実施していなかったため、その事態を把握できていなかった。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
九州宅地開発株式会社は、平成24年度に、賃貸住宅の30戸が空家となっていることから、手すり等を設置するバリアフリー改修工事等の改修工事を、工事費9652万余円(国庫補助対象事業費9193万円)で同社代表取締役が代表取締役を務める別会社に請け負わせて実施したとして、国庫補助金3000万円の交付を申請していた。
そして、事務事業者は交付申請書に記載された金額により交付決定し、同社は同額で改修工事を実施したとして、実績報告書を提出し、国庫補助金の交付を受けていた。
しかし、請負業者との契約書は水増しされたものであり、実際に改修工事に要した費用は1844万余円と実績報告書の工事費よりも低額となっていた。
ア及びイの事態が見受けられた31事業主体が実施した373戸に係るSN事業(工事費計13億8355万余円、国庫補助対象事業費計12億5491万余円、国庫補助金計3億8575万余円)は、国庫補助金計2億6235万余円が過大に交付されていた。
22事業主体が実施した235戸に係るSN事業(工事費計8億0157万余円、国庫補助対象事業費計7億2403万余円、国庫補助金計2億2559万円)において、会計実地検査時点で賃貸借契約書、入居者が要配慮者に該当するか確認するための書類、支払を証明する書類等の証拠書類を保管していなかったなどしていたため、補助要件を満たしていたのかが確認できなかったり、改修工事が実績報告書等に記載されたとおりの金額で実施されたかが確認できなかったりしていた事態が見受けられた。
11事業主体が実施した121戸に係るSN事業(工事費計4億2049万余円、国庫補助対象事業費計3億9790万余円、国庫補助金計1億2139万余円)において、次のような事態が見受けられた。
6事業主体は、60戸に係るSN事業において、事業実施後に第三者に譲渡された際に所有者と譲渡先とが、要配慮者の入居を拒んではならないなどの条件等を遵守する旨の確認書を取り交わしていなかった。
このため、上記の60戸については、譲渡先において譲渡された賃貸住宅がSN事業の対象となった賃貸住宅であることを認識できないことにより、要配慮者の入居を拒まないというSN事業の目的に沿った適切な管理がなされないおそれがある状況となっていた。
6事業主体が実施した55戸に係るSN事業において、賃貸住宅が第三者に譲渡されるなどして、要配慮者に対して貴省、都道府県等がホームページ等で提供する賃貸住宅に関する情報に変更が生じていた。
しかし、上記のような場合において、事業主体が貴省又は事務事業者に対して賃貸住宅に関する情報の変更の報告を行うことになっておらず、貴省、都道府県等においてホームページ上の賃貸住宅に関する情報が適時適切に更新されていなかった。このため、要配慮者に賃貸住宅の連絡先等に関する正確な情報が提供されず、要配慮者の入居に関する問合せに適切に対応することができない状況となっていた。
事務事業者は、事業主体に対して、22年度事業及び24年度事業の実施後に、それぞれ24年2月1日及び25年12月10日時点での管理状況報告の提出を求めていた。
しかし、管理状況報告は、事業実施後に入居状況を1回に限り報告させているだけで、管理期間である10年間の管理状況を把握するために十分なものとはなっていなかった。また、24年度事業についてみると、47事業主体のうち5事業主体(61戸のSN事業に係る工事費計2億0345万余円、国庫補助対象事業費計1億9376万余円、国庫補助金計6100万円)は、管理状況報告を提出していなかった。
(是正改善及び改善を必要とする事態)
SN事業の対象となった賃貸住宅が補助要件を満たしていなかったり、経理が適正でなかったりして国庫補助金が過大に交付されているなどの事態及び補助要件を満たしているかなどについて確認ができなかった事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、SN事業の対象となった賃貸住宅について譲渡する際に必要な確認書が取り交わされておらず適切に管理されていないおそれがあったり、要配慮者に対して賃貸住宅に関する正確な情報が提供されていなかったり、定期的に管理状況報告の提出を求めていなかったりなどしていて、補助事業実施後に的確な管理が図られていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体においてSN事業の適正な実施及び経理に対する認識が著しく欠けていたことにもよるが、次のことなどによると認められる。
貴省は、今後も、要配慮者の居住の安定の確保を図るための各種の施策を推進していくことが見込まれる。
ついては、貴省において、SN事業における経理等の適正化や事業実施後の賃貸住宅の的確な管理を図るよう、次のとおり是正改善の処置を求めるとともに、意見を表示する。