雇用保険は、常時雇用される労働者等を被保険者として、被保険者が失業した場合、被保険者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合等に、その生活及び雇用の安定を図るなどのために失業等給付金の支給を行うほか、雇用安定事業等を行う保険である。
失業等給付金には、次の求職者給付及び就職促進給付のほか、教育訓練給付及び雇用継続給付の4種がある。
ア 求職者給付には基本手当、日雇労働求職者給付金(以下「日雇給付金」という。)等7種の手当等があり、このうち基本手当は、失業等給付金の支給額の大半を占めており、失業者の生活の安定を図る上で基本的な役割を担うもので、受給資格者(注)が失業している日について所定給付日数を限度として支給される。
イ 就職促進給付には6種の手当等があり、このうち再就職手当は、早期の再就職の促進を図るもので、受給資格者が基本手当を受給できる日数を所定給付日数の3分の1以上残して安定した職業に就いた場合に支給される。また、就業促進定着手当は、再就職手当の支給を受けた者が再就職先に6か月以上雇用され、かつ、再就職後の6か月間の賃金日額が離職前の6か月間の賃金日額を下回る場合に支給される。
ウ アの求職者給付の手当等のうち、日雇給付金は、日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用される者であって、一定の要件を満たす者(以下「日雇労働被保険者」という。)が失業した場合に支給される。
上記の手当等は、公共職業安定所(以下「安定所」という。)が次のように支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省等が支給することとなっている。
ア 基本手当については、受給資格者から提出された失業認定申告書に記載されている就職又は就労(臨時的に短期間仕事に就くこと)の有無等の事実について確認して、失業の認定を行った上で、支給決定を行う。
イ 再就職手当及び就業促進定着手当については、受給資格者から提出された再就職手当支給申請書及び就業促進定着手当支給申請書に記載されている雇入年月日や賃金額等について調査し確認した上で、支給決定を行う。
また、偽りその他不正の行為により上記手当等の支給を受け、又は受けようとした者に対しては、その支給を受け、又は受けようとした日以後、当該手当等を支給しないことなどとなっており、安定所は、既に支給した手当等の返還等を命ずることができることとなっている。
本院は、合規性等の観点から、失業等給付金の支給を受けた者(ただし、日雇給付金の支給を受けた者(以下「日雇受給者」という。)を除いた者。以下「受給者」という。)に対する失業等給付金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47都道府県労働局(以下、都道府県労働局を「労働局」という。)の436安定所(平成28年3月末現在)のうち、15労働局の135安定所において会計実地検査を行い、23年度から28年度までの間における受給者から4,970人を選定して、失業等給付金の支給の適否について検査した。また、合規性等の観点から、日雇受給者に対する日雇給付金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、12労働局の59安定所において会計実地検査を行い、日雇労働被保険者を雇用している管内の1,659事業所のうち203事業所を選定して、26年度にこれらの事業所が雇用するなどした日雇受給者2,234人に対する日雇給付金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、受給者から提出された失業認定申告書、日雇受給者に係る認定・支給歴照会票等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、他の年度分も含めて更に当該安定所に調査及び報告を求めて、また、当該日雇受給者が他の労働局管内の安定所において日雇給付金の支給を受けている場合には、その労働局に調査及び報告を求めて、それらの報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、14労働局の51安定所管内における23年度から28年度までの間の受給者89人、及び12労働局の32安定所管内における25年度から28年度までの間の日雇受給者114人に対する失業等給付金の支給額計209,073,223円のうち計117,592,114円は、支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
これを給付等の種別に示すと次のとおりである(下記ウの安定所、事業所及び日雇受給者の数については、複数の態様に該当するものがある。)。
48安定所管内の受給者85人は、再就職した後も引き続き基本手当の支給を受けるなどしており、これらに対する基本手当の支給額計48,681,296円のうち計16,465,887円は、支給の要件を満たしていなかった。
19安定所管内の受給者20人は、事実と相違した雇入年月日により再就職手当の支給を受けるなどしており、これらに対する再就職手当等の支給額計9,167,927円(再就職手当計8,183,652円、就業促進定着手当計984,275円)の全額は、支給の要件を満たしていなかった。
ア及びイの事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
旭川安定所は、受給者Aから、平成27年6月に就職したとする失業認定申告書及び再就職手当支給申請書の提出を受けて、これに基づき、基本手当17,319円及び再就職手当1,132,662円の支給決定を行っていた。
しかし、実際には、受給者Aは27年5月に就職していたのに、上記のとおり27年6月に就職したと偽って申告したことから、受給者Aに対する基本手当17,319円及び再就職手当1,132,662円、計1,149,981円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
(ア) 30安定所管内の日雇受給者96人(当該日雇受給者が雇用されていた事業所数27)は、実際には就労していた日について、事業主から日雇労働被保険者手帳(以下「日雇手帳」という。)に印紙の貼付を受けないまま、後日、その日に就労していないこととするなどして失業認定を受けることで支給を受けており、これらに対する日雇給付金の支給額計57,066,200円は、支給の要件を満たしていなかった。
(イ) 5安定所管内の日雇受給者36人(当該日雇受給者が雇用されていた事業所数8)は、実際には就労していない日について、事業主から日雇手帳に印紙の貼付を受け、その日を含めて失業の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上の印紙保険料が納付されていることとして支給を受けており、これらに対する日雇給付金の支給額計33,262,500円は、支給の要件を満たしていなかった。
(ウ) 3安定所管内の日雇受給者17人(当該日雇受給者が雇用されていた事業所数4)は、就労していた日について、事業主から日雇手帳に賃金の日額に対応しない種類の印紙の貼付を受け、所定の額よりも高額な日雇給付金の支給を受けるなどしており、これらに対する日雇給付金の支給額計1,629,600円は、支給の要件を満たしていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
名古屋中安定所は、管内の事業主Bに雇用されていた日雇受給者8名が安定所に提出した日雇手帳等に基づき失業認定を行うなどして、平成26年3月から27年11月までの間の1,744日分について、日雇給付金計13,080,000円の支給決定を行っていた。
しかし、日雇受給者8名は、実際には就労していた日について、事業主Bから日雇手帳に印紙の貼付を受けないまま、後日、就労していた事実を安定所に申告せずに失業していたと偽って日雇給付金の支給を受けるなどしており、当該1,744日分の日雇給付金計13,080,000円が支給の要件を満たしていなかった。
このような事態が生じていたのは、ア及びイの事態については、受給者が誠実でなかったなどのため、失業認定申告書、再就職手当支給申請書及び就業促進定着手当支給申請書の記載内容が事実と相違するなどしていたのに、前記の51安定所において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。また、ウの事態については、日雇受給者が誠実でなかったなどのため、日雇受給者が提出した日雇手帳の印紙の貼付状況が日雇受給者の実際の就労状況と相違していたのに、前記の32安定所においてこれに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたこと、厚生労働本省において日雇給付金の適正な支給に関する指導等が十分でなかったことなどによると認められる。
なお、これらの適正でなかった支給額は、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 | 安定所 | 本院の調査に係る受給者数 | 不適正受給者数 | 左の受給者に支給した失業等給付金 | 左のうち不当と認める失業等給付金 | |
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人 | 人 | 千円 | 千円 | |||
北海道 | 旭川 | 等6 | 303 | 16 | 7,344 | 1,452 |
旭川 | 等3 | 78 | 3 | 1,885 | 1,885 | |
小計 | 9,230 | 3,338 | ||||
青森 | 弘前 | 等3 | 119 | 8 | 3,132 | 561 |
青森 | 等2 | 78 | 3 | 1,784 | 1,784 | |
小計 | 4,917 | 2,345 | ||||
茨城 | 筑西 | 等2 | 61 | 2 | 2,246 | 698 |
― | ― | ― | ― | |||
小計 | 2,246 | 698 | ||||
埼玉 | 川口 | 等4 | 96 | 5 | 4,331 | 3,210 |
大宮 | 38 | 1 | 195 | 195 | ||
小計 | 4,526 | 3,406 | ||||
神奈川 | 相模原 | 48 | 2 | 3,016 | 1,461 | |
― | ― | ― | ― | |||
小計 | 3,016 | 1,461 | ||||
愛知 | 名古屋東 | 等4 | 174 | 6 | 4,438 | 1,037 |
津島 | 16 | 1 | 445 | 445 | ||
小計 | 4,883 | 1,483 | ||||
大阪 | 梅田 | 等5 | 72 | 5 | 1,981 | 824 |
池田 | 35 | 1 | 275 | 275 | ||
小計 | 2,256 | 1,099 | ||||
兵庫 | 神戸 | 等3 | 128 | 5 | 1,242 | 545 |
神戸 | 51 | 1 | 202 | 202 | ||
小計 | 1,444 | 747 | ||||
奈良 | 奈良 | 等3 | 154 | 3 | 790 | 445 |
奈良 | 等3 | 102 | 3 | 1,246 | 1,246 | |
小計 | 2,037 | 1,692 | ||||
和歌山 | 和歌山 | 等3 | 153 | 11 | 6,458 | 1,753 |
橋本 | 23 | 1 | 60 | 60 | ||
小計 | 6,519 | 1,814 | ||||
香川 | 高松 | 等5 | 168 | 9 | 5,524 | 1,398 |
観音寺 | 23 | 1 | 940 | 940 | ||
小計 | 6,465 | 2,338 | ||||
福岡 | 大牟田 | 46 | 1 | 789 | 301 | |
福岡西 | 18 | 1 | 304 | 304 | ||
小計 | 1,093 | 606 | ||||
熊本 | 熊本 | 等4 | 231 | 7 | 4,521 | 1,621 |
熊本 | 等3 | 153 | 3 | 1,498 | 1,498 | |
小計 | 6,019 | 3,119 | ||||
大分 | 大分 | 等4 | 165 | 5 | 2,863 | 1,151 |
日田 | 21 | 1 | 327 | 327 | ||
小計 | 3,191 | 1,479 | ||||
求職者給付計 | 48か所 | 1,918 | 85 | 48,681 | 16,465 | |
就職促進給付計 | 19か所 | 636 | 20 | 9,167 | 9,167 | |
合計 | 57,849 | 25,633 |
労働局名 | 安定所 | 本院の調査に係る日雇受給者数 | 労働局管内に所在する事業所数 | 不適正日雇受給者数 | 左の日雇受給者に支給した日雇給付金 | 左のうち不当と認める日雇給付金 | |
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人 | 人 | 千円 | 千円 | ||||
北海道 | 小樽 | 等2 | 13 | 2 | 4 | 4,695 | 416 |
埼玉 | 川口 | 164 | ― | 1(1) | 1,215 | 1,215 | |
千葉 | 市川 | ― | ― | 3(3) | 2,332 | 435 | |
東京 | 上野 | 等4 | 429 | 7 | 13(1) | 10,320 | 6,930 |
神奈川 | 横浜 | 等2 | 347 | 4 | 29 | 38,760 | 24,735 |
愛知 | 名古屋中 | 117 | 5 | 23 | 35,857 | 28,640 | |
京都 | 京都田辺 | ― | ― | 3(3) | 2,407 | 697 | |
大阪 | 大阪港 | 等11 | 499 | 7 | 27(4) | 40,531 | 21,613 |
兵庫 | 神戸 | 等3 | 324 | 3 | 6(3) | 6,735 | 802 |
奈良 | 奈良 | 等4 | 238 | 4 | 13 | 15,945 | 6,427 |
和歌山 | 湯浅 | ― | ― | 1(1) | 1,020 | 15 | |
島根 | 石見大田 | ― | ― | 1(1) | 855 | 30 | |
計 | 32か所 | 1,991 | 32 | 114 | 151,224 | 91,958 |
不適正受給者及び不適正日雇受給者数 | 左に支給した失業等給付金 | 左のうち不当と認める失業等給付金 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
人 | 千円 | 千円 | |||||
203 | 209,073 | 117,592 |