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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 国土交通省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3)省エネ改修事業について、事業主体から提出させる証拠書類の範囲等の見直しを行ったり、審査や現地調査の体制を整備したりするよう是正改善の処置を求め、並びに関係会社等が行った改修工事において事業主体の利益相当分を排除するなどの仕組みや取得した財産等の処分制限等に関して必要な事項を交付規程等に具体的に明記等するよう改善の処置を要求し及び改修設備専用のエネルギー計測器の必要性について検討して交付規程等の見直しを行うよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)地球温暖化防止等対策費
部局等
国土交通本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
株式会社URリンケージ
間接補助事業者
(事業主体)
(1)25事業主体
(2)31事業主体
(3)18事業主体
(1)から(3)までの純計 67事業主体
補助事業
(1)住宅・建築物省エネ改修推進事業
(2)住宅・建築物省エネ改修等緊急推進事業
(3)住宅・建築物省エネ改修等推進事業
補助事業の概要
地球温暖化防止等の対策の一環として、既存の住宅や建築物の省エネルギー化を推進するために、民間事業者等が行う省エネルギー改修工事等に要する費用の一部を補助するもの
国庫補助対象事業費
36億0491万余円(平成24、25両年度)
上記に対する国庫補助金交付額
11億6932万余円
省エネ改修事業の経理等が適正でないなどしていた事業主体数及び過大となっているなどしていた国庫補助金相当額
11事業主体 8992万円(平成24、25両年度)
関係会社等に請け負わせた改修工事において利益の割合が高くなっているなどしていた事業主体数及び国庫補助金交付額(1)
4事業主体 7388万円(平成24年度)
取得した財産等の取扱いに対する理解が十分でないなどしていた事業主体数及び国庫補助金交付額(2)
41事業主体 6億2921万円(平成24、25両年度)
改修設備専用のエネルギー計測器が省エネルギー活動等に十分に活用されていない事業主体数及び国庫補助金相当額(3)
24事業主体 1211万円(平成24、25両年度)
(1)から(3)までの純計
47事業主体 6億8214万円(背景金額)(平成24、25両年度)

「架空の内容の請負契約書の写しなどの書類を添付して実績報告書等を提出するなどしていて補助の対象とならなかったり、実績報告書の工事費等よりも低額で実施していて工事費等を過大に精算したりしていたもの」参照

【是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

省エネ改修事業に係る経理等の適正化等について

(平成27年10月15日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求し及び意見を表示する。

1 事業の概要

(1)省エネ改修事業の概要

貴省は、地球温暖化防止等の対策の一環として、既存の住宅や建築物の省エネルギー化の推進を図ることを目的として、平成24年度は住宅・建築物省エネ改修推進事業及び住宅・建築物省エネ改修等緊急推進事業を、25年度は住宅・建築物省エネ改修等推進事業をそれぞれ実施している(以下、これらを合わせて「省エネ改修事業」という。)。省エネ改修事業は、サッシ、空調設備等を省エネルギー型の設備に取り替えるなどの省エネルギー改修工事等(以下「改修工事」という。)を行う建築主、請負業者等の民間事業者等(以下「事業主体」という。)に対して、改修工事に要する費用(以下「工事費」という。)の3分の1以内の額に、必要となる附帯事務費の額を加えた額を補助するなどのものである(以下、工事費に附帯事務費を加えた費用を「工事費等」という。)。

そして、省エネ改修事業は、国土交通大臣が公募により選定した者(以下「事務事業者」という。)を通じて行われ、事務事業者には株式会社URリンケージが選定されており、同会社は貴省から国庫補助金の交付を受けて、省エネ改修事業に係る事業主体からの実績報告書等の審査、国庫補助金の交付、現地調査等の事務を行っている。

(2)省エネ改修事業の実施

ア 省エネ改修事業に係る規定等

省エネ改修事業の実施に当たっては、住宅・建築物環境対策事業費補助金交付要綱(平成24年国住生第2号等)、国土交通大臣の承認を受けて事務事業者が定めた「住宅・建築物省CO2先導事業(建築物部門)及び住宅・建築物省エネ改修等推進事業補助金交付規程」(以下「交付規程」という。)、事務事業者が事務手続等の業務の実施に必要な事項として定めたマニュアル等(以下、交付規程とマニュアル等を合わせて「交付規程等」という。)に基づいて適正な経理処理により事業を実施することとなっている。

交付規程等によれば、事業主体は、工事費等の価格の妥当性等について第三者に合理的に説明できるように留意することとされていて、交付申請時には、見積書、請負契約書の写しなどを、実績報告時には、製品の出荷証明書の写しなどの改修工事の事実を証明する書類をそれぞれ提出することとされている。

また、事業主体は、改修工事を事業主体(個人)自らが代表取締役を務める会社、子会社等の関係会社(以下、これらの会社を「関係会社等」という。)に行わせることも可能となっている。

イ 省エネ改修事業で取得した財産等の取扱い

貴省住宅局所管の補助事業で取得した財産等の取扱いは、「住宅局所管補助事業等により取得した財産等の取扱いについて」(平成20年国住総第67号。以下「財産取扱通知」という。)等に定められている。財産取扱通知等によれば、取得した財産等の処分(補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、又は取り壊すことなどをいう。以下同じ。)に当たっては、国土交通大臣の承認及び処分の区分に応じた国庫納付等が必要とされている。また、処分しようとする財産等については、当該財産を取得後、国土交通大臣が定める期間(以下「処分制限期間」という。)を経過していれば、国土交通大臣の承認を受ける必要はないこととされている。

そして、事務事業者は、交付規程等により、省エネ改修事業で事業主体が取得した財産等についても財産取扱通知等の定めるところにより取り扱うことにしている。

ウ 省エネ改修事業後のエネルギー使用量の計測

省エネ改修事業は、交付規程等により、事業完了後のエネルギー使用量を計測して、継続的にエネルギー使用量を把握して管理する、エネルギー使用量のいわゆる「見える化」を図り、これに基づき空調設備の設定温度を調整するなどの省エネルギー活動に取り組むこととなっている。そして、事業完了後原則2年間は、エネルギー使用量の計測結果を、事務事業者に報告(年1回、計2回)することとなっている。

また、住宅以外の建築物で空調設備、LED照明設備等の設備に係る改修工事を行う事業主体は、建物全体のエネルギー使用量のほかに改修した設備のエネルギー使用量も計測して、それぞれ報告することとなっている。そして、改修した設備のエネルギー使用量は、電力会社等からの請求書等では把握できないことから、当該設備に係る改修工事を行った多くの事業主体は、省エネ改修事業において改修設備専用のエネルギー計測器(以下「専用計測器」という。)を導入し、使用量の報告を行っている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、省エネ改修事業について、経理等は適正か、工事費は割高なものとなっていないか、取得した財産等の取扱いは適切か、導入した専用計測器は活用されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、14都府県(注)管内において、67事業主体が、24、25両年度事業として実施した(事業主体数については、24、25両年度事業の重複を除外している。以下同じ。)計74件の省エネ改修事業(国庫補助対象事業費計36億0491万余円、国庫補助金計11億6932万余円)を対象に、実績報告書と証拠書類とを突合したり、現地を確認したりするとともに、貴省及び事務事業者において、実績報告書の審査の事務の状況等について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注)
14都府県  東京都、京都、大阪両府、栃木、神奈川、富山、石川、愛知、広島、山口、福岡、佐賀、熊本、宮崎各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)省エネ改修事業に係る経理等が適正でないなどの事態

11事業主体が実施した計13件の省エネ改修事業(国庫補助対象事業費計4億2381万余円、国庫補助金計1億4172万余円)において、実績報告書の工事費等よりも低額で改修工事を実施するなどしており、国庫補助金相当額計8992万余円が過大に精算されるなどしていた。

しかし、前記のとおり、事務事業者は、実績報告書等の審査に当たり、製品の出荷証明書の写しなどの改修工事の事実を証明する書類は提出させることとしていたものの、領収書の写しなどの支払総額を証明する書類を提出させることとしておらず、工事費等について十分な審査を実施していなかった。また、実際に領収書の写しなどのとおりに支払われているかを確認するためには、必要に応じて現地に赴いて、帳簿等の関係書類を確認することも必要になるが、事務事業者が省エネ改修事業の一部を抽出して実施している現地調査では、改修工事の内容の確認等は行っているものの、支払総額を証明する書類等の原本や帳簿等の関係書類について審査を行うこととはしていなかった。このようなことから、事務事業者は、上記の事態を把握できていなかった。

(2)関係会社等に請け負わせた改修工事において利益の割合が高くなっているなどの事態

9事業主体が実施した計10件の省エネ改修事業は、関係会社等と改修工事に係る請負契約を締結しており、このうち、4事業主体の4件において(1)の事態が見受けられたほか、残りの5事業主体のうち4事業主体の4件(国庫補助対象事業費計2億2326万余円、国庫補助金計7388万余円)において次のような事態が見受けられた。

すなわち、工事原価を確認することができた2事業主体の2件の改修工事の利益(売上高-工事原価)の割合(利益/売上高)をみると、それぞれ53.3%、71.6%となっていて、関係会社等以外の者に改修工事を請け負わせた場合と比べて利益の割合が高くなっていた。また、残りの2事業主体の工事費の内訳をみると、2事業主体の2件の空調設備、LED照明設備等の設備の単価が市場価格より割高と考えられるカタログ等の定価のまま計上されていた。

関係会社等に改修工事を請け負わせる場合には、関係会社等が多額の利益を見込んだり、市場価格より割高な費用を計上したりすることなどにより、事業主体が工事費を増加させてより多くの国庫補助金を受領することが可能となる。その結果、実質的に事業主体の自己負担額が減少して、関係会社等以外の者に改修工事を請け負わせる場合と比べて公平性を欠くこととなることが想定される。現に、貴省を含め各省が実施する他の補助事業の中には、補助対象事業の実績額の中に事業主体の利益相当分が含まれることは補助金交付の目的上ふさわしくないとの考えに基づき、利益相当分を排除する仕組みが定められているものもある。

しかし、省エネ改修事業においては、交付規程等において、関係会社等に改修工事を行わせる場合に事業主体の利益相当分を排除する仕組みが定められておらず、また、改修工事を請け負った関係会社等に対して工事原価等の情報を提供させるなどの仕組みも定められていなかったため、工事費等の価格の妥当性等について第三者が合理的に検証できない状況となっていた。

<事例1>

A社は、平成24年度に、省エネ改修事業として、本社ビルの断熱サッシ入替えなどの改修工事を、工事費4725万円で関係会社等に請け負わせていた。

しかし、本件改修工事の工事原価は、契約額の半額以下の2208万余円に過ぎず、関係会社等における本件改修工事の利益の割合は53.3%に上っていた。そして、A社は、関係会社等の利益を多く含んだ国庫補助対象事業費4533万円で補助金の交付を申請し、1533万円の国庫補助金を受領していた。

(3)取得した財産等の取扱いに対する理解が十分でないなどの事態

41事業主体が実施した計44件の省エネ改修事業(国庫補助対象事業費計19億4500万余円、国庫補助金計6億2921万余円)において、取得した財産等の取扱いに対する理解が十分でないなどの事態が見受けられた。

すなわち、事務事業者は、省エネ改修事業において、①取得した財産等を処分するためには国土交通大臣の承認が必要であること、②処分した場合は国庫納付等の条件が付されること及び③取得した財産等の処分制限期間が記載された財産取扱通知等の定めるところにより取り扱うことを交付規程等で定めているとしている。

しかし、交付規程等には、上記の内容について、その他関連通知等に定めるところにより行わなければならないと記載されているだけで、財産取扱通知等の名称等が具体的に明記されていなかった。

このため、前記の会計実地検査を行った67事業主体のうち、財産取扱通知等の内容を承知しているか確認できた48事業主体において、取得した財産等の取扱いに関する重要な事項である前記の内容を全て承知していたのは、7事業主体(14.6%)に過ぎず、残りの41事業主体においては省エネ改修事業で取得した財産等の取扱いに対する理解が十分でない状況となっていた。現に、1事業主体においては、改修工事を行った集合住宅2棟が国土交通大臣の承認を受けずに第三者に譲渡されていて、補助金の交付の目的である省エネルギー化の推進に寄与しているか確認できない状況となっていた。

(4)専用計測器が省エネルギー活動等に十分に活用されていない事態

24事業主体が実施した計25件の省エネ改修事業(専用計測器等に係る国庫補助対象事業費計3656万余円、国庫補助金相当額計1211万円)において、専用計測器が十分に活用されていない事態が見受けられた。

すなわち、前記のとおり、事業主体は、エネルギー使用量のいわゆる「見える化」を図るなどして省エネルギー活動に取り組むこととなっている。しかし、前記の会計実地検査を行った67事業主体のうち、専用計測器を導入し、かつ、その活用状況を確認できた33事業主体の34件についてみると、24事業主体の25件の専用計測器は、事務事業者へのエネルギー使用量の報告に活用されるだけで、省エネルギー活動等に十分に活用されていない状況となっていた。そして、上記の24事業主体に対してその理由を確認したところ、その多くは、省エネルギー活動等については改修設備ごとではなく、建物全体で取り組んでいるため、電力会社等からの請求書等でエネルギー使用量を把握できれば十分であるとのことであった。

<事例2>

B法人は、平成24年度に、省エネ改修事業として自らが経営する介護老人保健施設の空調設備の改修工事を行った際、併せて専用計測器等(国庫補助対象事業費210万円、国庫補助金相当額70万円)も導入していた。

しかし、B法人は、計測データの取得、保存等を行う既設のパソコンを更新した際、更新したパソコンにその機能等を移行しなかったため、改修設備のエネルギー使用量を2年以上にわたって把握しておらず、専用計測器を省エネルギー活動等に活用していない状況となっていた。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

省エネ改修事業に係る経理等が適正でないなどの事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、関係会社等に請け負わせた改修工事において利益の割合が高くなっているなどの事態及び取得した財産等の取扱いに対する理解が十分でないなどの事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。さらに、専用計測器が省エネルギー活動等に十分に活用されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体において省エネ改修事業の適切な実施及び適正な経理に対する認識が著しく欠けていることにもよるが、貴省において事務事業者に対して次のことについて指導監督を十分に行っていないことなどによると認められる。

  • ア 支払が適正に行われたことなどを確実に確認するなど、省エネ改修事業の適正な経理等を確保するなどのために必要な審査体制等を整備していないこと
  • イ 事業主体の関係会社等が改修工事を行った場合、改修工事の工事原価等を把握するための仕組みや、価格の妥当性等を確保するために事業主体の利益相当分を排除するなどの仕組みを交付規程等に定めていないこと
  • ウ 取得した財産等の取扱いに関する定めを交付規程等に具体的に明記していないこと
  • エ 専用計測器が省エネルギー活動等に十分に活用されていない状況を踏まえ、その必要性について検討していないこと

3 本院が求める是正改善の処置並びに要求する改善の処置及び表示する意見

貴省は、今後も引き続き、既存の建築物の省エネルギー改修を促進するなどのために、民間事業者等の支援を推進していくことが見込まれる。

ついては、貴省において、省エネ改修事業に係る経理等の適正化及び事業の適切な実施を図るよう、次のとおり是正改善の処置を求め、並びに改善の処置を要求し及び意見を表示する。

  • ア 事務事業者に対して、支払が適正に行われたことなどを確実に確認できるよう、事業主体から提出させる証拠書類の範囲及び審査方法の見直しを行わせるとともに、交付規程等に必要な事項を定めるなどして審査や現地調査の体制を整備させること(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 事務事業者に対して、事業主体の関係会社等が行った改修工事の工事原価等を把握するための仕組みや、価格の妥当性等を確保するために事業主体の利益相当分を排除するなどの仕組みを交付規程等に定めさせること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)
  • ウ 事務事業者に対して、取得した財産等の処分制限等に関して必要な事項を交付規程等に具体的に明記して事業主体に周知させること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)
  • エ 事務事業者に対して、専用計測器の必要性について検討させて、必要に応じて交付規程等の見直しを行わせること(同法第36条による意見を表示するもの)