国は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事業であって国が自ら主体となって直接に実施する必要のないものについては、国が設立する法人に当該事業を実施させている。これらの法人が実施する事業には、採算性が高いものであって企業的経営による方がより効率的に継続して実施できるものや民間でも実施が可能なものなど様々なものがある。
上記の法人には、法律により直接設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(以下「特殊法人」という。)、特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人(以下「認可法人」という。)等がある(以下、これらの法人を合わせて「特殊法人等」という。また、各法人の設立の根拠となる法律を「設置根拠法」という。)。
国は、特殊法人等について、その事業が現在及び将来にわたる国民の負担又は法律により与えられた事業独占等の特別の地位に基づいて実施されていることに鑑み、特殊法人等整理合理化計画(平成13年12月閣議決定)等に基づき、法人ごとに事業及び組織形態の見直しを実施している。そして、その一環として、特殊法人等に実施させている事業のうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるなどの事業については、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)及び各法人の設置根拠法に基づいて設立する独立行政法人に当該事業を実施させることとした。
そして、国は、上記の組織形態等の見直しを実施しつつ、特殊法人等が行う事業の公共性・公益性に着目して、的確な事業の遂行及び経営基盤の安定を図るために必要な場合には特殊法人等に出資を行っており、当該特殊法人等の特定の事業の実施及び経営基盤の強化のために必要があると認めるときは、追加出資も行っている。また、国が直接出資する場合のほか、国が出資する法人が特殊法人等に出資している場合もある(以下、国が出資する法人が更に出資している特殊法人等を「間接出資法人」という。)。
これらの特殊法人等の組織形態には、株式会社(以下、株式会社である特殊法人等のうち国が直接又は間接に出資しているものを「政府出資株式会社」という。)と、公庫、事業団、機構等といった株式会社以外の形態(以下、株式会社以外の組織形態である特殊法人等のうち国が直接出資しているものを「非株式会社」といい、政府出資株式会社と合わせて「政府出資株式会社等」という。)とがある。政府出資株式会社等について、国が直接出資する法人及び間接出資法人の別にみると、平成27年3月末現在で、国が直接出資する法人が34法人(注1)、間接出資法人が9法人(独立行政法人が出資している法人が4法人(注2)、政府出資株式会社等が出資している法人が5法人(注3))の計43法人となっている。
国は、前記のとおり、政府出資株式会社等に対して直接又は間接に出資を行い、各種の事業を実施させているが、このうち、一部の政府出資株式会社等については、出資のほかに、設置根拠法等に基づき、国等から補助金、補給金、交付金及び助成金(以下、これらを合わせて「補助金等」という。)の交付、無利子等の融資、債務の保証(以下「債務保証」という。)等の財政支援等を受けている。
政府出資株式会社等の目的、事業の範囲等は、各法人の設置根拠法において定められている。
政府出資株式会社は、その目的である事業(以下「主たる事業」という。)のほか、主たる事業の遂行に支障のない範囲で主務大臣の認可を受けて、法人の目的を達成するために必要な事業を実施することができることとなっている。そして、政府出資株式会社を主たる事業の類型別にみると、高速道路会社、空港会社、鉄道会社、金融機関、官民ファンド等があり、これらの法人は、主たる事業等を単独で又は子会社・関連会社と企業集団を構成して実施している。
また、非株式会社は、預金者等の保護、通貨及び金融の調節等の主たる事業のほか、これに関連するものとして設置根拠法に限定列挙された事業を実施することができることとなっている。
国は、設置根拠法の規定及び政府出資株式会社等に出資したことによって取得した株式や権利に基づき、政府出資株式会社等から、設置根拠法に基づく国庫納付や株主総会の決議等に基づく配当による収入を得ている。
また、国は、各種税法に基づく租税の徴収や国が保有する政府出資株式会社の株式のうち、国に保有義務が課せられていないものを売却することによって収入を得ている。そして、一部の政府出資株式会社の株式については、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下「復興財源法」という。)により、その売却収入が東日本大震災に係る復興債の償還財源として位置付けられている。
国は、政府出資株式会社等の設置根拠法等において、当該法人の公共性、財産の毀損防止等の観点から、政府出資株式会社が発行する株式の国の保有義務や、政府出資株式会社等の事業計画の決定、債券(社債等)の発行、借入れの決定、財務諸表等の提出等に係る主務大臣の認可又は承認についての規定を設けることにより、政府出資株式会社等に対する事業及び財務に係る監督等を実施している。
政府出資株式会社等には、財務状況の透明性等が確保されるよう、その組織形態や事業の特性に応じた会計制度、情報開示制度及び監査制度が設けられている。
政府出資株式会社については、会社法(平成17年法律第86号)に基づき、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)に準拠した計算書類を作成して開示することとなっており、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って、計算書類等を作成することとなっている。そして、株式を上場していたり、債券を発行していたりなどする場合には、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)に基づき、財務諸表等の作成及び開示を行うことが義務付けられている。
また、非株式会社については、設置根拠法、法人ごとに定められた財務及び会計に関する省令並びに「特殊法人等会計処理基準」(昭和62年10月財政制度審議会公企業会計小委員会報告)に基づくなどして財務諸表等の作成及び開示を行うことが義務付けられている。同基準は、特殊法人等の財政状態及び経営成績を明らかにするために、特殊法人等の会計処理及び財務諸表等の作成に関して基本的事項を定めたものである。
そして、非株式会社の中には、「特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針」(平成13年6月財政制度等審議会財政制度分科会法制・公企業会計部会公企業会計小委員会報告。以下「作成指針」という。)に基づき、民間企業として活動を行っているとの仮定に立って、行政コスト計算財務書類を作成して開示している法人もある。
政府出資株式会社等が作成する財務諸表等の監査等については、政府出資株式会社は、会社法等に基づく監査役等及び会計監査人による監査を受けることが義務付けられており、非株式会社は、各法人の設置根拠法等に基づき、監事等が監査を実施したり、財務諸表について設置根拠法等に定められた大臣の承認を受けたりすることとなっている。
国が出資している法人のうち、独立行政法人については、運営の基本となる共通の事項や、財務諸表を作成するに当たって準拠すべき基準(以下「作成基準」という。)が、それぞれ独立行政法人通則法及び「「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定)において定められており、共通の予算・会計制度や目標管理、評価制度等の下で運営されている。
一方、政府出資株式会社等については、会社法が政府出資株式会社に適用されるほかは、その運営の基本となる共通の事項を定めた法律や共通の作成基準等は設けられておらず、各法人の設置根拠法及びこれに基づく予算・会計制度等の下で運営されている。
そして、前記のとおり、その組織形態については、株式会社及び非株式会社があり、財政支援等や監督等を通じた国の関与や、適用される財務報告制度も各法人で異なっている。
国が出資している全法人の出資残高は、25年度末で計56兆1539億余円となっており、このうち独立行政法人94法人への出資残高が計24兆1152億余円となっているのに対して、前記の政府出資株式会社等43法人から国が直接出資する政府出資株式会社等が出資する間接出資法人5法人を除いた政府出資株式会社等38法人に対する国の出資残高は、計19兆5961億余円となっていて、1法人当たりの出資残高でみると、独立行政法人の出資残高よりも多額となっている。
また、国は、これらの政府出資株式会社等の剰余金や利益から国庫納付金や配当として収入を得るとともに、国に保有義務が課せられていない株式を売却して収入を得ており、これらの収入は国の貴重な財源となっている。そして、一部の政府出資株式会社の株式については、復興財源法により、その売却収入が東日本大震災に係る復興債の償還財源と位置付けられていることなどから、売却に向けて必要な検討を着実に行うことが求められている。
そこで、本院は、政府出資株式会社等における事業及び財務の状況等について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 政府出資株式会社等に対する国の出資及び国等によるその他の財政支援等の状況はどのようになっているか。
イ 政府出資株式会社等の事業の実施状況及び財務状況はどのようになっているか。また、国等の財政支援等は政府出資株式会社等の財務にどのような影響を与えているか。
ウ 政府出資株式会社等から国が得ている収入はどのようになっているか。また、政府出資株式会社に係る国の株式保有義務や株式売却等の状況はどのようになっているか。
エ 国は、政府出資株式会社等の事業の適正な実施を確保するためにどのような監督等を行っているか。
オ 政府出資株式会社等の財務報告の状況はどのようになっているか。
表に掲げる政府出資株式会社28法人及び非株式会社10法人の計38法人を対象として、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき提出された21年度から25年度までの財務諸表等のほか、事業及び財務の状況、国等による財政支援等の状況等に係る調書等の提出を求め、これらを在庁して分析するとともに、38法人において会計実地検査を行った。
また、連結決算を行っている政府出資株式会社については、連結財務諸表も活用して事業及び財務の状況等について検査した。
表 検査の対象とした政府出資株式会社等(平成27年3月末現在)
区分 | 法人名 | ||
---|---|---|---|
政府出資株式会社等 (38法人) |
政府出資株式会社 (28法人) |
株式会社日本政策金融公庫 | |
株式会社国際協力銀行 注(1) | |||
東京地下鉄株式会社 | |||
中間貯蔵・環境安全事業株式会社 注(2) | |||
成田国際空港株式会社 | |||
東日本高速道路株式会社 | |||
中日本高速道路株式会社 | |||
西日本高速道路株式会社 | |||
本州四国連絡高速道路株式会社 | |||
日本郵政株式会社 注(3) | |||
株式会社日本政策投資銀行 | |||
輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社 | |||
株式会社産業革新機構 注(1) | |||
新関西国際空港株式会社 注(1) | |||
株式会社農林漁業成長産業化支援機構 注(1) | |||
株式会社民間資金等活用事業推進機構 注(1) | |||
株式会社海外需要開拓支援機構 注(1) | |||
中部国際空港株式会社 | |||
日本電信電話株式会社 注(4) | |||
首都高速道路株式会社 | |||
阪神高速道路株式会社 | |||
日本アルコール産業株式会社 | |||
株式会社商工組合中央金庫 | |||
日本たばこ産業株式会社 | |||
間接出資法人 (4法人) |
北海道旅客鉄道株式会社 注(5) | ||
四国旅客鉄道株式会社 注(5) | |||
九州旅客鉄道株式会社 注(5) | |||
日本貨物鉄道株式会社 注(5) | |||
非株式会社 (10法人) |
沖縄振興開発金融公庫 | ||
日本私立学校振興・共済事業団 | |||
日本銀行 注(6) | |||
日本中央競馬会 | |||
預金保険機構 注(7) | |||
日本司法支援センター | |||
全国健康保険協会 | |||
日本年金機構 注(1) | |||
原子力損害賠償・廃炉等支援機構 注(1) | |||
農水産業協同組合貯金保険機構 注(8) |
政府出資株式会社等38法人における国の出資残高は、25年度末で19兆5961億余円となっている。そして、21年度から25年度までの間に行われた国等による財政支援等については、補助金等が12法人に計8兆0987億余円、運営費交付金が2法人に計1兆4223億余円それぞれ交付されており、また、融資残高は10法人に対して22兆6110億余円(25年度末)、債務保証残高は13法人に対して8兆7603億余円(同)となっている。北海道、四国及び九州各旅客鉄道株式会社では経営安定基金が設けられ、経営安定基金資産の残高は計1兆4034億余円(同)となっており、11法人では法人税法上の公共法人等に該当するとして法人税の優遇措置が講じられている。
政府出資株式会社等においては、各法人の設置根拠法に基づき、それぞれ公共性・公益性の高い事業が実施されており、政府出資株式会社等38法人の事業の実施状況及び財務状況については、次のようになっている。
ア 政府出資株式会社
政府出資株式会社28法人における21年度から25年度までの事業の実施状況をみると、高速道路会社4法人及び空港会社2法人における事業の実施状況を示す指標の値は、21年度に比べて25年度の方が多くなっており、その他の業種の3法人における事業の実施状況を示す指標の値はその増加傾向が顕著になっている。
そして、28法人における25年度の損益の状況については、19法人は単体決算に加えて連結決算を、9法人は単体決算のみを行っている。28法人のうち12法人は、主たる事業のみを行っているが、残りの16法人は、主たる事業以外の事業も行っており、このうち、9法人は、主たる事業で営業損失を計上している一方で、主たる事業以外の事業で営業利益を計上している。また、28法人の単体決算における当期純損益等については、6法人において当期純利益が増加傾向になっている。
イ 非株式会社
非株式会社10法人における21年度から25年度までの事業の実施状況をみると、健康保険事業を行う1法人において、医療給付額の増加率が被保険者数の増加率を上回る状況となっていた。
そして、非株式会社10法人における25年度の損益の状況をみると、いずれも連結決算を行うこととなっておらず、10法人のうち7法人は勘定別に財務諸表を作成している。当期純損益等については、勘定によって当期純損失を計上している法人もある。なお、10法人のうち2法人は、設置根拠法等により収益から費用及び繰越欠損金の合計額を控除した額を責任準備金として積み立てることとなっており、当期利益金は計上されていない。
ウ 財政支援等が政府出資株式会社等の財務に与える影響
国等から補助金等の財政支援等を受けている政府出資株式会社等の損益や純資産等の財務状況は、その効果が反映されたものになっていると考えられる。そして、主たる事業に係る営業損失の額が、他の政府出資株式会社のそれに比べて大きい政府出資株式会社4法人については、地方税の軽減措置等を考慮せずに損益を試算した場合は、営業損失が拡大するなどして、税引前の当期純利益が当期純損失に転ずることとなり、その損益に与える影響は大きいものとなっている。
政府出資株式会社等から国が得ている収入には、国庫納付、配当及び納税によるものがある。また、国が保有する株式の売却収入があり、一部の政府出資株式会社に係る株式の売却収入については、東日本大震災に係る復興債の償還財源として位置付けられている。
そして、各法人の設置根拠法等において国庫納付規定がある法人は、政府出資株式会社2法人及び非株式会社9法人の計11法人であり、このうち国庫納付を行っている法人は、政府出資株式会社等8法人となっている(21年度から25年度までの国庫納付額計4兆1126億余円)。
また、配当については、政府出資株式会社8法人及び非株式会社1法人の計9法人が配当を行っている(21年度から25年度までの国が受領した配当額計9770億余円)。一方で、配当を行っていない政府出資株式会社20法人は、累積損失を計上していたり、剰余金の処分は準備金の積立てと国庫納付のみにより行うこととなっていたり、経営基盤の確立のために内部留保を行っていたりしている。
さらに、法人税等については、法人税法上の公共法人に該当する政府出資株式会社等6法人が非課税となっており、また、同法上の公益法人等に該当する非株式会社5法人は、収益事業から生じた所得がないことから法人税は課されていない。
政府出資株式会社の株式売却の状況については、3法人に係る株式が売却されて、27年6月末までに、国は総額17兆4834億余円の収入を得ている。一方で、1法人に係る株式については設置根拠法において早期に売却する旨の規定があり、その売却収入を東日本大震災に係る復興債の償還財源に充てることとされているものの、株式売却に向けての動きは進捗していない状況となっている。
国は、政府出資株式会社に対する議決権の保有割合に応じて、株主権の行使を通じて、特定の役職員の選任等、剰余金の処分、定款の変更、重要な財産の譲渡等の決定等に係る事項を議決することができることとなっている。また、財務諸表等については設置根拠法に定められた大臣に提出することとなっている。
非株式会社については、設置根拠法等により、非株式会社の長等の任命が主務大臣により行われることなどとなっていたり、事業計画の決定等が主務大臣の認可事項となっていたりしている。また、財務諸表については設置根拠法等に定められた大臣に提出してその承認を受けることとなっている。
政府出資株式会社28法人は、会社法に基づく計算書類等を開示しており、このうち15法人は、この計算書類等のほかに、金融商品取引法に基づく財務諸表等を開示している。また、非株式会社10法人については、設置根拠法等において連結財務諸表の作成は義務付けられておらず、設置根拠法等により作成及び開示並びに監査を義務付けられている財務諸表等(以下「法定財務諸表等」という。)の作成基準等については、3法人は独立行政法人会計基準を適用しており、2法人は設置根拠法において省令等の定めによることとなっていて、省令等に定めのないものについては一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うこととなっている。残りの5法人のうち4法人は特殊法人等会計処理基準を適用している。
財務諸表等の監査等については、政府出資株式会社28法人において、会社法に基づく監査役等及び会計監査人による監査が実施されており、財務諸表等を設置根拠法に定められた大臣に提出することとなっている。非株式会社10法人のうち、設置根拠法等に基づく監事による監査及び会計監査人による監査が義務付けられている法人は、それぞれ10法人及び3法人となっている。また、2法人は任意で会計監査人による監査を受けている。そして、会計監査人の監査を受けていない法人を含めて、全10法人は、財務諸表を設置根拠法等に定められた大臣に提出してその承認を受けなければならないこととなっている。
行政コスト計算財務書類については、作成指針の公表後に設立された非株式会社1法人が法定財務諸表等のみを作成しているが、同法人は、今後、必要に応じて同財務書類に準じた財務情報の開示の要否を検討していくこととしている。
政府出資株式会社等における事業及び財務の状況等について検査したところ、次のような状況となっている。
ア 政府出資株式会社等に対する国の出資及び国等によるその他の財政支援等の状況
政府出資株式会社等38法人における国の出資残高は、25年度末で19兆5961億余円となっている。21年度から25年度までの間に行われた国等による財政支援等については、補助金等が12法人に計8兆0987億余円、運営費交付金が2法人に計1兆4223億余円それぞれ交付されており、また、融資残高は10法人で22兆6110億余円(25年度末)、債務保証残高は13法人で8兆7603億余円(同)、3法人に係る経営安定基金資産の残高は計1兆4034億余円(同)となっており、11法人では法人税法上の公共法人等に該当するとして法人税の優遇措置が講じられている。
イ 政府出資株式会社等における事業の実施状況及び財務状況
政府出資株式会社28法人における21年度から25年度までの事業の実施状況をみると、高速道路会社4法人及び空港会社2法人における事業の実施状況を示す指標の値は、21年度に比べて25年度の方が多くなっており、その他の業種の3法人における事業の実施状況を示す指標の値はその増加傾向が顕著になっている。そして、主たる事業及び主たる事業以外の事業を行っている16法人のうち、9法人は、主たる事業で営業損失を計上している一方で、主たる事業以外の事業で営業利益を計上している。
非株式会社10法人における21年度から25年度までの事業の実施状況をみると、健康保険事業を行う1法人において、医療給付額の増加率が被保険者数の増加率を上回る状況となっていた。そして、非株式会社10法人における25年度の損益の状況をみると、いずれも連結決算を行うこととなっておらず、10法人のうち7法人は勘定別に財務諸表を作成しており、勘定によっては当期純損失を計上している法人もある。
政府出資株式会社等のうち、主たる事業に係る営業損失の額が、他の政府出資株式会社のそれに比べて大きい政府出資株式会社4法人については、地方税の軽減措置等を考慮せずに損益を試算した場合は、営業損失が拡大するなどして、税引前の当期純利益が当期純損失に転ずることとなる。
ウ 政府出資株式会社等から国が得ている収入及び株式売却等の状況
政府出資株式会社等11法人のうち国庫納付を行っている法人は、8法人となっている(21年度から25年度までの国庫納付額計4兆1126億余円)。また、配当については、政府出資株式会社等9法人が配当を行っている(21年度から25年度までの国が受領した配当額計9770億余円)。
政府出資株式会社の株式売却の状況については、3法人に係る株式が売却されて、27年6月末までに、国は総額17兆4834億余円の収入を得ている。一方で、株式の売却収入が東日本大震災に係る復興債の償還財源として位置付けられている1法人に係る株式については設置根拠法において早期に売却する旨の規定があり、その売却収入を東日本大震災に係る復興債の償還財源に充てることとされているものの、株式売却に向けての動きは進捗していない状況となっている。
エ 政府出資株式会社等の事業及び財務に係る国の監督等
国は、政府出資株式会社に対する議決権の保有割合に応じて、株主権の行使を通じて、定款の変更、重要な財産の譲渡等の決定等に係る事項を議決することができることとなっている。また、財務諸表等については設置根拠法に定められた大臣に提出することとなっている。
非株式会社については、設置根拠法等により、事業計画の決定等が主務大臣の認可事項等となっている。また、財務諸表については設置根拠法等に定められた大臣に提出してその承認を受けることとなっている。
オ 政府出資株式会社等の財務報告
財務諸表等の監査等については、政府出資株式会社28法人において、会社法に基づく監査役等及び会計監査人による監査が実施されている。非株式会社10法人のうち、設置根拠法等に基づく監事による監査及び会計監査人による監査が義務付けられている法人は、それぞれ10法人及び3法人となっている。また、2法人は任意で会計監査人による監査を受けている。
行政コスト計算財務書類については、作成指針の公表後に設立された非株式会社1法人が、設置根拠法等により作成及び開示並びに監査を義務付けられている財務諸表等のみを作成しているが、同法人は、今後、必要に応じて同財務書類に準じた財務情報の開示の要否を検討していくこととしている。
国は、政府出資株式会社等に対して、各法人の設置根拠法に基づいて様々な事業を実施させており、総額19兆円を超える規模の出資を行うとともに、一部の法人に対して、補助金等、融資、債務保証等の財政支援等を行っている。そして、国は、政府出資株式会社等の剰余金や利益から国庫納付金や配当として収入を得るとともに、国に保有義務が課せられていない法人の株式を売却して収入を得ている。
一方、一部の政府出資株式会社に係る株式の売却収入は、復興財源法に基づいて東日本大震災に係る復興債の償還財源として位置付けられているが、売却に向けての動きが進捗していない状況も見受けられている。
以上の検査の状況を踏まえて、政府出資株式会社等の事業が引き続き効率的、効果的に実施されるよう、政府出資株式会社等及び関係府省においては、当該法人の事業の特性も考慮しつつ、次の点に十分留意することが必要である。
ア 政府出資株式会社等は、国から出資を受けて公共性・公益性の高い事業を実施していること、一部の法人は、国等から補助金等、融資、債務保証等による財政支援等を受けていることを踏まえて、法人の目的を達成するために引き続き適切に事業を実施すること
イ 政府出資株式会社等は、公共性・公益性の高い事業を実施していることを踏まえ、特に国等から多額の財政支援等を受けている法人においては、その事業が効率的かつ安定的に実施されるよう財務の健全性の確保に努めること
ウ 政府出資株式会社等は、国庫納付金や配当金が国の貴重な財源になっていることを踏まえて、引き続き効率的な経営に努めること
また、国に保有義務が課せられていない政府出資株式会社の株式のうち、その売却収入が東日本大震災に係る復興債の償還財源として位置付けられている株式については、売却に向けた必要な検討を着実に行うよう努めること
エ 国は、政府出資株式会社に対して、経営の自主性を尊重しつつ、引き続き適切に株主権を行使すること。また、政府出資株式会社等に対する認可事項等による国の監督については、当該法人の事業の特性に応じて、各法人の事業がその目的を達成するために適切に行われるよう、引き続き設置根拠法等に基づき適切に行うこと
オ 非株式会社は、財務諸表等の財務報告が、国及び国民において当該法人の事業の実施状況を把握し、その効率性や妥当性を評価する上で不可欠のものであることを踏まえて、財務状況の透明性の向上に努めるとともに、引き続き財務諸表等の作成及び開示を適切に行うこと
本院としては、政府出資株式会社等が国費を財源として事業運営を行っており、その効率的な実施や財務状況の透明性の向上等を図ることが求められていることから、今後とも、政府出資株式会社等における事業及び財務の状況等について、引き続き注視していくこととする。