((2)の事態については、「生活保護費等負担金の算定において、負担の対象とならない不納欠損額を含めていたため、国庫負担金が過大に交付されていたもの」参照)
【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
生活保護費に係る返還金等の債権管理について
(平成27年10月20日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)等に基づき、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下「事業主体」という。)が、法による生活保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)等に対して、その4分の3を生活保護費等負担金(以下「負担金」という。)として交付している。
事業主体は、法第63条の規定により、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けた者から事業主体の定める額を返還させたり、法第78条の規定により、不実の申請等により保護を受けるなどした者から、その費用の額の全部又は一部を徴収したりすることができることとなっている(以下、法第63条の規定による返還金及び法第78条の規定による徴収金を合わせて「返還金等」という。)。
事業主体は、地方自治法(昭和22年法律第67号)等に基づき、上記の返還金等に係る債権(以下「返還金等債権」という。)を管理することとなっている。そして、返還金等債権が発生した場合、事業主体は当該返還金等債権について調査した上で決定(以下「調定」という。)し、債務者に対して納入の通知を行い、指定した履行期限までに債務を履行しない債務者に対しては、期限を指定して督促したり、債務者に債務の一部を納付させるなどして債務の承認をさせたりするなどの時効を中断するための措置(以下「時効中断措置」という。)を執ることとなっている。
そして、地方自治法等により、返還金等債権は、時効中断措置が執られないなどの場合、その発生から5年で時効により消滅することとなっており、消滅した返還金等債権については不納欠損の処理(以下「不納欠損処理」という。)を行うこととなっている。
負担金のうち保護費に係る交付額は、次のとおり算定することとなっている。
このうち、「返還金等の調定額」は、返還金等及びその他の収入について調定した額(分割して調定する場合はその年度に調定した額)の合計額とし、不納欠損額は、時効が成立し消滅するなどした返還金等債権の額の合計額とすることとなっている。
本院は、平成16年度決算検査報告において、「生活保護費に係る返還金等の調定額の算出を適切に行わせることなどにより、生活保護費国庫負担金の算定が適正なものとなるよう改善させたもの」を掲記して、不納欠損処理を行うまでの返還金等債権の管理が十分に行われていないため負担金の算定が適正でなかった事態等について指摘した。貴省は、本院の指摘を踏まえて、事業主体に対して、債権管理を適切に行ったもののやむを得ない事由により不納欠損処理が行われたものに限り負担金の対象となることを明確にするなどの改善の処置を講じた。
貴省は、上記の指摘を受けたこと及び不納欠損額等が前記のとおり負担金の算定額に直接影響することなどを踏まえて、平成22年10月に「生活保護費国庫負担金の精算に係る適正な返還金等の債権管理について」(平成22年社援保発1006第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)を発出して、次の事項等に留意した上で返還金等債権の管理及び負担金の算定を適正に行うよう、都道府県を通じるなどして事業主体に周知している。
このため、事業主体は、保護廃止となった債務者の居住地や死亡した債務者の相続人等の有無について調査するなどの債務者の状況に応じた適切な対応が求められるほか、その実施状況について債権管理台帳等に記録する必要がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
返還金等は本来保護費として支弁されるべきではないものであること、不誠実な被保護世帯が適正に収入申告等を行っている被保護世帯よりも有利にならないよう被保護世帯間の公平性を確保する必要があること、全国の事業主体における25年度の不納欠損額は、41億9808万余円と10年前に比べて約4倍に増加しており、これらの不納欠損額の一部を国が負担していることなどから、返還金等債権を適時適切に管理する重要性は一層高まっている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、返還金等債権の管理は適時適切に行われているか、事業実績報告書に計上された不納欠損額は適時適切に債権管理が行われていた返還金等債権に係る額となっているかなどに着眼して、貴省及び21都府県(注1)の195事業主体において、25年度末までに発生した返還金等債権(注2)301,718件、計1040億6958万余円(負担金相当額計780億5219万余円)を対象として、事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記21都府県の195事業主体において25年度末までに発生した返還金等債権の状況は、表1のとおりとなっていて、返還金等債権301,718件、計1040億6958万余円のうち、不納欠損処理が行われたもの及び未回収となっているものが129,642件、計490億2000万余円(不納欠損額及び未回収残高の合計額。全体の47%)に上っている。
表1 195事業主体において平成25年度末までに発生した返還金等債権の状況
平成25年度末までに発生した返還金等債権 | 25年度末までに回収したもの | 25年度末までに不納欠損処理が行われたもの | 25年度末の未回収残高 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 |
(件) | (千円) | (件) | (千円) | (件) | (千円) | (件) | (千円) |
301,718 | 104,069,588 | 249,642 | 55,049,587 | 9,937 | 3,185,683 | 119,705 | 45,834,317 |
これらのうち、法第78条によるものが計329億1466万余円と上記490億2000万余円の67%を占め、過半が不実の申請等により保護を受けた者等に係るものとなっている。また、未回収となっている返還金等債権の多くは、分割して返済され、債権管理が長期化する傾向にある。そして、未回収となっている返還金等債権のうち、6か月以上延滞が続いていて回収が進んでいない未回収残高10万円以上の債権(一部の事業主体については未回収残高上位200件まで。以下「長期延滞債権」という。)は19,688件、計164億7875万余円(195事業主体における25年度末の未回収残高計458億3431万余円の35%)に上っている。
128事業主体
25年度末までに発生した返還金等債権249,889件、計853億1794万余円
(負担金相当額計639億8846万余円)
(ア及びイの事態には重複しているものがある。)
21都府県の195事業主体に係る返還金等債権の管理体制についてみたところ、128事業主体においては、保護費に係る返還金等債権を管理する上で必要な時効中断措置等の措置の実施時期、方法等を定めた要綱、マニュアル等(以下「債権管理マニュアル等」という。)が整備されていなかったり、債務者に対する時効中断措置等の実施状況等を記録することや当該記録を保存することが定められていなかったりなどしていて、延滞の発生率が高かったり債権管理が長期化する傾向にあったりするなどの保護費に係る返還金等債権の特徴に応じた適時適切な債権管理を長期的かつ継続的に行っていく体制となっていなかった。
183事業主体
14,409件、未回収残高計111億7346万余円(負担金相当額計83億8009万余円)
保護費に係る返還金等債権については、延滞の発生率が高く、不実の申請等により保護を受けた者等に係る返還金等債権が多い傾向があることから、債権管理を行う上で留意する必要があるが、182事業主体の長期延滞債権14,082件(未回収残高計108億9463万余円、負担金相当額計81億7097万余円)については、延滞が生じた後の督促を行ったり、定期的な納入の指導を行ったりするなどの時効中断措置等が適時適切に執られていなかった。
また、延滞が生じた場合の督促、納入の指導等の措置を執る上で債務者の居住地の把握は必須であるが、86事業主体の長期延滞債権2,065件(未回収残高計15億6872万余円、負担金相当額計11億7654万余円)については、保護廃止となった債務者の転居が判明しているにもかかわらず居住地の調査が行われていなかった。
そして、債務者の債務は、債務者の死亡後、相続人等が相続放棄しない限り相続人等に承継されるため、債務者が死亡した場合は速やかに相続人等の調査を行い、相続人等に対して相続の意思の確認を行う必要があるが、121事業主体の長期延滞債権1,417件(未回収残高計11億0192万余円、負担金相当額計8億2644万余円)については、債務者の死亡後における相続人等の有無についての調査を行っていなかったり、相続人等に対して時効中断措置が執られていなかったり、相続の状況の確認が行われていなかったりしていた。
貴省及び各都府県は、毎年度、施行事務監査を行っているが、多くの場合、ア及びイの事態については、監査項目に加えられておらず十分な把握に至っていなかったり、把握に至っていても十分な指導が行われていなかったりしていた。
ア及びイの事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
三重県松阪市は、平成25年度末時点で返還金等債権1,453件(未回収残高計2億1687万余円)を管理しているが、債権管理マニュアル等を制定しておらず、時効中断措置等の実施状況について記録を残すこととしていなかった。
そして、同市は、上記の返還金等債権のうち、長期延滞債権149件(未回収残高計7835万余円)全件について、最長8年の延滞が発生しているにもかかわらず時効中断措置等を執るなどの債権管理を適切に行っておらず、これらのうち101件(未回収残高計5590万余円)については債権額全額が未回収のままとなっていた。
さらに、上記149件のうち108件(未回収残高計4634万余円)については、債務者の転居後に債務者の居住地を調査しておらず、22件(未回収残高計1403万余円)については、債務者の死亡後に相続人の有無等を調査していなかった。
62事業主体
2,869件、過大となっていた国庫負担対象事業費計8億4424万余円
(負担金相当額計6億3318万余円)
不納欠損額は、債務者に対して債務者の状況に応じた必要な措置を適時適切に実施した返還金等債権に係るものでなければ、国庫負担の対象とならない。
62事業主体は、返還金等債権2,869件に係る不納欠損額計8億4424万余円について適時適切に債権管理を行っていたとして、25年度の事業実績報告書に国庫負担の対象として計上していた。
しかし、実際は、債務者に対する時効中断措置等が執られていなかったり、債務者の居住地の調査が行われていなかったり、債務者の死亡後の相続人等に対する債権管理が行われていなかったりなどしていて、債務者の状況に応じた必要な措置が適時適切に執られていなかった。このため、62事業主体における返還金等債権2,869件に係る国庫負担対象事業費計8億4424万余円、負担金相当額計6億3318万余円が過大に交付されていた。
これを都府県別に示すと、表2のとおりである。
都府県名 | 事業主体数 | 債権管理が適時適切に行われていなかった債権数 | 過大となっていた国庫負担対象事業費 | 過大に交付されていた負担金相当額 |
---|---|---|---|---|
(件) | (千円) | (千円) | ||
秋田県 | 1 | 2 | 1,654 | 1,240 |
山形県 | 2 | 9 | 2,133 | 1,600 |
栃木県 | 2 | 20 | 5,090 | 3,818 |
埼玉県 | 4 | 137 | 53,662 | 40,246 |
千葉県 | 4 | 69 | 15,852 | 11,889 |
東京都 | 15 | 575 | 272,391 | 204,293 |
愛知県 | 4 | 205 | 65,030 | 48,772 |
京都府 | 1 | 412 | 44,971 | 33,728 |
大阪府 | 6 | 177 | 121,695 | 91,271 |
島根県 | 1 | 34 | 7,149 | 5,362 |
広島県 | 8 | 517 | 67,116 | 50,337 |
福岡県 | 3 | 354 | 106,074 | 79,555 |
大分県 | 3 | 101 | 25,602 | 19,202 |
宮崎県 | 3 | 16 | 6,613 | 4,959 |
沖縄県 | 5 | 241 | 49,204 | 36,903 |
計 | 62 | 2,869 | 844,243 | 633,182 |
また、貴省及び各都府県は、事業実績報告書の添付資料により、不納欠損額に係る債権管理の状況の確認及び審査を行ったとしているが、当該資料に記載すべき事項が具体的に定められておらず、状況の確認に必要な情報を事業主体が記載していないなどしていて、債権管理の状況を十分に把握できる状況となっていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
大分県佐伯市は、平成25年度に不納欠損処理した返還金等債権4件、計167万余円について、全件適切に債権管理を行っていたとして、事業実績報告書に国庫負担の対象として計上していたが、実際は、同市は、上記の返還金等債権全件について、債務者に対して督促を行うなどの時効中断措置等を執っておらず、適切に債権管理を行っていたとは認められない。したがって、これら返還金等債権に係る不納欠損額を国庫負担の対象としていたことは適切でなく、これに係る負担金125万余円が過大に交付されていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
返還金等債権の管理体制が十分なものとなっていなかったり、延滞が生じている返還金等債権の管理が適時適切に行われていなかったり、適時適切に債権管理が行われていない返還金等債権に係る不納欠損額を国庫負担の対象としていたため負担金が過大に交付されていたりしている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。
近年、返還金等債権及び負担金の算定の対象となる不納欠損額は増加傾向にあり、返還金等債権を適時適切に管理し不納欠損額の発生の防止を図る取組の重要性が一層高まっている。
ついては、貴省において、適時適切に債権管理が行われていない返還金等債権に係る不納欠損額を国庫負担の対象としていた事業主体に対して、過大に交付されていた負担金の返還の手続を速やかに行わせるよう是正の処置を要求するとともに、事業主体において返還金等債権の管理及び返還金等債権に係る負担金の算定が適正に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。