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  • 平成26年10月

各省庁が所管する政府開発援助(技術協力)の実施状況について(外務省が所管する技術協力を除く。)


各省庁が所管する政府開発援助(技術協力)の実施状況について(外務省が所管する技術協力を除く。)

検査対象
警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省
検査の対象とした政府開発援助(技術協力)の概要
上記のうち、外務省を除く11省庁がそれぞれの所管に係る政府開発援助として、開発途上国の経済及び社会の発展の担い手となる人材を育成するために、我が国の有する技術、技能及び知識を開発途上国に移転するなどするもの
検査の対象とした技術協力事業の金額
3364億円(平成21年度~25年度)

1 検査の背景

(1) 政府開発援助(ODA)の概要

我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助(Official Development Assistance。以下「ODA」という。)を実施している。ODAは、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development。以下「OECD」という。)の開発援助に関する事柄を取り扱う開発援助委員会(Development Assistance Committee。以下「DAC」という。)が作成する援助受取国・地域のリストに掲載された開発途上国・地域(以下「開発途上国」という。)への贈与及び貸付けのうち次の3つの要件を満たすものである。

① 公的機関によって供与されるものであること

② 開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的としていること

③ 有償資金協力については、緩和された供与条件のもの(グラント・エレメント(注1)が25%以上)であること

ODAには、図1のとおり、開発途上国を直接支援する二国間援助と、国際機関等を通じて支援する多国間援助とがある。そして、二国間援助は、贈与と政府貸付等(有償資金協力)に分類することができ、このうち贈与は、開発途上国に対して無償で提供される協力のことで、無償資金協力と技術協力がある。

無償資金協力は、開発途上国等に資金を贈与する援助形態であり、開発途上国が経済社会発展のために必要な資機材、設備等を購入するために必要な資金を贈与するものである。また、技術協力は、開発途上国の経済及び社会の発展の担い手となる人材を育成するために、我が国の有する技術、技能及び知識を開発途上国に移転するなどする援助形態である。

図1 ODAの分類

図1 ODAの分類画像

(2) ODA政策の枠組み

平成4年6月に、ODAの理念(目的、方針及び重点)、援助実施の原則等を定めるものとして、政府開発援助大綱(以下「ODA大綱」という。)が閣議決定された。そして、ODA大綱は、その後の国際情勢の変化等を踏まえた見直しが行われ、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を高めるとともに、幅広い国民参加を促進し、我が国のODAに対する内外の理解を深めるために、15年8月に「政府開発援助大綱の改定について」が閣議決定されている。政府は、ODA政策の枠組みとして、このODA大綱の下、政府開発援助に関する中期政策(以下「ODA中期政策」という。)、国別援助方針、分野別開発政策、国際協力重点方針等を策定しており、ODA大綱を頂点としたODA政策の一貫性を確保することとしている(図2参照)。

図2 ODA政策の枠組み

図2 ODA政策の枠組み画像

このうち、ODA中期政策は、ODA大綱に基づき、3年から5年を念頭に置き、ODAの基本方針、重点課題等について、考え方、アプローチ、具体的取組等を明らかにしたものであり、現行の中期政策は17年2月に策定されたものである。

国別援助方針は、原則として、全てのODA対象国について策定されるもので、5年間を目途に、被援助国ごとの開発ニーズを踏まえて、その国の開発計画、開発課題等を総合的に勘案し、その国に対する我が国の援助重点分野や方向性を示すものとなっており、策定された際には、外務省のホームページで公表されている。そして、この附属書類として、ODA対象国ごとに、実施決定から完了までの段階にあるODA案件を、その国の援助重点分野、開発課題、協力プログラムに分類して一覧にした事業展開計画が策定されている。事業展開計画は、国別援助方針と同時に策定された後も、毎年度、更新されている。

分野別開発政策は、国際社会での議論を踏まえつつ、個別分野・課題における我が国の援助の基本方針と具体的取組を示した政策文書であり、中長期的にも相手国にとって望ましいODAとなるよう、ジェンダー、教育、保健医療・感染症、水と衛生、環境保全、民主化支援、貿易・投資及び防災について策定されている。

国際協力重点方針は、外交政策の進展や新たに発生した開発課題等に迅速に対応するために重点事項を明確にするものであり、年度ごとに策定されている。

(3) ODAをめぐる状況

22年6月に、外務省は、「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」(以下「ODAのあり方に関する検討」という。)を取りまとめて発表している。そして、この「ODAのあり方に関する検討」において、これからのODAには、より戦略的、効果的な援助の実施、国民の強力な理解と支持等が必要であるとして、ODAを中核とする我が国の開発協力の理念を「開かれた国益の増進-世界の人々とともに生き、平和と繁栄をつくる-」と提示し、この理念の背景にある基本的考え方として、開発途上国への援助は、「決して先進国から途上国への「慈善活動」ではなく、我が国を含む世界の共同利益追求のための「手段」である」などとしている。

「ODAのあり方に関する検討」の具体的な内容としては、主要なODA対象国の開発計画、開発上の課題等を総合的に勘案して作成される我が国の援助計画である国別援助計画の制度見直しが掲げられ、国別援助計画を簡潔で戦略性の高いものに改編するために、既存の国別援助計画と事業展開計画を統合し、原則として、全てのODA対象国について国別援助方針を策定すること、国民の理解と支持を得るために、透明性の向上を図り、援助案件の評価結果も含め「ODA見える化」を徹底するとともに、案件形成、実施、評価、改善というPDCAサイクルにおいて、第三者の関与を得ることで、ODAの説明責任の向上を図ることなどとしている。

また、政府は、25年6月に、「日本再興戦略」を閣議決定している。この中で、ODAについては、開発途上国の開発に貢献すると同時にその成長を取り込むことで日本経済の活性化にもつなげるべく、経済分野での国際展開支援にODAを積極的、戦略的に活用することなどとしている。

そして、現在のODA大綱は、15年8月に改定されたものであるが、その後10年以上が経過しており、改定後に様々な国際情勢の変化が生じていること、「日本再興戦略」等によりODAの更なる積極的、戦略的活用に係る要請がなされていることなどを踏まえて、政府は、26年3月に、ODA大綱の見直しを行うことを決定し、26年中を目途に閣議決定を行う予定としている。

(4) DAC報告の概要

DACは、OECDの委員会の一つであり、開発途上国に対する援助の量的拡大とその効率化を図ること、加盟国の援助の量と質について定期的に相互検討を行うこと、贈与ないし有利な条件での借款の形態による援助の拡充を共通の援助努力によって確保することなどを目的としており、現在のメンバーは、OECD加盟国(34か国)中の28か国と欧州連合の計29メンバーとなっている。そして、DACは、毎年、各国から報告された援助実績を取りまとめて、開発協力報告書(以下「DAC報告」という。)として発表している。このDAC報告は、暦年による集計となっていて、開発協力の国際的動向と加盟国の活動概要の報告等が公表されている。

我が国においては、DACへの報告に当たり、公的機関により供与されたODAを把握するために、外務省が各府省庁、都道府県等に対して、「我が国の経済協力実績集計にかかる協力依頼について」(以下「集計依頼文書」という。)によりDAC報告の基礎となるODA事業の実績額、事業概要、対象地域、国等の報告を依頼している。そして、同省は、各府省庁等から提出された資料(以下「DAC基礎資料」という。)と同省におけるODA事業の実績額等の資料とを取りまとめて、我が国の援助実績としてDACに報告している。

DAC報告は、DAC加盟国28か国の援助実績を公表しており、加盟国の国際貢献の度合いを測る指標の一つとなっている。我が国は、DAC加盟国のODA実績(支出純額ベース(注2))において、1991年(平成3年)から2000年(平成12年)までは1位であったが、その後は順位を下げて、2007年(平成19年)から2012年(平成24年)まではアメリカ合衆国、英国、ドイツ、フランスに次ぐ5位となっている。

(注2)
支出純額ベース  ODA実績としては、支出総額(グロス)ベースの実績と支出純額(ネット)ベースの実績が公表されている。支出純額は、支出総額から回収額(被援助国から援助供与国への貸付けの返済額)を除いた額である。

(5) 技術協力の概要

技術協力は、前記のとおり、開発途上国の経済及び社会の開発の担い手となる人材を育成するために、我が国の有する技術、技能及び知識を開発途上国に移転し、あるいは、その国の実情に合った適切な技術等の開発や改良を支援するとともに、技術水準の向上、制度・組織の確立・整備等に寄与する援助形態である。

我が国政府が主体となって行っている技術協力の態様としては、留学生受入、研修生受入、専門家派遣、機材供与、調査研究、会議開催支援等がある。主な態様の内容を示すと、表1のとおりである。

表1 主な技術協力の態様の内容

技術協力の態様 内容
留学生受入 日本の大学等で受け入れる開発途上国からの留学生を支援する。
研修生受入 開発途上国において指導的役割を担うことが期待されている行政官等を日本等に招へいし、研修により専門知識、技術の移転を図る。
専門家派遣 日本から開発途上国へ専門家を派遣し、相手国の実情に即した知識や技術の移転を図る。
機材供与 専門家等が効果的な協力をするに当たって必要な機材を相手国に供与する。
調査研究 効率的で質の高い援助を実施するために、各省庁附属機関等が開発途上国政府機関等との間で調査研究を実施する。
会議開催支援 国際会議、セミナー、ワークショップ等の開催を支援する。

この技術協力は、外務省(実施主体は独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」という。)等)に、警察庁、金融庁、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省の計11省庁を加えた合計12省庁において、それぞれの所掌事務に係る国際協力として実施されている。各省庁は、技術協力について、自ら直接事業を実施したり、独立行政法人、公益法人、一般法人、企業等の団体等と契約を締結して、業務を委託し又は請け負わせたり、これらの団体等に補助金等を交付したりして実施している。なお、技術協力は、特定の開発途上国を対象として実施するものだけではなく、一つの事業において複数の開発途上国等を対象として実施するものもある。

(6) 過去の会計検査の状況

会計検査院は、従来、ODAに関する事務、事業について会計検査等を行っているところである。そして、技術協力については、20年10月に、会計検査院法(昭和22年法律第73号)第30条の3の規定に基づき、「文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省所管の政府開発援助に関する会計検査の結果について」を参議院に報告しており、DAC報告に含めることのできるものは遺漏なく報告することなどを所見として記述している。また、このほかに、検査報告において、外務省及びJICAが所掌するODAについて会計検査院法第36条の規定により意見を表示した事項等を多数掲記している。