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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2)日雇労働求職者給付金に係る制度の運用に当たり、一般被保険者等への切替えなどの取扱いが適切に行われるよう是正改善の処置を求め、失業認定における労働の意思の有無等の確認が十分に行われるよう意見を表示し、及び日雇労働被保険者に対する支給要件の確認が十分に行われるとともに、日雇労働求職者給付金の不正受給を防止するための取組が効果的に実施されるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業等給付費
部局等
厚生労働本省、16労働局
日雇労働求職者給付金の概要
日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用される者であって一定の要件を満たす日雇労働被保険者が失業した場合に支給されるもの
検査の対象とした日雇労働求職者給付金の額
58億7980万円(平成25年度~28年度)
一般被保険者等への切替えなどの取扱いが適切に行われていないと認められる日雇労働被保険者数及び当該者に支給された日雇労働求職者給付金の額(1)
646人 4億6597万円(平成26年度)
失業認定における日雇労働被保険者の労働の意思の有無等の確認が十分に行われているとは認められない者に支給された日雇労働求職者給付金の額(2)
58億3571万円(背景金額)(平成26年度)
日雇労働求職者給付金が不適正に支給されていた日雇労働被保険者数及び支給額(3)
114人 9195万円(平成25年度~28年度)
(1)及び(3)の純計
705人 5億2854万円(平成25年度~28年度)

(「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照)

【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】

日雇労働求職者給付金に係る制度の運用について

(平成28年10月14日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 日雇労働求職者給付金に係る制度の概要

貴省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、雇用保険の被保険者が失業した場合等に、その生活及び雇用の安定を図るなどのために失業等給付金を支給している。失業等給付金には、求職者給付、就職促進給付等の4種があり、このうち求職者給付には、一般求職者給付、日雇労働求職者給付等がある。

日雇労働求職者給付金(以下「日雇給付金」という。)は、雇用保険法等に基づき、日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用される者であって一定の要件を満たす者(以下「日雇労働被保険者」という。)が失業した場合に、その生活の安定を図るために支給されるものである。この失業とは、雇用保険法によれば、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するのに職業に就くことができない状態にあることとされている。

(2) 日雇労働被保険者の一般被保険者等への切替え

雇用保険法第42条の規定によれば、日雇労働被保険者が前2月の各月において18日以上同一の事業主に雇用された場合及び同一の事業主に継続して31日以上雇用された場合は、原則として日雇労働被保険者資格を失うこととされている。そして、貴省の雇用保険日雇関係の業務取扱要領(平成26年職発0630第4号。以下「業務取扱要領」という。)によれば、「前2月の各月において18日以上同一の事業主に雇用された」場合には翌月の最初の日から、また、「同一の事業主に継続して31日以上雇用された」場合には当該雇用が31日以上継続するに至った日から、一般被保険者等として取り扱うこととされている(以下、この取扱いを「一般被保険者等への切替え」という。)。

ただし、雇用保険法第43条の規定等によれば、前2月の各月において18日以上同一の事業主に雇用されていたなどの場合であっても、日雇労働被保険者がその被保険者資格の継続について日雇労働被保険者の住所地等を管轄する公共職業安定所(以下「安定所」という。)又は日雇労働被保険者が雇用されている事業所(以下「日雇適用事業所」という。)の所在地を管轄する安定所の長の認可を受けた場合には、引き続き日雇労働被保険者となることができるとされている(以下、この認可を「継続認可」という。)。そして、業務取扱要領によれば、安定所の長は、継続認可に当たっては、当該日雇労働被保険者が一の事業主の下において一般被保険者等として固定することができないような就労実態にあるかどうかなどについて調査することなどとされている。

(3) 日雇労働被保険者に係る保険料の納付の手続

日雇労働被保険者は、極めて不安定な就労状態にあることから、雇用保険法等に基づき、保険料の納付や日雇給付金の支給について、一般被保険者とは異なる特別な仕組みが設けられている。

すなわち、日雇労働被保険者となった者は、当該日雇労働被保険者の住所地等を管轄する安定所に日雇労働被保険者資格取得届を提出するとともに、日雇労働被保険者手帳(以下「被保険者手帳」という。)の交付を受けなければならないこととなっている。そして、安定所は、被保険者手帳の交付に当たっては、日雇労働被保険者資格を確認しなければならないこととなっている。

また、日雇労働被保険者を雇用した事業主は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)等に基づき、日雇労働被保険者については、一般の保険料を納付するほか、合わせて賃金の支払の都度、雇用保険印紙(以下「印紙」という。)により雇用保険印紙保険料(以下「印紙保険料」という。)を納付することとなっている。印紙保険料の納付に当たっては、事業主は、安定所からあらかじめ雇用保険印紙購入通帳(雇用保険印紙購入票、雇用保険印紙購入申込書等のつづり。)の交付を受け、これにより郵便局から印紙を購入して、日雇労働被保険者に対する賃金の支払の都度、日雇労働被保険者から提出された被保険者手帳に、当該賃金の日額に応じた印紙を貼付し、消印しなければならないことなどとなっている。

(4) 日雇給付金の支給事務及び支給要件

日雇給付金の支給に関する事務は、雇用保険法等に基づき、次のとおり行われることとなっている。

① 安定所は、求職の申込みを行う日雇労働被保険者がその日の求人状況等からみて労働の意思及び能力を有するのに職業に就くことができない状態であると認める場合には、その日の失業の認定(以下「失業認定」という。)を行う。ただし、安定所の閉庁日については、後日、当該日について失業認定を行う。

② 安定所は、失業認定を行った当該日雇労働被保険者から提出を受けた被保険者手帳に基づき、失業の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上の印紙保険料が納付されているかなど支給の要件を満たしていることを確認した上で、当該失業認定を行った日について日雇給付金の支給決定を行う。

③ 安定所は、支給決定に基づき、現金で支給する場合にはその当日に、口座振込で支給する場合には後日、当該日雇労働被保険者に日雇給付金を支給する。

このことから、日雇労働被保険者に対して日雇給付金を支給するに当たっては、支給対象労働者が日雇労働被保険者資格を有すること、失業認定を受けていること、被保険者手帳に所定の印紙が貼付されて所定の印紙保険料が納付されていることなどの支給要件を満たしていることが必要となっている。

なお、日雇給付金の支給日額は、のとおり、印紙の種類及び印紙保険料の納付日数に応じたものとなっている。

表 日雇給付金の支給日額

要件 支給日額
①前2月間に納付された印紙保険料のうち第1級印紙保険料(日額176円)が24日分以上である場合 7,500円
②前2月間に納付された印紙保険料のうち第1級印紙保険料(日額176円)及び第2級印紙保険料(日額146円)を合計すると24日分以上であるなどの場合(①に該当するときを除く。) 6,200円
③①及び②以外の場合 4,100円

(5) 貴省における日雇給付金の不正受給に対する取組

貴省は、不正受給に関する対応策として、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して、「日雇労働求職者給付金に係る適切な事務処理の徹底と不正受給防止等対策の実施について」(平成25年基労徴発1001第1号、職保発1001第1号)を発するとともに、不正受給対策業務関係要領(平成26年職保発0701第1号。以下「不正対策要領」という。)を作成して労働局等に配布しており、日雇給付金が不正に受給されることのないように努めているとしている。

不正対策要領等によれば、安定所は、不正受給発見のために、日雇適用事業所を訪問して行う調査(以下「事業所調査」という。)等を計画的に行うことなどとされている。また、一般被保険者等への切替え及び継続認可についても適正に行われるよう徹底することとされている。

さらに、福知山安定所において平成23年度から26年度までの間に支給決定を行った日雇給付金が不正受給されていた事態を踏まえ、京都労働局及び管内の安定所は、27年3月に福知山安定所管内における全ての日雇適用事業所について、また、同年6月には同労働局管内の全ての日雇適用事業所について、日雇給付金の不正受給の有無等に関する調査を実施している。そして、事態の全容解明、不正受給に係る日雇給付金の回収等に努めるとともに、調査の過程で一般被保険者等への切替えが適切に行われていなかったことが判明したことを踏まえて、一般被保険者等への切替えを適切に行うことについても重点的に指導したとしている。

そして、貴省は、27年7月、上記の日雇給付金の不正受給事案を踏まえ、47労働局に対して、各労働局管内の全ての雇用保険印紙購入通帳交付事業所(調査対象1,698事業所)を対象とした緊急点検(以下「緊急点検」という。)を実施するよう指示している。緊急点検の実施内容は、47労働局の管内の全ての安定所において、27年度における各日雇適用事業所の事業実態や日雇労働被保険者の雇用実態の把握、被保険者手帳における印紙の貼付状況等の確認等を行うこととなっており、一部を除き27年度末までに終了している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、日雇労働被保険者の被保険者資格の確認等、日雇給付金の支給に係る制度の運用は適切なものとなっているかなどに着眼して、16労働局(注1)管内の158安定所が支給した日雇給付金58億7980万円を対象として関係書類の提出を求めるとともに、12労働局管内の103安定所において、安定所で保有している被保険者手帳等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
16労働局  北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、島根、香川、福岡、熊本、大分各労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 日雇労働被保険者資格の確認等について

12労働局管内の59安定所において、日雇労働被保険者2,173人の被保険者資格の確認状況等についてみたところ、次のような状況となっていた。

ア 前2月の各月において18日以上同一の事業主に雇用されていると認められる者

358人 26年度に支給された日雇給付金 1億8421万余円

イ 同一の事業主に継続して31日以上雇用されていると認められる者

498人 26年度に支給された日雇給付金 4億1031万余円
合計 646人 26年度に支給された日雇給付金 4億6597万余円(注2)

(注2)
人数及び金額の合計は、ア及びイの重複分を除外したものである。

したがって、上記の646人について、安定所の支給決定に当たり、日雇労働被保険者資格を有するかどうかについての十分な確認が行われておらず、一般被保険者等への切替えが適切に行われていないと認められる状況となっていた。

また、継続認可に関する調査等の状況についてみたところ、継続認可の申請があった場合に、日雇労働被保険者本人又は事業主に対する調査を行うことなく認可していたり、日雇労働被保険者本人の申告のみに基づき認可していたりするなどしていて、十分な審査に基づく認可が行われていないと認められる状況となっていた。

(2) 日雇労働被保険者に対する失業認定と日雇労働被保険者の就労状況等について

ア 失業認定について

12労働局管内の154安定所(26年度に支給された日雇給付金計58億3571万余円)における失業認定に関する事務処理の状況についてみたところ、多くの場合、安定所は、日雇労働被保険者が所定の時刻までに安定所に赴き被保険者手帳を提示すれば、労働の意思があったのに就労できなかったものとして取り扱うこととするなどしていて、労働の意思の有無等の十分な確認が行われているとは必ずしも認められない状況となっていた。

そして、安定所における失業認定がこのような状況となっているのに、貴省は、日雇労働被保険者の労働の意思の有無等をどのように確認すべきかなどについて、業務取扱要領等に明示するなどしておらず、個々の安定所の判断に委ねていた。

イ 日雇労働被保険者の就労状況等について

日雇給付金は、失業の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上の印紙保険料が納付されていることなどが支給の要件となっていることから、26年度に12労働局管内において、日雇給付金の支給を受けていた2,173人の就労状況についてみたところ、4月から翌年3月まで毎月13日ずつ就労し、不就労の日を除いた残りの11日から13日については日雇給付金の支給を受けているなどの者が計170人見受けられた。

このように、日雇給付金の支給を受けている者の中には、1か月のうち13日程度しか労働の意思を有しておらず、その他の日については常態として日雇給付金の支給を受けるなどしている日雇労働被保険者が一定数存在すると考えられるのに、労働の意思の有無等の十分な確認が行われているとは必ずしも認められない状況となっていた。

(3) 日雇給付金の不正受給の防止の取組について

12労働局管内の59安定所管内に所在する203事業所に雇用されていた日雇労働被保険者2,234人についてみたところ、25年度から28年度までの間に計114人に対して支給された日雇給付金計151,224,000円のうち、実際には就労するなどしていたのに、各安定所において、支給要件の確認等を十分に行わないまま日雇給付金を支給していて支給が適正でないものが12労働局(注3)の32安定所(注4)において計91,958,300円見受けられた。

(注3)
12労働局  北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、島根各労働局
(注4)
32安定所  小樽、室蘭、川口、市川、上野、品川、足立、木場、横浜、川崎、名古屋中、京都田辺、大阪港、あいりん、淀川、布施、堺、岸和田、泉大津、河内柏原、枚方、泉佐野、河内長野、神戸、尼崎、西宮、奈良、大和高田、桜井、大和郡山、湯浅、石見大田各安定所

そこで、会計実地検査を行った12労働局管内の安定所のうち、管内に日雇適用事業所が所在する86安定所において、不正受給の防止の取組として、緊急点検の実施前に事業所調査を行っていたかについてみたところ、11労働局管内の72安定所(83.7%)では、外部通報等があった場合を除き、事業所調査を行っておらず、不正受給の防止の取組が効果的に行われていないと認められる状況となっていた。

また、上記の12労働局における緊急点検の結果において、日雇給付金の支給が適正でなかった事態が判明したのは、点検の対象とした996事業所のうち5事業所(0.5%)のみとなっていた。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

日雇給付金の支給に当たり、日雇労働被保険者資格の確認が十分に行われておらず、一般被保険者等への切替えなどが適切に行われていない事態は適切ではなく、是正改善を図る必要があると認められる。また、失業認定において日雇労働被保険者の労働の意思の有無等の確認が必ずしも十分に行われていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

さらに、支給要件の確認等を十分に行わないまま日雇給付金を支給している事態及び日雇給付金の不正受給を防止するための取組が効果的に行われていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 労働局等において、日雇給付金の支給に当たり、日雇労働被保険者資格を十分に確認することや一般被保険者等への切替えなどの取扱いを適切に行う必要があること、失業認定に当たり、日雇労働被保険者の労働の意思の有無等の確認を十分に行う必要があること、日雇労働被保険者に対する支給要件の確認等を十分に行う必要があること、事業所調査の計画的な実施等により、日雇給付金の不正受給の防止対策の取組を効果的に実施する必要があることについての認識が欠けていること
  • イ 貴省本省において、上記についての労働局等に対する具体的な指導等が十分でないこと

3 本院が求める是正改善の処置及び表示する意見

日雇給付金は、極めて不安定な就労状態にある日雇労働被保険者が失業した場合に、その生活の安定を図るなどのために支給されるものであるが、前記のとおり、支給が適正でなかった事態が多数見受けられるところであり、制度の運用を適切に行う必要がある。

ついては、貴省本省において、日雇給付金に係る制度の運用の見直しを行うなどしてその運用を適切なものとするよう、次のとおり是正改善の処置を求め、及び意見を表示する。

  • ア 労働局等に対して、日雇労働被保険者資格の確認を十分に行い、一般被保険者等への切替えなどの取扱いを適切に行うよう指導すること(会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 労働局等に対して、失業認定に当たり、日雇労働被保険者の労働の意思の有無等を確認するための具体的な方法等を業務取扱要領等に明示するなどして、日雇労働被保険者の労働の意思の有無等の確認を十分に行うよう指導すること(同法第36条の規定により意見を表示するもの)
  • ウ 労働局等に対して、日雇労働被保険者に対する支給要件の確認を十分に行わせるとともに、事業所調査を計画的に実施させるなどして、日雇給付金の不正受給を防止するための取組を効果的に実施するよう指導すること(同法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)