独立行政法人理化学研究所(平成27年4月1日以降は国立研究開発法人理化学研究所。以下「理研」という。)は、独立行政法人理化学研究所法(平成14年法律第160号。27年4月1日以降は国立研究開発法人理化学研究所法)に基づき、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)に関する試験及び研究(以下、これらを合わせて「研究」という。)を実施している。
理研は、21年に発生した主任研究員による背任事件に関する調査報告書(22年7月)に基づき、会計規程(平成15年規程第62号)等を改正するなどして、研究を行うための物品の調達に当たっては、契約担当部署が発注書等により発注することとし、契約担当部署に所属する納品確認センターが、仕様が記載された発注書等と現物を照合し、品名、数量等の確認を行うこととするなどしている。
そして、理研は、遺伝子解析等に関する研究を行うためのDNA合成製品の調達において、会計規程等に沿っておおむね次の手順で行っている。
① 研究員等は、物品購入要求伝票を起票してDNA合成製品の販売代理店の見積書とともに所属長の承認後に契約担当部署に回付する。
② 物品購入要求伝票を受領した契約担当部署は、環状の有機化合物であるアデニン、グアニン等の塩基の並ぶ順序(以下「塩基配列」という。)等の仕様を記載した発注書等を販売代理店に送付して、契約を締結する。
③ 研究員等が製造メーカーから直送されたDNA合成製品を納品確認センターに持参するなどして、同センターが品名、数量等を確認するとともに研究員等が仕様を満たしているかなどを確認して、検査員である研究室長等は検査結果を契約担当部署に報告する。
④ 検査結果の報告を受けた契約担当部署は契約支払伝票を起票して納品書等とともに経理担当部署に回付して、経理担当部署は販売代理店に代金を支払う。
また、理研は、会計規程等において、DNA合成製品の調達に当たっては、代金の前払を認めていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、DNA合成製品の調達手続は会計規程等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、21年度から26年度までの間のDNA合成製品の調達に係る契約28,725件(契約金額計8億3730万余円(注))を対象として、本部(25年3月31日以前は本所)及び和光、筑波、大阪、神戸第一、播磨各研究拠点の事業所(25年3月31日以前は研究所)等において、物品購入要求伝票等の関係書類を確認するとともに、横浜研究拠点の事業所の契約については、関係書類を本部において確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
本部及び和光、筑波、横浜、神戸第一各研究拠点の事業所において、23年7月から27年3月までの間に締結したDNA合成製品の調達に係る契約3,892件(契約金額計3億8259万余円)について、研究の進捗に応じて異なる塩基配列を指定してDNA合成製品を調達する必要があり、納入が遅れた場合は研究に支障が生ずることになるとして、研究員等が、発注権限を有していないのに、DNA合成製品の製造メーカーのホームページ上で直接発注していた。このうち、本部及び上記の各研究拠点の事業所の契約1,691件(契約金額計1億8749万余円)については、DNA合成製品が納入された後に、研究員等が、複数の発注を取りまとめて一括して調達したこととする物品購入要求伝票を起票して回付し、回付を受けた契約担当部署が契約を締結するなどした後、経理担当部署が代金を支払っていた。残りの契約2,201件(契約金額計1億9509万余円)については、発注権限を有していない研究員等が製造メーカーのホームページ上で直接発注した都度、物品購入要求伝票を起票するなどしていた。
また、DNA合成製品については、納入の都度、納品確認センターが、仕様が記載された発注書等と現物を照合して、品名、数量等の確認を行うこととなっている。
しかし、前記3,892件のうち、DNA合成製品の納入後に契約を締結していたものなどについて、納品確認センターは、DNA合成製品の納入時に、発注書等が作成されていないことなどから現物に添付された送り状等と現物を照合したのみで、発注書等と現物との照合を行っていなかった。
横浜研究拠点の事業所において、21年12月から26年7月までの間に締結したDNA合成製品の調達に係る契約18件(契約金額計210万余円)について、研究員等が、氏名等を製造メーカーに登録して、DNA合成製品の調達に用いるポイントを保有するための口座を開設し、DNA合成製品の購入代金を販売代理店を通して製造メーカーに前払して、その口座にDNA合成製品の調達に応じたポイントを保有しておき、研究員等が研究の進捗に応じて必要なDNA合成製品を製造メーカーに連絡するとDNA合成製品が納入されて口座から納入に応じたポイントが引き落とされる方式(以下「プリペイド方式」という。)を利用していた。そして、研究員等は、プリペイド方式のポイントを購入するために物品購入要求伝票を起票して契約担当部署に回付していた。
しかし、契約担当部署は、当該プリペイド方式のポイント購入がDNA合成製品の購入においては認められていない前払となるものであるのに、これをそのまま承認し、契約を締結していた。
また、納品確認センターは、発注書等と現物を照合して、品名、数量等を確認することとなっているのに、現物を確認しないまま、プリペイド方式のポイントの購入に係る納品書をもって納品を確認したこととしていた。
このように、発注権限を有しない研究員等が直接発注するなどしていたり、会計規程等で認められていない前払により調達していたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、理研は、27年9月に、研究員等及び契約担当部署に対して会計規程等の趣旨及びその遵守を周知して、研究の進捗に応じて塩基配列を指定する必要があるDNA合成製品の調達について、会計規程等に沿った上で納入が遅れないようにする手順を新たに定めて、発注権限を有しない研究員等が直接発注したり、契約担当部署が契約を締結する前にDNA合成製品が納入されたりすることがないような仕組みを構築するとともに、納品確認センターに対して納品確認の重要性を周知して、マニュアルの見直しを行うなどして、現物の確認や発注書等と現物との照合を確実に行うようにするなどの処置を講じた。