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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 平成27年3月

東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について

第2 検査の結果

1 東日本大震災に伴う被災等の状況

(1) 被害等の状況

オ 東日本大震災における被害額の推計
(ア) 被害額の推計の経緯

東日本大震災の発生直後、被害の全体像が十分に把握できない中で、国は、被災地の復旧・復興に関する関係各方面の議論の参考に資するために、官民全ての建築物、ライフライン施設、社会基盤施設等のストックの被害額について推計を行うこととした。

内閣府は、震災発生の2か月後の23年5月、各省庁及び特定被災地方公共団体である被災9県に対して、住宅、公共土木施設、農林水産関係施設等の推計対象施設等を示して、それぞれが所管し又は管理する施設等に係る被害額を可能な限り積み上げるなどして取りまとめて提出するよう依頼するとともに、自らも住宅等、民間企業の土地・建築物・機械設備等の施設等に係る被害額の推計を実施した。その際に、内閣府は、被害額には東日本大震災による機会損失、得意先の喪失、風評被害等の間接被害及び原子力災害による被害は含めず、直接被害により生じた額のみを推計することとした。また、被害額の算出に当たっては、震災発生後間もない時期であり、被災地においては復旧等で混乱している状況等を考慮して、再調達価格(注4)や減価償却後の価格(注5)の積み上げのほか、時価の積み上げなどの他の手法による推計も許容した。そして、推計する時点で把握していない被害分については、適宜何らかの方法により必ず推計を行うこととした。

内閣府から依頼を受けた各省庁は、被害の状況がより明確になるよう適宜推計対象施設等を細分化するとともに、地方支分部局、関係各都道府県、関係団体等に作業を依頼したり、本省庁自ら被害額を推計したりすることにより、被害額を取りまとめて、内閣府に提出した。また、被災9県も、関係市町村、関係団体等に作業を依頼したり、自ら被害額を推計したりすることにより、被害額を取りまとめて、内閣府に提出した

内閣府は、これらを取りまとめて、同年6月に公表している(以下、内閣府が取りまとめた被害額の推計を「内閣府の推計」という。)。

そこで、内閣府の推計は、どのような状況の下で、どのような方法により実施され、また、活用されたのかなどに着眼して検査した。

(注4)
再調達価格
施設が全壊した場合若しくは物品が全損した場合、当該施設若しくは物品の従前の効用を復旧するために必要な価格又は施設若しくは物品を原形に復旧することが可能な場合、復旧に要すると見込まれる価格のことであり、減価償却前の価格である。積算関係の資料による積み上げ、業者の見積り、統計資料の平均工事額、統計資料の平均購入額等により算出する。
(注5)
減価償却後の価格
施設等の被災時の価格のことであり、減価償却後の価格である国有財産台帳価格又は民間企業の帳簿価額に損壊の程度を考慮した係数を乗ずるなどして算出する。
(イ) 推計の状況

a 施設等別・県別の状況

内閣府の推計について、住宅等、公共土木施設等の施設等別に、それぞれの施設等が所在する県別に分類すると、表9のとおりであり、その合計は約16.9兆円に上っている。

表9 内閣府の推計の施設等別・県別の内訳

(単位:億円)

施設等 所在県名
青森県 岩手県 宮城県 福島県 茨城県 栃木県 千葉県 新潟県 長野県 その他
建築物等 住宅等 185 5431 2兆 6164 1兆 0703 9053 3179 2177 109 55 1886 5兆 8947
民間企業の土地・建築物・機械設備等 155 4475 1兆 6444 8804 6963 2747 815 105 48 - 4兆 0559
その他(自動車、船舶等) 128 730 2767 520 267 4 272 0 0 184 4876
469 1兆 0636 4兆 5376 2兆 0028 1兆 6284 5931 3266 215 103 2071 10兆 4384
ライフライン施設 水道 0 43 317 73 154 24 91 1 2 13 723
ガス 0 21 275 11 6 0 11 0 0 0 328
電気 - - - - - - - - - 1兆 1170 1兆 1170
通信・放送施設 0 18 47 6 1 2 5 0 - 1154 1237
1 82 641 90 163 26 109 1 2 1兆 2338 1兆 3458
社会基盤施設 公共土木施設(海岸、河川、下水道、道路、港湾等) 14 312 3634 403 227 - 207 2 - 1兆 3462 1兆 8264
その他(鉄道、高速道路、空港等) 22 543 1172 516 90 40 331 10 10 667 3405
36 855 4807 920 317 40 538 12 10 1兆 4129 2兆 1669
農林水産関係施設 農地・農業用施設等 4 300 4272 2383 388 117 152 12 4 7 7643
林野関係施設等 26 199 628 192 50 31 3 18 40 3 1195
水産関係施設等 180 1431 6568 809 573 0 37 0 0 339 9939
211 1931 1兆 1468 3386 1012 149 193 31 44 350 1兆 8778
その他の施設 文教施設 50 944 2431 1414 1442 421 207 10 4 539 7466
保健医療・福祉関係施設 0 208 247 114 200 27 22 11 1 - 835
廃棄物処理・し尿処理施設 14 35 66 44 27 5 12 1 0 10 216
その他公共施設等 13 152 817 175 210 8 38 0 0 932 2349
78 1340 3562 1747 1880 462 281 23 6 1482 1兆 0867
合計 798 1兆 4847 6兆 5856 2兆 6173 1兆 9657 6609 4389 285 167 3兆 0373 16兆 9158
注(1)
「その他」欄は、県別の被害額が集計されていないなどのため、県別の分類が困難なもの又は被災9県以外の都道県に所在するものである。
注(2)
本表は、平成23年6月時点で把握できた数値であり、表の施設等及び所在県の中には調査中として集計されていないものがある。
注(3)
平成23年6月に内閣府が公表した資料においては、県別の内訳は示されていない。

施設等別にみると、建築物等は、住宅等、民間企業の土地・建築物・機械設備等のほか自動車、船舶等であり、これらの被害額は計10兆4384億余円となっている。建築物等の被害額には、建物の全壊、半壊等の被害額のほか、地盤沈下、液状化等による宅地等の被害額も含まれている。

ライフライン施設は、水道、ガス、電気及び通信・放送施設であり、これらの被害額は計1兆3458億余円となっている。

社会基盤施設は、国土交通省所管の公共土木施設(海岸、河川、下水道、道路、港湾等)のほか、鉄道、高速道路、空港等であり、これらの被害額は計2兆1669億余円となっている。

農林水産関係施設は、農地・農業用施設等、林野関係施設等及び水産関係施設等であり、これらの被害額は計1兆8778億余円となっている。農林水産関係施設の被害額には、農業用施設、木材加工・流通施設、漁港施設等の被害額のほか、農地、農作物・家畜等、漁船、養殖物等の被害額も含まれている。これらの施設等のうち、農業・畜産関係施設、漁船、共同利用施設等の被害額については、推計が困難なこと、調査中であったことなどから、内閣府の推計には、宮城県及び栃木県を除く7県の一部の施設等の被害額が含まれていない。

その他の施設は、学校施設、社会教育・社会体育・文化施設等の文教施設、病院、社会福祉施設等の保健医療・福祉関係施設、廃棄物処理・し尿処理施設並びに各府省庁及び地方公共団体の庁舎・関連施設等であり、これらの被害額は計1兆0867億余円となっている。その他の施設の被害額には、文化財、航空機、船舶、防衛省の装備品等の被害額も含まれている。

甚大な被害を受けた岩手県の被害額が同様の被害を受けた宮城県、福島県等の他県と比べて少なくなっているのは、岩手県では、内閣府から取りまとめの依頼があった時点で既に公表するなどしていた施設等の被害額を内閣府等に報告したことから、被害の状況が判明していなかった施設等の被害額が内閣府の推計に反映されなかったこと、前記の農林水産関係施設やその他の施設の地方公共団体の庁舎・関連施設等、消防施設、社会福祉施設等の被害額が調査中であったことなどによる。

そして、前記のとおり、内閣府は、被害額に原子力災害による被害を含めないこととしていることから、内閣府の推計には、福島第一原発の事故による避難や汚染等の被害額は含まれていない。また、内閣府の推計は、被災地の復旧・復興に関する関係各方面の議論の参考に資するために、東日本大震災の全体被害規模の推計を行ったものであり、その当時の状況等から、国費による復旧等の対象となる施設等とその対象とならない施設等を分類して集計することはしていない。

b 施設等別の被害額の推計方法

主な施設等の被害額の推計方法は、次のとおりであった。

(a)住宅等

内閣府は、消防庁が公表している「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震被害報」(以下「被害報」という。)等のうち、23年6月に公表された住宅の被害棟数約56万棟の被害状況を基に住宅の被害額を算出しているが、1棟ごとの被害額を把握して積み上げることが困難なことから、各住宅の経過年数、面積等によらず、全壊の住宅については国土交通省が公表している「建築着工統計調査報告」を用いて県別に算出した1棟当たりの工事費予定額(約1800万円/棟~2400万円/棟、再調達価格)を、半壊の住宅についてはその50%を、一部損壊の住宅についてはその20%をそれぞれ乗じた上で合算して被害額を算出していた。さらに、被害報等の集計に間に合わなかった被害住宅について、その分の被害額を加える必要があるとの判断から2割程度加算する補正を行うなどして、住宅等の被害額を5兆8947億余円と推計していた。

このように、内閣府の推計では、県ごとに一律の工事費予定額を使用するなどして被害額を推計していたが、これは、未曾有の大震災という状況の下で、住宅等について、1棟ごとに建築年次等に基づき評価額を積み上げることや再築又は修繕等の別にそれぞれ費用を積み上げることが困難なことなどのためであるとしている。

また、国は、通常、暴風雨、豪雨等の災害時に住宅の被害額を算出していないが、市街地における被害が甚大であった阪神・淡路大震災の全体の被害額を推計した際には、再調達価格により算出した住宅の被害額を含めて算出していたことから、内閣府は、東日本大震災に係る住宅等の被害額についても、阪神・淡路大震災の際と同様に再調達価格により推計していた。

なお、住宅の被害額に被害時の現在価値を反映させるためには減価償却を考慮した価格を使用することも考えられる。そこで、内閣府が別途公表している社会資本ストックに係る統計資料等を用いて再調達価格に対する減価償却控除後の資産額の比率を算出すると0.48程度となり、これを適用して住宅の被害額を試算すると、その額は半額程度になる。

(b)民間企業の土地・建築物・機械設備等

内閣府は、同府の統計データである「民間企業資本ストック」及び総務省が公表している「事業所・企業統計調査」を用いて県別・産業別の資本ストック(再調達価格)を算出し、これに県が公表した被害状況等から算出した県別の被害割合(県内の住宅総数に対する被害住宅の割合)を一律に乗じて、県別・産業別の資本ストックに対する被害額を算出していた。そして、これらを集計して民間企業の土地・建築物・機械設備等の被害額を4兆0559億余円と推計していた。

このように、内閣府の推計では、建築物や機械設備の経過年数等によらずに、上記の資本ストックを使用していたが、これは、民間企業の土地・建築物・機械設備等についても、1か所ごと、1棟ごと又は1台ごとに被害額を把握して積み上げることが困難なことなどのためであるとしている。

(c)電気

経済産業省は、各電気事業者の損益計算書の特別損失のうち災害特別損失等の額を合算して、被害額を1兆1170億円としていた。この災害特別損失等の額は、修繕費用等を見積りにより算出したり、滅失資産の簿価相当額により算出したりして計上されているため、被害額は再調達価格によるものと減価償却後の価格によるものとが混在したものになっていた。

(d)公共土木施設(海岸、河川、下水道、道路、港湾等)

公共土木施設については、災害の速やかな復旧を図ることを目的として、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法施行令(昭和26年政令第107号。以下「負担法施行令」という。)等によれば、地方公共団体の長は、災害が生じた場合には、被害等の状況を速やかに主務大臣等に報告しなければならないとされており、また、新たに被害の状況が判明した場合においても、その状況を随時、報告することとされている。このため、国土交通省は、内閣府から取りまとめの依頼があった時点で地方公共団体等から報告を受けていた公共土木施設の被害額等を集計して、1兆8264億余円としていた。

災害復旧事業は被災した施設を原形に復旧することなどを目的とするものであるため、国土交通省が報告を受けた被害額は再調達価格となっていた。

(e)水産関係施設等

水産関係施設等については、(d)の国土交通省所管の公共土木施設と同様に、負担法施行令等の規定によれば、地方公共団体の長は、災害が生じた場合には、その状況を速やかに主務大臣等に報告しなければならないとされており、また、新たに被害の状況が判明した場合においても、その状況を随時、報告することとされている。このため、農林水産省は、内閣府から取りまとめの依頼があった時点で地方公共団体から報告を受けていた水産関係施設等の被害額等を集計して、9939億余円としていた。

水産関係施設等の被害額は、前記の公共土木施設と同様に、当該施設等を原形に復旧するなどのために必要な価格等であるため、被害額は再調達価格等となっていた。

(ウ) 各府省庁等による被害額の推計に対する検査結果

前記のとおり、内閣府の推計は、被災地が復旧等で混乱している中、約1か月という短期間で集計されたものであり、被害額を推計するために使用された資料や当時の経緯等の記録について残されたものは限られていた。会計検査院は、各府省庁及び東北3県において、被害額はどのように調査、集計されたかなどについて、これら残された資料の範囲で検査した。検査の結果、各府省庁等において、被害額に推計の対象とならないものなどを一部含めていたり、被害額に反映していなかったりしていたものが、次のとおり見受けられた。

a 被害額に推計の対象とならないものなどを一部含めていたもの

前記のとおり、内閣府は、被害額に原子力災害による被害を含めないこととしている。

そして、経済産業省は、(イ)b(c)のとおり、各電気事業者の損益計算書の特別損失のうち災害特別損失等の額を合算して電気に係る被害額を1兆1170億円としていたが、この中には、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の平成22事業年度財務諸表の災害特別損失に計上されていた「原子炉等の冷却や放射性物質の飛散防止等の安全性の確保等に要する費用または損失」4262億余円及び「福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の原子炉の安全な冷温停止状態を維持するため等に要する費用または損失」2118億余円が含まれていた。しかし、これらは、福島第一原発の事故の発生に伴う安全性の確保や施設の維持等に要する費用であり、ストックの直接被害ではなく間接的な被害額であると認められる。

また、国土交通省は、その他公共施設等に含まれている航空機26億円について、海上保安庁も内閣府に報告していたことが判明したため、この重複を修正する旨の報告を内閣府に提出したが、内閣府はこれを反映していなかった。

b 被害額に反映していなかったもの

公共土木施設、水産関係施設等の施設等については、前記のとおり、内閣府から各省庁に対して被害額の取りまとめの依頼があった時点で地方公共団体から報告を受けていた被害額を集計して内閣府に報告していたため、被害の状況が判明していなかった施設等の被害額は、内閣府の推計に反映されていなかった。

また、内閣府から依頼を受けた各省庁は、適宜対象施設等を細分化するなどして被害額を集計していたが、その際に施設等の一部について集計に含めていなかったものが見受けられた。

なお、内閣府の推計が公表された後、多くの府省庁や被災県では、改めて被害額の調査を行っていないことなどから、内閣府の推計に反映されていなかった被害額を集計することはできなかった。

(エ) 内閣府の推計の活用

23年7月に決定された復興基本方針では、復興期間を10年間とし、復興需要の高まる当初の5年間を「集中復興期間」と位置付けるとともに、集中復興期間に実施すると見込まれる施策・事業の事業規模については、国・地方を合わせて、少なくとも19兆円程度が見込まれるとされた。

復興庁によれば、当時の東日本大震災復興対策本部は、この19兆円については、阪神・淡路大震災の際の復旧・復興費用(9.2兆円)を参考にして、同震災の被害推計額(9.9兆円)と今回の内閣府の推計額(16.9兆円)との比率(1.7倍)を勘案するなどして救助・復旧に必要となる費用を10.4兆円、復興に要する費用を5.3兆円とそれぞれ算出し、この額にリーマンショック以降の金融危機に際して実施した中小企業に対する資金繰り支援と同程度の2.5兆円及び阪神・淡路大震災の際に講じられた全国の緊急防災・減災事業と同程度の1.3兆円を加えたものであったとしている。

また、内閣府の推計は、上記のほかにも、被災地の復旧・復興に向けた多くの会議等の資料として活用されている。

(オ) まとめ

内閣府の推計は、被害の全体像を十分に把握できない状況の中で、被災地の復旧・復興に関する関係各方面の議論の参考に資するために、震災発生の3か月後の23年6月に被災地が復旧等で混乱している中で取りまとめられたものである。被害額の算出に当たっては、再調達価格や減価償却後の価格の積み上げのほか、時価の積み上げなどの他の手法による推計も許容していて、同月時点で把握されていない被害分についても何らかの方法により推計を行うこととしている。そして、原子力災害による被害額は推計に含めないこととしており、また、国費による復旧等の対象となる施設等とその対象とならない施設等を分類して集計することはしていない。

今回の内閣府の推計は、被害の全容を把握するよう努めたものであったが、被害額に推計の対象とならないものなどを一部含めていたり、被害額に反映していなかったりしていたものが見受けられた。

被害額の推計は、被災後の復旧・復興の各方面での議論に資する資料になると同時に、復旧・復興予算の積算に当たっても参考となる資料であることから、各府省庁、地方公共団体等においては、今後想定される南海トラフ等の地震時に備えて、速やかに被害額を算出し、より正確な被害の全容が把握できるよう、体制等を整備しておくことが望まれる。