貴省は、前記のとおり、24年の過大請求事案に対する再発防止策として、防衛関連企業に対して 25年通達に基づく制度調査を実施しているが、その実施頻度を考慮すると、多くの防衛関連企業に対して制度調査を完了するまでには、なお、長期間を要すると思料される。
そこで、本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、防衛関連企業において、原価計算等に関する規程類が整備されているか、実際の原価計算等が当該規程類に基づき適切に行われているか、計上された工数が適正となっていることを確認することができる体制が整備されているかなどに着眼して検査した。
そして、貴省と会計実地検査時点において25年通達に基づく制度調査が実施されていないなどの防衛関連企業12社(注2)とで締結した原価計算方式により予定価格を算定した契約のうち、契約の履行が完了し、23年度から25年度までの間に契約代金を支払った契約金額1000万円以上の契約計3,208件(支払金額計7223億3038万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、上記の防衛関連企業12社において、原価計算等に関する規程類や作業に係る帳票類を確認したり、作業現場に赴いて作業実態、工数計上の手続等を実地に確認したりするとともに、貴省内部部局、装備施設本部等において、関係者から見解を聴取するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
24年の過大請求事案をみると、原価計算等に関する規程類の整備が十分でなかったなどのため、工数修正専用端末や工数修正プログラムを使用して工数を書き換えるなどの事態が生じていた。したがって、防衛関連企業において原価計算等に関する規程類を整備し、これに基づいて工数集計等の経理処理を適正に行うことは、防衛関連企業が提出等する資料の信頼性を確保する上で重要なものである。
しかし、防衛関連企業3社(注3)は、原価計算等に関する親会社の規程類をそのまま準用するなどしていて、当該企業の作業実態に即した規程類を整備していなかったり、工数集計や実際に運用しているシステムに関する規程類を整備していなかったりしていた。
また、防衛関連企業4社(注4)は、原価計算等に関する規程類を整備しているものの、その規程類には、実際に運用しているシステムによる経理処理手続等が定められていないものとなっていた。
上記の工数集計等の原価計算に関する規程類を十分に整備していなかった事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
函館どつく株式会社は、経理業務に関する基準となる経理規程を定めて 、これに基づき会計処理を行うこととしている。
そして、同社函館造船所の修繕部門は、工数集計に関する管理手順を定め、これに基づき作業時間の管理、計上を行っていたが 、同造船所の設計部門は、 工数集計に関する手順を整備しないまま、設計に要したとする作業時間の管理、計上を行っていた。
前記のとおり、24年の過大請求事案においては、契約代金の減額を回避するために、実績工数が目標工数を上回った他の契約からその実績工数の一部を当該契約の実績工数に付け替えるなどの事態が生じており、付替え前の工数データは、大半が廃棄されているなどしていて、修正した記録も保存されていなかった。
以上を踏まえると、工数が集計されるまでの過程を記録及び保存することは、貴省が契約に際して求めている資料の信頼性を確保する上で重要であるが、検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 作業指示や作業実績に関する資料を保存していなかったもの
原価計算に係る工数は、作業指示を受けた作業員が実際に作業に従事した時間を実績として、工数集計システムに入力することなどにより集計される。したがって、システムに入力された工数が実際に作業に従事した時間であるという根拠資料を保存することは、実績工数の客観性を検証するために重要である。
しかし、防衛関連企業10社(注5)は、作業指示や作業実績の報告を口頭で行い、一定期間を経過した後に実績工数の承認等を行うなどしているが、計上した根拠資料を記録及び保存していないため、計上された工数が、指示と一致しているか、作業時間の計上が妥当であるかについて客観的な証拠がなく検証できない状況となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
三井造船株式会社玉野事業所は、部門ごとに工数を管理する規程類を定めており、作業時間の計上に当たっては、作業者が作業指示に基づき、作業時間を直接作業時間及び間接作業時間に区分して工数集計システムにより計上し、その後、システムに計上された作業時間を照査、承認している。
しかし、一部の部署を除いて作業指示が口頭で行われ、作業指示を行ったとする証拠が保存されていないのに、作業時間の照査、承認を1か月分を取りまとめて行っていたため、作業内容が指示されたものと一致しているか、作業時間の計上が妥当であるかについて検証できない状況となっていた。
イ 工数を修正した証拠を記録及び保存していなかったもの
過大請求事案における工数の付替え等を防止するには、工数集計システムに入力した工数を修正する際に、修正した証拠をシステムに記録するとともに、修正理由を記録及び保存することなどが重要である。
しかし、防衛関連企業7社(注6)は、作業員が工数集計システムに入力した工数を修正しても、修正した証拠や理由を記録していないなどのため、計上された工数データが、正当な理由により修正されたものであるか確認できないなどの状況となっていた。
ア及びイのとおり、防衛関連企業は、原価計算に係る工数の計上が適正に行われているかを確認するために必要となる資料を保存していなかったり、工数の修正の証拠を記録及び保存していなかったりなどしていた。そして、今回検査した防衛関連企業3社(注7)においては、作業時間が記録されている作業日誌や出張旅費の精算書類とは異なる工数を計上しているなどしていて、作業時間と計上された工数とが一致していない状況となっていた。
防衛関連企業12社において、(1)のとおり、原価計算等に関する規程類が十分整備されていなかったり、(2)のとおり、原価計算に係る工数の計上に当たり、工数が適正に計上されているか検証するための作業指示や作業実績に関する資料を保存していなかったり、不正な工数の付替えを防止するための工数修正の証拠を記録及び保存していなかったりなどしていて、実績工数の客観性を検証することができないなどの事態は、貴省が契約に際して求めている資料の信頼性確保が十分に図られているとは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、防衛関連企業において、貴省に対して提出等する資料の信頼性確保の重要性に対する認識が欠けていることにもよるが、貴省において、これまでに相次いで発覚してきた過大請求事案を踏まえた資料の信頼性確保に関する事項について、防衛関連企業の取組状況等の確認を早急に行うことの必要性についての認識が欠けていることなどによると認められる。