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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成27年9月

国有林野事業の運営等について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

国有林野事業は、管理経営法等改正法の施行により、25年4月以降一般会計で経理されることとなり、林野庁は、公益重視の管理経営を一層推進するための施策や森林・林業再生に貢献するための施策を実施するとともに、施業の結果得られる木材を計画的に供給することにより国有林野の産物の売払収入等を得るなど企業的な運営から脱却することとなった。また、債務管理特会に承継された借入金については、従前と同様、国有林野の産物の売払収入等により60年度までに返済することとなっており、新たな国民負担を生じさせることなく着実に借入金の返済を行うことが求められている。

したがって、一般会計への移行後の早い段階において、国有林野事業について、24年度以前の林野特会や25年度以降の一般会計への移行後における事業の運営等の結果を総括するとともに、公益重視の管理経営等に係る各施策の実施状況とその効果を検証及び分析すること、また、借入金の返済に係る林野庁の試算の内容と返済状況を検証及び分析して課題を明らかにすることは、今後の適切な国有林野事業の運営及び借入金の着実な返済に当たり重要であると考えられる。

そこで、会計検査院が、国有林野事業の運営等について、その組織体制や一般会計等への移行に伴う権利義務の承継等を確認するとともに、公益重視の管理経営に係る施策である民有林との一体的な森林整備等の推進並びに森林・林業再生に貢献するための施策であるシステム販売、路網のネットワーク機能強化事業、民有林と連携した施業及び林業の低コスト化等に向けた技術開発等は、それぞれ適切に実施され、かつ、効果を発揮しているか、同施策が発揮している効果は、借入金の返済に係る林野庁の試算に照らして、60年度までに借入金の返済を可能とするものとなっているか、また、借入金の返済は、債務管理特会が設けられた趣旨に照らして、国有林野の産物の売払収入等により行われているかなどを検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 公益重視の管理経営に係る施策である民有林との一体的な森林整備等の推進のための公益増進協定については、介在地等に隣接する国有林野で当面間伐等の施業予定がないことから、民有林所有者等との施業に関する調整を行っていないものが894か所となっていた。このうち、森林管理局が介在地等の把握及び森林の状況等の調査を速やかに行っていないため、公益増進協定の対象区域となる介在地等の調査期間中に、隣接する国有林野の間伐等の施業が既に実施されており、今後、当分の間、国有林野の施業に合わせた一体的な施業が実施できないおそれがあるものが2か所見受けられた。また、林野庁において、公益増進協定に基づく森林の整備及び保全に係る効果の分析方法や評価手法、実施時期を定めておらず、森林管理局が効果の分析や評価を実施していないため、介在地等における森林の整備及び保全に消極的な民有林所有者等との今後の合意形成等に資するような評価が行われていない状況となっていた。

イ 森林・林業再生に貢献するための施策であるシステム販売については、森林管理署等が、企画競争方式により選定されたシステム販売協定の相手方と販売契約を締結することとなるのに、2森林管理局において相手方の選定等を行う販売推進委員会に契約担当部局の者を関与させていなかったり、1森林管理局において買受希望価格を企画提案書とともに提出させているのに評価項目としていなかったりしていた。

また、5森林管理局において協定量に対して販売量が大幅に超過することが見込まれる場合の取扱いが明確に定められておらず、相手方に超過分全量を販売している事態が見受けられ、契約の透明性や公平性の確保等が十分でない状況となっていた。

さらに、6森林管理局において、協定量に対して販売量の不足が見込まれる場合に不足を解消するための具体的な対策が講じられておらず、木材の安定的かつ計画的な供給を行うという施策の効果が、十分発揮されていない状況となっていた。

ウ 森林・林業再生に貢献するための施策である路網のネットワーク機能強化事業については、山元土場、中間土場等のストックポイントや林道等を有機的に機能させることが重要であるのに、山元土場に至る林道等の原形の保持を目的とする維持修繕等としての付属路の整備や特殊修繕が優先して実施されており、木材の搬出機能を現状より一層高めることとしている本事業の目的の達成に必ずしも十分に寄与するものとはならない状況となっていた。

また、付属路の整備や路網の特殊修繕の実施箇所の中には、国有林野施業実施計画等で木材搬出を伴う間伐等の施業を予定しておらず、施業による使用を予定していない林道等に対して維持修繕等を実施しているものが、付属路の整備で整備延長計11,360m、特殊修繕で33路線計7,590m見受けられた。さらに、26年度末において、未利用となっている貯木場は21か所となっており、これらの中には、システム販売に係るストックポイントとしての利用が可能であるか検討中としているものも10か所見受けられた。

エ 森林・林業再生に貢献するための施策である民有林と連携した施業のための森林整備推進協定については、間伐面積、出荷量及び路網の整備の実施率がそれぞれ84.1%、73.6%、96.6%となっており、これらの中には、森林管理署等と相手方との連携が十分に図られていないものも見受けられた。また、低コストで高効率な作業システムの導入、路網の連結、民有林と連携したシステム販売の活用等の施業の効率化や低コスト化等を図る取組は、それぞれ実施率54.0%、48.2%、9.1%となっており、これらの中には、施業団地の設定に問題があったため、上記の取組を全く実施していないものも見受けられた。

また、施業団地の留意点において、森林整備推進協定に基づく施業の実施結果の検証及び検証結果の反映の対象としている施業団地28件のうち、25件については、森林管理署等において実施結果の検証及び検証結果の反映が行われていなかった。

オ 森林・林業再生に貢献するための施策である林業の低コスト化等に向けた技術開発等については、本庁技術開発委員会における事後評価の結果が、翌年の3月又は9月に森林管理局に通知されるため、事後評価の結果を森林管理局における翌年度の研究開発課題の設定に速やかに活用、反映することが困難な状況となっていた。

また、技術開発が完了した実証研究については、技術開発課題23件のうち、実用化に至ったものは5件(技術開発課題の21.7%)となっており、林業の低コスト化に関する技術開発課題9件のうち、森林管理局が民間事業体等へ十分に普及したと判断して、国有林野における施業の積算に適用する積算基準へ反映したものは3件(林業の低コスト化に関する技術開発課題の33.3%)となっていた。

カ 一般会計への移行後の借入金の返済については、23年試算は、林野庁がシステム販売等の施策を確実に実施することなどによって、国産材の安定供給体制の構築、木材の効率的な生産・販売等を通じた国産材の需要拡大を図り、国有林材の販売量を増加させることや、路網の整備等による搬出等の経費の縮減等を通じた施業コストの縮減を図り、主伐立木単価を上昇させることを前提としている。しかし、現時点では、イからオまでのとおり、借入金の返済の前提条件にされている林産物収入の増加のために重要となる、国有林野事業に係る各施策の効果が十分に発揮されているとは認められない状況となっていた。

また、国有林野の産物の売払等に要する費用については、処分業務費以外の歳出科目から支出すべき経費を誤って処分業務費から支出している事態が見受けられたが、これらの事態は、借入金返済額の適切な算出に影響するおそれもあり、国有林野事業が一般会計に移行した際に、国有林野の産物の売払収入等により借入金の返済が行われることを明確にするために債務管理特会が設けられた趣旨に照らして、適切とは認められない。

(2) 所見

国有林野事業は、25年度以降一般会計で経理されることとなり、林野庁は、管理経営基本計画に基づく公益重視の管理経営を一層推進するための施策や森林・林業再生に貢献するための施策を実施しており、債務管理特会に承継された借入金については、新たな国民負担を生じさせずに国有林野の産物の売払収入等によって60年度までに着実に返済することが求められている。

したがって、林野庁においては、森林管理局及び森林管理署等と十分に連携して、今回の会計検査院の検査により明らかになった状況を踏まえ、今後の国有林野事業の運営等に当たって、次のような点に留意して対応を検討することが必要である。

ア 森林管理局は、介在地等に隣接する国有林野の施業の実施時期までに公益増進協定を締結できるよう、速やかに管内全ての介在地等の所在を把握した上で、森林の状況等の調査を行うこと。

また、林野庁は、速やかに公益増進協定の効果の分析や評価の手法、実施時期を定めて森林管理局に示すとともに、森林管理局においては、国有林野と一体的な整備及び保全を行う必要のある介在地等の民有林所有者等との公益増進協定の締結に向けた合意形成等に資するよう、適時適切に効果の分析や評価を行った上でその評価結果等を活用すること

イ 森林管理局は、システム販売において、販売推進委員会に契約担当部局の者を関与させたり、買受希望価格を評価項目とするなど相手方の選定における買受希望価格の位置付けを明確にしたり、協定量に対する販売量の大幅な超過が見込まれる場合の当該超過分の取扱いをあらかじめ明確にしたりするなどして、契約の透明性や公平性の一層の確保等を図ること。

協定量に対して販売量の大幅な不足が見込まれる場合の具体的な取扱いについて、森林管理署等が管轄している地域の特性に留意しつつ、森林管理署等から適時に木材の生産量の情報を報告させるなど、間伐等の施業の実施状況や木材の販売状況を適時適切に把握する体制を整備するなどして、協定間で供給の調整を行うなど可能な限り不足分の解消を図って安定的かつ計画的な供給に努めること

ウ 林野庁は、路網のネットワーク機能強化事業について、特殊修繕の位置付けを明確にすること、また、森林管理局及び森林管理署等において、山元土場、中間土場等のストックポイントや林道等を有機的に機能させることにより、その効果が十分に発揮されるよう、施策の趣旨を踏まえた上で、ストックポイントや付属路の整備及び林道等の特殊修繕の実施内容や実施方法を適切に選定するとともに、中間土場の適地がない場合には、未利用となっている貯木場等の資産の活用も十分検討するなどして、木材の効率的な生産・販売を実施すること。

また、付属路の整備及び特殊修繕の実施に当たっては、国有林野施業実施計画等における施業の予定に留意して、適切に実施箇所の選定を行うこと

エ 森林管理署等は、森林整備推進協定について、運営会議等を通じて民有林所有者等と綿密に連携したり、過去の森林整備推進協定に基づく施業の実施結果を検証したりするなどした上で、施業団地の設定や森林整備等実施計画を必要に応じて見直すことにより、施業の効率化や低コスト化、国産材の安定的かつ計画的な供給等を図る取組を一層推進すること

オ 林野庁は、林業の低コスト化等に向けた技術開発等について、本庁技術開発委員会の開催時期を見直すなどして、事後評価の評価結果を森林管理局における翌年度の技術開発課題の設定の際に速やかに活用、反映できるようにすること。

また、森林管理局は、局内の関係部局間における密接な連携を図りながら、新規技術の開発、その実用化及び実用化した新規技術の民間事業体等への普及に一層努めること

カ 一般会計への移行後の借入金の返済については、新たな国民負担を生じさせることなく、林産物収入の増加によって国有林野事業に係る借入金の返済を行うための前提条件となる各施策の効果がこれまで十分に発揮されていない状況に鑑み、林野庁は、システム販売の推進、施業コストの縮減等の施策を確実に実施するよう、より一層努力すること。

また、林野庁は、森林管理局等に対して、債務管理特会が設けられた趣旨を踏まえて、販売等の事業に係る経費を、その内容に応じた適正な歳出科目から支出するよう指導を徹底すること

会計検査院としては、我が国における林業を取り巻く状況や林野庁における借入金の返済状況等を踏まえつつ、国有林野事業の運営等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。