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  • 平成26年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

第1 医療費の適正化に向けた取組の実施状況について


検査対象
厚生労働省
医療費の適正化に向けた取組の概要
(1) 医療費の適正化を総合的かつ計画的に推進するための医療費適正化計画の策定、各種施策の実施及び評価
(2) 診療報酬等の請求に対する審査及び点検
(3) 医療機関等に対する指導及び監査
国民医療費
39兆2117億円(平成24年度)
上記のうち国庫負担分
10兆1138億円

1 検査の背景

(1) 国民医療費の動向等

厚生労働省が毎年度公表している国民医療費(注1)は、平成21年度に35兆円を超え、それ以降も毎年度増加しており、24年度には39兆2117億円となっていて、国民所得に占める国民医療費の割合も毎年度上昇している。そして、今後の我が国の一層の高齢化の進行等に伴い国民医療費はますます増大し、これに伴い国庫負担もますます増大することが予想されている。

(注1)
国民医療費  当該年度内の医療機関等における保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を推計したもので、医科診療及び歯科診療に係る診療費のほか、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費等が含まれる。

(2) 医療費の適正化に向けた各種の取組

このような状況を踏まえて、厚生労働省は、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。以下「高齢者医療確保法」という。)に基づき、医療に要する費用の適正化(以下「医療費適正化」という。)を図るための計画を作成するなどして、医療費適正化を推進することとしている。

すなわち、厚生労働省は、高齢者医療確保法第8条の規定に基づき、医療費適正化に関する施策についての基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めるとともに、5年ごとに、5年を1期として、医療費適正化を推進するための計画(以下「全国医療費適正化計画」という。)を定めることとなっている。また、都道府県は、高齢者医療確保法第9条の規定に基づき、基本方針に即して、5年ごとに、5年を1期として、医療費適正化を推進するための計画(以下、全国医療費適正化計画と合わせて「医療費適正化計画」という。)を定めることとなっている。

また、従来、医療保険制度(後期高齢者医療制度を含む。)の下における診療報酬又は調剤報酬(以下「診療報酬等」という。)の支払は、社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)及び各都道府県単位で設立されている国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」といい、支払基金と国保連合会を合わせて「審査支払機関」という。)を通じて行われることとなっている。そして、診療報酬等の支払の適正化を図るために、医療機関又は薬局(以下「医療機関等」という。)から提出される診療報酬明細書及び調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)については、審査支払機関がその内容等の審査(以下「レセプト1次審査」という。)を行っているほか、健康保険法(大正11年法律第70号)等に規定される保険者等(後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)を含む。以下同じ。)が、診療報酬等を支払った後にレセプトの内容等の点検(以下「レセプト2次点検」という。)を行っている。そして、厚生労働省は、審査支払機関及び保険者等に対して、レセプト1次審査及びレセプト2次点検について指導等を行っている。

さらに、厚生労働省は、従来、保険診療の質的向上及び適正化を図るために、医療機関等に対する指導及び監査を実施しており、不正又は不当な診療報酬等の請求があった場合には、当該診療報酬等を返還させることとしている。

(3) 基本方針及び医療費適正化計画の評価等

厚生労働省は、20年3月に基本方針(平成20年3月31日厚生労働省告示第149号。以下「第1期基本方針」という。)を定めるとともに、20年9月に第1期全国医療費適正化計画(20年度から24年度まで)を定めている。そして、同省は、24年9月に基本方針を改正(平成24年9月28日厚生労働省告示第524号。以下、改正後の基本方針を「第2期基本方針」という。)するとともに、26年3月に第2期全国医療費適正化計画(25年度から29年度まで)を定めている。そして、同省は、高齢者医療確保法第16条の規定に基づき、医療費適正化計画の作成、実施及び評価に資するため、医療に要する費用に関する地域別等の事項について調査及び分析を行い、その結果を公表することとなっている。また、同省及び都道府県は、高齢者医療確保法第12条の規定に基づき、医療費適正化計画の期間の終了の日の属する年度の翌年度において、当該計画の実績に関する評価を行うとともに、その結果を公表することとなっている。さらに、同省及び都道府県は、この実績に関する評価を行うに当たっては、高齢者の医療の確保に関する法律施行規則(平成19年厚生労働省令第129号)第3条及び第4条の規定に基づき、当該施策に要した費用に対する効果についても調査及び分析を行い、その結果を公表することとなっている。

厚生労働省は、各保険者が被保険者(被扶養者を含む。以下同じ。)のうち40歳から74歳までの者(以下「受診対象被保険者」という。)に対して実施する特定健康診査(以下「特定健診」という。)及び特定保健指導(以下、特定健診と特定保健指導を合わせて「特定健診等」という。)の円滑な実施を支援することにより生活習慣病の予防を推進し、もって国民の高齢期における医療費の適正化を図るために、全国健康保険協会特定健康診査・保健指導補助金等の国庫補助金を全国健康保険協会等の保険者に交付している。その交付額は、第1期医療費適正化計画期間中(20年度から24年度まで)の5か年度の計で823億余円、第2期医療費適正化計画期間中の25、26両年度で433億余円(見込み)、合計で1257億余円(見込み)となっている。

(4) レセプト情報・特定健診等情報データベースシステム(NDBシステム)の概要

ア NDBシステムの構築と運用

厚生労働省保険局長が開催する「医療サービスの質の向上等のためのレセプト情報等の活用に関する検討会」が20年2月7日に公表した報告書(以下「検討会報告書」という。)によれば、全ての特定健診等の内容等に関する電子情報(以下「特定健診等データ」という。)及び全ての診療等に関するレセプトの内容等に関する電子情報(以下「レセプトデータ」という。)を全ての保険者等(特定健診等データについては広域連合を除く。以下同じ。)から収集して把握し、追跡調査を行うこととすれば、抽出調査に基づく推計とは異なる正確な調査及び分析を行うことができるとの同検討会における議論等を踏まえ、生活習慣病予防対策として実施されている特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果等についてより適切な分析を行うとともに、我が国全体の施策の在り方を検討する上では、高齢者医療確保法第16条の規定に基づき調査及び分析を行うための情報として、全ての特定健診等データ及び全てのレセプトデータを収集し、分析を行う必要があるとされている。そこで、厚生労働省は、このような検討会報告書における構想を踏まえ、我が国の全ての特定健診等データ及び全てのレセプトデータを収集・保存し、その詳細な分析等を行うことを目的として、レセプト情報・特定健診等情報データベースシステム(以下「NDBシステム」という。)を構築し、21年4月からその運用を開始している。

厚生労働省は、NDBシステムの運用に当たり、保険者、健康保険組合連合会及び審査支払機関に対して、被保険者(特定健診等については受診対象被保険者。以下同じ。)の氏名、生年月日、被保険者証等記号等(以下「被保険者の個人情報」という。)を匿名化する処理(以下「匿名化処理」という。)を行うために匿名化・提供システムを提供している。匿名化処理は、被保険者の個人情報を疑似乱数化された別の文字列(以下「ハッシュ値」という。)に置き換えるものである。そして、保険者、健康保険組合連合会及び審査支払機関は、全国の特定健診等の実施機関(以下「健診等実施機関」という。)又は医療機関等から送付された特定健診等データ及びレセプトデータについて、匿名化処理により生成されたハッシュ値(ハッシュ値を生成した後、元の被保険者の個人情報を削除したもの。以下同じ。)をNDBシステムに送付している。

イ NDBシステムの構築、運用等に係る経費等

27年2月末現在、NDBシステムには、全国の健診等実施機関から収集した特定健診等データ(20年度から24年度までの間に実施された特定健診等に係るもの)約1億2000万件及び保険者等から収集したレセプトデータ(21年4月から26年10月までの間に実施された診療等に係るもの)約87億8900万件が保存されている。

また、NDBシステムの構築、運用等に係る経費は、20年度から26年度までの合計で27億9734万余円となっている。

(5) レセプト1次審査及びレセプト2次点検の概要

保険者等は、健康保険法第76条第5項等の規定に基づき、診療報酬等の請求に対するレセプト1次審査及び支払の事務を審査支払機関に対して委託することができることとなっている。レセプト1次審査は、当月分の診療報酬等の請求について審査を行うもので、その請求の適否等を確認するために過去の診療報酬等の請求内容を確認することはできるものの、過去の請求分の適否等についてまで審査を行うことはできないことになっている。これに対して、保険者等が行うレセプト2次点検は、医療機関等に対する診療報酬等の支払の終了後に、ある程度の時間をかけて当該支払の適否等についての見直しを行うもので、過去の診療報酬等の請求分についても遡って点検を行い、疑義がある場合には、審査支払機関に対して再度の審査(以下「再審査」という。)等を請求することができることになっている。

厚生労働省は、国保連合会に対して、レセプト1次審査に係る経費の一部について国民健康保険団体連合会等補助金を交付しており、21年度から25年度までの各年度の交付額については、7億円から12億円までとなっている。

なお、厚生労働省は、保険者等のうち、全国健康保険協会、市町村(特別区を含む。以下同じ。)、国民健康保険組合及び広域連合(以下「助成対象保険者等」という。)に対して、助成対象保険者等が支払う診療報酬等の額の一部について、全国健康保険協会保険給付費等補助金等の国庫補助金を交付しており、これらの国庫補助金の21年度から25年度までの各年度の交付額については、5兆2764億円から6兆1133億円までとなっている。

(6) 医療機関等に対する指導及び監査

厚生労働省は、健康保険法第73条等の規定に基づき、保険診療の質的向上及び適正化を図ることなどを目的として、医療機関等に対する指導及び監査を都道府県知事と共同で実施している。

医療機関等に対する指導は、「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年12月22日保発第117号厚生省保険局長通知)の別添1「指導大綱」(以下「指導大綱」という。)に基づき実施することとなっている。そして、指導大綱によれば、医療機関等に対する指導は、医療機関等に診療報酬等の請求等に関する事項を周知徹底させることを主眼として、懇切丁寧に行うとされており、また、指導に当たっては、医師会、歯科医師会、薬剤師会等に協力を求め、円滑な実施に努めることとされている。さらに、指導大綱によれば、地方厚生(支)局長は、必要があると認めたときは、都道府県医師会、同歯科医師会又は同薬剤師会に対して立会いの依頼を行うなどとされている。

指導大綱によれば、指導の形態としては、「集団指導」、「集団的個別指導」及び「個別指導」がある。このうち「集団的個別指導」は、レセプト1件当たりの平均点数が高いもののうち一定の基準を超えるもの(以下「高点数」という。)について上位から順に、毎年度、管内の医療機関等の総数のおおむね8%を指導対象として選定して行うもので、原則として、少数のレセプトに基づき、個々の医療機関等と簡便な面接懇談方式等により実施することとされている。また、「個別指導」は、①医療機関等のうち、審査支払機関、保険者、被保険者等から診療内容又は診療報酬の請求に関する情報の提供があり「個別指導」が必要と認められた医療機関等(以下「情報提供医療機関」という。)、②「個別指導」が行われた後、再度指導を行い改善状況を判断する必要がある「再指導」の措置が執られたなどの医療機関等(以下「再指導医療機関」という。)、③「集団的個別指導」の結果、指導対象となった大部分のレセプトについて適正を欠くものが認められた医療機関等、④「集団的個別指導」を受けた医療機関等のうち、翌年度においてもなお高点数の医療機関等であるもの(以下「高点数個別医療機関」という。)などについて、管内の医療機関等の総数のおおむね4%を指導対象として選定して行うものである。そして、原則として、指導を行う月以前の連続した2か月分のレセプトに基づき、関係書類を閲覧し、個々の医療機関等との面接懇談方式により実施することとされている。

これに対して、医療機関等に対する監査は、前記の保険局長通知の別添2「監査要綱」(以下「監査要綱」という。)に基づき実施することとなっている。そして、監査要綱によれば、医療機関等に対する監査は、医療機関等の診療内容又は診療報酬の請求に不正又は著しい不当が疑われる場合等において、的確に事実関係を把握し、公正かつ適切な措置を執ることを主眼として行うこととされている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

前記のとおり、我が国の国民医療費は毎年度増加しており、これに伴い国庫負担もますます増大することが予想されている。

そして、本院は、病床転換助成事業の実施が極めて低調となっているため、病床転換支援金の大部分が支払基金における剰余金となっているなどしている事態について、26年10月に厚生労働大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により、その見直しなどを行うよう意見を表示するとともに、会計検査院法第34条の規定により、支払基金における病床転換支援金の経理について、国庫補助金相当額の返還を含む見直しを行うよう支払基金を指導するなどの是正改善の処置を求めている。また、昭和61年度以降、診療報酬等の支払が適正に行われているかについて検査した結果を毎年度の検査報告に不当事項(医療費に係る国の負担が不当と認められるもの)として掲記するとともに、その発生原因として、審査支払機関等において、医療機関等の不適正な診療報酬等の請求に対する審査・点検が十分でなかったこと、地方厚生(支)局等において、医療機関等に対する指導が十分でなかったことなどを挙げている。さらに、国民健康保険等における海外療養費の支給について、平成26年10月に厚生労働大臣に対して、制度の適正かつ公平な運用を図る必要があるとして、その支給に当たっては適切な審査等が行われるよう改善の処置を要求している。

そこで、これらの検査結果等も踏まえて、厚生労働省における前記の医療費の適正化に向けた取組の実施状況について、合規性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して検査した。

ア 医療費適正化計画における医療費適正化のための各種の施策は着実に実施されており、また、その実績に関する評価は適切に行われているか、特に、生活習慣病予防対策として実施されている特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について評価することを一つの重要な目的として構築されたNDBシステムは、所期の目的どおり運用されているか、特に、第2期医療費適正化計画の実績に関する評価において、特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、NDBシステムに収集・保存されているデータの突合・分析等により得られる詳細な分析データに基づき適切な評価を行うことができる運用状況となっているか

イ 審査支払機関及び助成対象保険者等におけるレセプト1次審査及びレセプト2次点検は、効率的かつ効果的に行われているか

ウ 医療機関等に対する指導及び監査は、指導大綱、監査要綱等に即して適切に実施されているか

(2) 検査の対象及び方法

厚生労働本省、8厚生(支)局の管轄区域内に所在する4厚生局本局及び20事務所(以下、厚生局本局と事務所を合わせて「事務所等」という。)、22都県及び管内の155市区町(155保険者)、22広域連合及び22国保連合会、2国民健康保険組合、全国健康保険協会本部及び同協会の22支部、2健康保険組合並びに支払基金本部において、関係書類の提出を受けるとともに、関係者から説明等を徴取するなどして会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 医療費適正化計画の実施状況等

第1期基本方針及び第2期基本方針では、医療費の急増を抑えていくための重要な政策として、生活習慣病予防対策及び入院期間の短縮対策が掲げられている。そして、入院期間の短縮対策については、療養病床の再編成の取組が掲げられており、医療の必要性の低い高齢者が入院している病床を介護保険施設等に転換して療養病床を削減する病床転換助成事業を中心に実施することとなっていた。そして、第2期基本方針では、「療養病床の機械的削減は行わない」とされ、療養病床の再編成は、都道府県医療費適正化計画に定めることが必要な取組としては掲げられないこととなったが、病床転換助成事業については、第2期医療費適正化計画中においても引き続き実施されている。

そこで、これらの施策の実施状況等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

ア 生活習慣病予防対策としての特定健診等の実施状況

第1期医療費適正化計画の期間中における特定健診の実施状況については、保険者全体における実施率が24年度の平均で46.2%となっていて、目標の70%を相当下回っており、また、特定保健指導の実施状況については、保険者全体における実施率が24年度の平均で16.4%となっていて、目標の45%を相当下回っていた。

イ 入院期間の短縮対策としての病床転換助成事業の実施状況等

第1期医療費適正化計画に療養病床の再編成のための取組として掲げられていた病床転換助成事業の実施状況についてみると、実際に病床転換が行われた療養病床数(以下「転換病床数」という。)は当該期間中の5か年度で計3,887床となっていて、病床転換の実施率は、当該期間中の転換見込病床数25,500床の15.2%にとどまっていた。また、第2期医療費適正化計画期間中における全国の転換病床数は、25年度では計279床、26年度では計171床にとどまっていて、同事業は全国的にほとんど実施されていない状況となっていた。

ウ 厚生労働省における第1期医療費適正化計画の実績に関する評価

厚生労働省は、第1期医療費適正化計画の実績に関する評価の目的として、全国医療費適正化計画は、定期的にその達成状況を点検し、その結果に基づき必要な対策を実施するいわゆるPDCAサイクルに基づき管理を行うこととしているものであるなどとした上で、26年10月の第1期医療費適正化計画の実績に関する評価において、次のような評価等を行っていた。

すなわち、生活習慣病予防対策については、「住民の健康の保持の推進」に関する目標・施策の進捗状況等として、特定健診及び特定保健指導の実施率に関する数値目標についての調査及び分析を行っており、特定健診及び特定保健指導の実施率は、いずれも目標値には達していないものの、着実に上昇しているなどとしていた。

一方、入院期間の短縮対策については、平均在院日数の短縮に関する目標等に関する評価を行っており、厚生労働省が第1期全国医療費適正化計画で定めた目標値(24年度時点で全国平均29.8日)はおおむね達成されていて、実績値は29.7日であるなどとしていた。もっとも、同省は、当該平均在院日数の短縮の背景については、医療機関の機能分化、連携や在宅医療・地域ケアの推進が一定程度関係していると考えられるとしつつも、必ずしも明確でないとしていた。そして、入院期間の短縮のための療養病床の再編成の施策として実施された病床転換助成事業については、実態調査を行った結果、療養病床の介護保険施設等への転換が進んでいないことから、療養病床の機械的削減は行わないこととしたなどとしていて、同事業が入院期間の短縮又は医療費適正化に及ぼした効果等に関する評価を行っていなかった。

また、厚生労働省は、第1期医療費適正化計画期間の最終年度である24年度の47都道府県における医療費の総額は39.5兆円と見込まれていたが、様々な医療費適正化の取組が行われた場合には38.6兆円となり、同年度の医療費適正化効果は0.9兆円になるとしており、さらに、実際の24年度の47都道府県における医療費の総額は38.4兆円となっているので、様々な医療費適正化の取組が行われた場合の同見込額よりも更に0.2兆円下回る結果になったとしていた。しかし、これらの効果額がどのような医療費適正化の取組ないし施策によるものであるのかという要因分析及びどのように算出されたものであるのかという算出過程等については、明示されていなかった。

(2) NDBシステムの運用状況と生活習慣病予防対策の効果分析

ア NDBシステムにおける収集・保存データの不突合の状況

NDBシステムの運用における特定健診等データとレセプトデータの突合状況について、23、24両年度における各保険者の特定健診データ(特定健診等データから特定保健指導に関するデータを除いたもの。以下同じ。)のレセプトデータとの突合率により確認したところ、次のとおり、多数の保険者について、特定健診データをレセプトデータと突合できない状況となっていた。すなわち、23年度では全3,420保険者のうち1,943保険者(56.8%)、24年度では全3,403保険者のうち1,667保険者(49.0%)について、両データを突合することが全くできない状況となっていた。特に、これらの保険者のうち、全国健康保険協会については、23、24両年度ともに、両データを突合することが全くできない状況となっており、また、健康保険組合についても、23、24両年度ともに、ほぼ全ての保険者について、すなわち、23年度では全1,429保険者のうち計1,418保険者(99.2%)、24年度では全1,412保険者のうち計1,403保険者(99.4%)について、両データを突合することが全くできない状況となっていた。

イ NDBシステムにおける収集・保存データの不突合の重要な要因と厚生労働省の対応

(ア) 特定健診等データ及びレセプトデータの入力形式等

a 健診等実施機関及び医療機関等における入力形式等

厚生労働省は、特定健診等データについては「特定健診の電子的なデータ標準様式特定健診情報ファイル仕様説明書」(以下「仕様説明書」という。)において被保険者の個人情報を入力する際の入力文字の種類・形式(英数、漢字の別及び全角・半角文字の別)や数字等の入力方法(以下、これらを合わせて「入力形式等」という。)を定めているが、一方で、レセプトデータについては、従来、「オンライン又は光ディスク等による請求に係る記録条件仕様」等(以下「記録条件仕様等」という。)において被保険者の個人情報等の入力形式等を定めている。そして、健診等実施機関及び医療機関等は、それぞれこれらの記載に基づいて特定健診等データ及びレセプトデータの入力を行っている。

そこで、仕様説明書及び記録条件仕様等における特定健診等データ及びレセプトデータのそれぞれの被保険者の個人情報の入力形式等について確認したところ、例えば、「被保険者証等記号」、「被保険者証等番号」等については、両者の入力形式等に関する指示内容は異なるものとなっており、しかも、レセプトデータについては、「半角英数文字又は全角文字(漢字・カナ・数字等を含む。)」となっているなど、指示内容が選択可能なものとなっていた。このため、それぞれ仕様説明書及び記録条件仕様等の指示内容に従ってデータ入力が行われた場合、同一の被保険者の個人情報であるのに、特定健診等データとレセプトデータでは被保険者の個人情報の入力形式等が異なるものとなっていて、それぞれ異なるハッシュ値が生成される場合があることが判明した。

b レセプト電算処理システム等における置換処理

レセプトデータについては、従来、医療機関等から審査支払機関に送付された後、審査支払機関のレセプト電算処理システムにおいて、例えば、半角英数文字又は全角文字で入力された「被保険者証等記号」については全て全角文字に置き換えるなどの処理(以下「置換処理」という。)が行われていた。一方、特定健診等データについては、健診等実施機関から保険者又は国保連合会に提供された後、一部の保険者、健康保険組合連合会又は国保連合会の特定健診等データに関する電算処理システムにおいて、例えば、半角英数文字又は全角文字で入力された「被保険者証等記号」については全て半角英数文字に置き換えるなど、被保険者の個人情報の入力形式等について、レセプト電算処理システムとは異なる置換処理が行われていた。

このため、特定健診等データとレセプトデータとで被保険者の個人情報の入力形式等が同じ場合であっても、それぞれについて異なる置換処理が行われる結果として、生成されるハッシュ値が異なるものとなる場合があることも判明した。

c 匿名化・提供システムにおける置換処理の状況

匿名化・提供システムは、特定健診等データとレセプトデータで被保険者の個人情報の入力形式等の一部が異なっている場合には、匿名化処理の過程で一定の置換処理を行う機能を有している。しかし、匿名化・提供システムは、特定健診等データとレセプトデータとで被保険者の個人情報の入力形式等が異なる全ての場合に置換処理を行うものとなっていなかった。

上記a、b及びcのとおり、同一の被保険者であっても、特定健診等データとレセプトデータでは、当該被保険者の個人情報の入力形式等が異なっている場合があり、その場合には、それぞれの匿名化処理の過程で異なるハッシュ値が生成され、NDBシステムには異なるハッシュ値が収集・保存されることになる。そして、このことがNDBシステムにおいて、両データを突合できない事態を生じさせている重要な要因となっていると認められる。

(イ) データ突合に関する事前の検証等の状況

入札仕様書によれば、NDBシステムにおいて実際に特定健診等データとレセプトデータを突合することができるかどうかの検証(以下「突合検証」という。)については、受託業者が用意するそれぞれの模擬のデータ(以下「模擬データ」という。)を用いて行うこととされている。そして、厚生労働省は、模擬データの作成については、受託業者が仕様説明書及び記録条件仕様等に基づき行ったとしている。

しかし、厚生労働省は、被保険者の個人情報の入力形式等が特定健診等データとレセプトデータの入力形式等とで異なる場合があることなどについては想定しておらず、突合検証に当たり、受託業者と十分な協議を行っていなかった。このため、受託業者により作成された模擬データは、被保険者の個人情報の入力形式等が両データで異なる場合があるなどの実態を適切に反映したものとなっていなかったと認められる。そして、同省は、NDBシステムの運用開始に当たり、実際にNDBシステムに収集・保存されている特定健診等データ及びレセプトデータを用いた突合検証を行っていなかった。

(ウ) データの不突合の事態判明後の厚生労働省の対応

厚生労働省の「保険者による健診・保健指導等に関する検討会」(24年2月24日)の資料によると、22年4月から23年3月までの間におけるNDBシステムの突合率は、男性で9.8%、女性で15.7%とされており、同省は、遅くともこの24年2月の時点では、NDBシステムにおいて両データの不突合が生じている事態を把握していた。

しかし、厚生労働省は、不突合の事態の原因究明と改善に向けた調査等を速やかに実施していなかった。

上記の事態について、本院は、27年9月4日に厚生労働大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により、NDBシステムの運用状況を大幅に改善し、第2期医療費適正化計画の実績に関する評価に当たっては、生活習慣病予防対策として実施されている特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、収集・保存されているデータを十分に活用した適切な評価を行うことができるようにするために、データの不突合の原因等を踏まえたシステムの改修等を行うなどの措置を講ずるよう意見を表示した(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項リンク3章1節第7意(6)参照)。

ウ 医療費適正化計画の実績に関する評価

基本方針では、生活習慣病予防対策が医療費適正化に及ぼす効果が医療費に現れてくるのは第2期医療費適正化計画の期間からとするとされていた。しかし、厚生労働省は、第1期都道府県医療費適正化計画の実績に関する評価に当たり、全都道府県に対して、同省が作成・配布する推計ツールを用いて特定健診等の実施による生活習慣病予防対策の効果額を推計し、その費用対効果を推計して報告するよう通知していた。そして、同省は、第1期全国医療費適正化計画の実績に関する評価において、44都道府県における当該効果額の算出が同省の通知に従い、同省の示した推計ツールに基づいて行われたものであることや、推計ツールの内容等には特段言及することのないまま、メタボリックシンドローム該当者及び同予備群(以下、両者を合わせて「メタボ該当者等」という。)とそれ以外の者の間には年間平均総医療費の額に約9万円の差があることが判明していることや特定保健指導の費用を踏まえたとした上で、特定健診等の実施による効果として、生活習慣病予防対策の効果を算出している44都道府県の効果額を集計すると約250億円になると公表していた。

しかし、推計ツールによる上記の推計は、NDBシステムに収集・保存されている特定健診等データ及びレセプトデータのごく一部に基づいて行われたものであり、どのような保険者から抽出されたデータであるのかについては不明であること、また、推計ツールの内容は幾つかの仮定に基づくものであり、特に、特定保健指導の実施の効果額算定のための推計を行うに当たり用いられた9万円については、特定保健指導の実施による生活習慣病予防対策の費用対効果に係る効果額算出のための推計を行うに当たり、特定健診を受けたメタボ該当者等について、生活習慣病関連疾患に対象疾患を限定することなく、その年間平均総医療費の額に基づいて推計されたものとなっていることなどを踏まえると、第1期全国医療費適正化計画の実績に関する評価における当該効果額の公表に当たっては、当該効果額の推計の前提とされた前記のような重要な情報を明示する必要があったと考えられる。

なお、その後、厚生労働省の「特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ」が26年11月に公表した「第二次中間とりまとめ」によれば、特定健診等の実施による生活習慣病予防対策が医療費適正化に及ぼす効果について試算した結果は、推計ツールを用いて行われた前記の推計による効果額と比べると、相当程度低額なものとなっている。これは、このワーキンググループによる効果額の試算においては、医療費適正化に及ぼす効果額については、メタボリックシンドローム関連疾患に対象疾患を限定した上で、その一人当たり外来医療費を用いることにしたことなどによるものと考えられる。

(3) レセプト1次審査及びレセプト2次点検の実施状況

ア レセプト1次審査の実施状況

助成対象保険者等のうち国民健康保険の保険者である市町村及び国民健康保険組合並びに広域連合は、それぞれ国保連合会に対してレセプト1次審査及び診療報酬等の支払に関する事務を委託しており、一方、健康保険及び船員保険の保険者である全国健康保険協会は、支払基金に対してこれらの事務を委託している。

そして、従前は、レセプト1次審査の終了後に審査支払機関からレセプトの送付を受けた助成対象保険者等が、レセプト2次点検において縦覧点検(注2)や突合点検(注3)を行っていた。しかし、レセプトの電子化の進展に伴い、現在では、審査支払機関は、レセプト1次審査において、コンピュータにより自動的に電子レセプトの内容を点検する機能(以下「コンピュータチェック」という。)を活用するなどして縦覧審査(注2)、突合審査(注3)等を行うことが一般化している。

(注2)
縦覧審査・縦覧点検  医療機関等から提出されたレセプトと被保険者ごとの過去複数月のレセプトの内容とを照合することにより、レセプト1次審査では当月分の、また、レセプト2次点検では過去複数月の請求分まで遡って、当該医療機関等のレセプトの内容を審査又は点検すること
(注3)
突合審査・突合点検  医療機関等から提出された医科又は歯科のレセプトと調剤のレセプトとを被保険者ごとに照合することにより、レセプト1次審査では当月分の、また、レセプト2次点検では過去複数月の請求分まで遡って、当該医療機関等のレセプトの内容を審査又は点検すること

審査支払機関がレセプト1次審査により請求額の減額等(以下「査定」という。)した額について確認したところ、22国保連合会では21年度から25年度までの5か年度の計で741億余円、支払基金では同1382億余円、合計2123億余円となっていた。

イ レセプト2次点検の実施状況

(ア) レセプト2次点検の実施方法及び査定状況

25年度に180助成対象保険者等(22都県管内の179助成対象保険者等及び全国健康保険協会)が行ったレセプト2次点検における診察、検査、投薬等の診療内容に関する点検の実施方法について確認したところ、嘱託職員等を雇用するなどして助成対象保険者等が自ら行っていたり、国保連合会や民間業者に委託して行っていたりしていた。また、レセプト2次点検における点検内容は、縦覧点検、突合点検等となっていた。

上記の179助成対象保険者等において、再審査で査定された額のうちの保険者負担額を集計したところ、21年度から25年度までの5か年度の計で414億余円となっていた。また、全国健康保険協会において、再審査で査定された額を集計したところ、22年度から25年度まで(船員保険分は24年度及び25年度)の4か年度(同2か年度)の計で216億余円となっていた。

(イ) レセプト1次審査における具体的な審査内容の把握状況

助成対象保険者等が審査支払機関のレセプト1次審査における縦覧審査、突合審査等のコンピュータチェックの具体的な審査内容を把握することができれば、既にレセプト1次審査において検討・審査済みとなっている事項を考慮した上でレセプト2次点検における点検内容を定めることができることなどから、レセプト2次点検を一層効率的かつ効果的に行うことができると考えられる。

そこで、180助成対象保険者等に対して、審査支払機関によるレセプト1次審査においてコンピュータチェックを活用するなどした縦覧審査又は突合審査が行われていることを把握しているかどうかについて確認したところ、150助成対象保険者等はその事実を把握しているとしていた。しかし、把握しているとしていた150助成対象保険者等に対して、レセプト1次審査で行われている縦覧審査又は突合審査におけるコンピュータチェックの具体的な審査内容を把握しているかどうかについて確認したところ、61助成対象保険者等は把握しているとしていたが、89助成対象保険者等は把握していなかった。

また、具体的な審査内容を把握しているとしていた61助成対象保険者等に対して、その把握した審査内容を踏まえて、レセプト2次点検における点検内容について見直しを行ったかどうかについて確認したところ、9助成対象保険者等はレセプト1次審査における審査事項等と重複しないようにするなど点検内容の見直しを行っているとしていたが、52助成対象保険者等は見直しを行っていなかった。

レセプト2次点検の実施に当たり、レセプト1次審査におけるコンピュータチェックの具体的な審査内容を把握し、これを考慮してレセプト2次点検を行っていた助成対象保険者等について参考事例を示すと、次のとおりである。

<参考事例>

広島市は、レセプト点検員を10名雇用してレセプト2次点検を行っている。

そして、同市は、レセプト1次審査におけるコンピュータチェックで既に検討・審査済みとなっている事項についてもレセプト2次点検の対象とすることは、人的資源及び経費的な重複が生ずることとなり適切でないとして、平成23年度から、広島県国民健康保険団体連合会から通知される縦覧審査及び突合審査におけるコンピュータチェックの具体的な審査内容を随時把握するとともに、毎月、レセプト点検員の勉強会を開催し、レセプト2次点検における点検内容がレセプト1次審査における審査内容と重複しないように適宜の見直しを行った上で、レセプト2次点検を行っていた。

(ウ) レセプト1次審査及び再審査の結果における理由等の把握状況

助成対象保険者等が審査支払機関のレセプト1次審査で査定された診療報酬等について査定の具体的な事由を把握し、また、審査支払機関の再審査で原審どおりとされた具体的な理由を把握することができれば、その後のレセプト2次点検に反映させることができることなどから、レセプト2次点検を一層効率的かつ効果的に行うことができると考えられる。

そこで、180助成対象保険者等に対して、レセプト1次審査で査定された場合の増減点事由が分かりやすいものであるかどうかについて確認したところ、126助成対象保険者等は分かりにくいとしていた。また、再審査の結果、原審どおりとされた場合における理由付記が分かりやすいものであるかどうかについて確認したところ、130助成対象保険者等は分かりにくいとしていた。

(4) 医療機関等に対する指導及び監査の状況

ア 医療機関等に対する指導の実施状況

21年度から25年度までの間に実施された医療機関等に対する指導の結果、不当な請求が行われているとして、8厚生(支)局において返還を求めた医療費(患者負担分を除く保険者負担分)の額は、計144億余円となっている。

21年度から25年度までの間における24事務所等の「集団的個別指導」の実施状況について、医科、歯科及び薬局の別に確認したところ、北海道厚生局本局は、北海道内の医科の医療機関(21年度から25年度)及び薬局(21、22両年度)に対して、中国四国厚生局本局は、広島県管内の医科の医療機関(21年度から25年度)に対して、中国四国厚生局岡山事務所は、岡山県管内の医科及び歯科の医療機関(21年度から25年度。22年度については歯科を除く。)に対して「集団的個別指導」を実施していなかった。また、中国四国厚生局山口事務所は、山口県管内の医科の医療機関(21、22両年度)に対する「集団的個別指導」を実施していなかった。

これらの4事務所等において、従来、指導大綱等に反して「集団的個別指導」を実施していなかった理由について確認したところ、「集団的個別指導」の実施に当たり、関係者(医療関係団体等)との調整が十分でなかったことが主な原因であるなどとしていた。そして、厚生労働省は、4事務所等において「集団的個別指導」を実施していない事実を把握しており、同省のホームページでもその事実を公表しているが、指導大綱等に即して「集団的個別指導」を適切に実施するよう4事務所等に対して明確な指示等を行ったことはないとしている。

また、24、25両年度における24事務所等の「個別指導」の実施状況について確認したところ、9事務所等(注4)において、医療機関等のうち医科、歯科又は薬局のいずれかに対する実施率が50%を下回っていて、医療機関等に対する「個別指導」が十分に実施されているとは認められない状況となっていた。

(注4)
9事務所等  北海道、東海北陸、中国四国、九州各厚生局本局、東京、神奈川、岐阜、兵庫、岡山各事務所

9事務所等において、24、25両年度に「個別指導」の対象の医療機関等として選定されながら、各年度内に「個別指導」が実施されていなかった医療機関等の選定事由の内訳をみると、高点数個別医療機関であることを事由として選定された医療機関等が80%以上を占めていた。

このほか、情報提供医療機関として選定されたのに、指導大綱等の指示に反して、実際には当該年度中に「個別指導」を実施していなかったものが24年度で152医療機関等、25年度で102医療機関等見受けられた。また、同じく再指導医療機関として選定されたのに、指導大綱等の指示に反して、実際には当該年度中に「個別指導」を実施していなかったものも24年度で117医療機関等、25年度で171医療機関等見受けられた。

このように、「個別指導」を実施していない医療機関等の大部分は、高点数個別医療機関であることを事由として選定されたものとなっており、管内に多数の医療機関等が集中している大都市圏を管轄する事務所等では、管内の4%程度の医療機関等を「個別指導」の対象として選定しても、高点数個別医療機関であることを事由に選定された医療機関等の大半について「個別指導」が実施されていない状況となっていた。

これらの9事務所等において、指導大綱等に即して「個別指導」を実施していない理由について確認したところ、人員不足や他の業務で繁忙であったことなどによるものであるなどとしている。そして、厚生労働省は、9事務所等における「個別指導」の実施率が低調であることを把握していたとしており、必要に応じて指導及び監査の実施状況等についても確認し、適宜助言を行うなどしていたとしている。しかし、同省は、9事務所等に対して、指導大綱等に即して「個別指導」を実施するよう明確な指示等を行ったことはないとしている。

そして、指導大綱等に即して「集団的個別指導」が実施されていなかったり、「個別指導」の実施率が低調となっていたりしている事態は、のとおり、国民1人当たりの国民医療費の額が高額となっている道県を管轄する事務所等においても見受けられた。

表 事務所等における指導の実施状況(都道府県別)

平成21年度 22年度 23年度 24年度
1 高知県 高知県 高知県 高知県
2 山口県 山口県 山口県 山口県
3 広島県 広島県 広島県 大分県
4 大分県 大分県 大分県 広島県
5 鹿児島県 鹿児島県 鹿児島県 佐賀県
6 徳島県 佐賀県 佐賀県 鹿児島県
7 北海道 長崎県 長崎県 長崎県
8 福岡県 徳島県 徳島県 徳島県
9 長崎県 福岡県 福岡県 福岡県
10 佐賀県 北海道 北海道 島根県
11 島根県 島根県 島根県 北海道
12 香川県 香川県 香川県 香川県
13 石川県 石川県 石川県 石川県
14 岡山県 岡山県 岡山県 岡山県
15 熊本県 熊本県 熊本県 熊本県
16 富山県 富山県 福井県 福井県
17 愛媛県 福井県 富山県 愛媛県
18 福井県 愛媛県 愛媛県 富山県
19 鳥取県 鳥取県 鳥取県 鳥取県
20 秋田県 京都府 京都府 京都府
21 京都府 秋田県 兵庫県 兵庫県
22 兵庫県 兵庫県 秋田県 秋田県
23 宮崎県 宮崎県 宮崎県 宮崎県
24 山形県 山形県 大阪府 山形県
25 和歌山県 大阪府 山形県 大阪府
26 大阪府 和歌山県 和歌山県 和歌山県
27 福島県 滋賀県 滋賀県 滋賀県
28 滋賀県 福島県 奈良県 福島県
29 奈良県 奈良県 福島県 奈良県
30 新潟県 新潟県 新潟県 三重県
31 三重県 三重県 三重県 宮城県
32 岩手県 長野県 長野県 新潟県
33 長野県 岐阜県 岐阜県 長野県
34 宮城県 宮城県 岩手県 岩手県
35 岐阜県 岩手県 山梨県 岐阜県
36 愛知県 愛知県 愛知県 愛知県
37 山梨県 山梨県 宮城県 山梨県
38 青森県 群馬県 青森県 群馬県
39 群馬県 青森県 群馬県 青森県
40 静岡県 静岡県 静岡県 静岡県
41 東京都 神奈川県 神奈川県 神奈川県
42 神奈川県 東京都 東京都 東京都
43 栃木県 栃木県 栃木県 栃木県
44 茨城県 茨城県 茨城県 茨城県
45 埼玉県 沖縄県 沖縄県 沖縄県
46 沖縄県 埼玉県 埼玉県 埼玉県
47 千葉県 千葉県 千葉県 千葉県
注(1)
厚生労働省の「医療費の地域差分析」を基に、1人当たりの国民医療費(市町村国民健康保険及び後期高齢者医療制度に係る実績医療費)が高額な順に都道府県を整理して作成した。
注(2)
   は、「集団的個別指導」を実施していない4事務所等が管轄する4道県
注(3)
   は、「個別指導」の実施率が低調となっている9事務所等が管轄する9都道

以上のほか、厚生労働省は、指導大綱では、当該年度内に計画的に「個別指導」を実施することができなかった高点数個別医療機関について、翌年度以降に「個別指導」を実施することとはなっていないとしている。そして、実際に、これらの医療機関等に対して、翌年度以降に「個別指導」を実施した例は見受けられなかった。

イ 監査の実施状況

監査要綱によれば、監査は、原則として、「個別指導」を実施した結果、監査の必要が認められた場合に実施することとされている。21年度から25年度までの間における医療機関等に対する監査の結果、不正又は不当な請求が行われているとして、8厚生(支)局において返還を求めた医療費の額は、計99億余円となっている。そして、会計実地検査を行った24事務所等において、24、25両年度に監査を実施した52件及び40件のうち、「個別指導」を実施した結果、監査を実施したものは、それぞれ43件及び37件となっていた。

前記のとおり、医療機関等に対する指導及び監査は、いずれも保険診療の質的向上及び適正化を図るために実施されるものであるが、指導大綱によれば、このうち各種の指導は、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼として行われるものである。

以上を踏まえると、医療機関等に対する監査を適切に実施するためには、その前提として医療機関等に対する「集団的個別指導」及び「個別指導」が指導大綱等に即して着実かつ適切に実施されることが重要であると考えられる。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

ア 医療費適正化計画の実施状況等について

(ア) 生活習慣病予防対策としての特定健診等の実施状況

第1期医療費適正化計画の期間中の保険者全体における特定健診の実施率は、当該計画の最終年度である24年度の平均で46.2%となっており、特定保健指導の実施率は、当該計画の最終年度である24年度の平均で16.4%となっていて、いずれも目標を相当下回っていた。

(イ) 病床転換助成事業の実施状況

病床転換助成事業による転換病床数は、第1期医療費適正化計画期間中の5か年度の合計で3,887床となっていて、病床転換の実施率は、同期間中の転換見込病床数25,500床の15.2%となっていた。また、第2期医療費適正化計画期間中の全都道府県における転換病床数は、25年度では計279床、26年度では計171床にとどまっていて、同事業は全国的にほとんど実施されていない状況となっていた。

(ウ) 第1期医療費適正化計画の実績に関する評価

基本方針では、生活習慣病予防対策が医療費適正化に及ぼす効果が医療費に現れてくるのは第2期医療費適正化計画の期間からとするとされていた。しかし、厚生労働省は、第1期都道府県医療費適正化計画の実績に関する評価に当たり、全都道府県に対して、同省の作成した推計ツールを用いて生活習慣病予防対策として実施されている特定保健指導が医療費適正化に及ぼす効果額を算出するよう通知していた。そして、同省は、第1期全国医療費適正化計画の実績に関する評価において、メタボ該当者等とそれ以外の者の間には年間平均総医療費の額に約9万円の差があることが判明していることや特定保健指導の費用を踏まえたとした上で、特定健診等の実施による効果として、生活習慣病予防対策の効果を算出している44都道府県の効果額を集計すると約250億円となると公表していた。

しかし、この評価の公表に当たっては、44都道府県における当該効果額の推計は、厚生労働省の通知に基づき、同省の示した推計ツールに基づいて行われたものであること、推計ツールの内容は幾つかの仮定に基づくものであり、特に、特定保健指導の実施の効果額算定のための推計を行うに当たり用いられた9万円については、特定健診を受けたメタボ該当者等の年間平均総医療費に基づいて仮定された額であり、生活習慣病関連疾患に対象疾患を限定して算出されたものではないことなど、当該効果額の推計の前提とされた重要な情報を明示する必要があったと考えられる。

一方、厚生労働省は、入院期間の短縮対策については、平均在院日数の短縮に関する目標等に関する評価を行っており、第1期医療費適正化計画で定めた目標値はおおむね達成されているとしていた。しかし、同省は、平均在院日数の短縮の背景については必ずしも明確ではないとしていた。そして、入院期間の短縮のための療養病床の再編成の施策として実施された病床転換助成事業については、療養病床の機械的削減は行わないこととしたなどとして、同事業が入院期間の短縮又は医療費適正化に及ぼした効果等に関する評価を行っていなかった。

イ NDBシステムの運用状況と生活習慣病予防対策の効果分析について

NDBシステムは、我が国の全保険者等から全ての特定健診等データ及び全てのレセプトデータを収集・保存した上で、これらのデータの十分な突合・分析等を行うことなどを目的として、多額の経費を投じて構築されたものであるのに、多くの保険者の特定健診等データをレセプトデータと突合することができない状況となっていて、システム構築の所期の目的を十分に達成していないと認められた。

そして、このまま推移すれば、30年度に予定されている第2期医療費適正化計画の実績に関する評価において、生活習慣病予防対策として実施された特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、NDBシステムに収集・保存されているデータの十分な突合・分析等により得られる詳細な分析データに基づき適切な評価を行うことは困難であると見込まれる。

ウ レセプトの審査及び点検については、多くの助成対象保険者等において、レセプト2次点検の実施に当たり、レセプト1次審査におけるコンピュータチェックの具体的な審査内容について十分に把握していなかったり、レセプト1次審査における査定の具体的な事由及び再審査で原審どおりとした具体的な理由について十分に把握していなかったりするなどしていて、効率的かつ効果的に行われているとは認められない状況となっていた。

エ 医療機関等に対する指導及び監査のうち指導については、事務所等において、「集団的個別指導」及び「個別指導」を指導大綱等に即して適切に実施していないなどの事態が見受けられた。

(2) 所見

厚生労働省において、今後の医療費適正化に向けた各種の取組に当たっては、次のような点に留意する必要がある。

ア 医療費適正化計画については、医療費適正化のための各種の施策を着実に実施するとともに、医療費適正化計画の実績に関する評価を適切に行うこと、特に、全ての保険者等から全ての特定健診等データ及び全てのレセプトデータを収集・保存した上、これらのデータの十分な突合・分析等を行うことを一つの重要な目的として構築されたNDBシステムについては、システムの運用状況を大幅に改善して、30年度に予定されている第2期医療費適正化計画の実績に関する評価に当たっては、生活習慣病予防対策として実施されている特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、収集・保存されているデータを十分に活用した適切な評価を行うことができるようにするために、データの不突合の原因等を踏まえたシステムの改修等を行うなどの措置を講ずること

イ レセプトの審査及び点検については、レセプトの電子化の進展に伴い、従来、助成対象保険者等がレセプト2次点検で行っていた縦覧点検及び突合点検が審査支払機関によるレセプト1次審査でも行われるようになってきている状況を踏まえて、レセプト1次審査又は再審査における具体的な審査内容、審査結果の理由等を可能な限り明確に助成対象保険者等に伝えることに努めるよう審査支払機関に周知するとともに、当該具体的な審査内容、審査結果の理由等を把握した場合には、レセプト2次点検における点検内容について適宜の見直しを行うなどして、レセプト2次点検を一層効率的かつ効果的に行うよう助成対象保険者等に指導等を行うこと

ウ 医療機関等に対する指導は、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的として実施されるもので、診療報酬等の請求等の適正化を図る上で重要なものであることなどから、事務所等に対して、医療機関等に対する指導を指導大綱等に即して適切に実施するよう改めて指示するとともに、事務所等における実施体制を一層整備すること

本院としては、医療費適正化に向けた取組の実施状況及び今回の検査で明らかとなった問題点等について、引き続き検査していくこととする。