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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成27年10月

租税特別措置(法人税関係)の適用状況等について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

少子・高齢化の急速な進展等経済社会の構造が大きく変化している中で、持続的な経済社会の活性化の実現を図る取組として税制改革に期待が寄せられている。そして、26年税調報告においては、特別措置の見直しについても法人税改革の具体的な改革事項として取り上げられているところである。

さらに、震災特例は、近年、復興のための新たな税制上の措置が追加されるなどの拡充が図られており、税制以外の他の復興支援施策とともに、東日本大震災からの復興に向けた取組の一層の推進が図られている。

このような特別措置等を取り巻く状況を踏まえ、会計検査院は、法人税関係の特別措置等の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況を検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 調査対象特別措置等の適用状況

(ア) 調査対象特別措置84項目について25年度適用実態報告書を分析したところ、各調査対象特別措置の適用状況は、適用件数1,441,570件(直接控除方式829,263件、課税の繰延べ方式612,307件)、減収額1兆4711億円(直接控除方式9809億円、課税の繰延べ方式4902億円)となっていた。また、財務省が適用実態報告書を基に試算した減収額は、23年度から25年度までの間において増加傾向にあり、各年度とも研究開発税制と中小企業者等の法人税率の特例で全体の約半分を占めていた。

(イ) 関係省庁が所管する政策を実現するための手段として基礎的な単位となる事務事業別特別措置243項目について、政策目的の分野別に分類して、e-Taxデータにより適用件数及び適用額を集計した事務事業別特別措置の政策目的分野別の適用状況は、企業支援を目的とするものが63項目あり、その適用件数及び適用額の合計は、160,699件、1兆6084億円となっていて、それぞれ全体の94.8%、58.7%を占めていた。

(ウ) 適用実態報告書をみると23年度から25年度までの研究開発税制の適用総額の合計は1兆2254億余円となっていて、「化学工業」が2965億余円(24.2%)と最も多額で、次いで「輸送用機械器具製造業」が2651億余円(21.6%)となっていた。そして、適用実態報告書では、具体的な適用業種の内訳については明らかにされていないことから、e-Taxデータにより集計した研究開発税制の適用総額2467億円を適用業種ごとに更に細分類したところ、適用件数は、幅広い業種で適用されていた。一方、適用額は、「化学工業」のうち「医薬品製造業」が618億円で、化学工業全体の適用額743億円の83.1%を占めており、「輸送用機械器具製造業」のうち「自動車・同付属品製造業」が819億円で、輸送用機械器具製造業全体の適用額850億円の96.4%を占めていた。

また、研究開発税制の適用による減収額の多額な単体法人上位10法人、連結法人上位10法人、計20法人の状況をみたところ、これらの20法人で、各年度の研究開発税制に係る減収額全体の38.6%(23年度)、41.9%(24年度)、50.2%(25年度)を占めていた。そして、研究開発税制の減収額23年度3395億円、24年度3952億円、25年度6240億円のところ、減収額が100億円を超える法人は、23年度3法人、24年度5法人、25年度8法人となっていた。

(エ) 震災特例の適用状況について23、24、25各事業年度のe-Taxデータにより集計したところ、適用件数は267件、適用総額は直接控除方式のうち税額控除が7億余円、課税の繰延べ方式のうち特別償却が53億余円となっていた。

イ 法人税関係の特別措置等の検証状況

(ア) 実態調査情報等の活用対象となる調査対象特別措置に係る政策評価に当たり実態調査情報等が活用されていたものは62件、活用されていなかったものは95件となっていた。活用されていなかった理由は、実態調査情報等には特別措置の条文を単位とした適用数や適用総額が記載されており、政策評価の単位が実態調査情報等の単位より詳細な場合、実態調査情報等には複数の省庁や所管課の所掌する事務事業の適用数や適用総額が含まれているため、当該政策評価の単位の対応する部分が特定できず、活用することができないことによるものなどであった。

(イ) 24年度の研究開発税制の税額控除に係る減収額については、関係省庁が事前評価書等において試算した減収見込額2591億円に対して、会計検査院が試算した減収額は3494億円となっており、減収見込額と減収額との開差は903億円となっていたが、減収額が減収見込額を大きく上回る状況に関する分析や検討の結果について、26年度の事前評価書や27年度税制改正の際の要望書において説明されることなく、拡充等の要望がなされていた。

(ウ) 26年度税制改正要望又は27年度税制改正要望に際して検証を実施した調査対象特別措置のうち、上位10法人の適用額の合計が適用総額の80%を超えていて、かつ、適用法人数が20法人以上であるものを23年度適用実態報告書及び24年度適用実態報告書から抽出すると5項目であり、これらの事前評価書や要望書における検証状況をみると、適用数については特定の業種や企業に偏りがないなどの説明があるものもある一方、適用額からみた偏りについてはいずれにおいても説明がなされていない。

(エ) 26年4月1日現在で創設後20年以上経過した調査対象特別措置のうち、期限の定めのないものは18項目あり、このうち事後評価が実施された調査対象特別措置については、事後評価の評価結果の反映の方向性を、いずれも引き続き継続することとしていた。また、期限の定めのあるものは30項目あり、既存の調査対象特別措置を新たに設定した政策目的を達成する手段とするものや、目的を達成していないなどのため、いずれも延長や縮減を行うなどして存置されていた。

(オ) 26、27両年度の税制改正の際に拡充等の要望を行った調査対象特別措置で実態調査情報等の活用が可能であったもの17項目のうち、16項目は必要最小限の措置となっているかの検証が行われているが、必要最小限と判定した理由についてみると、拡充しようとする措置の内容が適用実態等からみて拡充後もなお必要最小限である説明が必ずしも十分なされていないものが見受けられ、必要最小限の措置となっているかということの検証が十分なされていないと思料される状況となっていた。

(カ) 財務省は、関係省庁から事前評価書等が添付された事務事業別特別措置の要望書の提出を受けて、税制改正要望に関する要望内容の審査やヒアリングを行うなどして要望事項を査定している。そして、事務事業別特別措置の効果等の検証を行い、適用額が特定の者に偏っていたり、適用件数が少なかったりしているものなどについて、適用の対象を限定したり、本来の政策目的を促進するために要件を強化又は緩和したり、効果が十分には期待できないことから廃止したりするなどの税制改正の提案をしていた。

(2) 所見

特別措置等は、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられているものであり、その効果等を不断に検証して、真に必要なものに限定すべきであるとされている。

関係省庁においては、実態調査情報等を一層活用することなどにより、適用額からみた業種や企業の偏りの状況や、特別措置の適用に伴う減収額が減収見込額を上回る状況等について、検証内容を一層充実させ、拡充等の要望に当たっては適用実態等からみて拡充後もなお措置の内容が必要最小限であるとする説明を十分行い、特別措置の実効性を高めるとともに、国民に対する説明責任を的確に果たしていくことが望まれる。

また、財務省においては、特別措置等について今後とも十分に検証していくことが望まれる。

会計検査院としては、今後とも法人税関係の特別措置等の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況について、引き続き注視していくこととする。