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  • 平成25年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

第1 生活保護の実施状況について


検査対象
厚生労働省、24都道府県
生活保護の目的
生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ること
生活保護の実施根拠
生活保護法(昭和25年法律第144号)
全国の被保護世帯数
149万世帯(平成23年度)
全国の被保護者数
206万人平成23年度)
全国の生活保護費
3兆5015億円(平成23年度)
上記に係る主な扶助費の額
(1) 生活扶助費の額 1兆2090億円
(2) 住宅扶助費の額   5384億円
(3) 医療扶助費の額 1兆6432億円
検査の対象とした24都道府県の生活保護費
          2兆6445億円(平成23年度)
上記に係る国庫負担金相当額
          1兆9833億円

1 検査の背景

(1) 生活保護制度の概要

生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。

法による保護(以下「保護」という。)は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策等の活用を図ることとなっている。そして、法において「被保護者」とは、現に保護を受けている者をいい、また、「要保護者」とは、現に保護を受けているといないとにかかわらず、保護を必要とする状態にある者をいうこととなっている。

そして、厚生労働省は、都道府県又は市町村(以下、これらを「事業主体」という。)が被保護者に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金を交付している。

(2) 被保護者数等の推移

被保護者数等は昭和60年度頃から減少傾向にあったが、平成7年度頃から増加に転じて、特に20年度以降は増加が顕著となり、23年度の被保護者数は206万余人、被保護世帯数は149万余世帯、保護率は1.62%となっている。

そして、保護費は被保護者数の増加に伴い年々増加しており、23年度には3兆5015億余円となっている。また、保護は、生活扶助、住宅扶助、医療扶助等の8種類に分けられており、その内訳をみると、医療扶助に係る保護費(医療扶助費)が保護費全体の約半分を占めており、これに生活扶助及び住宅扶助に係る保護費(以下、それぞれ「生活扶助費」及び「住宅扶助費」という。)を合わせたものが保護費の大部分(23年度で96.8%)を占めている。

被保護世帯数を世帯類型別にみると、高齢者世帯が全体の4割以上を占めている。また、稼働年齢層を多く含むと考えられるその他の世帯が20年度の12万余世帯から23年度の25万余世帯へと倍増しており、全体に占める割合も20年度の10.6%から23年度の17.0%へと増加している。

(3) 生活保護制度の見直し

厚生労働省は、生活保護制度に対する国民の信頼に応えるために、就労自立給付金の創設、不正受給者に対する罰則強化、福祉事務所の要保護者、扶養義務者等に対する調査権限の拡大等を定めた「生活保護法の一部を改正する法律案」を25年10月に第185回国会(臨時会)に提出した。そして、同法案は同年12月に可決、成立し、同省は改正された法に基づいて、施策を検討し、立案していくことになる。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

近年、被保護者数及び保護費はいずれも増加してきていることなどから、要保護者への適切かつ効果的、効率的な保護の実施が引き続き求められる状況となっており、また、稼働能力を有する被保護者について、その稼働能力の十分な活用を図るために、厚生労働省及び事業主体において就労支援の取組を一層強化している。

そこで、本院は、保護費が多額に上っている医療扶助、生活扶助、住宅扶助、被保護者に対する就労支援等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、医療扶助は適切に実施されているか、生活扶助費及び住宅扶助費は適切に支給されているか、就労支援により就労した被保護者の就労後の状況はどのようになっているかなどに着眼して検査を実施した。

(2) 検査の対象及び方法

24都道府県(注)511事業主体における23年度の保護費2兆6445億余円(国庫負担金相当額1兆9833億余円)を主な対象として、厚生労働本省及び24都道府県の201事業主体(特定の項目については9事業主体を加えた210事業主体)において会計実地検査を行うとともに、上記の511事業主体について保護に係る関係書類を確認するなどの方法により検査を行った。

(注)
24都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、栃木、埼玉、千葉、神奈川、富山、石川、福井、長野、愛知、三重、滋賀、奈良、島根、広島、山口、徳島、福岡、大分、宮崎、沖縄各県

3 検査の状況

(1) 医療扶助の状況

ア 医療扶助の概要

医療扶助は、厚生労働大臣等が指定する医療機関において、被保護者が診療を受ける場合等の費用について行われるものであり、被保護者については、医療保険の加入者を除き、医療機関に支払われる診療報酬等の全額が医療扶助の対象となる。

イ 入院している被保護者における精神疾患の状況

210事業主体における被保護者である入院患者のうち、精神疾患患者に係る入院基本料及び特定入院料のレセプト件数についてみたところ、平均在院日数が所定の日数以内である精神病棟入院基本料が405件であるのに対して、所定の日数の定めがない精神病棟入院基本料は16,380件と多数に上っていた。また、特定入院料についても、入院日から起算して3か月を限度として算定される応急入院患者等を対象とする精神科救急入院料が802件、急性期の集中的な治療を要する精神疾患患者を対象とする精神科急性期治療病棟入院料が1,675件等となっているのに対して、長期にわたり療養が必要な精神障害者を対象とする精神療養病棟入院料は9,917件と多数に上っていた。このことから、精神疾患をり患して入院している被保護者は、その多数が長期にわたり入院している傾向があり、入院に係る医療扶助を恒常的に受給している状況が見受けられた。

ウ 嘱託医における要否意見書の検討状況

福祉事務所は嘱託医を配置して、医療機関が医療の必要性等を記載した要否意見書の内容の検討を行わせることとなっている。その配置状況をみたところ、ほとんどの福祉事務所において一般の嘱託医を1人又は精神科嘱託医と合わせて2人配置していた。また、24年3月の間に要否意見書の検討枚数を集計していた116事業主体の158福祉事務所についてみたところ、1福祉事務所当たりの要否意見書の枚数は20枚未満から7,000枚以上となっており、嘱託医1人当たりの要否意見書の検討枚数は100枚未満から1,000枚以上と開差が見受けられる状況となっていた。

エ 退院指導等の実施状況

(ア) 長期入院患者

入院期間が180日を超える長期入院患者については、福祉事務所は厚生労働省の通知に基づき、主治医等の意見を聴取して入院患者の入院継続の要否を確認したり、入院患者を訪問して実態を把握したり、適切な退院指導等の措置を行うこととされている。

22年度又は23年度の長期入院患者であって医療扶助による入院継続を要しないとされた者のうち、退院等に至っていない者延べ1,199人を抽出して、り患している疾病別にみたところ、精神及び行動の障害に分類される者の割合が過半を占めていた。また、退院等に至っていない理由をみたところ、介護施設、福祉施設等への入所が適切と考えられるが受入先がない者が延べ662人見受けられ、入院治療の次の段階への引継ぎが円滑に行われていない状況となっていた。

また、退院指導の際に、事業主体と医療機関との間での退院に向けた調整がどのように行われているか、退院等に至っていない長期入院患者がいる事業主体についてみたところ、確認ができた82事業主体において、保護の業務を担当する現業員が単独で医療機関と退院に向けた調整をしている事業主体が53事業主体と約3分の2を占めていた。

(イ) 例外的給付

生活保護制度の医療扶助においては、被保護者である入院患者については、速やかに退院後の受入先を確保し、180日を経過するまでに退院するよう指導(以下「退院促進に係る指導」という。)することとなっている。そして、退院後の受入先が確保できないなどの者については、保険外併用療養費相当額が支給される場合であっても、それに代えて、例外として、当該入院患者に係る入院基本料等相当額を医療扶助により支給(以下「例外的給付」という。)して差し支えないこととなっている。

23年度に例外的給付を受けた長期入院患者600人について、退院促進に係る指導についてみたところ、432人に対しては、退院促進に係る指導が特段行われていなかった。一方、600人のうち、入院の要否を検討した記録のある者が370人見受けられたが、このうち92人は退院可能と判断され、92人のうち47人は退院促進に係る指導が特段行われていなかった432人の中に含まれていた。なお、92人のうち73人は、25年3月末までに退院していた。

(ウ) 事業主体における退院支援事業

一部の事業主体は、退院促進に係る指導と併せて、独自に要綱を作成して退院支援の事業を行っている。この事業の実施状況についてみたところ、22、23両年度に事業の対象となった被保護者延べ1,729人のうち、当該年度内に実際に退院した者は延べ457人となっていた。そして、457人のうち、退院促進に係る指導を併せて受けていた者は延べ324人となっていた。

(エ) 精神障害者地域移行・地域定着支援事業の実施状況

厚生労働省は、退院促進に係る指導を事業主体に行わせる一方で、障害者施策及び精神医療施策の一環として、被保護者に限ることなく精神障害者を対象として、精神障害者地域移行・地域定着支援事業を行っている。

前記の24都道府県における同事業の実施状況についてみたところ、同事業により支援を受けた者延べ3,204人のうち、退院して地域に移行・定着した者は延べ1,079人となっており、この中には、退院促進に係る指導を受けていた被保護者が、把握できた範囲で延べ143人見受けられた。

オ 高頻度入院の状況

23年度中に入院している期間があり、かつ転院も行い、その結果延べ3医療機関以上に入院した被保護者(以下「高頻度入院者」という。)1,373人を抽出して、延べ入院人数により区分した医療機関数の分布をみたところ、延べ100人以上が入院した医療機関が8医療機関となっていて、特定の医療機関に高頻度入院者が多数入院している状況が見受けられた。

そこで、上記の8医療機関について、高頻度入院者の入院回数をみたところ、上記の1,373人のうち、23年度内において8医療機関のいずれかに1回以上入院した者は349人見受けられた。そして、このうち132人は、8医療機関のいずれかに10回以上入院していて、その延べ入院回数は計1,611回となっていた。このことは、入退院を繰り返す被保護者を受け入れている医療機関のうち、一部の医療機関の間で被保護者が入退院を繰り返していることを示していると認められる。

上記の349人の転院の要否に係る福祉事務所の検討状況についてみたところ、173人については、転院の全部又は一部についてその必要性を判断した根拠が不明等とされていた。そして、349人の中には短期間で転院を繰り返しているため、福祉事務所による転院の要否の検討が適時に行われず事後的に行われている者も見受けられた。

そして、上記の173人について、医療扶助の診療報酬項目のうち、初診料、一般病棟入院期間加算、医学管理料及び検査料に着目してみたところ、転院の都度、同種の診療報酬が算定されている事態が多数見受けられた。

カ 向精神薬等の重複処方の状況

210事業主体において、精神科治療薬として一般に使用されている5成分(トリアゾラム、ゾルピデム酒石酸塩、ブロチゾラム及びフルニトラゼパム(以上の4成分は向精神薬であり、投与日数は1回30日分を限度とされている。)並びにエチゾラム)に係る医薬品について、23年11月分の電子レセプト等を基に、同月に複数の医療機関から処方を受けた者の状況をみたところ、該当する被保護者は延べ4,328人に上っていた。そして、仮に医薬品の添付文書に記載されている用法用量を基準として換算したところ、1か月間で30日分に相当する量を超える処方を受けていた者が延べ2,871人、このうち180日分に相当する量を超える処方を受けていた者が延べ63人見受けられた。また、中には最大で20医療機関から処方を受けた者も見受けられた。

福祉事務所は、複数の医療機関から重複して向精神薬を処方されている場合等には、主治医等への確認や医療機関と協力して行う適正受診指導の徹底を図ることとなっている。そこで、向精神薬等に係る適正受診指導等の状況についてみたところ、福祉事務所が繰り返し指導等を行っているにもかかわらず、重複処方が改善されていないなどの事態が見受けられた。

キ 頻回受診者の状況

福祉事務所は、医療扶助による外来患者(歯科を除く。)であって、同一傷病について、同一月内に同一診療科目を15日以上受診している月が3か月以上続いている者について、通院台帳等を整備するとともに、嘱託医と協議を行うなどして、頻回受診者と判断された者に対しては、速やかに訪問指導をすることとなっている。

23年度に頻回受診者と判断された者のうち、過度な診療日数が改善されていない者1,242人に対する通院台帳等の整備状況等についてみたところ、嘱託医との協議等が不十分等のため通院台帳等が整備されていない者が550人、また、通院台帳等が整備されている者のうち、電話による指導を受けただけで訪問指導が行われていないなどの者が99人見受けられた。

(2) 生活扶助及び住宅扶助の状況

ア 生活扶助及び住宅扶助の概要

保護のうち生活扶助は衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものなどの範囲内において、また、住宅扶助は住居及び補修その他住宅の維持のために必要なものの範囲内において行われるものである。

保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うこととなっている。そして、厚生労働大臣は、要保護者の年齢等に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えない基準として、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)を定めており、これにより扶助ごとに最低限度の生活に必要な額が算定されることとなっている。

保護の基準によれば、生活扶助は、①基準生活費、②障害等による特別の需要がある者に対する加算及び③臨時的な需要を満たすための一時扶助費で構成される。

住宅扶助基準は、家賃、間代、地代等や住宅維持費の区分ごとに基準額が定められている。そして、家賃等の費用がこの基準額を超えるときは、都道府県等ごとに厚生労働大臣が別に定める額(以下「上限額」という。)の範囲内で算定することとなっている。

イ 公的年金の収入認定の状況

保護は、被保護世帯を単位として保護の基準によって算定される最低生活に必要な額から、被保護世帯における年金受給額等を基に収入として認定される額を控除して決定された保護費の額を支給することとなっている。

厚生労働省の平成22年公的年金加入状況等調査によれば、65歳以上の高齢者全体に占める公的年金の受給者の割合は97%である。一方、201事業主体における被保護者のうち、24年4月2日現在、公的年金(厚生年金等も含む。)の収入認定が行われていない被保護者216,633人の年齢階層別の割合をみたところ、60歳以上65歳未満で60.9%、65歳以上70歳未満で55.3%、70歳以上で51.4%と、それぞれの階層において過半数の被保護者について公的年金の収入認定が行われていない状況となっていた。

これは、公的年金のうち老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間(以下「保険料納付済期間等」という。)が25年(300月)以上の者が、原則として65歳に到達したときなどに、その者に受給権が発生することになっているところ、保険料納付済期間等が25年(300月)に満たないためであると思料される。

しかし、前記216,633人のうち、25年5月末現在の状況を確認できた65歳以上の被保護者133,992人について、保険料納付済期間等別の人数をみたところ、保険料納付済期間等が300月以上の被保護者や、保険料納付済期間等が300月未満であっても一定の条件に該当し老齢基礎年金の受給権を有する被保護者が計2,223人見受けられた。

なお、27年10月1日以降は、老齢基礎年金の受給権が発生するのに必要とされる保険料納付済期間等が、これまでの25年(300月)から10年(120月)に短縮される予定になっている。

ウ 管理手持金の状況

「入院患者、介護施設入所者及び社会福祉施設入所者の加算等の取扱いについて」(昭和58年社保第51号。以下「取扱指針」という。)によれば、医療機関等に入院又は入所中の被保護者が金銭管理能力がないため、医療機関等の長等に金銭の管理を委ねている(以下、管理を委ねている金銭を「管理手持金」という。)場合、当該管理手持金の額が加算等の6か月分の額に達している場合は、当該加算等の計上を停止することとなっている。

そこで、210事業主体を対象として、25年3月において、医療機関等に入院又は入所している被保護者のうち管理手持金の額が50万円以上となっている者のその額及び加算等の計上の停止の状況についてみたところ、該当する被保護者は902人(管理手持金の合計額6億6421万円)で、このうち管理手持金の額が100万円以上の者は119人、また、加算等の計上が停止されていない者は350人となっていた。

上記350人の中には、管理手持金の額が加算等の6か月分の額に達している者が含まれていると思料されることから、福祉事務所において、近い将来医療を受けることに伴い必要となる経費を考慮した上で、加算等の計上を停止するなどの必要がある。

エ 死亡した単身世帯の被保護者の遺留金等の状況

(ア) 遺留金の保有状況

201事業主体において22、23両年度に死亡により保護が廃止された単身世帯の被保護者38,074人(高齢者以外の者も含む。)の遺留金の保有状況についてみたところ、死亡時に遺留金があることが確認された被保護者は11,840人見受けられた。そして、このうち遺留金を50万円以上保有していた444人のうち19人については、生前に未申告の保険金収入を得ていたことが死亡後の調査において判明したことなどのため、遺留金計5042万円のうち保護費相当額1906万円について返還の請求が決定されていた。

50万円以上の遺留金を保有することになった原因について、事業主体は、172人の遺留金については、保護費が累積したものであると推測されたため返還等の問題は生じないと考えて、保有の原因の確認を行っていなかった。

しかし、前記444人の被保護者の中には、医療機関等に入院又は入所していた者が多く含まれていることから、これらの被保護者について、相当期間にわたって取扱指針に基づく加算等の計上の停止がされていなかったため、手持金が累積していた場合もあると思料されることなどから、遺留金の保有の原因について的確に確認を行う必要があると思料される。

(イ) 遺留金に係る処理状況

死亡時に遺留金があることが確認された被保護者11,840人のうち遺留金を葬祭扶助費に充当してもなお残余を生じていた者が545人おり、その遺留金計1億8980万円に係る処理状況をみたところ、285人の被保護者については、扶養義務者である相続人が葬祭を行わないとしたことから葬祭執行者が葬祭を行っていたものであるが、その遺留金計1億1847万円は相続人に引き渡されていた。

相続人があることが明らかではない場合は、事業主体は相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることとなっているが、遺留金の額が少額である場合は、最終的に事業主体が管理費用を負担することとなる。そのため、28事業主体は、管理費用が葬祭執行後の遺留金残額を上回るおそれがあるなどとして、被保護者141人に係る遺留金計3495万円を福祉事務所内の金庫に保管するなどしていた。

また、32事業主体は、被保護者89人に係る遺留金計1637万円を現行制度上認められていない永代供養料、社会福祉協議会への寄附等に使用していた。

(ウ) 葬祭扶助に係る葬祭の執行状況

葬祭に対して葬祭扶助費が支給された被保護者16,873人のうち10,863人については医療機関等の長や民生委員等の葬祭執行者によって葬祭が行われていた。しかし、死亡時に遺留金を保有していたことが確認された5,381人のうち590人に係る遺留金計3182万円については金融機関の口座に預貯金として預けられているため引き出すことができないなどとして、葬祭扶助費に充当されていなかった。このように、被保護者の遺留金は可能な限りこれを葬祭扶助費に充当すべきであるとして、法第76条の規定に基づき金融機関から払戻しを受けている事業主体が見受けられる一方、死亡した被保護者の口座に預けられている預貯金を引き出すことはできないとして、通帳等を保管又は破棄するなどしている事業主体も見受けられた。

このほか、上記10,863人のうち2,453人(支給された葬祭扶助費計4億9868万円)については法に基づく申請の手続を執らずに葬祭扶助が行われていたり、保護の決定手続を行う立場にある福祉事務所の職員等を葬祭執行者として葬祭扶助が行われていたりしていた。

オ 失踪により保護が廃止された被保護者に係る保護費についての対応

前記511事業主体の管内に社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する無料低額宿泊事業を行う施設等の宿泊所等が所在するかみたところ、179事業主体の管内に計1,442か所あり、いずれも被保護者が入居しており、23年度当初の被保護者の入居総数は計19,062人となっていた。

このうち、同年度内に失踪したものと判断されて保護が廃止された者が延べ2,970人見受けられた。

保護の廃止に伴い、前渡した保護費のうち保護廃止日以降の分については、過払いとなることから、日割りにより精算を行うこととなっている。

前記の2,970人に対して、保護廃止日を含む月以降に支給されていた保護費の額は計2億8635万円、このうち過払いとされた額は延べ2,338人に対して計1億3751万円となっていた。そして、宿泊所等から失踪した被保護者に対して支給された保護費の過払分に係る処理についてみたところ、その処理は区々となっており、一部には返還等の処理が行われていない事態も見受けられた。

事業主体は、被保護者が失踪している状況においては、保護費の過払分を被保護者から収納することは困難となる。一方、宿泊所等を退所する場合の宿泊料等の精算については、利用者である被保護者と宿泊所等の運営事業者等との間の利用契約において定められるが、契約上、宿泊料等の精算について定められている場合であっても、仮に被保護者が失踪すると、契約に基づき本来は被保護者に返還されるべき宿泊料等が宿泊所等に滞留する結果となり得ると思料される。

カ 住宅の家賃の額の差異の状況

210事業主体を対象として、住宅扶助費をその地域における上限額で受給している被保護世帯が5世帯以上入居している集合賃貸住宅(公営を除く。)から1,778棟を抽出して、同一の建屋で、被保護世帯の住居に係る家賃額と、それ以外の住居(以下「一般住居」という。)に係る家賃額との差額についてみたところ、112棟は被保護世帯に係る家賃額が一般住居に係る家賃額よりも高額となっており、このうち21棟については差額が10,000円を超えていて、被保護世帯が一般住居に係る家賃額よりも高額の家賃で契約している疑義がある事態が見受けられた。

(3) 就労支援の状況

ア 「福祉から就労」支援事業等を受けた被保護者の状況

511事業主体において、「福祉から就労」支援事業、事業主体が行う就労支援員を活用した自立支援プログラム等(以下、これらを「支援事業等」という。)による支援を受けた被保護者の就労等の状況をみたところ、支援事業等を受けた79,063人のうち30,859人は就労開始等に結びつくなどしており、このうち23,903人は保護継続のままであったが、6,956人は保護の廃止に至っていた。

そして、上記の23,903人について、25年3月末現在の状況をみたところ、8,975人は一旦は就労したものの、その後離職しており、そのうち4,959人は、就労を再開していなかった。

また、前記の就労開始等により保護廃止に至っていた者6,956人について、25年3月末現在の状況をみたところ、799人はその後保護が再開されていた。そして、799人のうち457人は、保護継続のまま就労を再開していなかった。

イ 支援事業等により就労開始等に至った者の離職理由、就労期間等

支援事業等により保護継続のまま就労開始等に至り、更にその後に離職した前記8,975人のうち、離職理由及び就労期間を把握できた4,204人についてみたところ、離職理由については自己都合が1,992人と最も多く、次に傷病が863人となっており、また、就労期間については1年未満の者が3,778人(4,204人の89.9%)と約9割を占めている状況となっていた。これを総務省の平成24年就業構造基本調査と比較してみると、離職理由については自己都合の比率が同程度となっていたが、被保護者の離職理由としては傷病の割合が高いものとなっていた。また、離職理由が不明であった被保護者が見受けられ、継続的な就労支援を行う上で事業主体が必要な情報を把握できていない状況が一部に見受けられた。そして、継続就業期間については非正規就業者で1年未満が31.3%となっており、被保護者の方が非正規就業者よりも短期間で離職する傾向が強いことがうかがわれた。

さらに、支援事業等により就労開始等に至り一旦は保護廃止となったものの、その後に保護が再開された者799人のうち、保護再開理由及び保護再開までの期間を把握できた419人についてみたところ、保護再開理由については失業が290人と最も多く、保護廃止から再開までの期間については1年未満が353人と8割以上を占めており、支援事業等により就労等を開始して保護を脱却しても、短期間で保護が再開される結果となっている事態が多数見受けられた。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

保護の実施状況について、医療扶助は適切に実施されているか、生活扶助費及び住宅扶助費は適切に支給されているか、就労支援により就労した被保護者の就労後の状況はどのようになっているかなどに着眼して、厚生労働本省及び24都道府県の511事業主体について検査したところ、次のような状況が見受けられた。

ア 医療扶助の状況

(ア) 医療扶助による入院継続を要しないとされた長期入院患者のうち退院に至っていない者の過半数は、精神及び行動の障害に分類される者であった。そして、退院に向けた調整に当たっては、現業員が単独で対応している場合が多数見受けられた。さらに、例外的給付を受けているが、退院促進に係る指導を特段受けていない者も見受けられた。
 一方、事業主体が退院促進に係る指導を行う際に、独自支援事業や精神障害者地域移行・地域定着支援事業を併せて行い、退院に至った者も見受けられた。

(イ) 被保護者である入院患者の一部は、特定の医療機関の間で短期間に入退院を繰り返していた。そして、福祉事務所による転院の要否の検討が事後的に行われているなどの状況も見受けられた。

(ウ) 向精神薬等の処方について、同成分の医薬品の処方を複数の医療機関から受けている被保護者が多数見受けられた。また、これらの者に対する重複処方について、福祉事務所が繰り返し指導等を行っているにもかかわらず改善されていない事態が見受けられた。

(エ) 福祉事務所において、過度な診療日数が改善されていない頻回受診者の一部について通院台帳等が整備されていないなどの事態が見受けられた。

イ 生活扶助及び住宅扶助の状況

(ア) 65歳以上のほとんどの高齢者が公的年金を受給している一方、被保護者の過半数については公的年金の収入認定が行われていない状況となっていた。一方、受給権を有しているのに裁定請求を行っていない者も見受けられた。

(イ) 医療機関に入院又は介護施設に入所している被保護者の管理手持金について、取扱指針に基づく加算等の計上の停止がされていない事態が一部見受けられた。

(ウ) 死亡した単身世帯の被保護者の遺留金について、事業主体がその保有の原因の確認を十分に行っていない状況となっていた。また、一部を葬祭扶助費に充当した残余の遺留金について、相続財産管理人の申立ての手続を行わずに、福祉事務所においてそのまま保管しているなどしていた。さらに、金融機関の口座に預けられているなどのため遺留金が葬祭扶助費に充当されていなかったり、葬祭執行者による申請の手続が行われないまま葬祭扶助が行われていたりするものなどが見受けられた。

(エ) 宿泊所等から失踪した被保護者の保護廃止日以降の保護費の過払分に係る処理が区々となっており、返還等の処理が行われていない事態も一部見受けられた。また、被保護者が失踪すると、事業主体は、保護費の過払分を被保護者から収納することが困難となる一方、本来は被保護者に返還されるべき宿泊料等が宿泊所等に滞留する結果となり得ると思料される。

(オ) 住宅扶助に係る家賃の額について、被保護世帯が一般住居に係る家賃よりも高額の家賃で契約している疑義がある事態が一部見受けられた。

ウ 就労支援の状況

支援事業等を受けた被保護者についてみたところ、保護継続のままではあるが就労を開始していたり、保護が廃止されていたりしている者が見受けられ、一定の効果が上がっていた。しかし、その後の状況をみると、一旦は就労したもののその後離職していたり、保護が再開されていたりしている者が一部見受けられた。そして、被保護者については、非正規就業者全般よりも短期間で離職に至ったり、傷病による離職の割合が高くなっていたりする状況が見受けられた。

(2) 所見

以上のような状況を踏まえて、厚生労働省においては、保護の実施において、被保護者の支援をより効果的、効率的に行うことができることとなるよう、前記の検査の状況に記載した各種事態の実態把握に努めるとともに、次の点等に留意しつつ、今後とも各種施策の立案、見直しなどに努めていく必要がある。

ア 医療扶助について

(ア) 被保護者である長期入院患者で精神及び行動の障害に分類される者等について、事業主体がその病状の把握や退院後の受入先の確保をより円滑かつ適切に行うことができることとなるよう介護、障害等に関する部門も含めた体制整備を図ることの必要性や、退院促進に係る指導の一層の充実及び他の施策との連携等について検討すること

(イ) 高頻度入院者に対して、転院の要否の確認等の業務が適切に行われるよう事業主体を引き続き指導するとともに、指導を通じて高頻度入院者の実態の一層の把握に努めて、その対応方針について不断の検討を行っていくこと

(ウ) 向精神薬等の重複処方について、重複処方の改善が見られない被保護者に対する事業主体の指導等が効果的に行われるような方策を検討すること

(エ) 頻回受診者について、事業主体における台帳整備や訪問指導等の充実を図らせるとともに、適正受診の更なる促進に努めること

イ 生活扶助及び住宅扶助について

(ア) 27年10月からは老齢基礎年金について受給権が発生するのに必要とされる保険料納付済期間等が短縮されることも踏まえて、同年金の受給権を有している被保護者に係る同年金の収入認定が適正に行われることとなるよう、事業主体における被保護者の受給権の有無の的確な把握、裁定請求の勧奨等の促進に更に努めること

(イ) 管理手持金について、事業主体において、その額を的確に把握して、取扱指針に基づき必要に応じて加算等の計上を停止するなどの適切な事務処理が促進されることとなるよう努めること

(ウ) 死亡した単身世帯の被保護者の遺留金について、事業主体に対して、その保有の原因を可能な範囲で確認させることとし、取扱指針に基づく加算等の計上の停止に係る判断に資するとともに、必要に応じて返還の処理を行わせるようにすること。また、残余の遺留金の取扱いについて、事業主体がその適切な処理を図ることができることとなるよう関係省庁と連携するなどして検討すること。さらに、葬祭執行者により葬祭を行う場合については、口座に預けられている遺留金の活用を図ることができることとなるよう、また、葬祭扶助が申請の手続を経て行われることが徹底され、葬祭執行者としてより適切な者が選任されることとなるよう関係機関と連携を図るなどして検討すること

(エ) 被保護者の失踪に伴う保護費の過払分に係る対応については、事業主体に対して、返還等の処理を行う必要があることを改めて周知するとともに、被保護者が失踪した場合には、事業主体は保護費の過払分を被保護者から収納することが困難となる一方、契約に基づき本来は宿泊所等から被保護者に返還されるべき宿泊料等が宿泊所等に滞留する結果となり得る状況に対して、効果的な方策を検討するなどすること

(オ) 被保護世帯であるがゆえに合理的な理由もなく高額の家賃が設定されていることはないか実態の把握に努めるとともに、適切な家賃額となっているかどうかを判断できるような仕組みを設けるなど、住宅扶助の適切な在り方について検討すること

ウ 就労支援について

今後とも就労支援に係る施策を実施するに当たっては、事業主体において、支援事業等による効果的な就労支援が更に促進されることとなるよう、また、就労後の職場への定着支援等のフォローアップについて、被保護者における離職の要因等を踏まえつつ、より効果的な実施が図られることとなるよう方策を検討すること

本院としては、我が国における少子高齢化の更なる進行等を背景として、社会保障制度改革や財政健全化への取組が喫緊の課題とされていることを踏まえつつ、今回改正された法に基づき行われることとなる今後の保護の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。