林野庁は、平成23年11月21日に成立した平成23年度第3次補正予算により、27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することを政策目標とした復興木材安定供給等対策(以下、復興対策等のために造成する基金を「復興対策基金」、同基金により道府県が行う事業を「復興対策基金事業」という。)を実施することとし、東京都、神奈川県を除く45道府県に対して新たに計1399億4550万円の国庫補助金を交付した。また、当該国庫補助金の交付を受けた45道府県は、森林整備加速化・林業再生基金に、新たに復興対策基金としての区分を設けて基金の造成等を行うとともに、23年度から26年度までの期間において、復興対策基金を取り崩して、市町村、森林組合等の事業主体が実施する事業に対して補助金を交付している。
林野庁は、23年11月に「森林整備加速化・林業再生事業費補助金交付要綱」(平成21年21林整計第82号農林水産事務次官依命通知)、「森林整備加速化・林業再生事業費補助金実施要綱」(平成21年21林整計第83号農林水産事務次官依命通知)等(以下、これらを合わせて「実施要綱等」という。)を一部改正し、復興対策基金事業で実施する事業種目については、従来の基金事業の14事業種目のうち、木材流通の川上(原木の生産)から川下(木材製品の加工・消費)に至るまでの各段階で必要と見込まれる、①「地域協議会の運営、調査・調整、計画作成、普及等」(以下「地域協議会の運営等」という。)、②「間伐等」、③「林内路網整備」、④「森林境界の明確化」、⑤「高性能林業機械等の導入」、⑥「木材加工流通施設等整備」、⑦「木質バイオマス利用施設等整備」、及び⑧「流通経費支援」の8事業種目に限定している。そして、これらの事業種目のうち間伐等については、主に原木を利用する目的で伐採し、搬出する間伐(以下「搬出間伐」という。)により原木の増産を図るものである。
一般的な木材の流通概念については、図のとおりとなっており、素材生産事業体から木材加工事業体等への原木の流通は、市売りと直接的取引に大別される。
図 一般的な木材の流通概念
林野庁は、復興対策基金事業の実施に当たり、直接的取引を推進することで安定的な取引を目指すためなどとして、「森林整備加速化・林業再生事業の運用改善について」(平成21年21林整計第210号林野庁長官通知。24年3月改正。以下「運用改善通知」という。)を発出した。運用改善通知によれば、地域協議会の下に、主に森林組合等の素材生産事業体で構成する部会組織(以下「供給部会」という。)を設置するとともに、供給部会は24年度から26年度までの間を対象として、原木供給計画量や締結しようとする取引協定、被災地の復興に貢献するための方策等を記載した原木安定供給プランを作成することとされている。
また、供給部会は、24年12月末までに原木安定供給プランを作成し道府県に提出することとされており、提出を受けた道府県は、妥当と判断できる場合はこれを承認し速やかに林野庁に報告することとされている。
林野庁は、前記のとおり復興対策基金事業について、27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することを政策目標としている。
そして、復興対策基金事業により、林内路網整備や木材加工流通施設等整備等が行われ、復興に必要な木材を全国規模で安定供給する体制が構築でき、木材の増産が図られるとしている。
また、林野庁は、被災地域の住宅・建築物の復興に関して、復興に必要な木材量を、表1のとおり667万m3とし、そのうち被災地域で賄いきれないと見込まれる木材量392万m3については、復興対策基金事業等により全国規模で安定供給を図る必要があると試算している。
表1 林野庁が試算した復興に必要な木材量等
復興に必要な木材量累計(A) | 667万m3 | 被害建築物の数に木造率を乗ずるなどして積算 |
---|---|---|
被災地域で賄うことが可能と見込まれる木材量(B) | 275万m3 | 東北地方6県の生産量で積算 |
被災地域だけでは賄いきれないと見込まれる木材量(C)=(A)-(B) | 392万m3 | 全国規模で安定供給の必要あり |
上記の試算を踏まえて、林野庁は、24年度から26年度までの間に、公共事業として実施する森林整備事業に加えて復興対策基金事業を実施することにより、毎年74万m3の木材の生産能力向上を図るとしており、行政事業レビューシートにおいて3年間における復興に必要な木材の生産能力向上の目標値を計222万m3と設定している。
また、林野庁は、木材の生産能力向上について、復興に必要な木材を安定供給する体制を構築する中で増産された木材によって全国の木材需要を満たすことにより、いわば「玉突き」的に被災地の木材需要が満たされる(以下、このような供給を「間接的供給」という。)ことになるとしている。
国会等において、復興関連予算の使途に関して、被災地の復旧・復興に直接資するものを基本とするという考え方に基づき、被災地との関連が明確でないものについて使途を厳格化すべきではないかなどの議論がなされたことなどを踏まえ、25年7月に、復興、財務両大臣から各基金の所管大臣に対して、復興関連予算で造成した基金により実施している全国向けの事業について、「復興関連予算で造成された全国向け事業に係る基金への対応について」(平成25年復本第957号復興大臣、財計第1690号財務大臣連名通知)が通知された。これを受けて農林水産大臣が45道府県知事に通知した「復興関連予算で造成された全国向け事業に係る基金への対応について」(平成25年25林整計第407号農林水産大臣通知)によれば、「今後の対応方針」として、復興対策基金事業については「被災地に対する事業に使途を限定した上で、それ以外の事業のうち、執行済み及び執行済みと認められるものを除いた残額について速やかな返還を要請する」などとされている。林野庁は、上記の農林水産大臣の通知を踏まえ、25年7月に、45道府県知事に対して「森林整備加速化・林業再生事業の使途厳格化について」(平成25年25林整計第408号林野庁長官通知。以下「使途厳格化通知」という。)を通知した。
使途厳格化通知によれば、①被災地は「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号)第2条第2項に規定する特定被災地方公共団体の区域とすること、②復興対策基金事業は、被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組に限定して実施すること、及び③復興対策基金事業のうち「既に交付決定済みのもの、契約済みのもの又は事業の実施について地方議会の議決がなされているもの(平成25年度予算既計上分及び平成26年度分の債務負担行為分)」は「執行済みと認められるもの」と取り扱うこと、などとされ、地方議会の議決がなされていない26年度事業に係る予算から使途厳格化が図られている。
以上のように、復興対策基金事業については、使途厳格化通知が発出されたことにより、被災地の復旧・復興を最優先に推進するとの認識の下、被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組に使途が限定されることとなった。
林野庁は、今後も引き続き東日本大震災からの復旧・復興のための事業を実施していくとしていることから、これまでに多額の国費を原資として実施されてきた復興対策基金事業の内容、成果、課題等を分析及び検証することは、今後実施する復興のための事業の計画及び実施に当たり重要であると考えられる。
そこで、本院は、上記の検証を進めるべく、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、これまでに実施された復興対策基金の執行状況等を確認するとともに、復興対策基金事業が実施要綱等に基づき適切に実施されているか、被災地の現状を踏まえた、復旧・復興のために効率的かつ効果的なものとなっているかなどに着眼して検査した。
本院は、林野庁から23年度に45道府県に交付された復興対策基金に係る計1399億4550万円の執行状況等について、林野庁において関係資料を徴するなどにより検査した。また、復興対策基金事業により、22道県(注1)並びに管内の260市町村(財産区を含む。)及び847法人等の1,107団体が23年度から25年度までの間に実施した間伐等8事業種目計3,324件、事業費計549億5632万余円(国庫補助金相当額計332億8957万余円)を対象として、22道県において、事業計画書、事業実施状況報告書、原木安定供給プラン等により会計実地検査を行った。
上記のほか、木材の流通状況等について、協力が得られた範囲内で原木市場及び製品市場202か所から調書の提出を受けるとともに、このうち119か所に赴くなどして調査を行った。
45道府県において、平成23年度第3次補正予算により交付された国庫補助金により造成された復興対策基金の造成額、25年度末までの使用額等の状況は、表2のとおりであり、被災地である青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、長野各県(以下、これらを合わせて「被災地」という。)の造成額は、計251億9000万円と全体の18.0%であり、特に甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島各県(以下、これらを合わせて「東北3県」という。)の造成額は計99億5000万円と全体の7.1%となっている。
そして、45道府県の基金使用額は、25年度末までに計612億0793万余円となっているが、使用額が多い北海道、秋田、大分、徳島、島根各県の5道県における使用額だけで計188億6573万余円と使用額全体の30.8%を占めている。一方、被災地の使用額は、計104億4742万余円と全体の17.1%であり、東北3県の使用額は計36億7498万余円と全体の6.0%となっている。
また、基金造成額に対する25年度末までの基金使用額の割合は、45道府県全体で43.7%となっているが、被災地では41.4%、東北3県では36.9%と、全体の割合を下回っている。そして、25年度末における復興対策基金の執行残額は、45道府県における運用益計3億9213万余円を加えた791億2969万余円となっている。
表2 45道府県における復興対策基金の造成額及び使用額の状況(平成25年度末時点)
区分
\
道府県 |
基金造成額 (国庫補助金交付額) |
基金使用額 (平成25年度までの取崩額) |
運用益 (基金を原資とする運用益) |
基金の執行残額 | |
---|---|---|---|---|---|
基金造成額に対する割合 | |||||
① | ② | ②/①×100 | ③ | ④=(①-②+③) | |
45道府県計(A) | 139,945,500 | 61,207,931 | 43.7% | 392,130 | 79,129,699 |
うち被災地(B) | 25,190,000 | 10,447,421 | 41.4% | 32,641 | 14,775,219 |
うち東北3県(C) | 9,950,000 | 3,674,986 | 36.9% | 13,775 | 6,288,788 |
うち基金使用額が多い5道県(D) | 34,254,500 | 18,865,734 | 55.0% | 75,944 | 15,464,709 |
(B)/(A) | 18.0% | 17.1% | / | ||
(C)/(A) | 7.1% | 6.0% | |||
(D)/(A) | 24.5% | 30.8% |
前記のとおり、25年7月の使途厳格化通知により、復興対策基金事業については、26年度からは直接被災地に木材を供給する取組等に限定されたことなどから、45道府県のうち被災地を除く36道府県において、26年度の事業予定額から直接被災地に木材を供給する取組に係るものを除く額を国庫返還額とするなどしており、一部の道府県は、返還に際してそれまでに発生した運用益も含めて返還している。表3のとおり、復興対策基金の国庫返還額は、36道府県において計394億3218万余円となっており、また、返還に伴い、45道府県における復興対策基金の25年度末残高は、計396億9751万余円となっている。この基金残高については、実施要綱等によれば、26年度末に復興対策基金事業が終了した後、国庫に返還されることとされている。
表3 復興対策基金の国庫返還の状況
国庫補助金交付額 (45道府県) 平成23年度第3次補正予算 |
国庫返還額(36道府県) | (参考) 平成25年度末基金残高 |
||
---|---|---|---|---|
返還額 ①=②+③ |
返還額の内訳 | |||
補助金残額 ② |
運用益 ③ |
|||
139,945,500 | 39,432,186 | 39,243,469 | 188,717 | 39,697,512 |
会計実地検査の対象とした22道県において、25年度までに復興対策基金事業で実施した8事業種目に係る事業費は、前記のとおり、計549億5632万余円となっており、これに係る国庫補助金相当額は計332億8957万余円となっている。
事業種目別の支出額等をみると、表4のとおりとなっており、木材流通の川上(原木の生産)の対策として実施した②「間伐等」、③「林内路網整備」、④「森林境界の明確化」及び⑤「高性能林業機械等の導入」の4事業種目は計198億3996万余円(全体比59.6%)となっており、間伐等により実際に増産された原木は973,563m3となっている。一方、木材流通の川下(木材製品の加工・消費)の対策として実施した⑥「木材加工流通施設等整備」、⑦「木質バイオマス利用施設等整備」及び⑧「流通経費支援」の3事業種目は計127億2752万余円(同38.2%)となっている。
表4 22道県における平成25年度までの各事業種目の支出額等
事業種目
\
道県 |
①地域協議会の運営等 | ②間伐等 | ③林内路網整備 | ④森林境界の明確化 | ⑤高性能林業機械等の導入 | ⑥木材加工流通施設等整備 | ⑦木質バイオマス利用施設等整備 | ⑧流通経費支援 | 指導等事業 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | [m3] (ha) 千円 |
(m) 千円 |
(ha) 千円 |
(台) 千円 |
(施設) 千円 |
(施設) 千円 |
(m3) 千円 |
千円 | 千円 | |
22道県計 | 636,838 | [973,563] (16,973) 4,676,394 |
(2,274,152) 11,541,072 |
(10,447) 449,048 |
(437) 3,173,445 |
(195) 8,432,121 |
(446) 3,551,653 |
(411,150) 743,754 |
85,248 | 33,289,576 |
19,839,960 | 12,727,529 | |||||||||
計に対する割合 | 1.9% | 59.6% | 38.2% | 0.3% | 100.0% |
使途厳格化通知に基づく対応が執られることになる以前の25年度までの各事業種目の実施状況の中には、以下のような事態が見受けられた。
ア 「地域協議会の運営等」については、国内供給の増加にはつながらない輸出の促進に関する調査を行っているなどの事態が4件見受けられた。
イ 「間伐等」については、次のような事態が見受けられた。
(ア) 集約化施業が可能な施業地を適切に選定していなかったもの
東北3県を除く19道県管内の384事業主体のうち12道県(注2)管内の52事業主体が24、25両年度で実施した間伐等940ha、事業費計1億3523万余円(国庫補助金相当額計7227万余円)は、点在していて路網による連続性がない施業地(以下「点在地」という。)であり、高性能林業機械を効率的に活用するなどの集約的な間伐等が実施可能なものとなっていなかった。
さらに、このうち12道県管内の48事業主体が実施した間伐等926ha、事業費計1億3169万余円(国庫補助金相当額計7011万余円)については、伐採してその場に切り捨てるため、原木の増産につながらない切捨間伐を実施している施業地となっていた。しかし、このような切捨間伐を実施している施業地については、復興に必要な木材を安定供給する体制を構築するという復興対策基金事業の趣旨に沿ったものとは認められない(前掲本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 リンク3章1節第10本(7)参照)。
(イ) 間伐等により搬出した間伐材が国内需要を満たしていなかったもの
復興対策基金事業により間伐等を実施しているものの、搬出した間伐材の一部が輸出されている事態が3件見受けられた。
ウ 「森林境界の明確化」については、森林境界の明確化の実施後相当期間が経過しているにもかかわらず間伐等を実施することとしていない事態が6件見受けられた。
24年度の復興対策基金事業の実施については、24年度から26年度までの期間を対象として作成することとされている原木安定供給プランの提出期限が24年12月末とされていたり、また、個別の事情により遅れたものも見受けられたが、実際の道県における承認の半数が25年2月以降となっていたりしていて、原木の安定的な供給体制を構築することで被災地の復興に貢献するという同プランの趣旨が十分に生かされていなかったと認められる。
また、供給部会が原木安定供給プランに基づくものとしている取引協定は、24、25両年度で計638件、協定量2,843,043m3となっているが、このうち、同プランの提出後に新たに締結され、同プランに基づくと判断できる協定は計121件、554,781m3(協定量全体に占める割合19.5%)にすぎなかった。さらに、このうち被災地以外における取引協定は計94件、253,071m3となっているが、県外の木材加工事業体等との取引協定は計5件、33,600m3(被災地以外の協定量全体に占める割合13.3%)にすぎず、また、被災地の木材加工事業体等との間の取引協定は全く締結されていなかった。
復興対策基金事業は、前記のとおり、復興に必要な木材を全国規模で安定供給する体制を構築することで、間接的供給により被災地の木材需要を満たす効果を想定している。
そこで、本院は、間接的供給の実態を把握して復興対策基金事業の効果の検証に資するため、会計実地検査を行った22道県を対象に、原木の主な流通方法である直接的取引と市売りによる流通状況について調査及び分析することとした。
その結果をまとめると、表5のとおりであり、22道県のうち被災地以外の北海道、山梨、三重、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、長崎、大分、宮崎、沖縄各県(以下、これらを合わせて「被災地以外の15道県」という。)から被災地への出荷は極めて少ない状況となっていた。
表5 被災地以外の15道県から被災地への木材の流れ(平成24、25両年度)
被災地以外における出荷 | 左のうち被災地への出荷 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
取引対象 | 出荷総量 | 流通形態 | 出荷量 | 出荷総量に占める割合 | うち東北3県への出荷 | |
出荷量 | 出荷総量に占める割合 | |||||
原木(15道県) | 2,476,261 | 直接的取引 | ― | ― | ― | ― |
木材製品(上記の原木を用いて生産されたもの) | 2,482,227 | 92,567 | 3.7% | 23,438 | 0.9% | |
原木(沖縄県を除く14道県) | 6,911,797 | 市売り | 3,502 | 0.1% | ― | ― |
木材製品(山梨、和歌山、山口、沖縄各県を除く11道県) | 1,059,503 | 14,238 | 1.3% | 93 | 0.0% |
また、会計実地検査を行った22道県のうち、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、新潟、長野各県(以下、これらを合わせて「被災7県」という。)における被災地以外からの木材の入荷量と被災地以外への出荷量を比較すると、表6のとおり、東北3県は被災地以外からの入荷量が被災地以外への出荷量を一部で上回っていたが、被災7県全体でみると被災地以外への出荷量が被災地以外からの入荷量を上回っていた。
表6 被災7県における木材の入出荷状況
被災7県 | |||||
---|---|---|---|---|---|
入荷 | / | 出荷 | |||
原木 | 被災地以外からの入荷量 | 45,453 | 原木市場(平成24、25両年度) | 被災地以外への出荷量 | 328,128 |
木材製品 | 被災地以外からの入荷量 | 16,289 | 製品市場(平成24、25両年度) | 被災地以外への出荷量 | 66,123 |
原木 | 被災地以外からの入荷量 | 168千 | 木材需給報告書(平成24年) | 被災地以外への出荷量 | 202千 |
うち東北3県 | |||||
入荷 | / | 出荷 | |||
原木 | 被災地以外からの入荷量 | 6,582 | 原木市場(平成24、25両年度) | 被災地以外への出荷量 | 40,708 |
木材製品 | 被災地以外からの入荷量 | 6,886 | 製品市場(平成24、25両年度) | 被災地以外への出荷量 | 3,220 |
原木 | 被災地以外からの入荷量 | 107千 | 木材需給報告書(平成24年) | 被災地以外への出荷量 | 43千 |
今回の本院の調査及び分析は網羅的なものではないが、調査した範囲においては、被災地以外から被災地への木材の供給は、極めて限定的なものにとどまっていた。
林野庁は、平成23年度第3次補正予算による森林整備加速化・林業再生事業を農林水産省の政策評価における政策分野のうち「林産物の供給及び利用の確保」等のための政策手段として位置付けており、24年度の実績評価において、23年度に道府県に対して復興対策基金の造成のために国庫補助金を交付したことをもって、復興に必要な木材を安定供給する体制が構築されるとともに施業集約化の推進、人材の育成・確保及び国産材の供給・利用量の拡大に寄与したとしている。
林野庁において、前記のとおり、復興対策基金事業の事業効果の目標値を他の森林整備事業の事業効果と合わせて設定していること、また、被災地の木材需要を「玉突き」的に満たすという間接的供給によって事業効果が得られるとしていること、さらに、復興対策基金事業の8事業種目が従来実施していた基金事業の14事業種目に包含されていることなどが、道府県及び事業主体において被災地の復興に貢献するという復興対策基金事業の趣旨や背景を十分踏まえずに事業を実施している要因となっていると思料される。
上記の木材の生産能力向上の目標値の達成状況を検証する手法等について、林野庁の説明は、「現時点では、被災地を中心として着実に住宅着工数が伸びる状況にある中、国産材の生産量も確実に増加しているところであり、被災地における用材不足や価格の高騰を招く状況となっていないことから、事業の効果が発揮されつつあるものと考えており、今後も被災地の復興に重要な資材である木材不足を招くことなく価格の安定を図ることが重要との観点から、生コンクリート、砕石等の他の資材も含めた価格の動向等について、引き続き注視していく考えである。」としているのみであり、復興対策基金事業等における木材の生産能力向上の目標値(計222万m3)について検証することとしていなかった。
このような間接的供給による復興対策基金事業が被災地の復興に寄与しているかを検証することはもとより困難な面はあるが、林野庁において、今後の被災地の復興のための政策目的及び事業効果の測定指標をより適切に設定するとともに、事業効果を適切に評価及び検証していくことが重要であると考えられる。
復興対策基金事業の26年度事業実施計画をみると、計画を作成しているのは被災地及び京都府、秋田、山形、岡山各県(計画額計83億0292万余円)となっている。
これらの事業実施計画をみると、被災地については、計画額計67億7386万余円で「被災地における取組」を実施するとしている。一方、被災地以外では、京都府、秋田、山形両県の1府2県が「直接被災地に木材を供給する取組」を実施するとしているほか、岡山県が「平成26年度分の債務負担行為分として地方議会の議決を受けているもの」として1事業を実施するとしているのみであり、25年度まで45道府県で実施されていた復興対策基金事業は、使途厳格化後の26年度には多くの道府県で実施されないこととなった。
東日本大震災における建築物被害は、25年4月時点における警察庁公表資料において、全半壊が39万戸余り、一部破損が74万戸余りと甚大かつ広範囲に及んでいる。林野庁は、復興に当たって住宅の再建は喫緊の課題であるとしており、住宅の再建に必要となる木材を供給するためには木材の増産を図るとともに、被災した製材所、合板工場等の復興を行うことなどにより、復興木材の安定供給体制を構築する必要があるとしている。
このため、林野庁は、27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を全国的に安定供給する体制を構築することで被災地の木材需要を満たすこととして、平成23年度第3次補正予算により45道府県に計1399億4550万円の国庫補助金を交付して、道府県において23年度から26年度までの期間、復興対策基金事業を実施している。
その後、林野庁は、被災地との関連が明確でないものについて使途を厳格化すべきではないかなどの議論を踏まえて、25年7月に使途厳格化通知を発出し、復興対策基金事業については、被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組に使途を限定することとしたが、これまでに多額の国費を原資として実施されてきた復興対策基金事業の内容、成果、課題等を分析及び検証することは、今後の復興のための事業の計画及び実施に当たって重要であると考えられる。
そこで、本院は、復興対策基金の執行状況等を確認するとともに、復興対策基金事業が実施要綱等に基づき適切に実施されているか、被災地の現状を踏まえた、復旧・復興のために効率的かつ効果的なものとなっているかなどを検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 国庫補助金計1399億4550万円に基づき造成された復興対策基金については、被災地の造成額は計251億9000万円(基金造成額全体の18.0%)、このうち、東北3県の造成額は計99億5000万円(同7.1%)となっていた。
一方、25年度までの45道府県の基金使用額計612億0793万余円についてみると、被災地の使用額は計104億4742万余円(基金使用額全体の17.1%)、このうち東北3県の使用額は計36億7498万余円(同6.0%)となっていた。また、東北3県の基金造成額に対する25年度までの基金使用額の割合は36.9%となっており、45道府県全体の基金造成額に対する25年度末までの使用額の割合43.7%を下回っていた。
また、復興対策基金事業に係る国庫補助金については、使途厳格化通知の発出を受けて、45道府県のうち被災地を除く36道府県は、25年度中に計394億3218万余円を国庫へ返還していた。
イ 復興対策基金事業の各事業種目の実施状況については、使途厳格化通知に基づく対応が講じられることになる以前の25年度までに、「地域協議会の運営等」において木材の国内供給の増加につながらない輸出の促進に関する調査等を行っていた事態、「間伐等」において、集約化を促進していなかったり切捨間伐を実施したりしていた事態、搬出した間伐材を輸出していた事態及び「森林境界の明確化」において事業の実施後相当期間が経過しているにもかかわらず間伐等を実施していない事態が見受けられた。
ウ 24年度の復興対策基金事業の実施については、24年度から26年度までの期間を対象として作成することとされている原木安定供給プランの提出期限が24年12月末とされていたり、また、道県における承認については半数が25年2月以降となっていたりしていて、原木の供給体制を構築することで被災地の復興に貢献するという同プランの趣旨が十分生かされていなかった。
また、原木安定供給プランの提出後に新たに締結し、同プランに基づくと判断できる取引協定は全体の19.5%にすぎなかったほか、被災地以外の県が県外の木材加工事業体等と締結した取引協定は全体の13.3%にすぎず、被災地の木材加工事業体等との取引協定はなかった。
エ 木材の流通状況について本院が調査した範囲においては、被災地以外から被災地への木材の供給は極めて限定的なものにとどまっていて、全国規模での被災地への木材供給は見受けられなかった。また、被災地以外から被災地への出荷量に比べて、被災地から被災地以外への出荷量が上回っているなどの状況が見受けられた。
オ 復興対策基金事業の事業効果については、復興対策基金事業の事業効果の目標値を他の森林整備事業と合わせて設定していること、被災地の木材需要を間接的供給により満たすことによって事業効果が得られるとしていること、さらに、復興対策基金事業の8事業種目が従来実施していた基金事業の14事業種目に包含されていることなどが、道府県及び事業主体において復興対策基金事業の趣旨や背景を十分踏まえずに、事業を実施している要因となっていると思料された。また、林野庁は、木材の生産能力向上の目標値の達成状況について、被災地における木材の不足や価格の高騰を招く状況となっていないことから、事業の効果が発揮されつつあるとしており、復興対策基金事業等における木材の生産能力向上の目標値(計222万m3)については検証することとしていなかった。
カ 使途厳格化通知後の26年度の復興対策基金事業については、被災地を除いては、「直接被災地に木材を供給する取組」等として1府3県で実施されるのみで、多くの道府県で実施されないこととなった。
東日本大震災からの復興に対する取組は、現在、国、地方公共団体等において全力を挙げて行われており、林野庁は、今後も、適切な間伐等の森林整備の実施による災害に強い森林づくり、海岸防災林の復旧・復興や山腹崩壊地等における復旧整備等の森林整備事業・治山事業等により、東日本大震災からの復旧・復興対策を実施していくこととしている。
したがって、林野庁において、今回の本院の検査により明らかになった状況を踏まえ、今後の事業の実施に当たっては、次のような点に留意し、地方公共団体、事業主体等と連携しつつ、被災地の復興にとってより効果的なものとなるよう取り組む必要がある。
(ア) 被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組を引き続き実施するなど、使途厳格化通知の趣旨に沿って適切に事業を実施するよう府県に対して周知を行うこと
(イ) 今後の復興のための事業の政策目標の設定や評価に資するよう、復興対策基金事業の効果について可能な限り評価及び検証に努めること
(ア) 被災地の現状や復興の進捗状況を常に的確に把握し、被災地の要望に対応した事業となるようにすること
(イ) 被災地以外において、必要に応じて復興のための事業を実施する場合には、事業主体が事業の趣旨や背景を十分踏まえて実施できるように留意すること
(ウ) 被災地の復興に直接かつ効果的に貢献することとなる政策目標を設定するとともに、事業効果の目標値については政策目標と整合した適切かつ測定可能なものを設定し、事業効果の評価及び検証を的確に実施すること
本院としては、林野庁が実施する被災地の復興のための事業の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。