租税特別措置(以下「特別措置」という。)は、所得税法(昭和40年法律第33号)、法人税法(昭和40年法律第34号)等で定められた税負担に対して、租税特別措置法(昭和32年法律第26号。以下「措置法」という。)に基づいて、特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより、国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとされ、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられているものである。特別措置には、産業政策等の特定の政策目的のための税負担の軽減等を図るもの(政策税制)に係るもののほか、課税の公平確保や納税環境整備を図るための税負担を不当に減少させる行為の防止や手続の特例等に係るものがある。
特別措置全体の項目数は、平成26年4月1日現在で385項目(注1)となっており、その主なものは、所得税関係の特別措置151項目、法人税関係の特別措置116項目及び相続税関係の特別措置27項目となっている。
14年11月に政府税制調査会から内閣総理大臣に答申された「平成15年度における税制改革についての答申」によれば、特別措置は、特定の政策目的を実現するための政策手段の一つであるが、「公平・中立・簡素」という租税原則に反する例外措置であり、政策税制の集中、重点化を図るに当たっては、既存の特別措置等について本格的な統廃合を行うこととされている。
また、26年6月に政府税制調査会から報告された「法人税の改革について」(以下「26年税調報告」という。)においては、法人税改革の具体的な改革事項として、成長志向の法人税改革を行うに当たり、課税ベースの拡大等を行うこととしている。この中で、政策税制については、経済社会環境の変化に応じて必要性と効果を検証し、真に必要なものに限定する必要があるとされていて、特に特定の産業が集中的に支援を受ける優遇措置は、可能な限り廃止又は縮減して、既存産業への政策支援の偏りを是正することにより、新産業が興りやすい環境を整備していく必要があるとされている。
特別措置とは別に、23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害(以下「東日本大震災」という。)の被災者等の負担の軽減を図るなどのために、東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成23年法律第29号。以下「震災特例法」という。)が制定され、この中で、東日本大震災に対する税制上の対応措置(以下「震災特例」という。また、特別措置と震災特例を合わせて「特別措置等」という。)が設けられている。
震災特例全体の項目数は26年4月1日現在で81項目(注2)となっており、その主なものは、所得税関係の震災特例27項目、法人税関係の震災特例21項目及び相続税関係の震災特例11項目となっている。
法人税関係の特別措置等の方式として、法人税を免除し、又は軽減するもの(以下「直接控除」という。)及び一時的にその課税を猶予し、課税の延期を行うもの(以下「課税の繰延べ」という。)の二つの方式がある。そして、直接控除には、税額控除、所得控除、税率の軽減及び非課税といった手法が用いられ、課税の繰延べには、特別償却、準備金等、引当金及び圧縮記帳といった手法が用いられている。このうち、直接控除は、補助金の交付と比較すると、直接的な効果は異なるが、負担軽減やインセンティブ付与の観点から、実質的には減免された税額相当額の補助金を交付されたことと同様の効果があるといわれている。また、課税の繰延べは、投下資金の早期回収効果があるなど、企業の資金繰りに利点があるといわれている。
税制上の措置を行政上の事務事業に導入している行政機関(税制上の措置を行政上の事務事業に導入している行政機関としての財務省を含む。以下「関係省庁」という。)は、毎年度行われる税制改正に当たり、特別措置等の制度ごとに、各政策の目的に基づき、税制の新設、拡充、延長等について要望(以下、関係省庁が毎年度行う税制に関する要望のことを「税制改正要望」という。)する事項を記載した「税制改正要望書」(以下「要望書」という。)を、租税に関する制度の企画、立案等を所掌する財務省に提出している。
税制改正要望の内容については、財務省による要望事項の査定、税制調査会での議論等を経て、税制改正大綱の閣議決定が行われる。そして、この大綱に沿った措置法等の改正案は、閣議決定を経た上で内閣から国会に提出されて、国会で審議、議決された後、施行される。
ア 関係省庁における特別措置に関する政策評価法等に基づく検証
特別措置の検証は、行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号。以下「政策評価法」という。)等に基づき、特別措置の有効性について国民に対する説明責任を果たすことなどを目的として行われ、平成22年度税制改正大綱(平成21年12月閣議決定。以下「22年度大綱」という。)を踏まえ、特別措置も政策評価の義務付け対象に加えられることとなった。具体的には、特定の行政目的の実現のために税負担の軽減又は繰延べを行う特別措置のうち、一定の要件を満たす法人税に係る特別措置(以下「法人税関係特別措置」という。)の新設又は内容の拡充若しくは期限の延長に係る政策を決定しようとする場合に事前評価の実施が義務付けられた。そして、法人税関係特別措置については、政策評価に関する基本計画において事後評価の対象として定めるものとなった。さらに、特別措置の政策評価を円滑かつ効率的に実施するなどのために、政策評価の内容、手順等の標準的な指針を示した「租税特別措置等に係る政策評価の実施に関するガイドライン」(平成22年5月政策評価各府省連絡会議了承。以下「租特ガイドライン」という。)が策定され、必要性等、有効性等及び相当性の点から政策評価を行うこととなった。
「政策評価に関する基本方針」(平成17年12月閣議決定)によれば、政策評価の結果については、各行政機関において、政策評価の結果が税制改正要望等の政策の企画立案作業における重要な情報として適時的確に活用され、当該政策に適切に反映されるようにする必要があるとされている。
そして、租特ガイドラインによれば、特別措置に係る政策評価の実施においては、客観的なデータを可能な限り明らかにし、特別措置の新設、拡充又は延長の適否や特別措置の具体的な内容についての検討に資するよう分析するとともに、分析内容が国民や利害関係者等との議論の共通の土台として用いられ、各行政機関における検討作業や政府における税制改正作業において有効に用いられることが重要であるとされている。
イ 特別措置等に係る税制改正要望の際に行われる検証及び財務省による検証
関係省庁は、政策評価法等に基づく検証のほか、各年度の税制改正要望の際に財務省に提出する要望書において、施策の必要性、手段としての有効性及び要望の措置の妥当性といった点から検証を行うこととなっている。具体的には、特別措置等による減収見込額や政策目標の達成状況を提示することなどにより、当該特別措置等の効果等の検証を行っている。
なお、関係省庁は、要望項目に関する特別措置について政策評価法等に基づく政策評価を実施している場合には、事前評価書等を当該要望書に添付することとなっている。
そして、財務省は、関係省庁から提出を受けた要望書等に基づいて、特別措置等の効果等の検証を行っている。
震災特例については、平成24年度税制改正以降、特別措置と同様の事務手続で改正等が行われているが、政策評価法等において政策評価の実施が義務付けられておらず、震災特例の効果等の検証は、主にこの要望書において行われている。
特別措置に関して、適用実態の調査及びその結果の国会への報告等の措置を定めることにより、適用の状況の透明化を図るとともに、適宜、適切な見直しを推進し、もって国民が納得できる公平で透明性の高い税制の確立に寄与することを目的として、租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律(平成22年法律第8号。以下「租特透明化法」という。)が制定され、22年4月から施行された。
租特透明化法に基づき実施される特別措置の適用実態の調査(以下「適用実態調査」という。)等の概要は、次のとおりである。
そして、25年8月に改正された租特ガイドラインによれば、政策評価において租特透明化法に基づき把握される適用実態等に関する情報等を分析することとされている。
本院は、平成14年度決算検査報告において、特定検査対象に関する検査状況として「租税特別措置法(法人税関係)の実施状況について」を掲記し、措置法の適用状況の把握に努めていくことや、税制改正の際の検証等の内容を充実することにより、施策の実効性を高めていくことが望まれることなどを記述している。また、中小企業者に適用される特別措置の適用範囲について検討するなどの措置を講ずるよう、22年10月に、財務大臣及び経済産業大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により、意見を表示したところである。
少子・高齢化の急速な進展等経済社会の構造が大きく変化している中で、持続的な経済社会の活性化の実現を図る取組として税制改革に期待が寄せられている。特に調査対象特別措置については、適用実態報告書によれば、適用法人数、適用件数及び適用総額のいずれも過去3回の適用実態報告書で増加の傾向が見受けられる状況にあり、また、26年税調報告においては、具体的な改革事項として法人税関係の特別措置の見直しが取り上げられたところである。
さらに、震災特例は、税制以外の他の復興支援施策とともに、東日本大震災からの復興に向けた取組の一層の推進が図られている。
そこで、本院は、政府税制調査会の議論等を念頭に置きながら、法人税関係の特別措置等の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況について、有効性等の観点から、法人税関係の特別措置等の適用状況はどのようになっているか、関係省庁及び財務省による法人税関係の特別措置等の検証は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
23年度適用実態報告書の調査対象特別措置の適用件数1,254,869件、24年度適用実態報告書の調査対象特別措置の適用件数1,323,396件、25年度適用実態報告書の調査対象特別措置の適用件数1,443,402件、計4,021,667件及び震災特例の23年度から25年度までの適用件数267件を対象として検査した。
検査に当たっては、適用実態報告書を分析したほか、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)等に基づき、全524税務署から国税収納金整理資金徴収額計算書の証拠書類として提出されたe―Taxデータ(注4)による法人税確定申告書(以下「e―Taxデータ」という。)、23事業年度52,342法人、24事業年度57,202法人、25事業年度49,382法人、計延べ158,926法人について調査対象特別措置等の適用があった延べ98,487法人のe―Taxデータを分析するなどして検査を行った。
そして、内閣府本府等13府省庁(注5)において、税制改正要望の際に財務省に提出した要望書等や事前評価書等の関係資料における法人税関係の特別措置等の検証状況及び各関係省庁において所管する政策を実現するための手段として基礎的な単位となる事務事業の別に区分した場合の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。また、財務省において、適用実態調査の内容を聴取したり、法人税関係の特別措置等の検証状況等を確認したりするなどの方法により会計実地検査を行った。
法人税関係の特別措置116項目のうち、課税の強化となるものなど32項目を除いた調査対象特別措置84項目(26年4月1日現在で施行されている特別措置)について、25年度適用実態報告書を分析したところ、各調査対象特別措置の適用状況は、適用件数1,441,570件(直接控除方式829,263件、課税の繰延べ方式612,307件)、減収額(財務省試算)1兆4711億円(直接控除方式9809億円、課税の繰延べ方式4902億円)となっていた。
23、24、25各年度の適用実態報告書における調査対象特別措置の適用件数は、23年度1,254,869件、24年度1,323,396件、25年度1,443,402件と増加傾向にあり、財務省が適用実態報告書を基に試算した減収額(26年4月1日現在で廃止されている調査対象特別措置を含む。)は、23年度9049億円、24年度1兆0003億円、25年度1兆4805億円と増加傾向となっていた。減収額の主なものは「試験研究を行った場合の法人税額の特別控除(研究開発税制)」(以下「研究開発税制」という。)が、23年度3395億円(37.5%)、24年度3952億円(39.5%)、25年度6240億円(42.1%)、「中小企業者等の法人税率の特例」が、23年度942億円(10.4%)、24年度999億円(9.9%)、25年度1084億円(7.3%)となっており、各年度いずれもこれらの2項目で全体の約半分を占めていた。
前記法人税関係の特別措置116項目及び震災特例21項目の計137項目のうち、関係省庁が所管する政策に係る特別措置等は109項目となる。そして、109項目の中には、複数の関係省庁の政策目的に関連する法人税関係の特別措置等があり、26年4月1日現在で57項目となっていた。これらについては、当該複数の関係省庁が共同して税制改正要望を行う場合もある。
上記の109項目について、関係省庁から提出された資料等を基に、更に各関係省庁が所管する政策を実現するための手段として基礎的な単位となる事務事業に区分すると、図表1のとおり、特別措置関係216項目、震災特例関係27項目、計243項目(以下、このように区分された法人税関係の特別措置等を「事務事業別特別措置」という。)となっていた。
図表1 事務事業別特別措置の概要
関係省庁 | 特別措置の事務事業別特別措置の項目数 | 震災特例の事務事業別特別措置の項目数 | 左の計 | 左のうち要望事項の取りまとめを行う項目数 |
---|---|---|---|---|
内閣府本府 | 25 | ― | 25 | 19 |
金融庁 | 17 | 1 | 18 | 14 |
復興庁 | 1 | 13 | 14 | 13 |
総務省 | 18 | ― | 18 | 5 |
外務省 | 2 | ― | 2 | ― |
財務省 | 5 | ― | 5 | 3 |
文部科学省 | 2 | ― | 2 | ― |
厚生労働省 | 20 | ― | 20 | 12 |
農林水産省 | 25 | ― | 25 | 11 |
経済産業省 | 40 | 9 | 49 | 26 |
国土交通省 | 37 | 4 | 41 | 28 |
環境省 | 18 | ― | 18 | 14 |
防衛省 | 6 | ― | 6 | 2 |
計 | 216 | 27 | 243 | 147 |
(注) 関係省庁から提出された資料に基づいて作成した。
適用実態報告書によれば、23年度から25年度までの研究開発税制の適用実績は図表2のとおりとなっていて、適用件数についてみると、製造業を中心に幅広い業種で適用されていた。また、適用額についてみると、3か年度分の全業種の適用総額の合計が1兆2254億余円となっていて、このうち「化学工業」が2965億余円(24.2%)と最も多額で、次いで「輸送用機械器具製造業」が2651億余円(21.6%)となっていた。
図表2 研究開発税制の適用実績
業種 | 平成23年度 | 24年度 | 25年度 | 計 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
適用件数 (件) |
適用額 (百万円) |
適用件数 (件) |
適用額 (百万円) |
適用件数 (件) |
適用額 (百万円) |
適用件数 (件) |
適用額 (百万円) |
割合 (%) |
|
農林水産業 | 30 | 94 | 45 | 143 | 33 | 172 | 108 | 410 | 0.0 |
鉱業 | 24 | 651 | 31 | 655 | 27 | 804 | 82 | 2,111 | 0.1 |
建設業 | 350 | 2,976 | 398 | 3,381 | 495 | 4,227 | 1,243 | 10,586 | 0.8 |
製造業 | 6,345 | 274,226 | 7,005 | 302,397 | 7,919 | 474,716 | 21,269 | 1,051,340 | 85.7 |
食料品製造業 | 684 | 10,432 | 719 | 10,550 | 749 | 9,760 | 2,152 | 30,744 | 2.5 |
繊維工業 | 145 | 679 | 158 | 866 | 185 | 1,387 | 488 | 2,934 | 0.2 |
木材、木製品製造業 | 39 | 142 | 40 | 165 | 51 | 187 | 130 | 495 | 0.0 |
家具、装備品製造業 | 32 | 187 | 29 | 183 | 43 | 221 | 104 | 592 | 0.0 |
パルプ、紙、紙製品製造業 | 112 | 1,098 | 119 | 1,457 | 122 | 1,916 | 353 | 4,472 | 0.3 |
新聞業、出版業又は印刷業 | 54 | 408 | 54 | 584 | 59 | 490 | 167 | 1,483 | 0.1 |
化学工業 | 1,148 | 102,600 | 1,200 | 85,012 | 1,349 | 108,977 | 3,697 | 296,590 | 24.2 |
石油製品製造業 | 64 | 1,582 | 73 | 2,219 | 69 | 1,480 | 206 | 5,282 | 0.4 |
石炭製品製造業 | 5 | 63 | 7 | 104 | 8 | 143 | 20 | 312 | 0.0 |
ゴム製品製造業 | 95 | 5,962 | 108 | 8,263 | 115 | 9,070 | 318 | 23,296 | 1.9 |
皮革、同製品製造業 | 11 | 27 | 10 | 53 | 18 | 103 | 39 | 184 | 0.0 |
窯業又は土石製品製造業 | 175 | 7,592 | 192 | 5,023 | 215 | 7,959 | 582 | 20,574 | 1.6 |
鉄鋼業 | 92 | 1,668 | 91 | 1,061 | 110 | 7,496 | 293 | 10,227 | 0.8 |
非鉄金属製造業 | 77 | 1,076 | 113 | 1,430 | 130 | 3,555 | 320 | 6,062 | 0.4 |
金属製品製造業 | 556 | 3,889 | 623 | 4,372 | 741 | 5,386 | 1,920 | 13,648 | 1.1 |
機械製造業 | 730 | 20,813 | 892 | 40,270 | 999 | 48,546 | 2,621 | 109,630 | 8.9 |
産業用電気機械器具製造業 | 581 | 21,907 | 622 | 20,814 | 741 | 27,663 | 1,944 | 70,385 | 5.7 |
民生用電気機械器具電球製造業 | 127 | 747 | 178 | 3,241 | 181 | 7,861 | 486 | 11,850 | 0.9 |
通信機械器具製造業 | 114 | 2,029 | 136 | 4,316 | 148 | 5,951 | 398 | 12,297 | 1.0 |
輸送用機械器具製造業 | 393 | 29,182 | 437 | 64,266 | 540 | 171,745 | 1,370 | 265,194 | 21.6 |
理化学機械器具等製造業 | 252 | 7,352 | 273 | 5,000 | 282 | 8,004 | 807 | 20,356 | 1.6 |
光学機械器具等製造業 | 90 | 19,339 | 97 | 2,300 | 117 | 4,111 | 304 | 25,751 | 2.1 |
時計、同部品製造業 | 6 | 71 | 9 | 116 | 10 | 71 | 25 | 259 | 0.0 |
その他の製造業 | 763 | 35,371 | 825 | 40,719 | 937 | 42,619 | 2,525 | 118,711 | 9.6 |
卸売業 | 1,270 | 12,897 | 1,344 | 8,438 | 1,482 | 12,370 | 4,096 | 33,706 | 2.7 |
小売業 | 207 | 1,850 | 212 | 1,344 | 222 | 1,227 | 641 | 4,421 | 0.3 |
料理飲食旅館業 | 27 | 27 | 21 | 26 | 38 | 25 | 86 | 80 | 0.0 |
金融保険業 | 23 | 192 | 26 | 200 | 35 | 2,223 | 84 | 2,617 | 0.2 |
不動産業 | 35 | 258 | 35 | 97 | 41 | 79 | 111 | 435 | 0.0 |
運輸通信公益事業 | 65 | 23,220 | 70 | 23,173 | 103 | 31,618 | 238 | 78,012 | 6.3 |
サービス業 | 1,043 | 7,554 | 1,175 | 4,720 | 1,346 | 7,580 | 3,564 | 19,855 | 1.6 |
その他 | 61 | 6,469 | 82 | 4,945 | 110 | 10,497 | 253 | 21,912 | 1.7 |
計 | 9,480 | 330,421 | 10,444 | 349,524 | 11,851 | 545,544 | 31,775 | 1,225,490 | 100.0 |
適用実態報告書では、「化学工業」及び「輸送用機械器具製造業」に含まれる具体的な適用業種の内訳については明らかにされていないことから、e―Taxデータにより集計した研究開発税制の適用総額2467億円(繰越控除制度分は集計から除いている。)のうち、「化学工業」及び「輸送用機械器具製造業」の適用件数及び適用額を適用業種ごとに更に細分類したところ、適用件数は、幅広い業種で適用されていた。一方、適用額は、「化学工業」のうち「医薬品製造業」が618億円で、化学工業全体の適用額743億円の83.1%を占めており、「輸送用機械器具製造業」のうち「自動車・同付属品製造業」が819億円で、輸送用機械器具製造業全体の適用額850億円の96.4%を占めていた。
前記のとおり、調査対象特別措置のうち、研究開発税制に係る減収額が最も多額であることから、23、24、25各年度の適用実態報告書により研究開発税制の適用による減収額の多額な単体法人(注6)上位10法人、連結法人(注7)上位10法人、計20法人の状況をみたところ、これらの20法人で各年度の研究開発税制に係る減収額全体の38.6%(23年度)、41.9%(24年度)、50.2%(25年度)を占めていた。そして、研究開発税制の減収額23年度3395億円、24年度3952億円、25年度6240億円のところ、減収額が100億円を超える法人は、23年度3法人、24年度5法人、25年度8法人となっていた。
法人税関係の震災特例は、東日本大震災により被災した法人等の負担の軽減を図るなどのための税制上の政策手段として震災特例法において規定されている。その内容は、震災損失の繰戻しによる法人税額の還付、復興産業集積区域等において機械等を取得した場合の特別償却等となっていて、前記のとおり26年4月1日現在で21項目ある。
震災特例は、適用実態調査の対象とされていないことから、上記の震災特例21項目のうち、手続の特例等6項目を除いた15項目(以下「法人税関係震災特例」という。)について、23、24、25各事業年度のe―Taxデータにより集計したところ、各法人税関係震災特例の適用状況は、適用件数は267件、適用総額は直接控除方式のうち税額控除が7億余円、課税の繰延べ方式のうち特別償却が53億余円となっていた。
ア 関係省庁における政策評価の実施状況
関係省庁は、前記のとおり、特定の行政目的の実現のために税負担の軽減又は繰延べを行うもので一定の要件を満たす法人税関係特別措置については、政策評価法に基づく事前評価及び事後評価を実施することが義務付けられている。そして、事前評価にあっては法人税関係特別措置の新設、内容の拡充又は期限の延長に係る政策を決定しようとする場合に政策評価を行うこととされ、事後評価にあっては、政策評価に関する基本計画に基づき行わなければならないこととなっている。租特ガイドラインによれば、事前評価については、税制改正要望に際して行うこととされ、事後評価については、基本計画の期間を踏まえ、3年から5年に1回は行うことを原則とし、その際には、政策評価の必要性の高いものから計画的に取り組むこととされている。
前記の13府省庁が26年4月1日現在で所管している事務事業別特別措置の政策評価の単位の件数及び政策評価の実施状況は図表3のとおり、政策評価の単位の件数338件(関係省庁ごとの重複分を含む。)に対して、22年度から26年度までの間に政策評価を実施した件数は291件(関係省庁ごとの重複分を含む。)となっている。
なお、上記事務事業別特別措置のうち、政策評価が義務付けられている法人税関係特別措置について、22年度から26年度までの間に事後評価等を実施していないものが24件見受けられた。関係省庁は実施していない理由について、必要に応じて他の事務事業別特別措置の政策評価を優先するなどしたためであり、未実施のものは今後順次実施する予定であるなどとしている。
図表3 事務事業別特別措置の政策評価の単位の件数及び政策評価の実施状況
関係省庁 | 政策評価の単位の件数 | 政策評価実施件数 | 政策評価未実施件数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成 22年度 |
23年度 | 24年度 | 25年度 | 26年度 | 政策評価の義務付け対象 | 政策評価の義務付け対象外 | |||
内閣府本府 | 17 | 16 | 2 | 6 | 4 | 9 | 5 | 1 | 0 |
金融庁 | 21 | 14 | 3 | 4 | 7 | 4 | 3 | 3 | 4 |
復興庁 | 14 | 12 | 0 | 0 | 6 | 6 | 0 | 0 | 2 |
総務省 | 17 | 15 | 2 | 4 | 5 | 8 | 7 | 1 | 1 |
外務省 | 2 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
財務省 | 6 | 2 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 4 |
文部科学省 | 2 | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 0 | 0 |
厚生労働省 | 21 | 21 | 10 | 6 | 11 | 10 | 11 | 0 | 0 |
農林水産省 | 59 | 55 | 32 | 7 | 27 | 15 | 13 | 1 | 3 |
経済産業省 | 49 | 45 | 11 | 19 | 13 | 22 | 8 | 2 | 2 |
国土交通省 | 110 | 92 | 24 | 11 | 23 | 66 | 18 | 11 | 7 |
環境省 | 14 | 10 | 3 | 3 | 4 | 3 | 4 | 4 | 0 |
防衛省 | 6 | 6 | 2 | 0 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 |
計 | 338 | 291 | 92 | 62 | 106 | 148 | 70 | 24 | 23 |
イ 要望書による検証状況
前記の13府省庁が26年4月1日現在で所管している事務事業別特別措置のうち、25、26、27各年度の税制改正要望が行われたものに係る要望書の提出件数は、それぞれ83件、102件、66件となっていた。
財務省は、関係省庁に対して税制改正の方針についての説明を行い、その後関係省庁から事前評価書等や事務事業別特別措置の適用状況を関係省庁が独自で調査した書類等が添付された要望書の提出を受けて、これらに基づいて要望内容の審査やヒアリングを行うなどして税制改正要望事項を査定している。そして、財務省は、事務事業別特別措置の効果等の検証を行い、不特定多数の適用を想定していながら適用額が特定の者に偏っていたり、適用件数が少なかったりしているものなどについて、適用対象を限定したり、本来の政策目的を促進するために要件を強化又は緩和したり、効果が十分には期待できないことから廃止したりするなどの税制改正の提案をしていた。
ウ 適用実態調査情報及び適用実態報告書の活用状況
25年度又は26年度に政策評価を行った調査対象特別措置の所管課における適用実態調査情報又は公表されている適用実態報告書(以下「実態調査情報等」という。)の活用状況についてみると、政策評価を行うに当たり実態調査情報等を活用していたものは62件となっていて、このうち28件については、複数の関係省庁が共同して税制改正要望を行う場合に取りまとめを行う関係省庁(以下「取りまとめ省庁」という。)が実態調査情報等を活用していたものであり、取りまとめ省庁以外の関係省庁も取りまとめ省庁と同一のデータを使用していた。
実態調査情報等が活用されていなかったものは95件となっていて、関係省庁は活用していなかった理由について、実態調査情報等は特別措置の条文を単位とした適用数や適用総額が記載されており、政策評価の単位が実態調査情報等の単位より詳細な場合には活用することができないなどとしていた。
エ 調査対象特別措置の適用実態等からみた検証状況
(ア) 減収額と減収見込額とに開差がある調査対象特別措置の検証状況
24年度適用実態報告書及び25年度適用実態報告書の「法人税関係特別措置の概要及び適用件数・適用法人数・適用総額(総括表)」(以下「総括表」という。)に掲記された26年4月1日現在で施行されている調査対象特別措置のうち、税率の軽減及び税額控除に係るものは15項目である。これらの15項目のうち適用総額が1億円以上のものなど9項目について、総括表に掲記された適用総額から、24、25両年度における税率の軽減に係る減収額及び税額控除に係る減収額を本院で試算し(注8)、これらの減収額と事前評価書等において各関係省庁が試算した減収見込額とを比較すると、研究開発税制の税額控除に係る減収額については、関係省庁における24年度分の減収見込額2591億円に対して、同年度分の減収額が3494億円で、その開差は903億円となっており、減収額が減収見込額を大きく上回る状況となっていた。この減収額については、26年度事前評価や27年度税制改正要望の際に、減収見込額との比較やその分析等が可能であった。
しかし、このような状況に関する分析や検討の結果について、26年度の事前評価書や27年度税制改正要望の際に提出する要望書において説明されることなく、当該研究開発税制に係る関係省庁から拡充等の要望がなされていた。
(イ) 幅広い企業や業種を対象としながら、適用実態が特定の企業に集中している調査対象特別措置の検証状況
26年度税制改正要望又は27年度税制改正要望に際して検証を実施した調査対象特別措置のうち、不特定多数の適用が想定されるものであって、上位10法人の適用額の合計が適用総額の80%を超えていて、かつ、適用法人数が20法人以上であるものを23年度適用実態報告書及び24年度適用実態報告書の「個別措置の適用概況一覧」等から抽出すると5項目であり、これらの事前評価書や要望書における検証状況をみると、適用数については特定の業種や企業に偏りがないなどの説明があるものもある一方、適用額からみた偏りについては、いずれにおいても説明がなされていない。
(ウ) 26年4月1日現在で創設後20年以上経過した調査対象特別措置の検証状況
26年4月1日現在で創設後20年以上経過した調査対象特別措置48項目のうち、期限の定めのないものは18項目であり、これらについては、関係省庁において、一部の所管課を除き、22年度から26年度までに事後評価等が行われている。そして、関係省庁は、事後評価が実施された調査対象特別措置については、いずれも引き続き必要な措置であるとし、事後評価の評価結果の反映の方向性を引き続き継続するとしている。
また、上記48項目のうち、期限の定めのある調査対象特別措置は30項目であり、これらの検証状況についてみると、既存の調査対象特別措置を新たに設定した政策目的を達成する手段とするものや、目的を達成していないなどのため、いずれも延長や縮減を行うなどして存置されていた。そして、このうち特別償却に関するものは11項目となっているが、9項目については、23年度以後の税制改正の結果、縮減等要件の見直しが行われているものの、要望の段階では延長となっているものもあった。
(エ) 適用実態等からみて必要最小限の措置となっているかという点での検証状況
前記の13府省庁から提出された調査対象特別措置における26、27両年度の税制改正の際の要望書の提出状況をみると、それぞれ52件、56件となっており、これらのうち拡充の要望又は延長及び拡充の要望(以下、これらを合わせて「拡充等の要望」という。)に係る要望書の提出件数は、それぞれ24件、22件、計46件となっていた。これらの46件について拡充等の要望を行った理由をみると、「経済状況が悪化したため」、「新たな政策目的が立案されたため」としているものが多い状況となっていた。また、「特別措置の適用が少なかったため」としているものの適用が少なかった理由については、関係省庁からの聞き取りによると、適用の要件が厳しいことなどとなっていた。
22年度大綱によれば、政策税制措置を拡充する場合には、適用実態等からみて、課税の公平原則に照らし、国民の納得できる必要最小限の措置となっているかなどの指針を踏まえて、緊要性を厳格に判断することとされている。また、要望書の記載要領によれば、要望書の「要望の措置の妥当性」欄においては、国民の納得できる必要最小限の措置となっているか否かを記載することとされている。
26、27両年度の税制改正の際に拡充等の要望を行った調査対象特別措置のうち、税制改正要望の際に実態調査情報等の活用が可能であった17項目について、その検証状況をみると、関係省庁は、16項目について必要最小限の措置となっているかの検証を行ったとしていた。しかし、必要最小限と判定した理由についてみると、拡充しようとする措置の内容が適用実態等からみて拡充後もなお必要最小限であるとする説明が必ずしも十分なされていないものが見受けられ、必要最小限の措置となっているかということの検証が十分なされていないと思料される状況となっていた。
少子・高齢化の急速な進展等経済社会の構造が大きく変化している中で、持続的な経済社会の活性化の実現を図る取組として税制改革に期待が寄せられている。そして、26年税調報告においては、特別措置の見直しについても法人税改革の具体的な改革事項として取り上げられているところである。
さらに、震災特例は、税制以外の他の復興支援施策とともに、東日本大震災からの復興に向けた取組の一層の推進が図られている。
このような特別措置等を取り巻く状況を踏まえ、本院は、法人税関係の特別措置等の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況を検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 調査対象特別措置等の適用状況
イ 法人税関係の特別措置等の検証状況
特別措置等は、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられているものであり、その効果等を不断に検証して、真に必要なものに限定すべきであるとされている。
関係省庁においては、実態調査情報等を一層活用することなどにより、適用額からみた業種や企業の偏りの状況や、特別措置の適用に伴う減収額が減収見込額を上回る状況等について、検証内容を一層充実させ、拡充等の要望に当たっては適用実態等からみて拡充後もなお措置の内容が必要最小限であるとする説明を十分行い、特別措置の実効性を高めるとともに、国民に対する説明責任を的確に果たしていくことが望まれる。
また、財務省においては、特別措置等について今後とも十分に検証していくことが望まれる。
本院としては、今後とも法人税関係の特別措置等の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況について、引き続き注視していくこととする。