国は、森林・林業基本法(昭和39年法律第161号)において、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るとともに、あわせて、林産物を持続的かつ計画的に供給し、及び国有林野の活用によりその所在する地域における産業の振興又は住民の福祉の向上に寄与することを旨として、国有林野の管理及び経営の事業(以下「国有林野事業」という。)の適切かつ効率的な運営を行うこととなっている。
農林水産大臣は、国有林野の管理経営に関する法律(昭和26年法律第246号)において、国有林野の管理経営に関する計画を明らかにするなどして、その適切かつ効率的な管理経営の実施を確保するために、5年ごとに、10年を一期とする国有林野の管理経営に関する基本計画(以下「管理経営基本計画」という。)を定めなければならないこととなっている。
そして、林野庁は、管理経営基本計画に基づき、平成26年度末において国有林野7,582,743ha(土地、立木竹等の国有財産台帳価格計3兆8943億4154万余円)の管理経営を行っており、森林管理局は、樹木の伐採、路網の整備等の国有林野での施業に係る計画(以下「国有林野施業実施計画」という。)を定めている。
国有林野事業は、24年度以前は国有林野事業特別会計(以下「林野特会」という。)において経理されていたが、25年度以降は一般会計において経理されている。そして、林野特会における国有林野事業に関連する16年度から24年度までの間の収納済歳入額及び支出済歳出額は、それぞれ3327億余円から4378億余円の間及び3448億余円から4310億余円の間で推移し、24年度には4378億余円及び4266億余円となっており、一方、一般会計で経理することとなった25年度以降の国有林野事業に関連する収納済歳入額及び支出済歳出額は、25年度281億余円及び1480億余円、26年度293億余円及び1442億余円となっている。
国有林野事業は、企業的な運営等を図るために林野特会で経理されていたが、国有林野の産物の売払収入の減少等により、9年度末の借入金残高は3兆7446億余円となり、危機的な財務状況に陥った。このような状況の中、林野庁は、9年に一定の前提の下で今後の国有林野の管理経営に係る収支の見通しについての試算を行った。そして、国は、「国有林野事業の改革のための特別措置法」(平成10年法律第134号)を制定して、10年10月の借入金残高3兆8875億余円のうち、2兆8421億余円を一般会計に帰属させることとし、残りの1兆0454億円については、林野特会において60年度までに返済することとした。国は、24年6月に、森林が有する多面的機能の持続的な発揮を図り、厳しい状況に置かれている林業を活性化するなどのために、「国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るための国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第42号。以下「管理経営法等改正法」という。)を制定するなどして、25年4月に林野特会を廃止した。そして、特別会計に所属していた権利義務は一般会計等に帰属するものとされ、また、林野特会の負担に属する借入金に係るものは国有林野事業債務管理特別会計(以下「債務管理特会」という。)に帰属するなどとされ、債務管理特会に承継された借入金は、新たな国民負担を生じさせないために、従前と同様、国有林野の産物の売払収入等により返済することとされた。そして、債務管理特会で経理することとなった25年度以降の収納済歳入額及び支出済歳出額は、それぞれ25年度3013億余円、3013億余円、26年度3121億余円、3121億余円となっている。
ア 公益重視の管理経営の一層の推進
国有林野に囲まれたり隣接したりしている民有林(以下「介在地等」という。)の中には、立地条件が不利であることなどから民有林所有者等による森林の整備・保全が十分に行われず、土砂の流出等により国有林野が発揮している公益的機能に悪影響を及ぼすなどのものがある。そのため、管理経営法等改正法の施行により、介在地等の民有林所有者等と協定を締結する(以下、この協定を「公益増進協定」という。)ことにより、国の負担で国有林野と介在地等を一体的に整備及び保全できることとなった。公益増進協定の対象区域となる介在地等については、国有林野と一体的な施業を行うことなどを条件に選定されることとなっている。また、森林管理局は、公益増進協定による森林の整備及び保全に係る効果の分析や評価を行うこととなっている。
イ 森林・林業再生に向けた貢献
(ア) 国産材の安定供給
a システム販売
林野庁は、利用が低位であった曲がり材等の低質な間伐材等について、需要者とあらかじめ取引量等に係る協定を締結し、安定的かつ計画的な供給を行う販売方法(以下、このような販売方法を「システム販売」、取引量等に係る協定を「システム販売協定」という。)を活用して、林業・木材産業の活性化を図ってきている。さらに、これまで委託販売の対象としてきた木材についても、安定的かつ計画的な供給により国産材の需要拡大を図って木材自給率を高めるために、システム販売を推進している。また、システム販売協定の締結に当たって、システム販売の目的を達成し、木材買受けの機会の均等を図るために、企画競争方式により相手方の選定を行うこととなっている。
b 路網のネットワーク機能強化事業
路網のネットワーク機能強化事業は、木材の効率的な生産・販売の実施に当たり、木材の搬出機能を高めるために、一定の規格・構造を有する林道等又は森林作業道(注1)に隣接した箇所に木材を集積する土場(以下「ストックポイント」という。)の整備を行ったり、ストックポイントが林道等又は森林作業道から離れている場合に、両者を接続する付属路の整備を行ったり、また、林道等における木材搬出用トラックの通行量や積載荷重の増加等に対応するために、特に相当額の経費を投じて林道等の路盤等を強化する修繕(以下「特殊修繕」という。)を実施したりするものである。
林野庁は、森林作業道に隣接している山元土場、林道等に隣接していて複数の施業地から搬出してきた木材を集積して大型トラック等で搬出することが可能な中間土場等のストックポイントと特殊修繕を行った林道等とを有機的に機能させることにより、木材の効率的な生産・販売を実現するとしている。
なお、林道等の原形の保持を目的として常時行っている維持修繕は、建設機械をチャーターして砕石を補填するなどの方法で実施されている。
(イ) 民有林と連携した施業の推進
林野庁は、国有林野に隣接するなどしている民有林所有者等と森林管理署等との間で協定の締結(以下、この協定を「森林整備推進協定」という。)及び国有林と民有林との間で森林施業の一体化を図る森林共同施業団地(以下「施業団地」という。)の設定を行い、路網の整備や間伐(注2)等の実施に係る計画(以下「森林整備等実施計画」という。)を定めて、民有林と連結した路網の整備、計画的な間伐等の実施、民有林材との協調出荷等に取り組むことにより、施業の効率化や低コスト化、国産材の安定的かつ計画的な供給等を図ることにしている。また、森林整備推進協定に係る施業の実施に当たっては、協定の締結者により構成する運営会議を設置することができることとなっている。
さらに、林野庁は、24年6月25日に、森林管理局に対して事務連絡(以下「施業団地の留意点」という。)を発し、森林管理署等は、既設の施業団地について、過去の施業の実施結果を検証するとともに、新たな施業団地を設定したり、協定期間を更新したりする際には、当該検証結果を上記の取組に反映することとされている。
(ウ) 林業の低コスト化等に向けた技術開発等
林野庁は、林業の低コスト化等に向けた技術開発を一層推進し、実用段階に到達した先駆的な技術等については、国有林野の管理経営に役立てるとともに民有林の経営における普及・定着にも資するよう取り組むこととしている。
森林管理局は、新たな技術開発課題の設定を行うに当たっては、学識経験者等で構成される技術開発委員会の意見を徴した上で評価を行い、その評価結果を本庁に提出することとなっている。そして、森林管理局は、技術開発課題の実施結果について、毎年度、技術開発委員会の意見を徴した上で実施評価を行っている。また、森林管理局は、技術開発期間が5年以上の技術開発課題については、技術開発期間の完了時に技術開発の結果をまとめた報告書を作成して、本庁に提出することとなっている。そして、本庁は、当該報告書の提出を受けて、学識経験者等で構成された国有林野事業技術開発委員会(以下「本庁技術開発委員会」という。)の意見を徴するなどして事後評価を行うこととなっており、事後評価の結果は、森林管理局に通知され、新たな技術開発課題の設定等の際に活用及び反映されることになっている。
本院は、国有林野事業の運営等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して、林野庁が管理経営を行っている国有林野7,582,743ha(土地、立木竹等に係る26年度末の国有財産台帳価格3兆8943億4154万余円)、16年度から26年度までの国有林野事業に係る収納済歳入額(林野特会3兆5335億7023万余円、一般会計575億4650万余円、債務管理特会6134億7853万余円)及び支出済歳出額(林野特会3兆5927億4079万余円、一般会計2923億0927万余円、債務管理特会6134億7853万余円)を対象として、本庁、7森林管理局(注3)及び29森林管理署等(注4)において会計実地検査を行うとともに、林野庁から調書を徴するなどして検査した。
ア 国有林野の管理経営に係る組織体制は、どのように変わってきているか、また、一般会計等への移行に伴う権利義務の承継等は、どのようになっているか。
イ 公益重視の管理経営に係る施策である民有林との一体的な森林整備等の推進並びに森林・林業再生に貢献するための施策であるシステム販売、路網のネットワーク機能強化事業、民有林と連携した施業の推進及び林業の低コスト化等に向けた技術開発等は、それぞれ適切に実施され、かつ、効果を発揮しているか。
ウ 国有林野事業における施策が発揮している効果は、借入金の返済に係る林野庁の試算に照らして、60年度までに借入金の返済を可能とするものとなっているか、また、借入金の返済は、債務管理特会が設けられた趣旨に照らして、国有林野の産物の売払収入等により行われているか。
職員数(実員)の推移についてみると、27年度期首における職員数4,967人は、16年度期首における職員数8,049人と比べて、3,082人、38.2%減少している。
また、森林事務所は、職員配置の見直しを行ったことなどにより、24年度期首の1,256か所から414か所減少して、25年度期首においては842か所となっている。
林野特会における24年度末の現金預金等1088億余円のうち36億余円が東日本大震災復興特別会計に、短期借入金及び長期借入金計1兆2721億余円が債務管理特会にそれぞれ承継されており、その他の現金預金や固定資産等は一般会計に承継されている。
また、25年4月の国有林野事業の一般会計への移行に伴い、企業用財産という財産区分が廃止され、新たに森林経営用財産という財産区分が設けられたが、この森林経営用財産については、一般会計の国有財産と同様に、市場価格等による台帳価格の改定が行われることとなった。そして、森林経営用財産における立木竹の台帳価格は、25年度期首で6兆8697億余円であったものが、上記の価格改定等により、4兆0275億余円減少して、25年度末で、2兆8422億余円となっている。
また、前記414か所の森林事務所に係る庁舎は265か所(土地面積183,492.6m2、国有財産台帳価格6億1778万余円)となっており、3か所を25年度中に処分するなどしたことにより、27年度期首では262か所(土地面積176,619.2m2、国有財産台帳価格10億9945万余円)となっている。
ア 公益重視の管理経営に係る施策の実施状況
森林管理局が26年度末で所在を把握している介在地等は、計2,296か所となっており、東北、関東、四国、九州各森林管理局は、短期間に管内全ての介在地等に係る所在の把握及び森林の現況等の調査を行うことが困難であることから、主に国有林野における施業が決まっている施業地に隣接等する介在地等を対象として所在の把握及び調査を行っている。
上記2,296か所の介在地等のうち、調査実施済みの介在地等が2,268か所(全体の98.7%)、調査中の介在地等が28か所(同1.2%)となっており、調査実施済みの介在地等2,268か所のうち、民有林所有者等と施業に関する調整を行っていない介在地等が2,250か所(同97.9%)となっていた。そして、上記の2,250か所のうち、国有林野施業実施計画において、隣接する国有林野で当面間伐等の施業予定がないことから調整を行っていない介在地等が894か所となっており、このうち、2か所については、介在地等の把握及び森林の状況等の調査に時間を要したため、民有林所有者等との調整を行う前の25年度又は26年度に、国有林野において間伐等が実施されていた。
また、26年度末で既に公益増進協定を締結した介在地等は7か所であり、このうち、森林の整備及び保全が終了しており、効果の分析や評価が実施できる状況となっていると考えられる介在地等4か所については、林野庁において、公益増進協定の締結実績が少ないなどのため、具体的な効果の分析方法や評価手法、実施時期を定めていないことから、森林管理局においては効果の分析や評価を実施していなかった。
イ 森林・林業再生に貢献するための施策の実施状況
(ア) 国産材の安定供給体制に係る施策の実施状況
a システム販売
システム販売の相手方の選定に当たっては、森林管理局の局内関係部局等の委員で構成された販売推進委員会が企画提案書等の審査・評価を行っているが、北海道、関東両森林管理局においては、契約担当部局の者を委員として参加させていなかった。また、全ての森林管理局で、企画提案書に加えて買受希望価格を提出させているが、東北森林管理局は、買受希望価格を評価の対象としておらず、システム販売協定の相手方の選定に当たってどの程度考慮されているのかが明確となっていなかった。
21年度から26年度までの間に森林管理局が締結した協定数は、製品販売で3,138件、立木販売で18件となっており、立木販売の拡大にはまだ至っていない状況である。製品販売における協定量に対する販売量の割合は、協定全体でみれば、いずれの年度においてもおおむね100%となっている。製品販売に係る個別の協定についてみると、協定量に対して販売量が20%以上超過しているものが808件、20%以上不足しているものが902件見受けられ、これらの中には、100%以上の開差が生じていて、協定量に対して販売量が2倍以上となるものが235件、販売量が全くない0m3となっているものが141件見受けられた。そして、北海道、関東両森林管理局を除く5森林管理局においては、協定量に対して販売量の超過が見込まれる場合の取扱いを明確に定めておらず、基本的には超過数量全てを相手方に販売している。また、北海道森林管理局を除く6森林管理局においては、協定量に対して販売量の不足が見込まれる場合に具体的な対策を講じていなかった。
b 路網のネットワーク機能強化事業等
(a) ストックポイント及び付属路の整備
森林管理局において、25、26両年度に実施したストックポイント及び付属路の整備に要した事業費は、計5億5026万余円となっている。
25、26両年度ともに、近畿中国、四国両森林管理局においては、付属路の整備のみを実施しており、東北森林管理局においては、ストックポイント及び付属路の整備を実施していない。付属路の整備を実施していない東北森林管理局を除く6森林管理局において、25、26両年度に実施した付属路の整備延長計652,383mについては、林道等の原形の保持を目的とする維持修繕等が計484,843mと多数となっていて、施策の目的の達成に必ずしも十分に寄与するものとはならないと考えられる。
また、林野庁は、ストックポイント及び付属路の整備は、今後、当該ストックポイント及び付属路を使用した施業や木材の搬出が明らかである場合に認められるとしているが、上記計652,383mのうち、11,360mについては、国有林野施業実施計画等において整備した林道等を使用した木材の搬出を伴う施業が予定されていない状況となっていた。
(b) 林道等の特殊修繕
森林管理局において、25、26両年度に実施した林道等の特殊修繕は、計312路線となっており、このうち、北海道、近畿中国、四国各森林管理局においては、計293路線の林道等における全ての特殊修繕が維持修繕と同様に、建設機械チャーター等による砕石の補填等の方法で実施されている。林道等の特殊修繕は、どのような場合にどの程度の強化を行うのか明確になっておらず、林野庁においては、特殊修繕を維持修繕と同様の実施方法で実施することも認められるとしている。しかし、特殊修繕と維持修繕は、その実施目的が異なっていることから、実施した特殊修繕は、施策の目的の達成に必ずしも十分に寄与するものとはならないと考えられる。
また、林野庁は、特殊修繕は、特殊修繕を実施した林道等を使用した木材の搬出の実施が明らかである場合に認められるとしているが、25、26両年度に実施した計312路線の林道等の特殊修繕のうち、33路線計7,590mについては、国有林野施業実施計画等において特殊修繕を実施した林道等を使用する木材の搬出を伴う施業が予定されていない状況となっていた。
(c) 貯木場の利用状況
貯木場計42か所のうち、26年度末で未利用となっている貯木場は21か所となっており、このうち10か所についてはシステム販売に係るストックポイントとしての利用が可能であるか検討中としていた。
(イ) 民有林と連携した施業の実施状況
森林管理署等における森林整備推進協定の協定数及び協定面積は、26年度末で計134件及び598,951haに上っており、このうち、26年度末までに協定期間が満了して、森林整備推進協定を更新しているものが87件となっている。
上記87件に係る間伐面積、出荷量及び路網の整備の実施率は、それぞれ84.1%、73.6%、96.6%となっている。そして、これらの中には、国と相手方との連携が十分に図られていないものも見受けられた。また、施業の効率化や低コスト化等を図る取組の実施状況をみると、路網と高性能林業機械を活用した低コストで高効率な作業システムの導入及び国有林野と民有林の路網の連結は、それぞれ47件(実施率54.0%)及び42件(同48.2%)となっており、民有林と連携したシステム販売の活用は、8件(同9.1%)と低調となっている。さらに、施業の効率化等の取組が全く実施されていないものが22件見受けられた。このうち3件については、地理的条件上国有林と民有林の連携が困難となっていた。
林野庁が施業団地の留意点を発した24年6月25日以前に協定期間が満了して、森林整備推進協定を更新している28件のうち、施業の実施結果の検証及び検証結果の反映を実施していないものが25件となっていた。
(ウ) 林業の低コスト化等に向けた技術開発等の実施状況
森林管理局の実施評価は、毎年度、12月中に行われ、翌年度の技術開発課題の設定も同時に行われているが、本庁の事後評価の結果は、翌年の3月又は9月に森林管理局に通知されていることから、事後評価の結果を翌年度の技術開発課題の設定に速やかに活用、反映することは困難な状況となっている。
また、21年度から26年度までの間に技術開発が完了した技術開発課題は計100件となっており、技術開発期間が5年未満の技術開発課題のうち、実施評価において、「高く評価できる」及び「妥当である」とする評価を受けた25件並びに事後評価において、「予想以上の効果を上げたもの」及び「当初の目的をほぼ達成したもの」とする評価を受けた34件の計59件のうち、実証研究を行っているものは23件となっており、このうち、実用化に至ったものは5件(21.7%)となっている。そして、上記23件のうち、林業の低コスト化に係る技術開発課題は9件となっているが、このうち、森林管理局が民間事業体等へ十分に普及したと判断して、国有林野における施業の積算基準に反映したものは3件(33.3%)となっている。
ア 借入金の返済試算
林野庁は、9年に行った収支の見通しについての試算を基に、表のとおり、23年に一般会計への移行後の国有林野の債務の返済に係る試算(以下「23年試算」という。)を行っている。
表 一般会計への移行後の国有林野の債務の返済試算(23年試算)
区分 | 平成25~29年度 (平均) |
30~34 (平均) |
35~39 (平均) |
40~44 (平均) |
45~49 (平均) |
50~54 (平均) |
55~59 (平均) |
60 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
債務返済に充てる財源 | 270 | 340 | 480 | 520 | 550 | 560 | 570 | 570 | |
うち林産物収入 | 230 | 310 | 450 | 490 | 520 | 530 | 540 | 540 | |
林産物収入等の確保に要する経費 | 180 | 140 | 110 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | |
債務返済額 | 90 | 200 | 370 | 420 | 450 | 460 | 460 | 470 | |
債務返済額(元本償還額)累計 | 29年度 | 34年度 | 39年度 | 44年度 | 49年度 | 54年度 | 59年度 | 60年度 | |
490 | 1500 | 3370 | 5460 | 7710 | 1兆0010 | 1兆2330 | 1兆2800 |
林産物収入の実績は、25年度では230億余円となっており、23年試算における35年度から39年度までの林産物収入の平均450億円を確保するためには、35年度までに林産物収入を25年度実績の約2倍に増加させることが必要となる。林野庁は、前記各施策の実施等により、国産材の安定供給体制の構築、木材の効率的な生産・販売等を通じた国産材の需要拡大及び木材の搬出等の経費の縮減等を通じた施業コストの縮減を図り、国有林材の販売量を増加させるとともに、10年間で主伐立木単価を2,600円/m3から4,000円/m3に上昇させることを、林産物収入の増加によって借入金の返済を行うための前提条件にしている。
しかし、前記のとおり、借入金返済の前提とされている林産物収入の増加のために重要となる、国有林野事業に係る各施策の効果が十分に発揮されているとは認められない状況となっており、新たな国民負担を生じさせずに60年度までに借入金を返済するためには、なお一層の努力が必要であると考えられる。
イ 債務管理特会への繰入額(借入金返済額)
一般会計への移行後は、管理経営法等改正法等の施行により、国有林野の産物の売払収入等から当該売払等に要する費用を控除した額に相当する額を借入金返済額として債務管理特会へ繰り入れている。国有林野の産物の売払等に要する費用は、一般会計の歳出科目である(項)国有林野産物等売払及管理処分業務費(以下「処分業務費」という。)から支出することとなっている。処分業務費の支出済歳出額は、25年度206億余円、26年度188億余円となっており、このうち、木材供給のための収穫調査(注5)等の販売等の事業に係る事業的経費は、25年度91億余円、26年度80億余円となっている。また、立木の収穫調査等に必要な経費であっても、公有林野等官行造林地(注6)に係るものは、処分業務費から支出すべき経費に含まれていない。
森林管理局等において、25、26両年度に事業的経費として支出された経費について、1件300万円以上の木材供給のための収穫調査等に係る委託契約を抽出して、事業の内容に応じて適正な歳出科目から支出されているかを確認したところ、4森林管理署等が締結した5契約において、公有林野等官行造林地における収穫調査に係る経費計20,767,098円を誤って処分業務費から支出している事態が見受けられた。
国有林野事業は、管理経営法等改正法の施行により、25年4月以降一般会計で経理されることとなり、林野庁は、公益重視の管理経営を一層推進するための施策や森林・林業再生に貢献するための施策を実施するとともに、施業の結果得られる木材を計画的に供給することにより国有林野の産物の売払収入等を得るなど企業的な運営から脱却することとなった。また、債務管理特会に承継された借入金については、従前と同様、国有林野の産物の売払収入等により60年度までに返済することとなっており、新たな国民負担を生じさせることなく着実に借入金の返済を行うことが求められている。
したがって、一般会計への移行後の早い段階において、国有林野事業について、24年度以前の林野特会や25年度以降の一般会計への移行後における事業の運営等の結果を総括するとともに、公益重視の管理経営等に係る各施策の実施状況とその効果を検証及び分析すること、また、借入金の返済に係る林野庁の試算の内容と返済状況を検証及び分析して課題を明らかにすることは、今後の適切な国有林野事業の運営及び借入金の着実な返済に当たり重要であると考えられる。
そこで、本院が、国有林野事業の運営等について、その組織体制や一般会計等への移行に伴う権利義務の承継等を確認するとともに、公益重視の管理経営に係る施策である民有林との一体的な森林整備等の推進並びに森林・林業再生に貢献するための施策であるシステム販売、路網のネットワーク機能強化事業、民有林と連携した施業及び林業の低コスト化等に向けた技術開発等は、それぞれ適切に実施され、かつ、効果を発揮しているか、同施策が発揮している効果は、借入金の返済に係る林野庁の試算に照らして、60年度までに借入金の返済を可能とするものとなっているか、また、借入金の返済は、債務管理特会が設けられた趣旨に照らして、国有林野の産物の売払収入等により行われているかなどを検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 公益重視の管理経営に係る施策である民有林との一体的な森林整備等の推進のための公益増進協定については、介在地等に隣接する国有林野で当面間伐等の施業予定がないことから、民有林所有者等との施業に関する調整を行っていないものが894か所となっていた。このうち、森林管理局が介在地等の把握及び森林の状況等の調査を速やかに行っていないため、公益増進協定の対象区域となる介在地等の調査期間中に、隣接する国有林野の間伐等の施業が既に実施されており、今後、当分の間、国有林野の施業に合わせた一体的な施業が実施できないおそれがあるものが2か所見受けられた。また、林野庁において、公益増進協定に基づく森林の整備及び保全に係る効果の分析方法や評価手法、実施時期を定めておらず、森林管理局が効果の分析や評価を実施していないため、介在地等における森林の整備及び保全に消極的な民有林所有者等との今後の合意形成等に資するような評価が行われていない状況となっていた。
イ 森林・林業再生に貢献するための施策であるシステム販売については、森林管理署等が、企画競争方式により選定されたシステム販売協定の相手方と販売契約を締結することとなるのに、2森林管理局において相手方の選定等を行う販売推進委員会に契約担当部局の者を関与させていなかったり、1森林管理局において買受希望価格を企画提案書とともに提出させているのに評価項目としていなかったりしていた。
また、5森林管理局において協定量に対して販売量が大幅に超過することが見込まれる場合の取扱いが明確に定められておらず、相手方に超過分全量を販売している事態が見受けられ、契約の透明性や公平性の確保等が十分でない状況となっていた。
さらに、6森林管理局において、協定量に対して販売量の不足が見込まれる場合に不足を解消するための具体的な対策が講じられておらず、木材の安定的かつ計画的な供給を行うという施策の効果が、十分発揮されていない状況となっていた。
ウ 森林・林業再生に貢献するための施策である路網のネットワーク機能強化事業については、山元土場、中間土場等のストックポイントや林道等を有機的に機能させることが重要であるのに、山元土場に至る林道等の原形の保持を目的とする維持修繕等としての付属路の整備や特殊修繕が優先して実施されており、木材の搬出機能を現状より一層高めることとしている本事業の目的の達成に必ずしも十分に寄与するものとはならない状況となっていた。
また、付属路の整備や路網の特殊修繕の実施箇所の中には、国有林野施業実施計画等で木材搬出を伴う間伐等の施業を予定しておらず、施業による使用を予定していない林道等に対して維持修繕等を実施しているものが、付属路の整備で整備延長計11,360m、特殊修繕で33路線計7,590m見受けられた。さらに、26年度末において、未利用となっている貯木場は21か所となっており、これらの中には、システム販売に係るストックポイントとしての利用が可能であるか検討中としているものも10か所見受けられた。
エ 森林・林業再生に貢献するための施策である民有林と連携した施業のための森林整備推進協定については、間伐面積、出荷量及び路網の整備の実施率がそれぞれ84.1%、73.6%、96.6%となっており、これらの中には、森林管理署等と相手方との連携が十分に図られていないものも見受けられた。また、低コストで高効率な作業システムの導入、路網の連結、民有林と連携したシステム販売の活用等の施業の効率化や低コスト化等を図る取組は、それぞれ実施率54.0%、48.2%、9.1%となっており、これらの中には、施業団地の設定に問題があったため、上記の取組を全く実施していないものも見受けられた。
また、施業団地の留意点において、森林整備推進協定に基づく施業の実施結果の検証及び検証結果の反映の対象としている施業団地28件のうち、25件については、森林管理署等において実施結果の検証及び検証結果の反映が行われていなかった。
オ 森林・林業再生に貢献するための施策である林業の低コスト化等に向けた技術開発等については、本庁技術開発委員会における事後評価の結果が、翌年の3月又は9月に森林管理局に通知されるため、事後評価の結果を森林管理局における翌年度の研究開発課題の設定に速やかに活用及び反映することが困難な状況となっていた。
また、技術開発が完了した実証研究については、技術開発課題23件のうち、実用化に至ったものは5件(技術開発課題の21.7%)となっており、林業の低コスト化に関する技術開発課題9件のうち、森林管理局が民間事業体等へ十分に普及したと判断して、国有林野における施業の積算に適用する積算基準へ反映したものは3件(林業の低コスト化に関する技術開発課題の33.3%)となっていた。
カ 一般会計への移行後の借入金の返済については、23年試算は、林野庁がシステム販売等の施策を確実に実施することなどによって、国産材の安定供給体制の構築、木材の効率的な生産・販売等を通じた国産材の需要拡大を図り、国有林材の販売量を増加させることや、路網の整備等による搬出等の経費の縮減等を通じた施業コストの縮減を図り、主伐立木単価を上昇させることを前提としている。しかし、現時点では、イからオまでのとおり、借入金の返済の前提条件にされている林産物収入の増加のために重要となる、国有林野事業に係る各施策の効果が十分に発揮されているとは認められない状況となっていた。
また、国有林野の産物の売払等に要する費用については、処分業務費以外の歳出科目から支出すべき経費を誤って処分業務費から支出している事態が見受けられたが、これらの事態は、借入金返済額の適切な算出に影響するおそれもあり、国有林野事業が一般会計に移行した際に、国有林野の産物の売払収入等により借入金の返済が行われることを明確にするために債務管理特会が設けられた趣旨に照らして、適切とは認められない。
国有林野事業は、25年度以降一般会計で経理されることとなり、林野庁は、管理経営基本計画に基づく公益重視の管理経営を一層推進するための施策や森林・林業再生に貢献するための施策を実施しており、債務管理特会に承継された借入金については、新たな国民負担を生じさせずに国有林野の産物の売払収入等によって60年度までに着実に返済することが求められている。
したがって、林野庁においては、森林管理局及び森林管理署等と十分に連携して、今回の本院の検査により明らかになった状況を踏まえ、今後の国有林野事業の運営等に当たって、次のような点に留意して対応を検討することが必要である。
ア 森林管理局は、介在地等に隣接する国有林野の施業の実施時期までに公益増進協定を締結できるよう、速やかに管内全ての介在地等の所在を把握した上で、森林の状況等の調査を行うこと。
また、林野庁は、速やかに公益増進協定の効果の分析や評価の手法、実施時期を定めて森林管理局に示すとともに、森林管理局においては、国有林野と一体的な整備及び保全を行う必要のある介在地等の民有林所有者等との公益増進協定の締結に向けた合意形成等に資するよう、適時適切に効果の分析や評価を行った上でその評価結果等を活用すること
イ 森林管理局は、システム販売において、販売推進委員会に契約担当部局の者を関与させたり、買受希望価格を評価項目とするなど相手方の選定における買受希望価格の位置付けを明確にしたり、協定量に対する販売量の大幅な超過が見込まれる場合の当該超過分の取扱いをあらかじめ明確にしたりするなどして、契約の透明性や公平性の一層の確保等を図ること。
協定量に対して販売量の大幅な不足が見込まれる場合の具体的な取扱いについて、森林管理署等が管轄している地域の特性に留意しつつ、森林管理署等から適時に木材の生産量の情報を報告させるなど、間伐等の施業の実施状況や木材の販売状況を適時適切に把握する体制を整備するなどして、協定間で供給の調整を行うなど可能な限り不足分の解消を図って安定的かつ計画的な供給に努めること
ウ 林野庁は、路網のネットワーク機能強化事業について、特殊修繕の位置付けを明確にすること、また、森林管理局及び森林管理署等において、山元土場、中間土場等のストックポイントや林道等を有機的に機能させることにより、その効果が十分に発揮されるよう、施策の趣旨を踏まえた上で、ストックポイントや付属路の整備及び林道等の特殊修繕の実施内容や実施方法を適切に選定するとともに、中間土場の適地がない場合には、未利用となっている貯木場等の資産の活用も十分検討するなどして、木材の効率的な生産・販売を実施すること。
また、付属路の整備及び特殊修繕の実施に当たっては、国有林野施業実施計画等における施業の予定に留意して、適切に実施箇所の選定を行うこと
エ 森林管理署等は、森林整備推進協定について、運営会議等を通じて民有林所有者等と綿密に連携したり、過去の森林整備推進協定に基づく施業の実施結果を検証したりするなどした上で、施業団地の設定や森林整備等実施計画を必要に応じて見直すことにより、施業の効率化や低コスト化、国産材の安定的かつ計画的な供給等を図る取組を一層推進すること
オ 林野庁は、林業の低コスト化等に向けた技術開発等について、本庁技術開発委員会の開催時期を見直すなどして、事後評価の評価結果を森林管理局における翌年度の技術開発課題の設定の際に速やかに活用及び反映できるようにすること。
また、森林管理局は、局内の関係部局間における密接な連携を図りながら、新規技術の開発、その実用化及び実用化した新規技術の民間事業体等への普及に一層努めること
カ 一般会計への移行後の借入金の返済については、新たな国民負担を生じさせることなく、林産物収入の増加によって国有林野事業に係る借入金の返済を行うための前提条件となる各施策の効果がこれまで十分に発揮されていない状況に鑑み、林野庁は、システム販売の推進、施業コストの縮減等の施策を確実に実施するよう、より一層努力すること。
また、林野庁は、森林管理局等に対して、債務管理特会が設けられた趣旨を踏まえて、販売等の事業に係る経費を、その内容に応じた適正な歳出科目から支出するよう指導を徹底すること
本院としては、我が国における林業を取り巻く状況や林野庁における借入金の返済状況等を踏まえつつ、国有林野事業の運営等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。