我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助(以下「ODA」という。)を実施している。ODAは、経済協力開発機構(以下「OECD」という。)の開発援助に関する事柄を取り扱う開発援助委員会(以下「DAC」という。)が作成する援助受取国・地域のリストに掲載された開発途上国・地域(以下「開発途上国」という。)への贈与及び貸付けのうち次の三つの要件を満たすものである。
そして、ODAには、開発途上国を直接支援する二国間援助と、国際機関及びその他の組織(以下「国際機関等」という。)に対して拠出・出資を行う多国間援助とがある。
我が国は、多国間援助として、国際連合に代表される国際機関等に対して、その活動に必要な経費に充てるための資金を支出しており、この資金は、次のとおり分類される。
義務的拠出金は、国際機関等の事務局運営費等に充てるための財源として、国際機関等の設立条約等により加盟国等が定められた額を義務的に支出するもの、又は、国際機関等の設立条約等には直接定められていないが、当該国際機関等の総会決議等により加盟国等が負担を求められた額を義務的に支出するものである。
任意拠出金は、国際機関等の実施する事業等のうち、我が国が重視する特定国・地域又は特定分野の事業等、我が国が有益と認め、支援すべきと判断した事業等に対して自発的に支出するものである。
出資金は、開発途上国が実施する開発プロジェクト等に必要な資金に対して緩やかな条件で融資等を行う国際開発金融機関等の資本金への出資の形で支出するものである。
そして、国際機関等は、加盟国等からの義務的拠出金、任意拠出金及び出資金(以下「拠出金等」という。)を各種事業を実施するための原資の一部とするなどして、当該事業を実施している。
DACは、OECDの委員会の一つであり、開発途上国に対する援助の量的拡大とその効率化を図ること、加盟国の援助の量と質について定期的に相互検討を行うこと、贈与ないし有利な条件での借款の形態による援助の拡充を共通の援助努力によって確保することなどを目的としており、現在のメンバーは、OECD加盟国(34か国)中の28か国と欧州連合の合計29メンバーとなっている。そして、DACは、毎年、各国から報告された援助実績を取りまとめて、開発協力報告書(以下「DAC報告」という。)として発表している。このDAC報告は、暦年による集計となっていて、開発協力の国際的動向と加盟国の活動概要の報告等が公表されている。
我が国においては、DACへの報告に当たり、公的機関により供与されたODAを把握するために、外務省が、各府省庁、都道府県等に対して、「我が国の経済協力実績集計にかかる協力依頼について」により、DAC報告の基礎となるODA事業の支出額、ODA受取機関名、案件概要等の報告を依頼している。そして、同省は、各府省庁等から提出された資料(以下「DAC基礎資料」という。)と同省におけるODA事業の支出記録等の資料とを取りまとめて、我が国の援助実績としてDACに報告している。
外務省は、政府として、我が国が実施している国際機関等に対する拠出、出資等の現状・実績を国民に明らかにすることが、十分な説明責任を果たすという観点から最も重要であるという考えを踏まえつつ、関係府省庁と連携して、平成15年以降、「国際機関等への拠出金・出資金等に関する報告書」(以下「拠出金等報告書」という。)を作成し、同省のホームページ等において公表している。
近年、地球規模の課題や国際社会の諸問題に取り組む上で、国際機関等はますます重要な役割を担うようになっており、多国間援助は、二国間援助の活用と相互に補い合うものとして、有効な国際協力の手段の一つとなっている。
そして、このような状況において、多国間援助を適切に実施していくためには、国民の理解を深めつつ、効率的な実施等を図っていくことが重要となる。
そこで、多国間援助を実施している11府省庁(内閣府本府、金融庁、総務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省(各省には各省の外局を含む。以下同じ。))について、有効性等の観点から、次のような点に着眼して各府省庁横断的に検査を実施した。
ア 拠出等を行った国際機関等の運営状況、事業内容等を適時適切に把握し、拠出等の効果を十分に把握しているか。
イ 国際機関等への拠出金等は、拠出等の目的に従って適切に活用されるなどしているか。また、追加拠出等が、拠出金等の活用状況を適時適切に把握するなどして、その必要性の検討を十分に行った上で実施されているか。
ウ 資金が滞留するなどしている場合に、適時適切な対応が執られているか。
エ 拠出金等の活用状況について、情報の開示が適切に行われているか。
オ 拠出金等は、DAC報告に適切に計上されているか。
11府省庁が21年度から25年度までの間に多国間援助として国際機関等に拠出等を行った拠出金等260件、20年度以前に拠出等を行い26年3月末時点において存続している出資金3件及び拠出金10件の計273件(拠出金等の拠出等先計140国際機関等。21年度から25年度までの拠出等計2兆1225億余円。なお、当初からの拠出等の累計額は、このうち判明している155件について計3兆5008億余円)を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、11府省庁から調書を徴して、拠出等先の国際機関等の事業実施等の状況の調査、分析等を行うとともに、11府省庁に赴いて国際機関等から提出された会計報告等の関係書類を確認し説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
我が国のODAに係る予算は、一般会計(国債整理基金特別会計に繰り入れるものを除く(注2)。以下同じ。)予算のほか、特別会計(国債整理基金特別会計を除く(注2)。以下同じ。)予算、拠出国債及び出資国債(注2)、財政投融資等によって賄われているが、このうち国際機関等への拠出等については、一般会計予算、特別会計予算、拠出国債及び出資国債によって実施されている(以下、国際機関等への拠出等の財源となる一般会計予算、特別会計予算、拠出国債及び出資国債の発行額を合わせて「拠出・出資予算」という。)。
21年度から25年度までの間の11府省庁における拠出・出資予算の内訳の推移は、表1のとおりとなっている。
一般会計予算についてみると、21年度の1935億余円に対して22年度は2138億余円と10%の増加となり、23年度及び24年度は減少が続いたが、25年度は2116億余円と24年度の1955億余円に対して8%の増加となっている。
特別会計予算についてみると、21年度から24年度までは2億余円とほぼ横ばいで、25年度は4億余円と24年度に対して74%の増加となっている。
拠出国債及び出資国債についてみると、21年度の1935億余円に対して22年度は2445億余円と26%の増加となったが、それ以降減少が続き、25年度は1890億余円とピーク時の22年度に対して22%の減少となっている。
表1 11府省庁における拠出・出資予算の内訳(平成21年度~25年度)
年度
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内訳 |
平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
一般会計 | 193,529 | 213,804 | 203,297 | 195,599 | 211,661 | 1,017,891 |
特別会計 | 292 | 279 | 270 | 286 | 499 | 1,629 |
拠出国債及び出資国債 | 193,598 | 244,592 | 242,991 | 233,196 | 189,011 | 1,103,390 |
計 | 387,421 | 458,676 | 446,558 | 429,082 | 401,172 | 2,122,911 |
検査の対象とした前記の21年度から25年度までの間に、拠出等が行われた260件(拠出金等額計2兆1225億余円)の拠出金等について、種類別にみると次のとおりである。
義務的拠出金の拠出額は、当該国際機関等の予算等と設立条約、総会の決議等によって決定された個々の加盟国の分担率等とにより算定されるものなどとなっている。
21年度から25年度までの間の我が国の義務的拠出金の拠出状況をみたところ、表2のとおり、義務的拠出金は一般会計及び特別会計によって拠出され、その件数は21年度から24年度までは52件、25年度は53件とほぼ横ばいで推移しているが、拠出額は毎年度減少しており、25年度の241億余円は21年度の352億余円の3分の2程度となっている。
表2 我が国の義務的拠出金の拠出状況(平成21年度~25年度)
年度
\
内訳 |
平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |
一般会計 | 51 | 35,249 | 51 | 29,368 | 51 | 26,042 | 51 | 24,376 | 52 | 24,097 | 52 | 139,133 |
特別会計 | 1 | 23 | 1 | 22 | 1 | 21 | 1 | 22 | 1 | 22 | 1 | 111 |
計 | 52 | 35,272 | 52 | 29,390 | 52 | 26,063 | 52 | 24,398 | 53 | 24,119 | 53 | 139,244 |
任意拠出金は、事業等ごとに拠出等先の国際機関等において他の事業目的の資金等と区分して経理されている。
そして、その拠出額は、拠出の目的となる事業等の実施経費等に充てるために必要な額が積算されるなどして算定されている。
21年度から25年度までの間の我が国の任意拠出金の拠出状況をみたところ、表3のとおり、任意拠出金は一般会計予算、特別会計予算及び拠出国債によって拠出されている。
一般会計についてみると、21年度の拠出額1582億余円に対して22年度は1801億余円と13%の増加となり、23年度及び24年度は減少が続いたが、25年度は1836億余円と24年度の1680億余円に対して9%の増加となっている。
特別会計についてみると、21年度から24年度まで横ばい傾向が続き、25年度の拠出額は4億7784万円と24年度の2億6372万余円に対して81%の増加となっている。
拠出国債についてみると、21年度の拠出額568億余円に対して、22年度は976億余円と71%の増加となり、それ以降24年度まで横ばい傾向が続き、25年度は549億余円と24年度の965億余円に対して43%の減少となっている。
表3 我が国の任意拠出金の拠出状況(平成21年度~25年度)
年度
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内訳 |
平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |
一般会計 | 131 | 158,246 | 140 | 180,194 | 147 | 168,733 | 145 | 168,043 | 142 | 183,681 | 196 | 858,899 |
特別会計 | 1 | 269 | 1 | 257 | 1 | 249 | 1 | 263 | 1 | 477 | 1 | 1,518 |
拠出国債 | 4 | 56,868 | 5 | 97,603 | 6 | 95,187 | 5 | 96,538 | 4 | 54,912 | 6 | 401,110 |
計 | 136 | 215,384 | 146 | 278,055 | 154 | 264,169 | 151 | 264,845 | 147 | 239,071 | 203 | 1,261,527 |
出資金における各加盟国等の出資額は、国際開発金融機関等の増資等の計画に応じて、当該国際開発金融機関等の総務会等で決定されている。
21年度から25年度までの間の我が国の出資金の出資状況をみたところ、表4のとおり、出資金は一般会計及び出資国債によって出資されている。
一般会計についてみると、22年度から25年度までの間に、アジア開発銀行の増資に対する出資としてアジア開発銀行出資金が144億余円計上され、23年度に、国際復興開発銀行の増資に対する国際復興開発銀行出資金が24億余円、アフリカ開発銀行の増資に対するアフリカ開発銀行出資金が24億余円計上されている。また、25年度に、米州投資公社の増資に対する米州投資公社出資金が8118万円計上されている。
出資国債についてみると、21年度から25年度までの間に、主なものとして、国際開発協会における第15次増資及び第16次増資に伴う国際開発協会出資金が5763億余円、アフリカ開発基金における第11次増資及び第12次増資に伴うアフリカ開発基金出資金が745億余円出資されている。また、上記のアジア開発銀行、国際復興開発銀行及びアフリカ開発銀行については、一般会計のほかに、出資国債によっても出資されている。
なお、21年度から25年度まで出資の実績はないが、20年度以前に出資の実績があったのは、国際金融公社、多数国間投資保証機関及び欧州復興開発銀行の3国際機関等となっている。
表4 我が国の出資金の出資状況(平成21年度~25年度)
年度
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内訳 |
平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |
一般会計 | ― | ― | 1 | 4,004 | 3 | 8,471 | 1 | 3,121 | 2 | 3,872 | 4 | 19,470 |
出資国債 | 2 | 136,730 | 3 | 146,989 | 5 | 147,803 | 6 | 136,657 | 5 | 134,099 | 6 | 702,280 |
計 | 2 | 136,730 | 3 | 150,993 | 6 | 156,275 | 6 | 139,778 | 6 | 137,972 | 7 | 721,750 |
国際機関等への出資金は、国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づき、国有財産として管理されている。
そこで、24年度末現在において国有財産として管理されている国際機関等への出資金について、21年度から24年度までの間の出資額、20年度以前の出資額を含めるなどした24年度末国有財産台帳上の出資累計額及び24年度末国有財産台帳上の評価額(注3)を比較してみると、国際復興開発銀行等8国際機関等は出資累計額より評価額の方が計5311億余円大きくなっているが、国際開発協会及びアフリカ開発基金の2国際機関等は出資累計額より評価額の方が計1兆4552億余円小さくなっている。
国際機関等に拠出された義務的拠出金及び任意拠出金は、当該国際機関等において管理され、開発途上国への支援事業等に使用されることになる。また、これらの中には、開発途上国への支援事業等が複数年にわたるものや、国際情勢等の変化により事業が延期されるなどして長期化しているものも見受けられる。
そこで、21年度から25年度までの間は拠出されていないが、拠出金等報告書の作成が始まった15年の同報告書の記載対象年度である14年度から20年度までの間に拠出された義務的拠出金及び任意拠出金のうち、26年3月末時点において存続しているもの(以下「20年度以前の拠出金」という。)をみたところ、10件全てが任意拠出金となっていて、最終拠出年度は14年度から19年度となっている。
そして、これらの21年度から25年度までの事業実施状況をみると、国連開発協力信託基金拠出金等6拠出金については継続して事業が実施されていたが、国際連合アフリカ経済委員会拠出金については、21年度に事業が終了し、国際連合アフリカ経済委員会において残余金の返納手続が行われている。また、東アジア青少年交流基金拠出金(ASEAN事務局)(JENESYS)及び日本・SAARC特別基金(JENESYS)は定められていた事業終期が到来するなどしたため、いずれも23年度に事業が終了し、前者については東南アジア諸国連合事務局において残余金の算定が行われ、後者については南アジア地域協力連合において残余金の返納手続が行われている。さらに、国連貿易開発会議・特恵技術援助計画拠出金は2013年(平成25年)第1四半期まで事業が休止され、同年第2四半期から新たな事業が開始されている。
検査の対象とした拠出金等273件から一つの拠出金等において複数の国際機関等に拠出されているなどのため分類が困難な2件を除いた271件について、11府省庁が国際機関等に拠出等する際に、国際機関等と締結した拠出等の条件等を定める覚書又は合意書等における会計報告の提出に係る規定の有無及びその提出状況を会計実地検査時点においてみたところ、会計報告の提出に係る規定があるものは全体の88%を占める240件ある一方、規定がないものも31件ある状況となっている。
また、会計報告が提出されていたものは全体の87%を占める238件ある一方、事業ごとに区分経理された会計報告のうち一部の事業に係る会計報告が提出されていないものが13件、また、会計報告が提出されていないものが20件、計33件(新たに拠出等が開始され、その拠出等の属する会計期間の末日がまだ到来していないものなどを含む。)ある状況となっている。
拠出等されてから会計報告の提出までには一定期間を要することを考慮して、拠出等されてから2年以上経過している23年度以前の拠出等がある9件についてみると、8件は会計報告の提出に係る規定があるにもかかわらず提出されていなかったものであり、残りの1件は会計報告の提出に係る規定がないものである。
次に、会計報告が提出されていた238件及び事業ごとに区分経理された会計報告のうち一部の事業に係る会計報告が提出されていない13件の計251件について、その提出時期についてみると、このうち235件は拠出等先の国際機関等の翌会計期間内に提出されていたが、16件は翌会計期間終了後に提出されていた。そして、この翌会計期間終了後に提出されていた16件の会計報告の提出に係る規定との関係をみると、このうち5件は会計報告の提出に係る規定がないものであり、また、9件は会計報告の提出に係る規定はあるものの時期について定めがないものである。
所管府省庁は、国際機関等から定期的に会計報告を受領することによって、国際機関等の資金の管理状況、事業の進捗状況等を適時適切に把握し、これらの状況等を分析するなどした上で拠出等の効果を把握し、更なる追加拠出等の必要性について判断等を行うことになる。
このため、会計報告の提出に係る規定がなかったり、規定があっても提出の時期について定めがなかったりしているものは適切に定めるよう、規定があっても規定どおりに提出されていないものは適時適切に提出されるよう、さらに、一定期間が経過しているのに会計報告が提出されていないものは速やかに提出されるよう、国際機関等に対して照会や働きかけなどを行う必要があると認められる。
会計報告が提出されていた238件及び事業ごとに区分経理された会計報告のうち一部の事業に係る会計報告が提出されていない13件の計251件の拠出等先である132国際機関等における会計監査の実施状況をみたところ、132国際機関等の全てにおいて会計監査が実施されていた。
そして、その内訳をみると、全体の93%を占める123国際機関等において外部監査が実施されていたが、9国際機関等において内部監査のみが実施されていた。
所管府省庁は、国際機関等の資金の管理状況、事業の進捗状況等の把握を適切なものとするために、国際機関等における会計監査等のチェック体制やその監査結果を十分に把握していくことが必要である。
検査の対象とした拠出金等273件から分類が困難な2件を除いた271件の拠出等の事後評価の実施状況をみたところ、188件(69%)において事後評価が実施されていた。
所管府省庁は、国際機関等が実施した事業の事後評価の結果を適切に把握することによって、拠出等の効果を把握することにもなり、当該事業について、追加の拠出等を行ったり、事業内容の見直しを求めたりすることの適否をより適切に判断することができることになるから、国際機関等における事後評価の実施状況やその評価結果を十分に把握していくことが必要である。
任意拠出金は、前記のとおり、義務的拠出金や出資金と異なり、その拠出額が我が国において算定され、支援すべきと判断した事業に対して自発的に支出するものである。
そこで、任意拠出金213件から一つの拠出金等において複数の国際機関等に拠出されているなどのため分類が困難な2件を除いた211件のうち、会計報告が提出されている191件(事業ごとに区分経理された会計報告のうち一部の事業に係る会計報告が提出されていないものを含む。)について、区分経理された事業単位ごとに、11府省庁に直近に提出された会計報告をみたところ、298事業のうち195事業において繰越額が生じていた。
そして、この195事業について直近の会計期間終了時点での当該年度の支出額に対する繰越額の倍率をみたところ、126事業は2.0未満である一方、全体の35%を占める69事業は2.0を超えるか又は繰越額があるのに支出額がないかのいずれかとなっている。
そこで、上記69事業の倍率の推移を直近3会計期間分についてみたところ、3会計期間継続して倍率が2.0を超えるか又は繰越額があるのに支出額がないかのいずれかとなっているものが24事業見受けられた。
さらに、この24事業への直近3会計期間の間の我が国の拠出状況をみると、拠出されていなかったものは4事業、減少傾向となっていたものは15事業、ほぼ同額が拠出されていたものは3事業、増加傾向となっていたものは2事業となっている。
所管府省庁は、任意拠出金の拠出に当たり、緊急支援等を行うなどの場合に備えて必要な額を保有しておく任意拠出金には留意しつつ、特に支出額に対する繰越額の倍率が継続的に大きくなっている拠出金等について、拠出金等の支出額や繰越額等を適時適切に把握し、これに応じて拠出等する必要があると認められる。
また、会計報告が提出されていない拠出金等について、拠出金等の支出額や繰越額等を把握することができない状況となっており、会計報告の提出を受けてこれらを把握する必要があると認められる。
一方、会計報告が提出されている任意拠出金191件について、前記と同様に、11府省庁に直近に提出された会計報告をみたところ、直近の会計期間において支出がなかった13事業のうち、拠出開始年度であったことなどから支出がなかったものを除いた8事業について、提出された会計報告を遡って支出がなかった期間をみると、直近の1会計期間で支出がなかったものは6事業、直近の前会計期間から2会計期間連続で支出がなかったものは2事業となっている。
所管府省庁は、複数の会計期間にわたって支出のない拠出金等については、長期化することのないよう、事業の進捗状況や今後の事業計画について国際機関等と協議等を行う必要があると認められる。
拠出金等において、事業が終了して残余金が生ずるなどした場合、国際機関等に対し、残余金等のうち我が国拠出等の割合に応じた額(以下「要返納額」という。)の返納等を速やかに求め、その返納手続等が速やかに実行されることが重要である。
そこで、検査の対象とした拠出金等計273件における要返納額の返納状況をみたところ、会計実地検査時点において、拠出金等に剰余金が生じたり、事業が終了して残余金が生じたりなどしたため、拠出金等17件から31回計119億2387万余円が返納されており、このうち事業終了によるものが28回と大部分を占めている。
そして、この事業終了により返納が行われた28回について、事業終了から返納までに要した期間をみたところ、12回が1年以内(全体の42%)となっているが、3年超となっているものも見受けられた。
事業終了から返納までの期間が3年を超えていた1回についてみると、事業終了後、拠出金の精算に時間を要したため、国際機関等から要返納額の報告を受けるまでに3年以上が経過していて、これにより返納まで長期間を要したものであった。
また、前記の20年度以前の拠出金10件のうち、事業終了から3年以上経過しているが、残余金の返納手続中で、返納が完了していないものも1件見受けられた。
所管府省庁は、要返納額の返納等を速やかに求め、その返納手続等が速やかに実行されることが必要であるから、事業終了後、要返納額の返納が完了していないものについては、国際機関等に対して適時適切に照会や働きかけを行い、それらの状況等を的確に把握するよう、より一層努める必要があると認められる。
前記のとおり、外務省は、関係府省庁と連携して、15年以降、拠出金等報告書を作成し、同省のホームページ等で公表している。
拠出金等報告書の作成に当たり、同省は記載要領を定めており、関係府省庁はそれに従って拠出金等報告書の基となる資料を作成した上で同省に提出し、同省はそれらを取りまとめるなどして拠出金等報告書を作成している。
拠出金等報告書による拠出金等に係る情報の公表状況を、26年4月公表の平成25年版拠出金等報告書において確認したところ、11府省庁が23年度又は24年度に拠出等した拠出金等を対象に、義務的拠出金については最近1か年(23年度又は24年度)の拠出実績等、任意拠出金又は出資金については、拠出等先の国際機関等の活動目的や財政状況等、当該任意拠出金又は出資金の目的・用途・意義、最近3か年(21年度から23年度まで又は22年度から24年度まで)の拠出等実績、成果に対する我が国の評価等が公表されている。
しかし、前記のとおり、任意拠出金及び出資金の中には、近年拠出等を行っていなくても国際機関等において事業が継続して実施されるなどしているものがあるが、検査対象とした拠出金等のうち23年度以降に拠出等されていない40件の任意拠出金及び出資金に係る情報を含めて上記に係る情報は公表されていない。また、任意拠出金は、前記のとおり、事業ごとに国際機関等において他の事業目的の資金等と区分して経理されているが、拠出先の国際機関等の財政状況は公表されているものの、当該任意拠出金の財政状況に係る情報は個別に公表されておらず、その財政状況が分からないものとなっている。
国際機関等への拠出金等について、より一層透明性の向上を図るために、外務省は関係府省庁と連携して、過年度に拠出等した任意拠出金及び出資金のうち現在も存続しているものはその現状について、また、任意拠出金についてはその財政状況についてできる限りの情報開示を行えるよう、拠出金等報告書の記載要領を整備するなどする必要があると認められる。
前記のとおり、各府省庁等は、DAC報告の基礎となるODA事業の支出額、案件概要等を記載したDAC基礎資料を外務省に報告するなどしており、同省がこれらを取りまとめるなどして、我が国の援助実績としてDACに報告している。
DAC報告は、DAC加盟国の国際貢献の度合いを測る指標となるものであり、各府省庁は、DAC基礎資料等の作成に当たり、作成の対象となる事業に遺漏等がないよう留意する必要がある。
そこで、拠出・出資予算による多国間援助について、DAC基礎資料等への24年の計上状況を確認したところ、ODAに該当する拠出金等として拠出・出資予算に計上された拠出金等であることの確認が十分に行われていなかったり、DAC基礎資料作成に係る担当者への連絡が徹底されていなかったりなどしていたことから、DAC基礎資料等に計上することができるのに計上されていなかった事態が、3省において8件(支出額計4億7074万余円)見受けられた。
このような事態は、我が国の国際貢献の度合いが正しく評価されないことにつながることから、DAC基礎資料等に記載される支出額の正確性、ひいてはDAC報告の内容の正確性について、より一層の確保を図る必要がある。
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、毎年度、多額のODAに係る予算を計上して、ODAを実施している。
21年度から25年度までの11府省庁の拠出・出資予算は、22年度をピークに減少していて、22年度の4586億余円に対して25年度は4011億余円と12%の減少となっている。
11府省庁において、拠出金等の管理の状況、拠出金等の繰越等の状況、DAC基礎資料等の作成状況等について検査したところ、次のような状況が見受けられた。
拠出等されてから一定期間が経過しているのに、国際機関等から会計報告が提出されていなかったり、会計報告が提出されていても、その提出が遅れていたりなどしている拠出金等が見受けられた。
任意拠出金に係る国際機関等からの会計報告の支出状況及び繰越額の状況をみると、支出額に対する繰越額の倍率が継続的に大きくなっていたり、複数の会計期間にわたって支出がなかったりしている拠出金等が見受けられた。
事業終了した拠出金等において、要返納額の返納までに長期間を要した拠出金等が見受けられた。
外務省は、関係府省庁と連携して拠出金等報告書を作成し、これをホームページ等で公表するなどしているが、近年拠出等を行っていないものの事業が継続して実施されるなどしている任意拠出金及び出資金に係る情報や、任意拠出金に係る財政状況の情報が公表されていなかった状況が見受けられた。
DACへ報告する際の基礎となるDAC基礎資料等の作成に当たり、拠出・出資予算によって拠出等された支出額をDAC基礎資料等に計上していなかった事態が見受けられた。
我が国のODAは、今後も重要な政策分野として実施されていくことが見込まれる。そして、多国間援助の実施に当たっては、国際機関等へ拠出等された資金が、国際機関等において適切に管理され、有効に活用されるとともに、実施した援助については我が国の国際貢献として適切な評価が得られることが望まれる。
また、国がその施策を推進するに当たって、国民の理解と協力を得るため、より一層ODA事業の透明性の向上を図ることが重要となる。
以上のような状況を踏まえて、11府省庁においては、次のア、イ及びウについて留意して、国際機関等への拠出等を行うとともに、次のエ及びオについて留意して、情報の開示やDAC基礎資料等の作成を行うことが必要である。
ア 拠出等されてから一定期間が経過しているのに、国際機関等から会計報告が提出されていなかったり、会計報告が提出されていても、その提出が遅れていたりなどしている場合には、その速やかな提出について、当該国際機関等に対して照会や働きかけを行うなどして、資金の管理状況、事業の進捗状況等を適時適切に把握するとともに、拠出等の効果を十分に把握すること
イ 拠出金等の活用状況を適時適切に把握するなどして、特に任意拠出金に係る国際機関等からの会計報告において支出額に対して繰越額が継続的に多くなっていたり、複数の会計期間にわたって支出がなかったりなどしている場合には、国際機関等において資金が滞留しないように、追加拠出等や事業見直しについて当該国際機関等と協議等を行うこと
ウ 要返納額の返納について、国際機関等に対して適時適切に照会や働きかけを行い、それらの状況等を的確に把握するよう、より一層努めること
エ 外務省は、他の府省庁と連携して、近年拠出等を行っていない拠出金等についても拠出金等報告書の記載対象としたり、任意拠出金についての財政状況をできる限り拠出金等報告書に記載したりするなどして、より一層の情報の開示に努めること
オ DAC基礎資料等の作成に当たり、拠出・出資予算によって拠出等を行った拠出金等の支出額を確認するなどして、より一層の正確性の確保に努めること
本院としては、11府省庁による多国間援助について、今後とも適切に実施され、また、その援助実績が我が国及び世界各国において適切に評価されるよう、引き続き多角的な観点から注視していくこととする。