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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成26年10月

年金記録問題に関する日本年金機構等の取組に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、平成26年6月9日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月10日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象

総務省、厚生労働省、日本年金機構

(二) 検査の内容

年金記録問題に関する日本年金機構等の取組に関する次の各事項

  • ① 年金記録問題に関する事業の実施状況
  • ② 年金記録問題への取組による効果の発現状況
  • ③ 年金記録問題の再発防止に向けた体制整備の状況

2 公的年金制度の概要等

(1) 公的年金制度の概要

我が国における公的年金制度は、図表0-1に示した沿革を経るなどして各制度が個別に発足したため、従前は民間の被用者を対象とする厚生年金保険、公務員等を対象とする各種の共済年金及び自営業者等を対象とする国民年金に分立していた。

図表0-1 主な公的年金制度の沿革

図表0-1 主な公的年金制度の沿革画像

そして、図表0-2のとおり、昭和60年の法改正により、61年4月から、国民年金を全国民共通の基礎年金として支給する基礎年金制度が導入され、厚生年金保険や共済年金は報酬比例の年金を支給する「基礎年金の上乗せ」として位置付けられ、いわゆる二階建ての年金制度として再編成されて現在に至っている。

図表0-2 現在の公的年金制度

図表0-2 現在の公的年金制度画像

(2) 基礎年金番号の導入

我が国の公的年金制度は、前記のとおり、厚生年金保険、国民年金等に分立していた。そして、年金の受給権を裁定(年金を受給する資格ができたときに必要となる手続をいう。以下同じ。)するために必要となる年金受給者又は被保険者の氏名 性別生年月日、被保険者期間、保険料の納付等に関する年金記録(注1)は、平成9年1月の基礎年金番号導入前においては、厚生年金保険、国民年金等の各制度の保険者ごとに、年金手帳等の記号番号(以下「手帳番号」という。 )により管理され、手帳番号は、制度ごとに原則として一人が一つの番号を付与されることとなっていた。

しかし、複数の公的年金制度に加入していた者や複数の手帳番号を有する者については、年金の受給権の裁定の際に、全ての手帳番号が必要となる上、制度や手帳番号ごとに年金記録を確認する必要があり、この確認に時間を要するなどしていたことから、被保険者等ごとの年金記録を正確に把握して、年金事業運営の一層の適正化・効率化や被保険者等に対するサービスの向上を図るために、同月から各年金制度間で共通に使用する基礎年金番号が導入された。基礎年金番号は各制度を通じて一人が一つの番号を付与されるものである。

(注1)
年金記録  厚生年金保険の記録としては、手帳番号、氏名、性別、生年月日、住所、事業所記号、資格取得・喪失年月日、種別、標準報酬月額、一時金記録等が管理されている。
また、国民年金の記録としては、手帳番号、氏名、性別、生年月日、住所、電話番号、台帳保管庁名、資格取得・喪失年月日、保険料納付状況等が管理されている。

(3) 厚生年金保険及び国民年金の年金記録の管理方法

前記の公的年金制度のうち、厚生労働省(昭和37年7月から平成21年12月までは社会保険庁、昭和37年6月以前は厚生省)が管掌している年金制度は、①厚生年金保険及び②国民年金である。

このうち、①厚生年金保険については、昭和61年に社会保険庁の社会保険オンラインシステム(以下「オンラインシステム」という 。)が導入されたが、それ以前は、図表0-3のとおり、社会保険事務所等において、事業主からの届出に基づき「被保険者名簿」又は「被保険者原票」により被保険者の年金記録を管理するなどしていた。

図表0-3 年金記録の管理方法(厚生年金保険)

図表0-3 年金記録の管理方法(厚生年金保険)画像
(注)
社会保険庁は、オンラインシステムの導入に当たり、被保険者名簿、被保険者原票等をマイクロフィルム化して各社会保険事務所等において保存管理している。

また、②国民年金については、59年にオンラインシステムの導入により社会保険庁で一元的に管理されることになったが、それ以前は、図表0-4のとおり、社会保険事務所等において 「被保険者台帳」により年金記録を管理するなどしていた。

図表0-4 年金記録の管理方法(国民年金)

図表0-4 年金記録の管理方法(国民年金)画像

(4) 年金記録問題の発生及び社会保険庁における取組の状況

社会保険庁における厚生年金保険、国民年金等の被保険者等の年金記録の管理状況等については、平成18年以降の国会審議等において、次の①から⑤までなどが取り上げられて、大きな社会問題となった。

  • ① オンラインシステム上の年金記録(以下「オンライン記録」という。)には、基礎年金番号に統合されていないものが約5095万件(注2)あること
  • ② マイクロフィルムで管理されている厚生年金保険等の旧台帳の年金記録約1466万件の中には、オンラインシステムに収録されていないものがあること
  • ③ オンライン記録には、被保険者台帳や被保険者名簿から、その内容が正確に入力されていないものがあること。
  • ④ 保険料を納付した旨の年金受給者又は被保険者等本人の申立てがあるにもかかわらず、保険料納付の記録が台帳等に記録されていないものがあること
  • ⑤ 標準報酬月額等について不適正な遡及訂正処理が行われた記録があること
(注2)
約5095万件  オンラインシステムにおいて磁気ディスクに管理されていた年金記録は平成9年1月時点で約3億件存在していたと推定されているが、このうち、約1億0156万件については、基礎年金番号が付番された。また、約1億5000万件については、同月から18年6月までの間に、基礎年金番号の付番通知の際、複数の手帳番号の保有について照会を行った回答や、本人の申請に基づく年金の受給権に係る裁定の際等に基礎年金番号に統合された。しかし、18年6月時点で、残りの約5095万件の年金記録が依然として基礎年金番号に統合されていない状況となっていた。

これらの問題に対応して年金記録に関する国民の信頼の回復を図るなどのために、19年7月に、年金業務刷新に関する政府・与党連絡協議会により「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について」が取りまとめられ、厚生労働省は、この取りまとめに沿って、同年8月に「年金記録適正化実施工程表 (以下「適正化工程表」という 。)を作成して、これらの問題に対する取組の内容、実施時期等を公表するなどしていた。

適正化工程表には、次のとおり一連の具体的な対策等が掲げられており、社会保険庁はこれらに従って各種取組を進めることとされた。

  • ① 約5095万件の基礎年金番号に統合されていないオンライン記録(以下「未統合記録」という 。)と約2.5億件の基礎年金番号に結び付いているオンライン記録との名寄せの実施
  • ② 年金記録が基礎年金番号に結び付く可能性がある者に対して、その旨と加入履歴を確認してもらうための「ねんきん特別便」の発送
  • ③ マイクロフィルムで管理されている約1466万件の年金記録の磁気ファイル化及び全てのオンライン記録との名寄せの実施
  • ④ 厚生年金保険の被保険者名簿等の記録とオンライン記録との計画的な突合せ
  • ⑤ 年金記録に係る相談体制の拡充

これらを示すと、図表0-5のとおりである。

図表0-5 年金記録問題に対する社会保険庁における主な取組について

図表0-5 年金記録問題に対する社会保険庁における主な取組について画像

(5) 日本年金機構の設立と同機構における年金記録問題への取組の状況

16年以降、社会保険庁職員による年金個人情報の業務目的外閲覧、収賄事件等の不祥事や社会保険事務所による国民年金保険料免除等の不適正な事務処理等の不適切な業務運営が次々と発覚して、これらは社会保険庁の組織・体制上の構造的な問題が背景にあるとされたことなどから、社会保険庁は22年1月1日に廃止され、同日以降、従来、社会保険庁が所掌していた厚生年金保険及び国民年金の事業に関する事務は、厚生労働省が所掌することとなった。そして 日本年金機構法 (平成19年法律第109号。以下「機構法」という。 )に基づき、同省は、当該事業に関する事務の一部を、同日に設立された特殊法人である日本年金機構(以下「機構」という 。)に委任し、又は委託し、機構は、同省の監督の下に、同省と密接な連携を図りながら、厚生年金保険制度及び国民年金制度に対する国民の信頼の確保を図り、もって国民生活の安定に寄与することを目的として、当該委任され、又は委託された業務を図表0-6に示した組織体制で実施している。

図表0-6 機構の組織図

図表0-6 機構の組織図画像

このように、機構が行う業務は厚生労働省の監督の下に行われることとされ、機構法に基づき、厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、機構に対し、報告を求めたり、業務の運営の改善に関し必要な措置を執るべきことを命じたりなどすることができることとなっている。

また、機構の業務については、機構法第33条に基づき、3年以上5年以下の期間において機構が達成すべき業務運営に関する目標(以下「中期目標」という。 )を厚生労働大臣が定め、機構に指示することとなっている。そして、機構は、中期目標を達成するための計画(以下「中期計画」という 。)を作成し、厚生労働大臣の認可を受けることとなっている。さらに、機構は、中期計画に基づき、毎事業年度、業務運営に関する計画(以下「年度計画」という。 )を作成し、当該事業年度の開始前に、厚生労働大臣の認可を受けるとともに、厚生労働大臣は、事業年度ごとの機構の業務の実績についてSからDまでの5段階の評価を行うこととなっている。

機構設立時における中期目標及びこれを受けた中期計画の期間は、22年1月から26年3月までの4年3か月となっており、これらの中期目標及び中期計画の中で年金記録問題への対応は、最優先、最重要課題とされており、機構において計画的、多角的に取り組むこととしている。また、中期計画に基づく21年度から25年度までの各年度計画においても、年金記録問題への対応に関する事項は最優先の事項として定められている。

さらに、機構は、中期計画に基づき22年度から25年度までの4年間を実施期間とする「年金記録問題への対応の実施計画工程表」 (以下「工程表」という。 )を定めており、実施状況等を踏まえ、年度ごとに工程表の改定を行っている。この工程表には、図表0-7のとおり、機構が年金記録問題への対応として実施する取組や各年度の取組ごとの実施作業に関する処理期限の目標が具体的に記載されている。

図表0-7 工程表に示された年金記録問題に対する主な取組の概要

主な取組 取組の概要
ねんきん特別便等の各種便の送付 ・平成25年3月以前に受け付けた各種便の回答については、原則として25年9月末までを目途にその確認作業を行う。
・加入期間10年未満の黄色便の送付(24年度 ) 、各種便未送達者への再送付(24年2月開始)を行う。
紙台帳等とオンライン記録との突合せ ・紙台帳等とオンライン記録の突合せについては、25年度 中を目途に終了し、該当者へのお知らせを原則として25年度中を目途に送付する。
厚生年金保険の被保険者等の年金記録と厚生年金基金記録との突合せ ・第一次審査について早急に処理を進めるとともに、第二次審査について25年10月末までに厚生年金基金等から報告があったものについて25年度中を目途に必要な記録訂正を進める。
年金事務所段階における記録回復の促進 ・年金事務所段階の記録回復基準に基づき記録回復を進める。
・総務省年金記録確認第三者委員会のあっせん事案等の分析、調査を踏まえ、更なる記録回復基準の検討を行う。
厚生年金保険の標準報酬等の遡及訂正 ・年金事務所段階の記録回復基準に基づき記録回復を進める。
国民年金の特殊台帳とオンライン記録との突合せ ・社会保険庁時代から実施している国民年金特殊台帳とオンライン記録との突合せ業務を22年6月末を目途に終了させる。

このような制度、計画等の下、機構は、社会保険庁が行っていた取組を引き継いで実施するとともに、年金記録問題への主要な取組は25年度を集中処理の最終年度として実施することとなった。

(6) 年金記録問題に関する特別委員会の設置等

年金記録問題の発生を受けて 国は 19年度以降 総務省 厚生労働省等に 学者専門家、有識者等から構成される年金記録問題を扱う各種の委員会を設置し、これらの委員会は、年金記録問題発生の原因、責任の所在等についての調査、検証を行うなどしている。

総務省には、19年6月 「年金記録問題検証委員会」 (以下、「検証委員会」という。 )が設置され、検証委員会は、年金記録問題発生の経緯、原因、責任の所在等について調査及び検証を行い、同年10月に、年金記録問題検証委員会報告書を取りまとめて公表している。

同報告書では、年金記録問題発生の経緯、原因として「厚生労働省及び社会保険庁の年金記録管理に関する基本的姿勢、年金記録の正確性確保の重要性に対する社会保険庁の認識不足 「裁定時主義」(注3)による業務処理という基本的問題に加えて、様々な、事務処理上の問題、年金管理システムに関する問題などの直接的な要因、更には間接的な要因としての組織上の問題があったこと」を挙げており 「上記の多くの問題に、対して組織的に十分な改善対策が長期間にわたって執られてこなかったこと」が年金記録問題につながったとしている。

さらに、総務省には、本省に年金記録確認中央第三者委員会(以下「中央委員会」、 という。)が 50か所の管区行政評価局等に年金記録確認地方第三者委員会 ( 以下、 「地方委員会」)といい、中央委員会と地方委員会を合わせて「第三者委員会」という。)が19年6月にそれぞれ設置され、同年7月に年金業務・社会保険庁監視等委員会(22年1月1日に廃止)が設置されるなどしている。

また 厚生労働省には、20年1月に「年金記録問題作業委員会」 が、21年10月に「年金記録回復委員会」が、25年3月に「年金記録問題に関する特別委員会」(以下、「特別委員会」という。)が順次設置されている。

そして、特別委員会は、中期目標において年金記録問題への主要な取組は25年度が集中処理の最終年度となっていることを受けて、機構設立以降だけでなく社会保険庁時代も含めた6年間の年金記録問題への取組の全般的整理と今後に向けての提言等を内容とする報告書を、26年1月に厚生労働大臣に提出している。

この報告書では、現状や今後の提言として、①25年9月末時点においても依然として解明されていない未統合記録が約2112万件あること、②年金記録問題への集中処理期間は終了するが今後も引き続き年金記録問題への取組が必要なこと、③機構や厚生労働省において今後の制度改正等も踏まえて、再発防止のための各種対策、体制強化が必要であること、④年金受給者等からの照会や申出を待つだけでなく、機構から年金受給者等への積極的な働きかけが引き続き必要であることなど、年金記録問題の各種の論点、課題等が幅広く記述されている。

(注3)
裁定時主義 年金の受給権を裁定するときに、年金記録を突合して、内容に誤りなどがあった場合にはこれを直せば足りるとする事務処理上の考え方。「申請主義」ともいう。

(7) 年金受給者等に対する特例的救済施策

年金記録問題の発生以降、年金受給者等の有する資料や総務大臣からのあっせんなどにより、多数の年金記録の訂正・回復が行われている。そして、その進捗等を踏まえて、国は、年金記録が訂正されるなどした年金受給者等を特例的に救済することとして、関係法令の整備等を行っている。

また、上記の措置以外にも、将来の無年金・低年金の発生を防止し、国民の高齢期における所得の確保をより一層支援する観点から、上記の年金受給者等を含めて、未納の国民年金保険料の納付可能期間を延長したり、年金記録問題への取組の過程で明らかになった第3号被保険者に関する年金記録が不整合となっていた問題に対応したりするために立法措置が講じられている。

その主な内容を示すと図表0-8のとおりである。

図表0-8 年金記録が訂正されるなどした年金受給者等に対して特例的に制定、施行された法律の概要

法律名 主な内容
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(平成19年法律第111号。以下「年金時効特例法」という。 ) 年金記録が訂正されて年金が増額した場合に、従来は時効消滅していた直近5年を超える期間に係る増額分についても時効特例給付として給付するもの
厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律(平成19年法律第131号。以下「厚生年金特例法」という。 ) 事業主が被保険者の給与から厚生年金保険料を源泉控除していたにもかかわらず、納付義務を履行したことが明らかでない場合に該当するとする第三者委員会の意見があった場合に、年金記録を訂正し、年金額に反映させるなどするもの
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付の支払の遅延に係る加算金の支給に関する法律(平成21年法第37号。以下「遅延特別加算金法」という。 ) 年金記録が訂正されて受給権に係る裁定が行われた場合に、本来の支給日より大幅に遅れて支払われる年金給付額(年金時効特例法による給付に限る 。 )について、現在価値に見合う額になるように、物価の状況を勘案して算定した額を遅延特別加算金として支給するもの
国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律(平成23年法律第93号。以下「年金確保支援法」という。 ) 未納の国民年金保険料について、従来は過去2年分までとされていた納付可能期間を延長し、平成24年10月1日から3年間に限り、過去10年分まで遡って納付できるようにするなどするもの
公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律第63号。以下「年金健全化法」という。 ) 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保を図るため、国民年金について第3号被保険者に関する年金記録の不整合期間の保険料の納付を可能とするなどするもの

3 これまでの会計検査の実施状況

会計検査院は、18年以降の国会審議等において年金記録問題が取り上げられる以前から、社会保険庁における厚生年金保険等の業務の実施状況について検査を行ってきており、その結果を年金記録の正確性に影響のあるものとして平成12年度決算検査報告及び平成16年度決算検査報告に掲記している。そして、18年以降は、国会審議等を踏まえて年金記録問題に係る検査を行い、その結果について検査報告に掲記している。これらを示すと図表0-9のとおりである。

図表0-9 年金記録問題に関する検査報告掲記事項

検査報告 件名
平成12年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
・「政府管掌健康保険及び厚生年金保険の適用事業所の全喪処理について、その適正化を図るよう改善の処置を要求したもの」
平成16年度決算検査報告 特定検査対象に関する検査状況
・「健康保険、厚生年金保険の適用促進の実施状況について」
平成19年度決算検査報告 不当事項
・「ねんきん特別便の作成及び発送準備業務に係る委託契約において、仕様書の記載、委託業者への指示等が適切でなかったため、再度、ねんきん特別便の作成及び発送が必要となり不経済となっているもの」
平成20年度決算検査報告 不当事項
・「年金記録相談において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合等の処理が適切に行われていなかったため、本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしているもの」
国会からの検査要請事項に関する報告
・「年金記録問題について」
(平成21年10月に参議院議長に対して報告した概要を決算検査報告に掲記している。)
平成21年度決算検査報告 不当事項
・「年金記録相談等において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合が適切に行われていなかったため、老齢厚生年金等が適正に支給されないなどしていたもの」
・「「ねんきん特別便」の作成及び発送準備業務に係る委託契約において、委託業者に対する指示等が適切でなかったため、共済組合に発送した「ねんきん特別便」が組合員へ配布できずに返送されており、再度、発送するための費用を支出するなどしていたもの」
・「「ねんきんあんしんダイヤル」年金記録相談業務に係る委託契約において、業務に従事していない休憩時間を支払の対象に含めていたため、委託費の支払額が過大となっていたもの」

意見を表示し又は処置を要求した事項
・「年金記録相談等において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合を適切に行うことにより、老齢厚生年金等を適正に支給するなどするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの」
・「厚生年金保険等の適用事業所から提出された全喪届の処理に当たり、実地調査対象事業所を的確に把握した上で事業実態の確認を確実に行うことなどにより、全喪届の事務処理等を適切に実施するよう改善の処置を要求したもの」
平成22年度決算検査報告 不当事項
・「厚生年金加入記録のお知らせを送付対象者ではない者に対して送付していたため、送付件数が過大となっていたもの」
・「年金相談センター運営業務委託において、委託費の対象とはならない研修に係る経費を委託費の対象経費として支払っていたもの」

意見を表示し又は処置を要求した事項
・「年金相談業務に係る契約の実施に当たり、契約の履行確認を徹底するなどするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに委託する年金相談窓口数の見直しを行うなどして、年金相談業務の実施等が経済的なものとなるよう意見を表示したもの」

上記のうち、平成20年度決算検査報告に掲記した「年金記録問題について」は、20年6月に、参議院から、年金記録問題について会計検査を行い、その結果を報告するよう要請され、会計検査院が、その要請により実施した会計検査の結果について報告したものの概要である(検査の要請の内容及び検査の結果に対する所見は、巻末別表参照 。)

4 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

会計検査院は、前記のとおり国会からの要請に関する報告を行った後も、機構において実施されている年金記録問題に係る取組の実施状況や個別の委託契約等について検査を行い、検査報告に不当事項、意見を表示し又は処置を要求した事項等を掲記するなどしている。

そして、前記のとおり、機構における年金記録問題への主要な取組は25年度が集中処理の最終年度とされていること、特別委員会において厚生労働省及び機構による年金記録問題への取組の実施状況等について報告書が取りまとめられていることなどを踏まえ、会計検査院は、年金記録問題に関する日本年金機構等の取組に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の着眼点により検査を行った。

ア 年金記録問題に関する事業の実施状況

(ア) 機構における未統合記録を基礎年金番号に統合するための取組等は適切に実施されているか、その進捗状況はどのようになっているか、未統合記録の解明の状況はどのようになっているか、また、厚生労働省は機構が実施している各種取組の進捗管理等を適切に行っているか。

(イ) 機構における年金受給者等に対する特例的救済施策への取組はどのようになっているか。特に、年金時効特例法に基づく時効特例給付に係る業務処理が不統一になっていた問題等に対する対応や再発防止策は適切に行われているか、また、厚生年金特例法に基づく特例納付保険料の徴収、債権管理に係る事務処理は適切に行われているか、さらに、第3号被保険者の年金記録不整合問題に係る対応は適切に行われているか。

(ウ) 機構が委託により行っている街角の年金相談センター等の運営は、需要に応じた適切な見直しが行われ、効率的なものとなっているか、また、年金事務所等の年金相談及びコールセンターの年金電話相談の実施体制等は適切なものとなっているか。

(エ) 機構が行っている「ねんきんネット」について、その機能追加は、利用者の利便性向上に沿ったものとなっているか、利用の拡大は順調か、市区町村との連携は十分に図られているか。

(オ) 機構における持ち主が不明の年金記録を解明するための被保険者等の自主点検を促す施策は適切に実施されているか。

(カ) 機構の年金記録問題への対応に係る契約の状況はどのようになっているか、契約事務の透明性及び公正性は確保されているか。

(キ) 機構における年金記録問題への取組の実施体制はどのようになっているか。

(ク) 厚生労働省及び機構が支出した年金記録問題への取組に要した経費の状況はどのようになっているか。

(ケ) 総務省の年金記録問題への取組の状況はどのようになっているか、また、総務省の第三者委員会は、業務量に対応した体制の見直しが適切になされ、効率的に運営されているか、第三者委員会が年金記録問題への取組に要した経費の状況はどのようになっているか、さらに、総務大臣のあっせんに対する機構等の対応は適切になされているか。

イ 年金記録問題への取組による効果の発現状況

(ア) 未統合記録及び記録の内容に誤りがある年金記録の回復状況はどのようになっているか。

(イ) 特例的救済施策による年金等の支給状況はどのようになっているか。

(ウ) 年金記録の回復による効果はどのようになっているか。

(エ) 年金記録の訂正により年金額が減額となる場合の取扱いはどのようになっているか。

ウ 年金記録問題の再発防止に向けた体制整備の状況

(ア) 機構の内部統制システムは適切に整備されて、機能しているか、また、機構における事務処理誤りへの対応は適切になされて 再発防止策が講じられているか。

(イ) 年金制度の設計・構築、制度改正等の事務を所掌する厚生労働省と、それに基づいて実際の業務運営を行う機構との連携は適切になされているか、厚生労働省の機構に対する指導等は適切に行われているか、また、厚生労働省及び機構において、年金記録問題の取組に関係する厚生年金基金、共済組合、地方自治体等との協力連携に向けて、適切な対応がなされているか。

(ウ) 厚生労働省及び機構における今後の年金記録の正確性確保に向けた取組や26年度以降の年金記録問題への取組の体制はどのようになっているか。

(2) 検査の対象及び方法

会計検査院は、22年1月以降に厚生労働省、機構等が年金記録問題への取組のために実施した各種事業や再発防止に向けた体制整備の状況等を中心に、必要に応じて19年度以降の社会保険庁の対応状況も含め、年金記録問題への取組状況全般を対象として、総務本省、厚生労働本省、機構の本部、9ブロック本部のうちの8ブロック本部、47事務センターのうちの18事務センター、312年金事務所のうちの142年金事務所及び1業務委託先において、計351.0人日を要して会計実地検査を行った。

検査に当たっては、総務省及び厚生労働省における年金記録問題への取組に関する各種資料等の内容を精査、分析するとともに、両省の担当者から説明を聴取するなどして検査を行った。また、機構における年金記録問題への取組に係る事業に関する各種報告書、統計資料、委託業務に係る契約書、仕様書、実績報告書等の内容を精査、分析するとともに、機構の担当者から説明を聴取するなどした。そして、機構における年金記録問題に対応する事業に係る調書の作成を依頼し、提出を受けた調書の内容を分析するなどして検査を行った。