前掲「地域雇用創造推進事業に係る委託事業の実施に当たり、委託費の対象とはならない経費等が含まれていたため、委託費の支払額が過大となっていたもの」参照)
【改善の処置を要求したものの全文】
地域雇用創造推進事業及び実践型地域雇用創造事業の実施による効果の把握等について
(平成27年10月29日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、地域雇用開発促進法(昭和62年法律第23号)等に基づき、雇用保険で行う事業のうちの雇用安定事業等の一環として、平成19年度から23年度までの間に、雇用機会が不足している地域において、市町村や経済団体等が一致協力し、創意工夫や発想をいかして雇用の創出を図ることを目的とした地域雇用創造推進事業を実施している。また、貴省は、24年度からは、当該事業による地域活性化の取組とそれに則した実践的な人材育成等とを一体的に進めて、より効果的な雇用の創出等を目的とした実践型地域雇用創造事業を実施している(以下、これらの事業を合わせて「パッケージ事業」という。)。そして、パッケージ事業は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)が市町村や経済団体等の関係者で構成される地域の協議会(以下「協議会」という。)と委託契約を締結して実施されている。
貴省が定めた実践型地域雇用創造事業実施要領(平成24年職発0405第15号。24年3月以前は地域雇用創造推進事業実施要領。以下「実施要領」という。)及び実践型地域雇用創造事業募集要項(平成24年職発0201第4号。24年1月以前は地域雇用創造推進事業募集要項。以下「募集要項」という。)によれば、パッケージ事業は実施対象地域(注1)(以下「対象地域」という。)を定めて行い、事業実施期間は3か年を上限とすることなどとされている。
パッケージ事業においては、セミナー、研修会等の地域求職者(注2)の就職促進や創業に直接かつ高い効果がみられる個別の雇用対策事業(以下「個別事業」という。)を実施することとなっており、個別事業の内容は、①事業主を対象とした事業所の規模拡大に必要な中核的人材の確保等の取組(以下「雇用拡大メニュー」という。)、②地域求職者を対象とした研修等の取組(以下「人材育成メニュー」という。)、③地域求職者を対象とした合同就職セミナー等の取組(以下「就職促進メニュー」という。)などとなっている。そして、募集要項等によれば、パッケージ事業は雇用の創出を図ることを目的としていることから、利用対象者は、雇用拡大メニューについては事業主、また、人材育成メニュー及び就職促進メニューについては原則として地域求職者とすることなどとされている。
パッケージ事業の実施に当たり、協議会は、個別事業の内容、その実施によって生ずる雇用の創出効果に係る数値目標等を事業構想として定め、労働局を経由して貴省に提案することとなっている。そして、貴省は、提案された事業構想を有識者等で構成される事業構想選抜・評価委員会(以下「第三者委員会」という。)に諮った上で選抜することとなっており、19年度から24年度までの間に委託契約が締結され実施されているパッケージ事業は、220事業、委託契約額計193億5408万余円となっている。
募集要項等によれば、協議会は、個別事業の実施によって生ずる雇用の創出効果に係る数値目標の設定について、個別事業ごとに、個別事業を利用する地域求職者の人数等の見込みをアウトプット指標として、また、個別事業を利用する地域求職者の就職者数等の見込みをアウトカム指標としてそれぞれ設定することなどとされている。そして、協議会は、最大3年間とされている事業実施期間中、パッケージ事業の実施による効果としてアウトプット指標の達成状況(以下「アウトプット実績」という。)及びアウトカム指標の達成状況(以下「アウトカム実績」という。)をそれぞれ把握することとされており、アウトプット実績に計上されたものがアウトカム実績に計上できることになっている。また、新規学卒者等はアウトプット実績に、個別事業の利用前に就職が決まっている者や新規学卒者等はアウトカム実績に、それぞれ計上できないこととされており、貴省によれば、対象地域外からの求職者が個別事業を利用し、対象地域内において就職又は創業した場合は、アウトカム実績として計上できるとしている。そして、協議会は、事業実施期間中、各年度の事業終了後に、把握した各年度末におけるアウトプット実績及びアウトカム実績を事業実績報告書に記載し、労働局に提出することとされている。
募集要項等によれば、協議会は、事業実施期間中、各年度の事業実績報告書のアウトカム実績に翌年度の4月から6月までのアウトカム実績を加えるなどして作成した中間評価報告書を、各年度の事業が終了した翌年度の7月頃に、労働局を通じて貴省に提出することとされており、貴省は、当該中間評価報告書について、第三者委員会の審査を受けた上で、翌年度以降の事業の継続の可否を決定することなどとされている。そして、募集要項によれば、中間評価報告書に基づくアウトカム実績が、事業構想で定めた個別事業ごとのアウトカム指標を集計したパッケージ事業全体のアウトカム指標(以下「事業全体のアウトカム指標」という。)の5割を達成できない場合、事業の初年度と2年度目の2年連続で9割を達成できない場合等については、事業の継続要件を満たさないとされていることから、貴省は、原則として翌年度以降の事業を継続しないことなどとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴省は、雇用機会が不足している地域において、地域の自主性等を重視しながら地域の雇用の創出を効果的に促進することが重要であるとしており、毎年度多額の予算を計上し、パッケージ事業を実施している。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、パッケージ事業に係るアウトプット実績及びアウトカム実績は適切に把握されているか、個別事業の利用対象者の範囲は事業の目的に沿って適切に設定されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、19年度から24年度までの間に労働局と協議会との間の委託契約により実施されたパッケージ事業220事業(委託契約額計193億5408万余円)のうち、15労働局(注3)管内で実施された43事業(委託契約額計33億2088万余円)を対象として、労働局において、協議会によるアウトプット実績及びアウトカム実績の把握に係る根拠資料を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、貴省本省を通じて、上記の43事業について、労働局におけるアウトプット実績及びアウトカム実績の確認状況等に関する調書の提出を受けて、その内容を分析するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の15労働局管内の43事業に係る個別事業990件のうち、14労働局(注4)管内の38事業に係る個別事業867件(これらに係るパッケージ事業の委託契約額計25億8495万余円)のアウトプット実績は、表1のとおり、雇用拡大メニュー5,414社、人材育成メニュー23,886人及び就職促進メニュー13,711人となっていた。しかし、これらのアウトプット実績には、新規学卒者等のアウトプット実績には計上できないと認められるものが雇用拡大メニュー1,086社、人材育成メニュー3,787人及び就職促進メニュー1,714人含まれるなどしており、これらについて適正なアウトプット実績を算出すると、雇用拡大メニュー4,348社、人材育成メニュー20,231人及び就職促進メニュー11,997人となる。
個別事業の内容 | 事業実績報告書等におけるアウトプット実績 | アウトプット実績には計上できないと認められるもの | アウトプット実績に計上することができるのに計上していなかったもの | 事業実績報告書等を修正した後のアウトプット実績 | ||
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新規学卒者等 | 計上誤りによるもの | |||||
(A) | (B)=(B1)+(B2) | (B1) | (B2) | (C) | (A)−(B)+(C) | |
雇用拡大メニュー(社) | 5,414 | 1,086 | 788 | 298 | 20 | 4,348 |
人材育成メニュー(人) | 23,886 | 3,787 | 2,778 | 1,009 | 132 | 20,231 |
就職促進メニュー(人) | 13,711 | 1,714 | 1,488 | 226 | 0 | 11,997 |
また、前記の個別事業990件のうち、12労働局(注5)管内の33事業に係る個別事業779件(これらに係るパッケージ事業の委託契約額計26億2918万余円)のアウトカム実績は、表2のとおり、雇用拡大メニュー332人、人材育成メニュー3,868人及び就職促進メニュー1,812人となっていた。しかし、これらのアウトカム実績には、重複して計上するなどしていた計上誤りによるもの、対象地域外からの求職者で就職先等が対象地域外であったもの、個別事業の利用前に就職が決まっていたものなどのアウトカム実績には計上できないと認められるものが、雇用拡大メニュー39人、人材育成メニュー612人及び就職促進メニュー294人含まれるなどしており、これらについて適正なアウトカム実績を算出すると、雇用拡大メニュー294人、人材育成メニュー3,310人及び就職促進メニュー1,531人となる。
以上のように、適正なアウトプット実績又はアウトカム実績が計上されていない個別事業については、パッケージ事業による雇用の創出効果に関して適切な評価を行うことができないおそれがあると認められる。
個別事業の内容 | 事業実績報告書等におけるアウトカム実績 | アウトカム実績には計上できないと認められるもの | アウトカム実績に計上することができるのに計上していなかったもの | 事業実績報告書等を修正した後のアウトカム実績 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
計上誤りによるもの | 対象地域外からの求職者で就職先等が対象地域外であったもの | 個別事業の利用前に就職が決まっていたもの | その他 | |||||
(A) | (B)=(B1)+(B2)+(B3)+(B4) | (B1) | (B2) | (B3) | (B4) | (C) | (A)−(B)+(C) | |
雇用拡大メニュー | 332 | 39 | 26 | 0 | 11 | 2 | 1 | 294 |
人材育成メニュー | 3,868 | 612 | 232 | 105 | 119 | 156 | 54 | 3,310 |
就職促進メニュー | 1,812 | 294 | 162 | 52 | 2 | 78 | 13 | 1,531 |
そして、労働局は、事業実績報告書等に記載されたアウトプット実績及びアウトカム実績について、算定の根拠となる個別事業の利用者名簿等の資料による確認を全く行っていなかったり、一部の実績についてのみ確認しているなど確認を十分に行っていなかったりなどしていた。
また、第三者委員会による中間評価報告書に基づく前記43事業の審査の結果、42事業については事業の継続要件を満たしているなどとされたことから、翌年度以降も事業は継続して実施されていた。そこで、上記の42事業について、前記の適正なアウトカム実績に基づいて事業の継続要件を満たしているかをみたところ、中間評価報告書に基づくアウトカム実績が、事業全体のアウトカム指標の5割を達成できていない事業が2事業、事業の初年度と2年度目の2年連続で9割を達成できていない事業が2事業見受けられ、これら4事業は事業の継続要件を満たしていなかったため、原則として事業を継続することができなかったと認められる(表3参照)。
労働局名 | 地域雇用創造推進事業名 | 受託者(協議会名) | 委託契約締結年度 | 事業実施年度 | 委託契約額 | 事業実施年度ごとの事業全体のアウトカム指標に対するアウトカム実績の達成率 | 事業の継続要件の適否の状況 注(2) |
左の結果、事業の継続要件を満たしておらず原則として継続することができなかった事業に係る委託契約額(事業実施年度) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | ||||||||
大阪労働局 | 空港周辺移転跡地(国有地)等の有効利用や企業立地促進条例等の推進をトリガーとした都市型産業振興と地域雇用創造 | 豊中市地域雇用創造協議会 | 平成 20 |
20 | 4,717,595 | 0.0% | 85.8% | 71.3% | アウトカム実績が事業全体のアウトカム指標に対して5割未満 | 122,700,681 (21、22両年度) |
||
21 | 61,336,049 | |||||||||||
22 | 61,364,632 | |||||||||||
徳島労働局 | 渦巻く市民力がつくるいきいき鳴門 —人と地域を未来へつなぐ なるとの雇用創出— | 鳴門市地域雇用創造協議会 | 21 | 21 | 注(1)0 | — 注(1) |
43.1% | 36.9% | 32,804,000 (23年度) |
|||
22 | 33,818,000 | |||||||||||
23 | 32,804,000 | |||||||||||
神奈川労働局 | 「かわさき基準」(通称KIS: Kawasaki Innovation Standard)の理念を活かす産業人材育成 | 川崎市地域雇用創造推進協議会 | 21 | 21 | 113,686,000 | 78.5% | 79.3% | 77.2% | アウトカム実績が事業全体のアウトカム指標に対して事業の初年度と2年度目の2年連続で9割未満 | 145,480,000 (23年度) |
||
22 | 145,454,000 | |||||||||||
23 | 145,480,000 | |||||||||||
高知労働局 | 成長可能性の高い分野で、高度人材を実践的に育成し、さらなる安定雇用を創造 | 高知市雇用創出促進協議会 | 22 | 22 | 32,732,000 | 76.1% | 63.0% | 46.4% | 52,987,000 (24年度) |
|||
23 | 55,251,000 | |||||||||||
24 | 52,987,000 |
上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
<事例1>
徳島労働局は、平成21年度に鳴門市地域雇用創造協議会と委託契約(22、23両年度の委託契約額計66,622,000円)を締結し、対象地域を鳴門市とする地域雇用創造推進事業「渦巻く市民力がつくるいきいき鳴門—人と地域を未来へつなぐ なるとの雇用創出—」を実施していた。そして、同協議会は、22年度分の中間評価報告書において、アウトカム実績は60人であり、事業構想で定めた22年度の事業全体のアウトカム指標65人に対する達成率は92.3%であったとして同局に報告し、同局は当該中間評価報告書を貴省に提出して翌年度の23年度も同事業は継続して実施されていた。
しかし、同局は、中間評価報告書等におけるアウトカム実績等が適切に算定されているかなどの確認を十分に行っておらず、アウトカム実績には、鳴門市外からの求職者等で就職先等が鳴門市外であった者や新規学卒者等のアウトカム実績には計上できないと認められるものが32人含まれていた。
そこで、上記の32人を除いて適正なアウトカム実績を算出すると28人となり、これに基づき事業全体のアウトカム指標に対するアウトカム実績の達成率を算出すると43.1%となり、5割未満となる。したがって、当該事業は事業の継続要件を満たさないこととなることから、翌年度の23年度は、原則として事業を実施することができなかったと認められる。
前記の個別事業990件について、個別事業の利用対象者の範囲の設定や募集の状況をみたところ、5労働局(注6)管内の8事業に係る個別事業148件(雇用拡大メニュー22件、人材育成メニュー111件及び就職促進メニュー15件。これらに係るパッケージ事業の委託契約額計4億6644万余円)は、募集案内等の利用対象者を「先着順」、「誰でも可能」等としていて、個別事業の利用対象者の範囲の設定や募集の方法が適切ではなく、上記の5労働局は、個別事業における利用対象者の範囲の設定等の状況について確認を十分に行っていなかった。
一方、前記の15労働局管内の43事業に係る人材育成メニュー及び就職促進メニューの個別事業729件のうち、アウトプット実績に占める地域求職者の人数と地域求職者以外の人数を確認できた個別事業722件について、実際の利用者の状況をみたところ、13労働局(注7)管内の23事業に係る個別事業149件(これらに係るパッケージ事業の委託契約額計16億3093万余円)において、人材育成メニュー等については原則として地域求職者を利用対象者とすることとされているのに、求職していない在職者等の地域求職者以外の人数が地域求職者の人数を上回っており、このうち9件においては地域求職者が1人もいない状況となっていた。そして、上記の13労働局は、人材育成メニュー等の個別事業における地域求職者の人数等の利用者の状況の確認を十分に行っていなかった。
上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。
<事例2>
高知労働局は、平成22年度に高知市雇用創出促進協議会と委託契約(22年度から24年度までの3か年の委託契約額計140,970,000円)を締結し、対象地域を高知市とする地域雇用創造推進事業「成長可能性の高い分野で、高度人材を実践的に育成し、さらなる安定雇用を創造」を実施していた。そして、同協議会は、23年度に、人材育成メニューとして「観光資源ブラッシュアップ実践講座」(利用定員20人、事業費1,741,867円)を実施し、アウトプット実績を18人として事業実績報告書等に記載し、同局に提出していた。
しかし、同講座の募集案内を確認したところ、同協議会は、同講座の利用対象者の範囲の設定や募集に当たり、利用対象者を「市内宿泊施設の職員向け」として旅館等から推薦を受けた職員に限定し、地域求職者を対象としていなかった。
その結果、上記の18人に地域求職者は1人もおらず、アウトカム実績も0人となっていた。
(改善を必要とする事態)
アウトプット実績及びアウトカム実績を協議会が適切に把握していない事態、個別事業の利用対象者の範囲の設定等が適切なものとなっていない事態、人材育成メニュー等の個別事業において地域求職者以外の人数が地域求職者の人数を上回っている事態、及び労働局がそれらの確認を十分に行っていないなどの事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
依然として雇用機会が不足している地域がある中で、雇用の創出に向けた意欲の高い地域の自主性等を重視しながら、パッケージ事業の実施により今後も地域の雇用の創出を効果的に促進していくことが重要である。
ついては、貴省において、今後、パッケージ事業の実施による効果に対する評価を適切に行い、地域における効果的な雇用の創出に資することとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。