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  • 平成27年9月

土砂災害対策に係る事業の実施状況について


検査対象
27都道府県
事業の根拠
砂防法(明治30年法律第29号)、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)等
土砂災害対策に係る事業の概要
砂防事業、地すべり対策事業及び急傾斜地崩壊対策事業により砂防関係施設を整備するなどのハード対策に係る事業並びに土砂災害警戒区域等の指定を行うなどのソフト対策に係る事業
27都道府県における土砂災害対策に係る事業費
5585億1838万円(平成21年度~25年度)
上記に対する国庫補助金等交付額
2780億3053万円(平成21年度~25年度)

1 検査の背景

(1) 土砂災害対策に係る法令等の概要

ア 砂防法等の制定

我が国では、明治30年に、砂防法(明治30年法律第29号)が制定され、土石流による土砂災害から人家、公共施設等を守ることなどを目的に、砂防指定地を指定して砂防えん堤、渓流保全工等の砂防設備を整備する砂防事業が開始された。その後、昭和32年の西九州地方における豪雨により、砂防法の適用対象とならない箇所で、土地の一部が地下水等に起因してすべる現象又はこれに伴って移動する現象(以下「地すべり」という。)による被害が生じたことを契機として、33年に、公共施設等に対する地すべり等による被害を除却し又は軽減することを目的として、地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)が制定され、地すべり防止区域を指定して地下水の排水施設、擁壁等の地すべりを防止する施設(以下「地すべり防止施設」という。)を整備する地すべり対策事業が開始された。さらに、42年の西日本における集中豪雨により、がけ崩れによる被害が多数生じたことを契機として、44年に、傾斜度が30度以上である土地(以下「急傾斜地」という。)の崩壊による被害から国民の生命を保護することを目的として、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)が制定され、急傾斜地崩壊危険区域を指定して、急傾斜地の所有者等が崩壊防止工事を行うことが困難又は不適当と認められる場合に、擁壁工、排水工、法面工等の急傾斜地の崩壊を防止する施設(以下「急傾斜地崩壊防止施設」といい、砂防設備及び地すべり防止施設と合わせて「砂防関係施設」という。また、砂防関係施設の整備、改築等を行う土砂災害対策を「ハード対策」という。)を整備する急傾斜地崩壊対策事業(以下、砂防事業及び地すべり対策事業と合わせて「土砂災害対策事業」という。)が開始された(図1参照)。そして、都道府県は、土砂災害対策事業を国庫補助事業等により実施している。

イ 土砂災害危険箇所の把握

従来、砂防指定地、地すべり防止区域及び急傾斜地崩壊危険区域(以下、これらを合わせて「砂防指定地等」という。)が指定された後に、土砂災害対策事業が実施されてきたところであるが、依然として、砂防指定地等に指定された区域以外においても、土石流、地すべり及び急傾斜地の崩壊(以下、これらを合わせて「土石流等」という。)による土砂災害が全国的に多数発生し、甚大な被害を被っている状況となっていた。

このようなことから、国土交通省は、土石流の発生のおそれのある渓流及び地形条件等から土石流の氾濫が予想される区域(以下「土石流危険渓流」という。)については「土石流危険渓流および土石流危険区域調査の実施について」(平成11年建設省河砂発第20号。建設省河川局長通知)を、地すべりの発生のおそれのある箇所及び地すべりによって移動した土塊による被害想定区域(以下「地すべり危険箇所」という。)については「地すべり危険箇所の再点検について」(平成8年建設省河傾発第40号。建設省河川局砂防部傾斜地保全課長通知)を、急傾斜地の崩壊等のおそれがある箇所及び急傾斜地が崩壊した場合等の被害想定区域(以下「急傾斜地崩壊危険箇所」といい、土石流危険渓流及び地すべり危険箇所と合わせて「土砂災害危険箇所」という。)については「急傾斜地崩壊危険箇所等の再点検について」(平成11年建設省河傾発第112号。建設省河川局砂防部傾斜地保全課長通知)をそれぞれ都道府県に対して発するなどして、数回にわたり土砂災害危険箇所の調査を依頼している(図1参照)。そして、国土交通省が平成14年度に公表した資料によれば、全国の土砂災害危険箇所は、土石流危険渓流183,863か所、地すべり危険箇所11,288か所、急傾斜地崩壊危険箇所330,156か所、計525,307か所となっている。

ウ 土砂災害防止法の制定等

(ア) 土砂災害防止法の制定

11年に広島県において豪雨による土砂災害が発生し多数の死者、負傷者等の人的被害が生じたことなどから、12年に、土砂災害から国民の生命及び身体を保護することを目的として、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)が制定された(図1参照)。これにより、従前から実施されてきた土砂災害危険箇所の調査とは別に、都道府県は、急傾斜地の崩壊等のおそれがある土地等の地形、地質、降水等の状況及び土砂災害の発生のおそれがある土地の利用の状況等に関する調査(以下「基礎調査」という。)を行うこととされた。そして、基礎調査の結果、土砂災害が発生した場合に、①住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、当該区域における土砂災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべき土地の区域を土砂災害警戒区域(以下「警戒区域」という。)として、また、②建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、一定の開発行為の制限及び居室を有する建築物の構造の規制をすべき土地の区域を土砂災害特別警戒区域(以下「特別警戒区域」といい、警戒区域と合わせて「警戒区域等」という。)として、それぞれ土石流等の災害区分別に指定し公表することとされた。このように、警戒区域に指定された区域においては、市町村が警戒避難体制を整備したり、ハザードマップの配布等を行ったりすることなどとされ、また、特別警戒区域に指定された区域においては、特定の開発行為を行う場合は都道府県知事の許可を必要とすることや、都道府県又は市町村が建築物の構造規制を行うことなどとされた(以下、基礎調査を行い警戒区域等に指定したり、警戒避難体制を整備したりするなどの土砂災害対策を「ソフト対策」という。)。

(イ) 土砂災害防止法の改正等

26年8月19日夜から20日明け方にかけて広島県において発生した集中豪雨により、土砂災害が発生し多数の死者、負傷者等の人的被害が生じた。そして、これは、基礎調査や警戒区域等の指定が完了していない地域が多くあり、住民に土砂災害の危険性が十分伝わっていなかったことなどが原因であるとされた。これを受けて、土砂災害防止法が27年1月に改正され、改正前は、基礎調査を実施した後に、警戒区域等に指定されて初めて土砂災害の危険性の高い箇所を公表することとされていたが、改正後は、基礎調査を実施して土砂災害の危険性の高い箇所が判明した場合は、警戒区域等に指定される前であっても、都道府県が、その結果を住民に公表したり、避難勧告の発令等に資するなどのため土砂災害警戒情報を関係市町村に提供したりなどすることとされた(図1参照)。

そして、国土交通省は、27年度に防災・安全交付金(注1)のメニューの中で基礎調査について優先配分枠制度を創設し、また、都道府県に対して、今後おおむね31年度までの5年間で基礎調査を完了するよう要請している。

(注1)
防災・安全交付金 地域住民の命と暮らしを守る総合的な老朽化対策 及び事前防災・減災対策の取組等を支援することを目的とした交付金

図1 関係法令等の経緯

図1 関係法令等の経緯画像

(2) 広島県において発生した土砂災害に対する土木学会等の調査報告

前記のとおり広島県において発生した土砂災害について、公益社団法人土木学会及び公益社団法人地盤工学会は、26年10月に、平成26年広島豪雨災害合同緊急調査団における調査報告書(以下「調査報告書」という。)を作成しており、その中で以下の点を指摘している。

① 今回、人的被害が大きかった緑井、八木両地区においては、基礎調査は実施されていたが、災害時には警戒区域等の指定はされていなかった。そして、本土砂災害の後に広島県が公表した調査結果によれば、当該両地区において被災した箇所は、警戒区域に該当し、さらに、特別警戒区域に該当する区域も含んでいた。また、当該両地区はいずれも高度経済成長期に市街地が形成された地区である。

② 人的被害が最も大きかった八木地区の八木ヶ丘団地及び阿武の里団地において、今回の土石流流下物と同様な堆積物が存在していることなどから、過去にも土石流があったと推定できる。

③ 山裾にある住宅地背後において土石流が発生しているが、砂防えん堤が整備されている箇所では砂防えん堤により土石流が捕捉され、砂防えん堤が土砂災害を防止する効果が確認された。

(3) 砂防関係施設の維持管理に関する基準

国土交通省は、砂防関係施設について長寿命化を図るなどのため、26年9月に、統一的かつ効果的に点検を実施し、客観的な基準で健全度を評価することを定めた「砂防関係施設点検要領(案)」(平成26年9月国土交通省水管理・国土保全局策定。以下「26年点検要領」という。)を策定している。

また、砂防関係施設のうち砂防えん堤には、山腹の崩壊等の発生・拡大の防止、軽減等を目的とする機能と、土砂及び流木(以下「土砂等」という。)の流出抑制・調節及び土石流の捕捉・減勢等を目的とする機能等がある(以下、後者の目的のために整備される砂防えん堤を「土石流対策砂防えん堤」という。)。そして、土石流対策砂防えん堤については、「土石流・流木対策設計技術指針」(平成19年3月国土交通省河川局策定。以下「土石流対策指針」という。)によれば、土石流・流木対策施設において、除石(捕捉あるいは堆積した土砂等を除去することをいう。以下同じ。)を前提とした施設の効果量を見込む場合は、土砂等を速やかに除石することとされており、また、堆砂後の除石のため、管理用道路を含めあらかじめ搬出方法を検討しておくものとされている。

(4) 近年の土砂災害による被害状況

前記のとおり、明治30年以降、土砂災害対策事業が実施されてきているが、近年、 土砂災害による物的被害については、表1のとおり、被害額が毎年多額に上っていて、中でも土石流によるものが最も大きくなっている。また、人的被害については、表2のとおり、いずれの災害区分においても、ほぼ毎年発生しており、上記同様、土石流によるものが他の災害区分のものと比べて大きくなっている。

表1 土砂災害による物的被害の状況

(単位:百万円)
災害区分 被害区分 平成17年 18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年
土石流 一般資産等 7,072 7,329 1,032 1,308 7,035 3,594 29,819 8,719 16,459
公益事業等 389 161 102 1,641 462 94 2,350 757 1,518
7,461 7,490 1,134 2,949 7,497 3,688 32,169 9,476 17,977
地すべり 一般資産等 1,078 640 359 91 702 638 3,430 1,209 602
公益事業等 908 967 125 678 218 306 342 500 1,336
1,986 1,607 484 769 920 944 3,772 1,709 1,938
急傾斜地の崩壊 一般資産等 1,917 1,185 1,517 381 1,186 1,430 4,008 3,812 2,803
公益事業等 1,862 523 558 93 714 1,298 2,345 1,178 632
3,779 1,708 2,075 474 1,900 2,728 6,353 4,990 3,435
合計 一般資産等 10,067 9,154 2,908 1,780 8,923 5,662 37,257 13,740 19,864
公益事業等 3,159 1,651 785 2,412 1,394 1,698 5,037 2,435 3,486
13,226 10,805 3,693 4,192 10,317 7,360 42,294 16,175 23,350
注(1)
国土交通省水管理・国土保全局河川計画課公表の「水害統計調査」を基に作成している。
注(2)
一般資産等とは、家屋、事業所等である。
注(3)
公益事業等とは、電気、水道、ガス等の設備である。

表2 土砂災害による人的被害(死者・行方不明者)の状況

(単位:人)
災害区分 平成17年 18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年
土石流 17 15 - 14 17 6 55 15
地すべり 5 3 - - - 2 21 -
急傾斜地の崩壊 8 7 - 6 5 3 9 9
30 25 - 20 22 11 85 24
(注)
国土交通省水管理・国土保全局砂防部公表の調査結果を基に作成している(平成25年分は未公表)。

(5) これまでの会計検査の実施状況及びその結果

会計検査院は、ハード対策及びソフト対策について、従来、関心を持って検査を行い、表3のとおり、その結果を検査報告に掲記している。

表3 土砂災害対策に関する検査報告掲記事項

検査報告 件名   (概要)
平成22年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
土砂災害警戒区域等の指定等に関する基礎調査の結果をより早期に活用できるよう改善の処置を要求したもの
(基礎調査結果の受領後長期間にわたり道府県が土砂災害警戒区域等の指定を行っていなかったり、土砂災害警戒区域の指定後に市町村が土砂災害防止法に定められた手続を行っていなかったりしていて、基礎調査の結果が長期間活用されていなかった。)
平成23年度決算検査報告及び平成24年度決算検査報告 国会からの検査要請事項に関する報告
公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等について
(平成24年10月及び25年10月に参議院議長に対して報告した概要を検査報告に掲記している。)
(避難場所が所在する土砂災害危険箇所における砂防関係施設の整備率は2割台となっていた。また、避難場所が所在する土砂災害危険箇所における基礎調査は完了していなかった。)
平成24年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
土砂災害情報相互通報システム整備事業の実施に当たり、住民からの情報提供に係る機能を具備させるよう採択基準の取扱いの見直しに向けた検討を行ったり、相互通報システムの活用を促進するための方策を適時適切に検討するよう都道府県に対して技術的助言を行ったりすることなどにより、事業の効果が十分発現するよう改善の処置を要求したもの
(土砂災害情報相互通報システムにおいて住民からの情報提供が行われていなかったり、住民への情報提供が十分に行われていなかったりしていて、土砂災害情報相互通報システムが十分有効に活用されていなかった。)